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第4章 ネシア国〜
大会2日目 1
しおりを挟む大会2日目の朝、俺たちは揃って宿の部屋で朝食を取り、昨日と同じく闘技場へ来ている。
今日はスコットさんが第1試合に出場するので、朝早いのだ。
闘技場のチケット売り場まで来ると、スコットさんを迎えに案内係の人が待っていた。
「じゃあ俺は行ってくるが……シエルとユーリをよろしく頼むな。」
「ああ、試合頑張ってこいよ!」
リッキーに言われたスコットさんは、軽く右手を上げると案内係の人と一緒に闘技場の中へと入っていった。
それから俺達は人数分のチケットを買うと、観客席の方に移動する。
朝早い時間だからか、舞台がよく見える場所の最前列の席に座れた。
ここはかなり舞台から近いので、お互いに凄くよく見えるんだろうな!
今回はスコットさんの試合後、他の試合は見ずにリオンさんの従兄弟のところに行くと話し合ったので、スコットさんの席は取ってない。
しばらく座席で皆と談笑していると、まるで日本のプロ野球の試合みたいに売り子さんがつまみとドリンクを売りに通路を歩いてきた。
そういえばみんな何も飲み物とか買っていなかったので、売り子さんが近くを通った時に飲み物を購入した。
どうやらここで購入できる入れ物付きの飲み物は割高だが、その分何かの皮でできた大きめの水筒に入れて売っているので、それが再利用できるということでお得になっている。
サイズは一番容量の小さいものは銀貨1枚、それの2倍入るものは銀貨3枚、内容量が特大サイズのものは金貨1枚になる。
その他にも、ただ飲み物だけという売り方もやっているみたいだ。
何故そんなに高いのかというと理由がある。
3種類はみんな見た目はほぼ同じなんだけど、2倍の物は容量の少ないマジックバッグになっており、内容量が特大サイズの物はなんと時間停止機能のついた大容量のマジックバッグなのだ。
周りをよく見ていると、大体は自分で持参している飲み物用のマジックバッグや水筒に入れてもらうみたいで、一度この水筒を買うと何度も使えるのでかなりエコだと思う。
俺達はどうせなら時間停止機能のついた水筒を何個か購入することにし、入れてもらう中身を変えることでシェアして色々飲めるようにした。
もちろん、飲む時はマイカップでね!
ちなみにどのくらい入るのか聞いてみたところ、その水筒にはおよそ大きなお風呂1杯分位も入るんだって!
凄いよね!
俺たちが飲み物を買い終わって落ち着いた頃、場内にアナウンスが流れた。
「え~~~、本日は大会2日目です!今日はBグループの第1試合から始まりますよ~!さっそく試合開始といきたいところですが、皆さんの準備は整っていますか~?まだ座席についていない方は、試合が始まりますのでお早めに座席へとお戻りください!」
なるほど、そろそろ試合が始まるんだね!
そのアナウンスがあってから、周りの荷物が置いてある空席にたくさんの人が戻ってきたようだ。
会場の座席がほぼ埋まった頃合いに、またアナウンスが入る。
「え~~~っ、座席がほ埋まってきましたので、そろそろ2日目の第1試合を開始いたしたいと思います!そ~れ~で~は~……両選手、入~場~っ!!」
そう言われて入場口を見る。
そこからはスコットさんと、ピンっ!と立った三角の耳のある獣人が出てきた。
2人とも似たような背と体格だ。
獣人は性別問わずに体格の良い人ばかりなんだけど……そう考えると、兄さんでかいな。
……前世でもデカかったけどね!
俺が自分と前世の兄さんとの体格の差に納得いかないでいると、左隣からプッ!と笑いをこらえる声が聞こえた。
座っているのはリッキーなので、どうやら俺の心の声が聞こえたらしい。
俺はちょっとムッとした顔でリッキーを見ると、「ごめん、ちょっと聞こえたもんでな」と苦笑いしながら謝ってきた。
まぁ……無意識だからしょうがないけど、笑うことないと思う!
そんな事をしているうちに2人とも舞台の中央に到着したようだ。
「さぁ~、両者が舞台中央まで到着したようです!今回の戦いは両者共に初出場の選手となります!情報によりますと、18番の選手は昨日の試合のリッキー選手とシエル選手の冒険者チーム仲間だそうです!……それでは両者、武器を構えてください!」
するとスコットさんは、いつもは大剣を使っているのにリッキーと同じくゴツゴツした手袋をした手で構え、相手は爪を装備した。……兄さん、危なくないかい?
対戦相手もその姿を見て戸惑っている。
それはアナウンスをしている人も思ったようで、「18番の選手、それではちょっと危なくないですか?」と聞いてきた。
スコットさんは少し考えると手袋を外し、普通の片手剣をマジックバッグから取り出し、それから2人は少し距離を取って構えた。
「それでは準備出来たようなので試合開始します!では……始め!」
そのアナウンスがかかると、両者は共に肉薄する。
間合いに入ると爪をはめている対戦相手は遠慮なく、力強く切りかかっている。
スコットさんはそれを難なく受け止め、そのまま剣の腹で素早く横に振り払う。
相手はまさか振り払われるとは思っていなかったらしく、少しバランスを崩した。
それを見逃すスコットさんではないので、振り払った剣の返しで素早く首筋に寸止めした。
これでは相手選手がほんの少しでも動くと切れてしまうだろう。
ここまでかかった時間、わずか1分。
もし間に距離がなければその半分ほどの時間で決着がついたと思う。
会場もあまりの速さに静まり返っている。
呆然としていた審判と対戦相手だったが、スコットさんに「決着はついてるだろう?剣を下ろしていいか?」と聞かれて、ハッ!とした様に動き出す。
あっ、動いちゃ駄目だよ!……って、ほら、いわんこっちゃない。
スコットさんはすぐに剣を下ろしたが、どうやら対戦相手がうっかりビクッと動いてしまったせいで少し首に当たったらしく、薄っすら傷ができてしまった。
俺はこっそり指を拳銃のように構え、少しだけ回復魔法の魔力を指先に集めると、相手選手の傷めがけて銃弾みたいに撃ち放つイメージで撃ってみた。
この前のリオン選手の必殺技の応用だよ!
ホントに極小さな光が彼の首に当たると、見る見る間に傷が癒えていく。
どうやら対戦相手は首に何か当たったのは気づいたようで周りをキョロキョロしていたけど、痛くなかったからか顎に手を当てて首を傾げている。
それを見た兄さんはどうやら俺の仕業だと気づいたらしく、苦笑いをして俺を見た。
その時、ちょうど審判の人がスコットさんの手首をつかみ、持ち上げた。
「首筋への寸止めにより、18番、スコット選手の勝ちです!」
その瞬間、静まり返っていた会場が割れんばかりの歓声で溢れかえった。
「え~~~、先ほど審判の宣言にもありましたが、相手選手の首筋への寸止めにより、スコット選手の勝利です!ものすごい速さでの決着でしたね!あそこまで速い決着は、何年もアナウンスをしている私でもお目にかかったことはありませんっ!これは次回の戦いも目を離せませんね!」
そうアナウンスが流れた。
やっぱ凄いな、兄さんは!俺の憧れなんだよね!
それからアナウンスで舞台の2人に退場が促され、2人は退場口へと向かった。
それを見て俺たちも闘技場を出る用意をし、席を離れる。
闘技場を出る途中でスコットさんと合流をし、そのまま外へ。
まずは一旦泊っている宿屋へ向かい、その近くに住んでいるというリオンさんの従兄弟の所へ向かう予定だ。
詳しい場所は宿の人に聞くのが一番だよね!
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