妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます

なかの豹吏

文字の大きさ
上 下
9 / 17

9,

しおりを挟む
 

 朝起きると、鏡にはいつも通りの疲弊した顔。 

「おめでとう、ステラリア」

 そう、言ってはみるけど、

「……だめ、笑えてない」

 夜会の当日、今日ステラリアとリオネルの婚約が発表される、このノームホルン家の屋敷で。

 ……まあ、笑えないわよね。

 でも、笑うのよダリア。


 最後に嗤う為に――――



 ◆



 運命の夜は人々を集め、シャンデリアは当然、ビロードのカーテンにまで散りばめられた金尽くしの大広間が賑やかになる。

「おおステラリア様、加護を持つ麗しき令嬢にお会いできて光栄です」

「ふふ、ありがとう。 楽しんでくださいね」

 どこかの令息からもてはやされ、慣れた対応をする妹。 わたしはそれを広間の隅から見ている。 
 主役と似た顔がうろうろするのは良くないでしょ。それに、こういう場には慣れてないから苦手だしね。

「ねえ、今日のドレスどう?」

「とても似合ってるよ、素敵だ」

 今流行りの細身のシルエットで、薄いピンクのノースリーブドレス。

 首元にビジューをあしらい、上等なシルクの生地には宝石を散りばめた繊細な刺繍が縫い込まれている。 同様に薄ピンクの手袋はレース織りになっていて、指には彼女の誕生石を施した指輪を身につけている。

「……なんて、そんな事はどうでもいいのよ……!」

 わたしが怒りに震えているのは、その隣でエスコートしているタキシードがリオネルだって事ッ!

 どうしよう、感情を抑えられない。
 例えば二人の上のシャンデリアを今にも……――――ダメよッ!

 落ち着いてダリア、なまじやろうと思えば出来てしまうから怖いわ……。

「それにしても……」

 貴族連中というのは、どうしてこうも面の皮が厚いのか。 もうみんな気づいてるのに、ただこの宴を楽しんでいる振りをしてる。

 ―――そうか、わたしが社交界に出ていないからそう思うんだ。

 ただの夜会じゃない、リオネルだけならともかく、このノームホルン家に居る筈のない人がいるんだから。 


 ――――アインツマン様が。


 あの時、街で錬金の地獄からわたしを抱き上げたのは……



 ◆



 ふと顔を上げると、洗練された紳士が目に映る。 頼りがいのある腕でわたしを抱き上げたのは、お父様に見習ってほしいと思っていた人物。

「大丈夫かダリア、私の馬車で少し休もう」

「……すみません、アインツマン様」

 運ばれた馬車に寝かされたわたしは、いつもの枕に頭を預ける。 わたしがよく具合が悪くなるので、こんな物を馬車に置いてくれているのだ。

「「………」」

 妹とリオネルの婚約、この状況に以前のようにはいられない。 わたしも、アインツマン様も車内で押し黙っていた。 

 しばらくして、切れ長な目を細めたアインツマン様が、深いため息を吐いてから重そうに口を開く。

「……私は、貴族であっても、出来るだけ息子の意志を尊重するつもりだ。 例え相手が加護持ちだろうと、リオネルが受けたくないと言うなら……」

「………」

 わたしは何も言わなかった。 何かを言う資格が無いから。

「私が教えてきた事や、見せてきた背中が間違っていたんだろうか。 それとも不甲斐ない私に息子は不安になり、加護の力を……」

 今は何も言えない、わたしが言えるのは、これだけ、

「アインツマン様」

 眉を顰める最高の紳士を見つめ、体調が悪いからではなく、心の痛みから涙を堪えて―――


「ごめんなさい」


 そう言った。



 ◆



 不思議そうな顔をしていた、あなたは何も悪くないのです。

 そして今夜、あの時謝った意味をお伝えします――――。


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

婚約して三日で白紙撤回されました。

Mayoi
恋愛
貴族家の子女は親が決めた相手と婚約するのが当然だった。 それが貴族社会の風習なのだから。 そして望まない婚約から三日目。 先方から婚約を白紙撤回すると連絡があったのだ。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

処理中です...