封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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60 決勝前日、腹のさぐりあい

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「パーティ?」

「左様でございます」

主催者の使いが、頭を下げて言った。

主催者側より決勝前パーティーを開催するらしい。

俺以外の決勝進出者も出席する晩餐会である。

そこでは主催者やスポンサーとの交流のほかに、選手たちの腹のさぐりあいと、優勝賞品の確認ができるらしい。

「では精霊エアリアルの確認も?」

「可能です」

それを聞いて、主催者の使いに出席することを伝えた。



……俺以外の本選の試合日程も終了し、残すところは次の日の決勝となった。

ついに決勝進出した八名が出揃い、観客はさらなる盛り上がりを見せる。


前回優勝者である大会二連覇の王者《剣帝》ガゼット・ディスオーバー。

盗賊団と町でひと悶着あった際に助勢に入った《精霊剣使い》フューエル・ノックス。

同じく盗賊団との乱闘に助勢したSランク冒険者《竜殺し》ゼビカ・フラムバーナー。

使用魔法が多く、予選・本選と圧倒的な力を見せた《暁の魔法使い》ライジング。

全身甲冑姿で、顔さえも見えない謎の多い《双剣の騎士》ブランク。

赤い瞳の炎魔法使い《峯炎のグレン》こと《大魔法使い》グレン。

俺やガゼットと同じく剣術のみで本選を勝ち抜いた老剣士《剣客》レインシード。

そして俺《Eランク冒険者》トントン・トトントーン。


以上八名で、次の日の決勝トーナメントを争うことになる。



そして決勝前日の夜に行われる晩餐会。
俺はそれに出席しようと主催者の屋敷を訪れていた。

「なぜお前も参加しようとしているのだ」

俺は当然のようについてきた魔王に言った。

「付き人も参加可とあの老翁に言われたろう」

魔王は当然のごとく答える。

たしかに招待を受けたときに言われたのだ。家族や付き人も参加できると。

「ほう? 付き人か。お前が俺の。それはそれで気分がいいな」

「うまいもの食えるならプライドなどかなぐり捨て、一時的に宿敵の付き人にもなろう」

「やはりそれが目的か。帰れ」

「もう遅い。貴様こそ帰れ」

「帰るか!」

俺たちが入ると、すでにパーティーにはほかの参加者も揃っていた。

いや、《双剣の騎士》ブランクの姿だけはなかった。有名だという噂も聞かないし謎が多い選手だが……彼のことは一切探ることができないか。これも作戦だろうか。

俺たちが来ると、すぐにパーティーは始まる。

ビュッフェ形式の食事会であった。魔王は一目散に食べ物の方へと走る。
そして料理を次々保存容器の中へ入れていく。……見なかったことにしよう。他人の振りが最適解だと思う。さっさと注意されろ。

……《剣帝》ガゼットはというと、すぐに貴族の面々に囲まれてしまった。
あいさつをしておきたかったのだが、それはあとになりそうだ。

「よう、やっぱりあんたも生き残ってきたな」

パーティーが始まって早々に、《精霊剣使い》フューエルが近づいてきた。

「ああ、どうにかこうにかな」

頭をかきながら答える。

俺は実力を隠しながら勝ってきた。観客の目には一進一退しながら勝ち進んできた、たまたま強い相手がいないリーグにいた運のいい男として認識されていた。

フューエルは笑い飛ばした。

「『どうにかこうにか』! 決勝じゃそんな通用しねえぜ?」

「だろうな」

「あんたの強さは決勝に駒を進めた選手全員が見抜いていることだろうさ。観客や倍率は騙せてもな。予選の『ゼノンは俺』宣言だってマヌケを装うためだろ?」

「…………」

本気だったんだが……。

「買い被りすぎだ。まあ、本気を出す場面が来れば、本気を出すさ」

「あんた毎回それなりに倍率が高かったからな。大儲けさせてもらった。まあ、さすがに三十倍は第一試合だけだったけどな!」

「健闘したよ」

ジョー・グレモンと戦ったときのことだろう。食事用のナイフとフォークで勝った試合である。

「うむ、あれは見事だった」

と言って近づいて来たのは、《竜殺し》ゼビカだった。

二人とも、まだ実力を見せてはいない。
その片鱗は、こんな場所では探ることなどできまい。試合で探ることになるか、それともこの場でベロベロに酔わせて引き出すか。

「ところで、二人はどうしてトーナメントに?」

ゼビカは俺たちに聞いてきた。
ここでは選手同士の『腹のさぐりあい』が許されている。この質問もその一環だろう。

「精霊エアリアルだ」

「そりゃあ、精霊エアリアルに決まってらあ」

俺とフューエルは同時に言って顔を見合わせた。

こいつもエアリアル目的だったのか。

「剣士なのに精霊目的か」

俺が言うと、フューエルは当然といったようにうなずいた。

「そらそうだ! エアリアルは、あの英雄ゼノン・ウェンライトが精霊剣の契約をした精霊だからな!」

「お、おう……」

フューエルの目が輝いている。

あれか、後世に伝わる英雄伝説みたいなやつにあるのか。……それはなんというか、リアクションしづらいな。
それ参考文献にすれば俺の手の内全部わかるのではないか?

「精霊剣使いにとっちゃ、英雄ゼノンはレジェンド中のレジェンドだからな! エアリアルを手に入れて、少しでも近づきてえわけよ」

「なるほど。まあ、かく言う俺もエアリアルだ。冒険者パーティに優勝して連れてこいと言われてな、仕方なくここまで来ている」

とゼビカは答えた。

「あの噂に聞く《竜殺し》パーティにかよ?」

「うむ。まあ、戦力の増強が目的だ」

「あれ以上強力になってどうすんだよ。国でも倒すつもりか?」

「まあ、そんなところだと答えておく」

「ふん、はぐらかしやがって」

なるほど。ゼビカの所属する『《竜殺し》パーティ』は相当有名らしい。
情報共有掲示板にも載っていた。王都に飛来したドラゴンの群れを退治した伝説の冒険者チームなのだと。

俺も昔《竜公》と呼ばれたドラゴンの王とその軍勢に闘いを挑んだことがあったが、撃退には骨が折れた。相当強くなければ、張り合うことなどできない。伝説と化している《竜殺し》の噂は、伊達ではなさそうだ。

「そういえば……肝心のエアリアルはどこだ? 一度見ておきたいのだが」

俺が言うと、ゼビカは主催者の席を指差した。

「ああ、それならあそこだ」

ゼビカが指差した先、その主催者席の足元には、黒い小さな檻があった。

「あれか? ずいぶん小さな檻だな。主催者にあいさつがてら少し見てこよう」

「ああ。とてもかわいかったぞ」

「……?」

ゼビカはすでに確認済みらしい。
しかし……? 俺の知っているエアリアルにはない情報である。

「かわいかったとは、どういうことだ?」

「見てくればわかる」

「……ふむ」

疑問になることはあるが、しかし行ってみればわかるか。
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