109 / 132
第3章
第34話、死の風が吹く
しおりを挟む
【ユウトたちが神木二面樹を撃破するおよそ二ヶ月前。迷宮都市ラビリザード内、ダンジョン鉱石断連層山】
煌めく剣筋!
握りしめた俺の長剣が空気と一緒に、ドバッと標的を切り裂く。
そしてヒットアンドウェイを信条にしている俺は、既に将軍大鬼の間合いの外へと離脱していた。
分厚い胸板に深い傷を負った将軍大鬼は、迸る鮮血を筋肉の締め付けのみでピタッと止めると、牙を剥き出しにして俺を睨みつける。
しかしその一瞬の膠着時間、それを見逃すほど俺のエリナは優しくない。
彼女から放たれた氷雪系魔法、局所吹雪が将軍大鬼の身体に降り注ぎ、振り付ける吹雪が奴の体温と動きを急速に奪っていく。
そして約30パーセントの脳内解放を行なった俺は、奴の胸元へ一瞬で飛び込み下から突き上げるようにして喉元に鋭い突きを放った。
ピクピク全身を震わしたあと霧散する将軍大鬼。
そして俺は、ボトリと地面に落ちてきたドロップアイテムを拾い上げた。
「エリナ、青紫インゴットをゲットだ」
「あらあら、ほんと今日は調子が良いわね」
「やっぱり5層と6層で殆ど敵に遭遇しなかったおかげだな、この稼げる7層に居座ることが出来たのは」
ほんと今日の収穫は今年に入って一番だな。
火綿蟻の糸。
青紫インゴット3個。
それにオーガの犬歯17個か。
これに別行動してるマイディーとシュワルベの分も加わるわけで——
1時間前に確認した水晶での報告、その時で既に四人で割っても一人30万ルガの報酬になっていた。
これは異世界人が起こした街、遊楽街まで骨休めに湯へ浸かりに行くのもいいかもな。
あそこは値は張るがメシも美味いって話だし。
「エリナ、ここが終わったら少しゆっくりしないか? 」
「うーん、……最近ダンジョンに潜りっぱなしだったし、それもいいかもね」
そこでエリナが常時展開している魔力探索波に敵影を確認したのか、顔つきが真剣なものに変わる。
「敵影4、この移動速度はオーガみたいね」
「……多いな」
「任せて、罠で何体か削るわ! 」
エリナが魔法を唱え出す。
そして組み上げた魔法を発動。
エリナが触れている地面や壁に氷結結界を設置していく。
この魔法、効果範囲が狭くて持続時間も短いんだが、ハマればこの魔法のみで相手の脚を凍りつかせて無理に動こうとした相手の脚をもぎ取るぐらいの芸当が出来るため馬鹿に出来ない。
しかもエリナが罠を張った場所は暗がり。
この洞窟内に設置されている乏しい明かりだけではまず気づかないだろう。
そして洞窟の直線上、遠目に姿を現したのは紅鎧大鬼であった。
こちらに気づいた奴らは、歩みを早める。
よし、このままいけば右側の二体がトラップ上を通過する!
「新たな敵影!? きゅ、急速接近! 」
突然エリナが叫んだ!
そして俺の目が洞窟奥から迫る陰を捉えたのも束の間、一番右の紅鎧大鬼から始まった煌めきが、一番左の紅鎧大鬼まで一気に伸びる。
そして上下が分断された紅鎧大鬼の上半身が、ずるりと落ちていった。
なにが、起こった?
黒い霧が霧散する中、見知らぬ黒髪の女が虚ろな表情でその姿を露わにした。
気怠そうになんとか立っているといった女は、指にその長い黒髪を巻きつけながら手遊びをしている。
今の凄技、もしかしてこいつがやったのか?
手に持つ特大の大鎌を肩にかつぎこちらを見据え出した女は、簡素な真っ白な服に顔色が青白くどことなく不吉な印象である。
いや、もしかして俺たちを助けてくれたのか?
そして声をかけようとして気がつく。
……奴の腰紐に沢山通されている物、あれは——人の耳。
それにあの趣味の悪いピアスが付いた耳は、シュワルベの——
血流の流れが早くなる。
即座に確認すると、奴のソウルリストは首刈り悪魔であった。
そう言えば噂話を聞いたことがある。
ラビリザード内にあるダンジョンの運が悪ければ遭遇してしまう系の話の一つに、戦闘に不向きである大鎌を自在に操る死神がいることを。
と言うか、先ほど見せた奴の突進力は異常だ!
「エリナ、早く俺の後ろに来い! 」
「わっ、わかった! 」
嫌な汗が止まらない。
距離は5メートルはあるが、あの突進力があるため、奴の間合いに入っていると考えたほうがいいだろう。
しかしあのドデカイ獲物を担いだ上で速度を出すからには、急な方向転換は出来ないはず。
奴があのすばしっこい動きを見せた後にみせる硬直、そこで俺の限界最大である脳内解放70パーセントで仕留めてみせる!
『ドンッ』
そこで奴が陰としてしか捉えられない早さで、なぜか真横に飛んだ!?
ぶつか——、なっ、速度そのまま直角にこちら側に曲がっ——
『シャラアァァァーン』
後方で音が鳴った。
『ドンッ、ゴロゴロゴロ——』
俺の耳は、その音だけを拾い上げていた。
そして転がって来た何かが俺の足に当たる。
エリナ——
女に視線を向ければ、遠く離れた場所でこちらへ向かいゆらりと歩みを始めていた。
俺は奴を注視しながら、無念な姿になってしまったエリナに祈りを行なう。
——くそが、化けもんがくたばれ!
「脳内解放! 」
奴に向かって地を蹴るたび、俺の体は加速して行く。
そして数歩目で俺の間合いの中に奴を入れると、長剣を頭の上まで振り上げる。
俺の全力受けてみやがれ!
長剣の振り下ろしに、奴が真横に掲げた大鎌の長い柄の部分が衝突した。
『ギイィィィーン』
ぐぅっ、ビクともしないだと!?
いやまだだ!
衝突の余韻で震える剣を握りしめると、即座にバックステップ。
そして飛び退きざまに服の横っ腹あたりに収納している投擲用のナイフを三本引き抜くと同時に、奴のガラ空きになっている土手っ腹目掛けて投げ放つ!
『ギャギィ』
なっ、なんだと!?
奴は股を開き姿勢を低くすることにより、腹部に迫った飛来するナイフを口で噛みつき防いでいた。
その大型の肉食獣のような太くて鋭い牙によって。
そしてナイフを噛み砕いてみせた奴が、俺を見据えて笑った。
まるで俺を哀れな者として、蔑むようにして目尻を下げ口角を吊り上げて。
そしてその瞳に見つめられた俺は、闘う気力を失ってしまっていた。
ただただ怯えて、体の芯からくる震えがどんどん大きくなっていく。
そこで奴が斜め上方へ跳躍。
洞窟の側面を蹴ると、一気に俺の背後へと消える。
そして俺の背後から首筋に、ねっとりとした風がそっと吹いた。
煌めく剣筋!
握りしめた俺の長剣が空気と一緒に、ドバッと標的を切り裂く。
そしてヒットアンドウェイを信条にしている俺は、既に将軍大鬼の間合いの外へと離脱していた。
分厚い胸板に深い傷を負った将軍大鬼は、迸る鮮血を筋肉の締め付けのみでピタッと止めると、牙を剥き出しにして俺を睨みつける。
しかしその一瞬の膠着時間、それを見逃すほど俺のエリナは優しくない。
彼女から放たれた氷雪系魔法、局所吹雪が将軍大鬼の身体に降り注ぎ、振り付ける吹雪が奴の体温と動きを急速に奪っていく。
そして約30パーセントの脳内解放を行なった俺は、奴の胸元へ一瞬で飛び込み下から突き上げるようにして喉元に鋭い突きを放った。
ピクピク全身を震わしたあと霧散する将軍大鬼。
そして俺は、ボトリと地面に落ちてきたドロップアイテムを拾い上げた。
「エリナ、青紫インゴットをゲットだ」
「あらあら、ほんと今日は調子が良いわね」
「やっぱり5層と6層で殆ど敵に遭遇しなかったおかげだな、この稼げる7層に居座ることが出来たのは」
ほんと今日の収穫は今年に入って一番だな。
火綿蟻の糸。
青紫インゴット3個。
それにオーガの犬歯17個か。
これに別行動してるマイディーとシュワルベの分も加わるわけで——
1時間前に確認した水晶での報告、その時で既に四人で割っても一人30万ルガの報酬になっていた。
これは異世界人が起こした街、遊楽街まで骨休めに湯へ浸かりに行くのもいいかもな。
あそこは値は張るがメシも美味いって話だし。
「エリナ、ここが終わったら少しゆっくりしないか? 」
「うーん、……最近ダンジョンに潜りっぱなしだったし、それもいいかもね」
そこでエリナが常時展開している魔力探索波に敵影を確認したのか、顔つきが真剣なものに変わる。
「敵影4、この移動速度はオーガみたいね」
「……多いな」
「任せて、罠で何体か削るわ! 」
エリナが魔法を唱え出す。
そして組み上げた魔法を発動。
エリナが触れている地面や壁に氷結結界を設置していく。
この魔法、効果範囲が狭くて持続時間も短いんだが、ハマればこの魔法のみで相手の脚を凍りつかせて無理に動こうとした相手の脚をもぎ取るぐらいの芸当が出来るため馬鹿に出来ない。
しかもエリナが罠を張った場所は暗がり。
この洞窟内に設置されている乏しい明かりだけではまず気づかないだろう。
そして洞窟の直線上、遠目に姿を現したのは紅鎧大鬼であった。
こちらに気づいた奴らは、歩みを早める。
よし、このままいけば右側の二体がトラップ上を通過する!
「新たな敵影!? きゅ、急速接近! 」
突然エリナが叫んだ!
そして俺の目が洞窟奥から迫る陰を捉えたのも束の間、一番右の紅鎧大鬼から始まった煌めきが、一番左の紅鎧大鬼まで一気に伸びる。
そして上下が分断された紅鎧大鬼の上半身が、ずるりと落ちていった。
なにが、起こった?
黒い霧が霧散する中、見知らぬ黒髪の女が虚ろな表情でその姿を露わにした。
気怠そうになんとか立っているといった女は、指にその長い黒髪を巻きつけながら手遊びをしている。
今の凄技、もしかしてこいつがやったのか?
手に持つ特大の大鎌を肩にかつぎこちらを見据え出した女は、簡素な真っ白な服に顔色が青白くどことなく不吉な印象である。
いや、もしかして俺たちを助けてくれたのか?
そして声をかけようとして気がつく。
……奴の腰紐に沢山通されている物、あれは——人の耳。
それにあの趣味の悪いピアスが付いた耳は、シュワルベの——
血流の流れが早くなる。
即座に確認すると、奴のソウルリストは首刈り悪魔であった。
そう言えば噂話を聞いたことがある。
ラビリザード内にあるダンジョンの運が悪ければ遭遇してしまう系の話の一つに、戦闘に不向きである大鎌を自在に操る死神がいることを。
と言うか、先ほど見せた奴の突進力は異常だ!
「エリナ、早く俺の後ろに来い! 」
「わっ、わかった! 」
嫌な汗が止まらない。
距離は5メートルはあるが、あの突進力があるため、奴の間合いに入っていると考えたほうがいいだろう。
しかしあのドデカイ獲物を担いだ上で速度を出すからには、急な方向転換は出来ないはず。
奴があのすばしっこい動きを見せた後にみせる硬直、そこで俺の限界最大である脳内解放70パーセントで仕留めてみせる!
『ドンッ』
そこで奴が陰としてしか捉えられない早さで、なぜか真横に飛んだ!?
ぶつか——、なっ、速度そのまま直角にこちら側に曲がっ——
『シャラアァァァーン』
後方で音が鳴った。
『ドンッ、ゴロゴロゴロ——』
俺の耳は、その音だけを拾い上げていた。
そして転がって来た何かが俺の足に当たる。
エリナ——
女に視線を向ければ、遠く離れた場所でこちらへ向かいゆらりと歩みを始めていた。
俺は奴を注視しながら、無念な姿になってしまったエリナに祈りを行なう。
——くそが、化けもんがくたばれ!
「脳内解放! 」
奴に向かって地を蹴るたび、俺の体は加速して行く。
そして数歩目で俺の間合いの中に奴を入れると、長剣を頭の上まで振り上げる。
俺の全力受けてみやがれ!
長剣の振り下ろしに、奴が真横に掲げた大鎌の長い柄の部分が衝突した。
『ギイィィィーン』
ぐぅっ、ビクともしないだと!?
いやまだだ!
衝突の余韻で震える剣を握りしめると、即座にバックステップ。
そして飛び退きざまに服の横っ腹あたりに収納している投擲用のナイフを三本引き抜くと同時に、奴のガラ空きになっている土手っ腹目掛けて投げ放つ!
『ギャギィ』
なっ、なんだと!?
奴は股を開き姿勢を低くすることにより、腹部に迫った飛来するナイフを口で噛みつき防いでいた。
その大型の肉食獣のような太くて鋭い牙によって。
そしてナイフを噛み砕いてみせた奴が、俺を見据えて笑った。
まるで俺を哀れな者として、蔑むようにして目尻を下げ口角を吊り上げて。
そしてその瞳に見つめられた俺は、闘う気力を失ってしまっていた。
ただただ怯えて、体の芯からくる震えがどんどん大きくなっていく。
そこで奴が斜め上方へ跳躍。
洞窟の側面を蹴ると、一気に俺の背後へと消える。
そして俺の背後から首筋に、ねっとりとした風がそっと吹いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
357
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる