僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

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県立七つ星高校

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 通学路、いつもならずっしりと重たく感じる鞄が今朝は軽く感じる。足取りも軽やかで調子万全だ。しかし心は必ずしも晴やかではなかった。

 まさか家を出るときに咲に会うなんて、いや、会ったこと自体は嫌ではないがつい話し込んでしまい朝練に遅刻することが確定しているのだ。

 月に遅刻を二度すると罰ゲームをすることになっている。しかもこれは僕が言い出したことなのだ。

 元はと言えば、木戸をはじめとする遅刻常習部員にカツを入れるために考えたことなのだが、今季初の罰ゲームが僕になるとは思ってもみなかった。

 全力疾走してきたおかげでそれほど遅れずに学校へはついたが、ほかの部員はすでにユニフォームに着替えて準備運動を始めるところだった。

「よお、カズ、今日も早いじゃねーか」

 木戸がにやにやと嬉しそうに嫌味を言った。

「おはよう…… ちょっと出がけにトラブってね、すまない」

「まあそういう日もあるさ。
 でも決まりだからな、昼休みに例のやつ楽しみにしてるわ」

「お、おう、こんなことならもっと違うやつに決めておけばよかったよ。
 まあまずは着替えてくるよ、準備運動はばっちりできてるから」

「遅刻したのに朝のランニングはしてきたのか?」

「うん、学校へ行く直前にちょっと来客があってね」

「そうか、事情があったなら仕方ないな、でも自分で決めたことだからやるんだろ?」

「もちろんやるさ! ほかの部員に示しがつかないしな」

「最近はほかの部も真似するって言っているらしいぞ。
 元祖の根性見せてやれよ」

「嫌な元祖だな……」

「おーい、カズ、今日は調子よさそうかい?」

 チビベンが声をかけてきた。木戸と違って僕が遅刻したことを喜んだりはしていない。

「おはよう、昨日はたまたま悪かっただけで今日はいい感じだよ。
 だから朝から投げたいんだけどどうかな?」

 僕は、今朝感じた調子の良さが本当かどうか早く確かめたかった。しかし木戸は僕の希望を聞いてはくれない。

「うーん、一応顧問がいないときにはやらないよう取り決めがあるからよ?
 どうせ真弓ちゃんはギリギリだろしな」

「そうだよなあ、何かあったらまずいからやめとくか」

「まあとりあえず体が温まってるならランニングすっか」

 木戸が集合をかけて朝練参加者を集める。朝はグラウンド周回と素振りくらいの軽い練習をしているのだが、遠方から通っている部員もいるので全員参加というわけではなく事前申告制だ。

「よし行くぞー、ナナコーファイト! 勝つぞファイト!」
「ナナコーファイト! 勝つぞファイト!」
「ナナコーファイト! 勝つぞファイト!」

 走りながら全員で大声を張り上げグラウンドを周回する。これはいつどこで始まったのか知らないが、どこの運動部でもやっているごく普通の光景だろう。うちは県立七つ星高校なので掛け声はナナコー、となるのだ。

 近年は科学トレーニングが大分普及しており、野球には中長距離のランニングは必要ないという意見もあるようだが僕はそう思わない。父さんに野球を教わり始めたころから走ることはすべての基本だと言われている。

 それは体力をつけるという理由はもちろん、根気や根性という精神面を鍛えることで追い詰められた時の自信にも繋がると考えているからだ。

 特にピッチャーはマウンドで孤独になりがちである。中学時代から何度もピンチが訪れたが、その度に今までしてきた練習を振り返り、絶対に負けないという強い意志をもって立ち向かってきた。

 もちろんそれでも負けることもあったけど、それは相手の方が一枚上手だったということだ。それを追い越すためにさらに鍛錬を積み上げていく、そのための第一歩が僕にとってはランニングなのだ。

 ただしそれはあくまで野球に没頭する者だけがやればいい話で、楽しく野球をやりたいという部員へ強要することがないのがこの学校のいいところだ。

 建前としては、練習は自由参加である。キャッチボールだけやりたいものやバッティングだけが好きとか、理由は部員によって様々だが、きつい練習をしないでも野球が楽しめる環境としてよく整っていると思う。

 運動やスポーツは好きだけど学校の授業や部活動はつまらないし辛い、というのがまだまだ当たり前にまかり通っている中、うちの学校の方針は素晴らしいと感じる。

 学習的には決して自慢できるレベルではないが、近隣の公立私立とは異なり生徒主体主導の自由な校風が人気の秘訣でもあるのだろう。

 しかし、僕達硬式野球部員は勝つために、そして将来的に大学や社会人、できればプロ入りも視野に入れて日々の練習に励んでいる。県大会常連で過去には甲子園大会へ行ったこともあるので、県立としては伝統のある学校と言えるだろう。

 ちなみに甲子園は大昔夏の大会に一度出たのみだが、その時三年生のレギュラーだったのが僕の父さんと江夏さんだ。今はただの酔っ払い達だけど過去はそこそこすごい選手だったというのがにわかに信じがたい。

 特に江夏さんは下位指名ながらドラフトで指名されプロ入りの可能性もあったが、高校最後の夏、甲子園出場まで一人で投げ続けたため肩を壊しており、止む無く大学へ進んだとの話だ。

 その後、肩の治療とフォーム改造がうまくいき、真っ直ぐで押す剛腕ピッチャーから技巧派への転身に成功した江夏さんは、コントロールと鋭い変化球を武器にノンプロで活躍したのだ。

 その時投げていた変化球は体への負担が少なくキレもあるという連投には理想的なもので、それを教わり、技術と意思を受け継いだ僕は今年こそ甲子園出場まで勝ち進みたいと思っている。

 とまあ、目標は高く掲げているが、連日の遅刻では説得力もなくカッコもつかないし、新入生にも示しがつかないのは確かだ。

 ランニングの後、塁間ダッシュや素振りをこなしているうちにチャイムが鳴った。その合図で朝練を終えた僕達はシャワーを浴びて制服に着替え教室へ向かう。

 予鈴と本鈴の間には大勢の生徒がなだれ込んでくるので、校門から玄関までは人の波ができている。

 その混雑を避けるように少し離れて歩いてくる女子生徒がいた。わざわざ探しているわけではなかったけど、咲が僕の目に入ってくるのはもうすでに当たり前の自然な現象だった。

 咲が言っていたように、僕と咲は簡単には説明のつかない絆で繋がれているのかもしれない。それとも昨日の出来事で僕の考え方が変化してしまったのだろうか。

 部室から校舎沿いに玄関へ向かう僕達野球部員の集団を咲が見ていたのかは遠目から判断できないが、きっと咲は僕の事を確認しただろうという確信めいたものを感じていた。

 そしてほとんどの生徒が校舎の中へ入って喧騒が収まったころ、校舎へ向かって全力疾走してくる真弓先生の姿があった。
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