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しおりを挟む両親には違う理由をつけて、今わたしはダラビット家の夕食の席に居る。
「はぁ」
ため息をついたのは緊張ではなく、実家よりここの方が落ち着くからだ。
まず内装が素晴らしい。 必要以上の調度品は無く、だから僅かに置かれた高級な品が映える。
「それに比べて……」
実家は、あの日以来そこら中に金がチカチカしていて暮らしにくいし、何より嫌味だ。
「ダリア、また体調が優れないのか?」
「――あ、いえ、大丈夫よリオネル」
もうっ、わたしのバカ。 余計な心配をさせてしまったじゃない。 頭の中で自分を小突いていると、アインツマン様が、
「そうだ、ダリアに渡したい物があってな」
そう言うと、メイドが小さな木箱をわたしの前に置いた。
「これは……」
「モデラトリア地方で採れる薬草でな、疲れが吹き飛ぶ程の効果……らしいが、実際はどうかわからんので、あまり期待しないでくれ」
苦笑いをするアインツマン様は、本当の家族からは久しく感じてない思いやりをくれた。
「ありがとうございます……!」
「良かったね、ダリア。 父さん、ありがとう」
わたしの肩に手を置き、嬉しそうに微笑むリオネルの顔が、また癒しを与えてくれる。
「まあ、あまりおねだりをしない息子が珍しくうるさかったものでな」
「と、父さん!」
リオネル……わたしの為に……。
「リオネル、食事中に大きな声出さないで」
「す、すみません、母さん」
奥様のコリーン様は本当にキレイ。 わたしもこんな風になりたい、リオネルの妻として。
「ダリア」
「はっ、はい」
「あなたは顔立ちがとても良いから、元気になったら少しお化粧を薄くしなさい。 お肌が荒れるし、それで十分綺麗だわ」
優しい声と言葉。 本当、こんな両親がいるリオネルが羨ましい。
「そんな、コリーン様に比べたらわたしなんて……」
楽しくて、暖かい夕食は続き、でも終わってしまう。 そして重い足取りで、また家に帰らなくてはならない。
「今日は楽しかった、いつも良くしていただいて申し訳ないわ」
「そんな事ない、二人共君が好きなんだよ。 私と同じでね」
「う、うん、ありがとう……」
わたしも好きです。
あなたが、そしてご両親も。
ダラビット家はノームホルン家をライバルだなんて思ってない。 お父様が勝手に張り合ってるだけだと、大きくなったわたしは、その人達に触れて確信した。
それどころか、わたしと妹が加護を授かる前、ノームホルン家はお父様の事業の失敗で没落寸前だったらしい。
今は大分盛り返したけれど、それでもダラビット家との力の差は歴然だ。
「アインツマン様は領地の統治に優れていて、あの人柄で人脈も広いから」
家に戻ったわたしは、独り言を零しながら自室に向かっていた。 その時、お父様とお母様が言い合う声が聞こえて、
「あの女のせいで私がなんて言われてたか知ってる!? コリーンの代わりだとか、妥協した嫁なんて言われてたのよッ!!」
「仕方がないだろうッ! ステラリアがそう言ってるんだッ! もしあの子が機嫌を損ねたら……」
……ステラリアが戻ってきてる? 王子妃教育が終わったのかしら、それはわたしにとっても嬉しい事だけど。
「だからって、ダラビット家のリオネルと婚約なんて……!」
…………は?
リオネルと、ステラリアが……
――――婚約!?
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