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幕間Ⅴ
リンの前世
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「オズワルド達をロチェスターへ帰したのは、私が転生した異世界人であることを秘密にしているため、この話を聞かれたくなかったからだ。驚かせてすまなかったね」
リンに、今までのことを説明した。
自分はこの国の第二王子であること。15歳の儀式の際、神からいずれ来る”神の使者”の補佐をするよう命じられ。闇魔法を除いた全魔法を授かった。
そしてもうすぐ国王と第一王子は亡くなり、自分が国王になることを聞かされた。
同時に、悪神の介入により前世の記憶を思い出させられ、この世を崩壊することが可能なほどの闇魔法を授けられたこと。
神の使者を堕落させ、この世界を混乱に導く手伝いをするよう、誘われたことを。
「君も知ってるかもしれないが。……前世で、色々あったから。人と神に対し、憎悪を持ってると思われたのだろう」
リンは、納得したかのようにこくりと頷いた。
ニュースで報道された、ということは。幸い私の……流星の遺書は、握りつぶされなかったようだ。それにより、芸能界の悪習が見直されれば良いのだが。
*****
「やっぱりリューセー……じゃなかったウィルって、王子様だったんだ?」
「私が王族だと気づいてたのかい? 騎士だって言ったのに」
「むしろあれだけ王族然として振舞っておいて、隠す気あるのかと思ってた」
「……まだ、子供だと思っていたしね」
しかし、その行動や知識からして、子供ではないとは気づいていた。
「見た目通りの子供じゃないとわかってたなら、何で添い寝したの?」
「すぐ真っ赤になって、反応が可愛かったから、つい。この髪も撫で心地良いし」
単に、人肌が恋しかったのもあった。
リンが神の使いであるなら、下心を持って近寄ってくる者とは違い、安心して眠れそうだったからだ。
「リンは生前、どんな職業だったのかな?」
「俺は普通の、地方公務員だったよ。調理師……保育園で子供に給食とかおやつを作る仕事」
「ああ、やはりプロだったのか。道理でレパートリーが豊富で手際もいいはずだ。ああ、もちろんプロでも要領が悪く及第点も出せない者はいる。君は、センスもあるし、相当研鑽を積んだのだろうね」
毎日、味に敏感な子供相手に料理を作っていたのだ。しかも大量に。
「あんなに美味しいご食事を、毎日食べていたのか。羨ましいね。子供たちはさぞ幸せだったことだろう」
「神様が言うには、本来、幸せな結婚をして寿命を迎えるはずが、悪神がちょっかい出してきたせいで、起こるはずのなかった事故で死ぬことになったって」
「そうか……、」
それでは、こちらの世界でリンを幸せにしないといけない。
できれば私の手で、幸せにしてやりたい。
*****
「でも、こうして若返って、子供の姿でも何でも作れる能力をもらえたんだし。かえってラッキー、と思わなくもないかな?」
リンは笑ってみせた。
自ら死を選んだ私とは違い、未練もあっただろうに。
「まあね。私もそうかな。この世界では少なくともパワハラを受けたことがないのが嬉しいね」
今では最高権力者なのだから。
「同郷なのだし、この世界のことで困ったりわからないことがあったら、いつでも相談するといい。私も、君がこの国で過ごしやすいよう、手を貸すよ。何よりも最優先でね」
手を差し出すと。
握り返そうと出されたリンの手を引き寄せ、手の甲にキスをしてやる。
「うひゃ、」
真っ赤になって、可愛らしい。
「ウィル、俺のこと、たぶらかそうとしてない?」
そうやって、可愛らしく上目遣いで見る君のほうこそ、私を誑かしているというのに。
「え? このくらいで誑かされてくれるのかい?」
そう言うと、頬を膨らませた。
「あ、そうだ。明日は管理人夫婦を紹介するよ。元々リズリーの森を管理していたのだけど、私のせいで職を失くしていてね。森も蘇ったので復職してもらうつもりだ」
人柄にも問題ないので、リンの世話を頼もうと思っていたのだ。
リンは、一人でも生きていけるだろうけど。
私が、そうさせたくはないのだ。
「じゃあその人たちの家、作ろうか?」
「いいのかい?」
リンは気が利くし、人がいい。いや、よすぎるくらいである。
その凄まじいまでの能力を誰かに利用されないよう、見守らなくてはいけない。
私自身も、リンを利用しないよう、自重せねば。
リンに、今までのことを説明した。
自分はこの国の第二王子であること。15歳の儀式の際、神からいずれ来る”神の使者”の補佐をするよう命じられ。闇魔法を除いた全魔法を授かった。
そしてもうすぐ国王と第一王子は亡くなり、自分が国王になることを聞かされた。
同時に、悪神の介入により前世の記憶を思い出させられ、この世を崩壊することが可能なほどの闇魔法を授けられたこと。
神の使者を堕落させ、この世界を混乱に導く手伝いをするよう、誘われたことを。
「君も知ってるかもしれないが。……前世で、色々あったから。人と神に対し、憎悪を持ってると思われたのだろう」
リンは、納得したかのようにこくりと頷いた。
ニュースで報道された、ということは。幸い私の……流星の遺書は、握りつぶされなかったようだ。それにより、芸能界の悪習が見直されれば良いのだが。
*****
「やっぱりリューセー……じゃなかったウィルって、王子様だったんだ?」
「私が王族だと気づいてたのかい? 騎士だって言ったのに」
「むしろあれだけ王族然として振舞っておいて、隠す気あるのかと思ってた」
「……まだ、子供だと思っていたしね」
しかし、その行動や知識からして、子供ではないとは気づいていた。
「見た目通りの子供じゃないとわかってたなら、何で添い寝したの?」
「すぐ真っ赤になって、反応が可愛かったから、つい。この髪も撫で心地良いし」
単に、人肌が恋しかったのもあった。
リンが神の使いであるなら、下心を持って近寄ってくる者とは違い、安心して眠れそうだったからだ。
「リンは生前、どんな職業だったのかな?」
「俺は普通の、地方公務員だったよ。調理師……保育園で子供に給食とかおやつを作る仕事」
「ああ、やはりプロだったのか。道理でレパートリーが豊富で手際もいいはずだ。ああ、もちろんプロでも要領が悪く及第点も出せない者はいる。君は、センスもあるし、相当研鑽を積んだのだろうね」
毎日、味に敏感な子供相手に料理を作っていたのだ。しかも大量に。
「あんなに美味しいご食事を、毎日食べていたのか。羨ましいね。子供たちはさぞ幸せだったことだろう」
「神様が言うには、本来、幸せな結婚をして寿命を迎えるはずが、悪神がちょっかい出してきたせいで、起こるはずのなかった事故で死ぬことになったって」
「そうか……、」
それでは、こちらの世界でリンを幸せにしないといけない。
できれば私の手で、幸せにしてやりたい。
*****
「でも、こうして若返って、子供の姿でも何でも作れる能力をもらえたんだし。かえってラッキー、と思わなくもないかな?」
リンは笑ってみせた。
自ら死を選んだ私とは違い、未練もあっただろうに。
「まあね。私もそうかな。この世界では少なくともパワハラを受けたことがないのが嬉しいね」
今では最高権力者なのだから。
「同郷なのだし、この世界のことで困ったりわからないことがあったら、いつでも相談するといい。私も、君がこの国で過ごしやすいよう、手を貸すよ。何よりも最優先でね」
手を差し出すと。
握り返そうと出されたリンの手を引き寄せ、手の甲にキスをしてやる。
「うひゃ、」
真っ赤になって、可愛らしい。
「ウィル、俺のこと、たぶらかそうとしてない?」
そうやって、可愛らしく上目遣いで見る君のほうこそ、私を誑かしているというのに。
「え? このくらいで誑かされてくれるのかい?」
そう言うと、頬を膨らませた。
「あ、そうだ。明日は管理人夫婦を紹介するよ。元々リズリーの森を管理していたのだけど、私のせいで職を失くしていてね。森も蘇ったので復職してもらうつもりだ」
人柄にも問題ないので、リンの世話を頼もうと思っていたのだ。
リンは、一人でも生きていけるだろうけど。
私が、そうさせたくはないのだ。
「じゃあその人たちの家、作ろうか?」
「いいのかい?」
リンは気が利くし、人がいい。いや、よすぎるくらいである。
その凄まじいまでの能力を誰かに利用されないよう、見守らなくてはいけない。
私自身も、リンを利用しないよう、自重せねば。
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