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番外編

うららかな時間

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 フェリシアは休日、のんびりと目を覚ますと、カミルがいつも寝潰れているはずなのにベッドにいないことに気が付いた。
 眠い目をこすりながら階段を降りていくと、とてもいい匂いがして少し早足になる。

 「カミルさん、もしかして、お料理を!?」

 リビングに入るなり、そう声をかけると彼は柔らかく顔を綻ばせた。

 「今まで味見をしなかったからクソ不味かったんだな。いやはや、記憶の戻った後っていうのはなんて言うか、思い出したくないこともあったが、まあ、便利と言えば便利だな」

 「あのっ、…味見、しても?」

 恥ずかしそうに、でも、期待を込めて目を輝かせているフェリシアの表情を見ながらカミルは顔を綻ばせて手招きし、味見用の豆皿にスープを注いで彼女に手渡した。

 「熱いから気を付けろよ?」

 「はいっ!」

 ふーふーと息を吹きかけて冷ましたフェリシアはスープを一口味わい、目を見開いてゴクンと飲み込んだ。

 「ん! んんん!!」

 嬉しそうにぴょんッと飛び跳ねたフェリシアの顔を見ながら、カミルが顔を綻ばせる。

 「自信作だ。美味しいか?」

 「はい!」

 頬に手を添えてうっとりと瞼を伏せたフェリシアの顔を見ながら、彼は愛おしそうに目を細める。

 「これからはちゃんと分担しよう、な?」

 「はい、そうですね」

 カミルの腕に抱き着いたフェリシアの頭を撫でたカミルはこつんと額と額をくっつけて頷いた。

 「約束だ」

 「約束なのです」

 そんな話をしていると、ルルーディアがいつも通りの時間に降りてきた。

 「……おは、よ…パパ、ママ…」

 とても眠そうなルルーディアを振り返ったフェリシアがニッコリと笑ってカミルから離れ、かがみこんで口元の涎の跡を親指で拭ってやった。

 「おはよう、ルルー。いい夢は見られましたか?」

 「うん!」

 ふにゃっと笑ったルルーディアが嬉しそうに言った。


 「あのね! ママとパパとお出かけした夢を見たの! えっとね、…うーん……あれ?」


 しかし、首を傾げたルルーディアが真剣に悩んでいる様子を見てフェリシアが尋ねる。

 「忘れちゃいましたか?」

 「…うん」

 しょんぼりと項垂れたルルーディアの頭を撫でた彼女は、カミルを振り返って満面の笑みを浮かべる。

 「今日はお天気もいいですし、ピクニックでも行きましょうよ、カミルさん」

 「そうだな。スープもたくさん作ったし、メインは…サンドイッチでいいか」

 ルルーディアが嬉しそうに身を乗り出し、赤い丸く肥えた狸のような生き物がポンポンと足元で飛び跳ねていた。


 「お手伝いする!」


 「ありがとう。じゃあ、カミルさんにはサラダの用意とか、飲み物の用意を任せて、一緒にサンドイッチを作りましょうね」

 フェリシアはルルーディアに微笑みかけると、ルルーディアは頬を上気させながら何度も大きく頷いた。その真似をするように精霊もうんうんと頷いている。

 「俺も一緒に作りたい…」

 「分担、ですよ?」

 ニコッと笑ったフェリシアに、ルルーディアも追い打ちをかける気はないのだろうが、結果的に追撃を掛ける。

 「そうだよ! えへへ~、美味しいサンドイッチを作ろうね、ママ!」

 「二人で作れば百人力、ですよ♪」

 楽しそうにわいわいと支度を始めた二人を見ながら仕方がなく分担作業をしていたカミルに、足元に精霊がやってきてポンっと励ますように触れた。

 「見えないが、励まされているようなものを感じる。…が、同情は余計に傷つくな…」

 サラダの支度や取り皿やスプーンとフォークのセット、そして、スープを入れた水筒とカップも詰め込んで、それとは別に飲み物用のボトルも用意した。
 そうしてようやくフェリシアに後ろから抱き着いて尋ねる。

 「手伝うか?」

 「ふふっ、カミルさんも甘えん坊さんですね」

 カミルが拗ねたように口を尖らせた。

 「ルルーは可愛いが、その分、フェリシアが構ってくれる時間は少なくなったわけだし?」

 「ジェラシーを感じてくれているのは嬉しいですけど、私の旦那様はカミルさんだけですからね? ルルーは我が子として愛していますし、カミルさんは世界でたった一人、フェリシアとして愛している人です」

 ルルーディアが振り返って満面の笑みを浮かべ、半分に切って詰め込みやすいサイズに整えたサンドイッチの片割れをカミルへと差し出した。

 「はい、パパ。あーん」

 「え、あ! ありがとう、ルルー」

 嬉しそうに顔を綻ばせてパクッとそれを咥えたカミルはもぐもぐとサンドイッチを食べて大きく頷いた。

 「ん、おいしい!」

 「でしょー? ママも! はい、あーん」

 詰めるはずのもう一切れをフェリシアに差し出したルルーディアに声を掛けようか迷ったが、愛娘の笑顔を見ていると断れるはずもなく、彼女もパクッと差し出されたサンドイッチを食べた。

 「う~ん、美味しい。さすがルルー」

 そう褒めると、照れたように頬をポリポリと掻きながら照れ笑いを浮かべていた。

 「えへへ、褒められちゃった」

 「でも、食べすぎちゃうとお昼の分がなくなっちゃいますよ?」

 「あ!!」

 今気が付いたというように衝撃を受けた表情をしているルルーディアの様子に夫婦は顔を見合わせてクスクスと笑った。



     ☆



 「わー、公園だぁ!」


 はしゃいで精霊と共に駆け出したルルーディアを見送ったフェリシアとカミルは手を繋いでのんびりと後ろを追いかけるように歩いていた。

 「バスケット、持ちましょうか?」

 「いいよ。ちょっと重いから、フェリシアには重過ぎるだろうし」

 「頑張れば持てますよ!」

 はっきりとそう宣言してやる気に満ち溢れている妻に苦笑をしたカミルは、フェリシアに言った。

 「でも、両手で抱えて持つんだったら、手を繋げないじゃないか」

 「それもそうなんですけど…」

 むぅっと口を尖らせたフェリシアにカミルは柔らかく微笑みかけ、足を止めた。
 慌てて足を止め、振り返ったフェリシアが心配そうに尋ねる。

 「どうしました? 疲れちゃいましたか? もし、重たいならやっぱり…あっ――」

 フェリシアの言葉を遮るようにフェリシアを繋いだ側の手で引き寄せ、軽く唇を重ねた。

 キスは慣れているはずだが、不意打ちに弱いフェリシアが耳まで赤くなっている様子を見ながら、カミルは少年のような晴れやかな笑みを浮かべた。

 「さあ、行こうか」

 カミルが歩き出すと、ぼんやりとフェリシアも歩き出す。そんな彼女に歩幅を合わせながら彼はのんびりと歩いていた。


 「パパー、ママー、はやくぅ!」


 ルルーディアの明るい大声を聞きながら、カミルはそっと肘でフェリシアの腰を小突いた。

 「ほら、うちの愛娘が呼んでいる」

 「もうっ、カミルさんはずるいです。不意打ちなんてドキドキしちゃうじゃないですか」

 「フェリがこういうのに弱いっていうのは知っている。でも、反応が面白いから、時々味わいたくなるんだよ。きっと、さ」

 「むぅ…」

 膨れ面をしたフェリシアだったが、カミルに手を引かれてずんずんと進んでいるうちにいつの間にか機嫌を直して笑顔に戻っていた。

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