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第3章

第19話、女装化です①

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 清々しく晴れやかな明かりに包まれている事で、意識が鮮明になってくる。

 朝か。

 ——と寝ぼけまなこで寝返りをうとうとして、そこで身動き出来ない事に気付く。

 そう、俺の左腕に抱きついて眠っているのは、幼馴染で恋人であり現役女子高生であるボクっ娘の真琴。
 そして右腕に抱きついてスヤスヤ寝息を立てているのは、見た目中学生で艶やかな銀髪を腰まで伸ばす色白美少女、アズ。

 そう言えば昨日の晩、気持ちの再確認をした真琴と、突然訪れたアズに挟まれて寝る事になったのだった。

 いや、真琴とは恋人だし、本人とは合意のもとでそうなる事を互いに望んでいるわけだから、当然の展開といえば当然である。
 まだ恥ずかしいけど。
 しかしその俺たちの輪の中に、まさかアズが綺麗に収まるとは。完全なる変化球、想定外の展開であった。

「う~ん」

 そこで気持ちよさそうに喉を鳴らす真琴が、おでことおでこが引っ付くまで接近し、俺の腕にその豊満な胸を押し付けたうえで、両脚を曲げ挟み込んできた。
 どうやら俺の腕を抱き枕だと思っているみたいだけど、おかげでその心地よい熱と柔らかさを再確認出来た。

 すると今度は反対側から、チュッチュッチュッと指しゃぶりの音が聞こえ始めて来た。
 アズが自身のではなく、俺の指をその小さな口で咥えて吸い付いているのだ。
 そこで指を引き抜いてみると、あむあむ言いながら口をパクパク動かし始め、だんだんと俺の顔に迫ってくる。
 なんだかこのままだと顔をあむあむされそうなので、仕方なく俺の人差し指を差し出す。
 すると指に触れたアズは、あむっと咥えてきた。

「うーん、むにゃむにゃむにゃ」
『チュッチュッチュッ……』

 ダメだ、もう夜は終わったのに!
 鎮まれ、鎮まるのだ、ユウト!

 俺は般若心経を唱えることにより、脳内に刻まれた煩悩を消しゴムで消すようにして、少しずつ少しずつ消去していく。
 そうして意識を他所へと持っていけるフラットな状態へと変えるのに、少しだけ時間がかかってしまった。


 それから疲れが溜まっているのか、あまりに起きない二人を強制的に起こしたあと、俺たち三人は一緒になって一階へ降り、クロさんとヴィクトリアさんと合流。
 それからみんなで簡単に朝食をとった後に、俺は自室へと戻って来ていた。

 しかしダンジョン迷いの森、そこへ俺たちがいく事になろうとは。
 そう、こちらも急展開である。

 俺たちの旅の終着点、目的地はダンジョン迷宮都市改め迷宮王国ラビリザード。
 そしてそこへ行くには、迷いの森を経由するのが一番の近道であると、昨日の晩御飯を食べてる時にヴィクトリアさんから教えて貰っていた。

 どうやらこの迷いの森、隣接するダンジョン迷宮王国と、互いに互いを侵食しあっているため、変に重なる部分が多くあるらしい。
 そのためワープホールみたいな役割を果たしている場所があり、その時々でどこに飛ばされるか分からないけどそこに行けば迷いの森から一気にダンジョン、迷宮王国内へと移動出来るそうなのだ。

 しかし問題はダンジョンボス、神木しんぼく二面樹にめんじゅである。
 酒場で仕入れた情報では、大きく育ちすぎたそいつは通せんぼをするかのようにして、ダンジョン内の至る所にその巨大な根を伸ばしているらしい。
 そしてゲートがある場所へも伸びており、ゲートが封鎖されてからかなりの月日も経っているらしい。
 そのためダンジョンボスを倒すために深部へ向かう必要があるのだけど、厄介な事に迷いの森はラビリンス型の迷宮なんだそうだ。

 そして深部に進める条件が、うら若き女性のみであると言う事実。
 そのため開通するまで、ダンジョン迷いの森では俺は用無しのはずで、待機なのかなと思っていたのだけど——

 どうしてこうなった?

 現在女性陣は宿屋の一室、俺と真琴が借りている部屋に集合していた。
 そして真琴やヴィクトリアさんと言った女性陣四人に囲まれた状態で、俺は一人だけ椅子に座っている。

 閉鎖された空間で他にいる人が全て女性という、生まれて初めての状況であるのだけど——

 女の子って、なんでこんなにいい匂いがするんだろう?

「髪ツヤいいですね! 」

 メイド服姿のクロさんは、先程から俺の後ろに立ちヘアブラシを使い白髪をといていっている。

「……ありがとうございます」

 そして目の前には、目を輝かせている真琴が。

「一度ナチュラルメイクやってみたかったんだ!
 ユウトはボクと違って可愛いからね、きっと似合うよ! 」

「いや、真琴可愛いし、俺の肌黒いし。
 ……無理しなくていいよ? 」

「大丈夫! 褐色の肌は、赤みを帯びると色っぽくなるはずだから! 」

 真琴は俺の正面に跪くと、俺の顔の中心からファンデーションを薄っすら外へ向け伸ばしている最中である。
 てか色っぽくしちゃうの?

「どの服も似合いますが、ユウト様はフワフワした服が一番しっくりきますね」

 ヴィクトリアさんは俺の身体に、先程から色彩豊かな様々なワンピースやドレスを宛てがっている。
 でもその露出が——
 出される服の傾向が、次第に肩出しとかが多くなっていってないですか?

 そしてアズはと言うと、興味深そうに俺の周りを無言でぐるぐる回っていた。
 そして俺と目が合うと、ニマニマし出す。

 わかった!
 俺いま、完全にオモチャにされてるんだ。

 と言うわけで、そう、俺は何故か、ダンジョンに潜るため女装をする事になってしまっていた。

 思わずため息が出てしまう。

 それもこれも、現在俺の周りを忙しなくぐるぐる回っているアズが決め手となってしまったんだよね。


 ◆


 昨日の晩飯時、あの修羅場の前——

 まず事の発端は真琴であった。
 酒場のテーブルを囲むようにして座っている時、真琴が提案してきたのだ、俺が女装する事を。

 ダンジョン迷いの森はラビリンス型迷宮である。
 そして深部、スライムの木が育てられているボス部屋には、若い女性だけじゃないとたどり着けない。

 そのため今回のダンジョン、俺は不参加のはずであったのだけど、真琴が黙っていなかった。
 いっときも離れ離れになりたくないと言いだし、そこで苦肉の策として真琴が辿り着いた考えが俺の女装なのである。

 もちろん俺は猛反対した。
 そして俺の意志が固い事をみんなが理解してくれていたので、女装の案はあと少しで消える寸前へまでいっていた。

 しかしそこで、一人手遊びをしていたアズが話に加わってくる。

「あんたの女装、私も興味が出てきたかも」

 そしてダンジョン『魔術師の洋館』のお面部屋で、『俺ができる事ならなんでもお願い事を聞く』と約束した話を持ち出し、その権利をそこで行使してきたのだ。

 そのため女装を断れなくなってしまったのだけど、その時のアズと真琴はと言うと、ガッチリと握手を交し、無言で微笑み合っていた。
 正直あの時、二人が仲良くしているのを初めて見たような気がするんだけど、なんか嬉しいと言うより怖い印象を受けたのは、新しい記憶である。
 それに今思えば、もしかしたらあの展開があったからこそ、修羅場が比較的円滑に収まったのかもしれない。

 ……と、口元のくすぐったさで意識を戻してしまう。
 真琴が俺に口紅を塗り始めたのだ。

 これは——

 唇がくすぐったいのもある。
 ただそれ以上に、さっきから吐息がかかるほど近い位置に真琴がいる事により、空気中をも伝播してくる体温、それに加え届く甘い香りに平静を保つ努力が必要になっていた。
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