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番外編
夫婦のじかん
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「カミルさん、出張に行っちゃうんですか!?」
フェリシアが目を潤ませながらそう尋ねると、カミルは愛おしそうに目を細めて不敵に笑った。
「寂しがってくれるのは嬉しいが、たった数日、大きな取引きがあるから首都に行って来るだけだよ。それに、幹部たちのお見送りもあるし、な」
「視察の人、まだいたんです?」
不思議そうな顔をしたフェリシアに、カミルはクスクスと笑みをこぼす。
「おいおい…国境を越えなきゃいけないから手続きに時間がものすごくかかっただけだぞ?」
「本部って別の国なのですか?」
「ああ。この大陸の正反対の場所。東の大国に本部がある。とはいえ、俺はここで生まれ育ったわけだし、幹部昇格の資格試験のために留学していたことはあったけど…ほとんどこっちで暮らしてきたからな」
「私と出会ったのは帰ってきた後だったのですね」
カミルは感慨深そうに頷き、フェリシアを抱き寄せてムギュッと腕の中に閉じ込めた。
「結構、後かな? 留学から帰ってきて、失恋のショックでやけになっているときに女遊びなんて覚えて、捨てたり捨てられたりを繰り返していたら、マーサに見つかってラリアットされた。…そのあとだから」
「…私のことも遊びだったんです?」
不安そうな顔をしたフェリシアのうなじにキスを落としてカミルは微笑んだ。
「まさか。そんなことをしたら、マーサにラリアットだけじゃあ許してもらえないって。マーサの紹介もあったけど…紹介されたその時が初めて会ったわけじゃなかったけどさ」
「そうでしたっけ?」
キョトンとしたフェリシアはしかし、とろんとした顔になると、カミルに凭れかかった。
「ふあぁ…」
欠伸を漏らしたフェリシアをそっと横たえ、彼女がカミルの方を振り返ると、カミルも一緒にベッドに横になり、二人の上から布団を掛けた。
「今夜はもう遅いし、寝よう」
「ふぁい……カミルさん…」
カミルは身を乗り出して軽く唇を重ねるキスをした。
「おやすみ、フェリシア。いい夢を」
「お、やすみ…なさい…カミル、さん……」
目を閉じてすぐに寝息を立て始めた妻を見つめていたカミルは愛おしそうに目を細め、彼女の頬に軽く触れて微笑んだ。
「君と結婚してよかった」
小さな声でそう呟くと、瞼を伏せてカミルは珍しく甘えたトーンで囁くように絞り出した。
「辛い思いをさせてごめんな。でも、もう手放そうとしたり、逃げたりしないから…だから…傍にいてくれ」
ふと、手が伸ばされ、軽くカミルの頬に触れた。
カミルが目を開けると、フェリシアが眠そうな顔で彼を見ていた。
「…怖い、夢…でも、見ま、した…?」
寝ぼけているのかとろんとしている目だが、それでも心配そうな顔をしていたので、カミルは安心させるために緩々と首を横に振る。
「…いや、大丈夫だよ」
そう言ってみせたが、フェリシアはクスッと笑った。
「…迷子、…みたい、な…顔…です、よ?」
小さく欠伸を漏らした彼女は目を閉じてカミルに抱き着き、そして、彼の胸元に額を押し当てて幸せそうに顔を綻ばせた。
「ちゃーんと、傍、に…います、から…ね」
カミルはフェリシアを抱き返し直すと、頬を伝った涙を布団で拭った。
「歳かな…涙もろくなっていけないな…」
カミルは眼鏡をはずすと、サイドテーブルに眼鏡を置き、それから涙を袖口でもう一度拭って目を閉じる。
「やっぱり君には敵わないな」
そう呟いて。
フェリシアが目を潤ませながらそう尋ねると、カミルは愛おしそうに目を細めて不敵に笑った。
「寂しがってくれるのは嬉しいが、たった数日、大きな取引きがあるから首都に行って来るだけだよ。それに、幹部たちのお見送りもあるし、な」
「視察の人、まだいたんです?」
不思議そうな顔をしたフェリシアに、カミルはクスクスと笑みをこぼす。
「おいおい…国境を越えなきゃいけないから手続きに時間がものすごくかかっただけだぞ?」
「本部って別の国なのですか?」
「ああ。この大陸の正反対の場所。東の大国に本部がある。とはいえ、俺はここで生まれ育ったわけだし、幹部昇格の資格試験のために留学していたことはあったけど…ほとんどこっちで暮らしてきたからな」
「私と出会ったのは帰ってきた後だったのですね」
カミルは感慨深そうに頷き、フェリシアを抱き寄せてムギュッと腕の中に閉じ込めた。
「結構、後かな? 留学から帰ってきて、失恋のショックでやけになっているときに女遊びなんて覚えて、捨てたり捨てられたりを繰り返していたら、マーサに見つかってラリアットされた。…そのあとだから」
「…私のことも遊びだったんです?」
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「まさか。そんなことをしたら、マーサにラリアットだけじゃあ許してもらえないって。マーサの紹介もあったけど…紹介されたその時が初めて会ったわけじゃなかったけどさ」
「そうでしたっけ?」
キョトンとしたフェリシアはしかし、とろんとした顔になると、カミルに凭れかかった。
「ふあぁ…」
欠伸を漏らしたフェリシアをそっと横たえ、彼女がカミルの方を振り返ると、カミルも一緒にベッドに横になり、二人の上から布団を掛けた。
「今夜はもう遅いし、寝よう」
「ふぁい……カミルさん…」
カミルは身を乗り出して軽く唇を重ねるキスをした。
「おやすみ、フェリシア。いい夢を」
「お、やすみ…なさい…カミル、さん……」
目を閉じてすぐに寝息を立て始めた妻を見つめていたカミルは愛おしそうに目を細め、彼女の頬に軽く触れて微笑んだ。
「君と結婚してよかった」
小さな声でそう呟くと、瞼を伏せてカミルは珍しく甘えたトーンで囁くように絞り出した。
「辛い思いをさせてごめんな。でも、もう手放そうとしたり、逃げたりしないから…だから…傍にいてくれ」
ふと、手が伸ばされ、軽くカミルの頬に触れた。
カミルが目を開けると、フェリシアが眠そうな顔で彼を見ていた。
「…怖い、夢…でも、見ま、した…?」
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「…いや、大丈夫だよ」
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「歳かな…涙もろくなっていけないな…」
カミルは眼鏡をはずすと、サイドテーブルに眼鏡を置き、それから涙を袖口でもう一度拭って目を閉じる。
「やっぱり君には敵わないな」
そう呟いて。
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