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61 霊域テンペストフロート
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俺は主催者席に行き、主催者に挨拶をした。
「なんだ、きみかね」
主催者――たしか、バームという名のガラデア領主である。
バームは俺を見ると、なんだかつまらなさそうに俺を見た。
「本選突破おめでとう。これからは運だけでは勝てないが、大丈夫かね?」
なんだかつい最近耳にしたセリフである。
俺がさえない試合ばかりしていたからだろう。決勝トーナメントで真っ先に負ける人間として認識されているようだ。
「問題はない。《剣帝》をも倒し、優勝を手にする」
「大会二連覇の英雄《剣帝》ガゼットにかね? まあ、できるものならやってみたまえ」
「信用ないな。まあ、それはそれとして、優勝賞品のエアリアルをあらためさせていただきたい」
「かまわん。選手には当然の権利だ」
霊域テンペストフロートの精霊エアリアル……それは暴風をまとった巨大な狼の姿をしている。ゼビカの言っていた『かわいかった』というのはいささかずれた認識であるが、動物は超大型であれ小型であれだいたいかわいいと思っている種類の人間もいる。そういう方向の感想かも知れない。
主催者バームに促されて、俺はそこにある檻を見た。
指差した先には確かに檻があり、子犬のようなものが入れられている。
席の後ろに置かれた小さな檻である。
少ししょんぼりとしたかわいらしい子犬である。
灰色のさらさらした毛並みで、長くもっふりした尻尾は力なく垂れ下がっている。
「…………」
俺は顔をひきつらせた。
信じたくはない。信じたくはないが……。
すぐにわかった。巨大な狼ではなくなっているが、本物の精霊エアリアルである。
子犬は俺の顔を見ると、驚いたような表情で近づいてきた。
俺の顔を確認すると、尻尾がぶんぶんとあっちにこっちに振られる。
俺は檻の格子の間から手を入れ、その子犬の頭を撫でた。
瞬間。
――俺は風の吹き荒れる空の上にいた。
「!」
ただの空の上だ。
厚い雲の上なので地上は見えない。青い空と、雲。遠くには、雲に突き出した山脈が見える。
エアリアルの霊域……ではない。
ここはただの空で、ほかにはなにもない。
「テンペストフロート――ではない?」
テンペストフロートは空中に浮かぶ島のような場所である。絶えず暴風が吹き荒れ、来るものを拒み続ける孤高の空の島だった。
「少し事情があってな。しかしよかった。触れあえば交感はできるようだな」
同じく空の上にいた子犬が、俺に言った。
すましたような顔つきだ。しっぽは、やはり元気よく動いている。
「エアリアル……でいいのだよな?」
「間違いない。わたしだ」
子犬――エアリアルがうなずいた。
「なんだ、きみかね」
主催者――たしか、バームという名のガラデア領主である。
バームは俺を見ると、なんだかつまらなさそうに俺を見た。
「本選突破おめでとう。これからは運だけでは勝てないが、大丈夫かね?」
なんだかつい最近耳にしたセリフである。
俺がさえない試合ばかりしていたからだろう。決勝トーナメントで真っ先に負ける人間として認識されているようだ。
「問題はない。《剣帝》をも倒し、優勝を手にする」
「大会二連覇の英雄《剣帝》ガゼットにかね? まあ、できるものならやってみたまえ」
「信用ないな。まあ、それはそれとして、優勝賞品のエアリアルをあらためさせていただきたい」
「かまわん。選手には当然の権利だ」
霊域テンペストフロートの精霊エアリアル……それは暴風をまとった巨大な狼の姿をしている。ゼビカの言っていた『かわいかった』というのはいささかずれた認識であるが、動物は超大型であれ小型であれだいたいかわいいと思っている種類の人間もいる。そういう方向の感想かも知れない。
主催者バームに促されて、俺はそこにある檻を見た。
指差した先には確かに檻があり、子犬のようなものが入れられている。
席の後ろに置かれた小さな檻である。
少ししょんぼりとしたかわいらしい子犬である。
灰色のさらさらした毛並みで、長くもっふりした尻尾は力なく垂れ下がっている。
「…………」
俺は顔をひきつらせた。
信じたくはない。信じたくはないが……。
すぐにわかった。巨大な狼ではなくなっているが、本物の精霊エアリアルである。
子犬は俺の顔を見ると、驚いたような表情で近づいてきた。
俺の顔を確認すると、尻尾がぶんぶんとあっちにこっちに振られる。
俺は檻の格子の間から手を入れ、その子犬の頭を撫でた。
瞬間。
――俺は風の吹き荒れる空の上にいた。
「!」
ただの空の上だ。
厚い雲の上なので地上は見えない。青い空と、雲。遠くには、雲に突き出した山脈が見える。
エアリアルの霊域……ではない。
ここはただの空で、ほかにはなにもない。
「テンペストフロート――ではない?」
テンペストフロートは空中に浮かぶ島のような場所である。絶えず暴風が吹き荒れ、来るものを拒み続ける孤高の空の島だった。
「少し事情があってな。しかしよかった。触れあえば交感はできるようだな」
同じく空の上にいた子犬が、俺に言った。
すましたような顔つきだ。しっぽは、やはり元気よく動いている。
「エアリアル……でいいのだよな?」
「間違いない。わたしだ」
子犬――エアリアルがうなずいた。
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