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幕間Ⅴ

異世界の仲間

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メイヤー師たちがシチュー鍋に群がっている隙に、リンに寄り添うように近づいた。

「シチューも絶品だったが。私は特に、ハンバーグが一番好みの味だ。あれには赤の葡萄酒がよく合いそうだ。溢れる肉汁に負けないくらいのね」
この世界の葡萄は食用には適さないが、ワインにするとなかなかの味わいになる。


「君の作る料理をこうして毎日でも食べたい。できれば店ではなく、独り占めしたいくらいだ」
囁くと、頬を染めた。愛らしい反応だ。

リンの小さな手を取り。
「こんな小さな手で、あの大鍋を振るっていたとは、とても信じられないな。どんな魔法よりも素晴らしい世界を魅せてくれたお礼がしたいが。何がいいかな。私にはハムサンドくらいしか作れないけど。今度御馳走しようか」


”ハンバーグ”には反応しなかったが。”サンドイッチ”という言葉には反応した。
どちらもこの世界には存在しないもので。この名称を知っている者は限られている。


「そうではないかと思っていたけど。あの”お子様ランチ”の大人版で確信した」
リンが顔を上げた。


「……君は、日本から来たのだね?」


*****


リンの脈動が速まり、血の気が引いていく。
脅す気はなかったのだが。


「ウィリアム様、なに子供を本気で口説いてんの? 未成年はダメっしょ。あはは、」
オズワルド。

オーソンもそうだが。少々酔い過ぎではないか。
リンの料理が美味すぎて酒が進んでいたのは知っているが。さきほど、どさくさに紛れてプロポーズをしていたな。まだ10歳の子供に求婚するんじゃない。

メイヤー師は腹いっぱいになり、リビングルームのソファーで撃沈しているようだ。
引き取っていただこう。


「私は、これから大事な話をしなくてはならない。そこで伸びてるメイヤー師を連れて、今すぐロチェスターに戻れ」
王族として命令・・する。

「ただちに遂行致します」
オズワルドとオーソンはすぐに仕事モードに入り、敬礼した。軍人として鍛えられた者たちである。


「ああ、明日スペンサー達を呼んで、昼過ぎ頃に来るように」
リンに彼らを紹介したい。

ラップサープかしこまりました!」


*****


騒がしかった者たちがいなくなると。リンはかわいそうなくらい緊張していた。


「……そのように絞められる前のペットアヒルのように怯えずとも、責めるつもりはないのだが。驚かせたか?」
緊張した背中を手のひらであやすように叩いてやる。

「このような異世界で、まさか同じ国の者と逢えるとは思わず。つい気がはやってしまった。すまない」

「じゃ、やっぱり。ウィ……ウィルも?」
リンはおずおずと私の顔を見上げて言った。

「ああ。私は1970年に日本で生まれた。日本人だった」


リンは私の生まれた年を聞いて、指で数えだした。
2022年から引いている。

と、いうことは彼は2022年の日本から来たのか。
私が死んだのは、確か2006年だった。


「俺、1987年生まれ……」
2022年なら35歳か。

「え? 意外といってたな。……では、知らないかもしれないな。私は生前、芸能人をしていたのだけど」


彼が高校くらいの時は、それほどテレビには出なくなっていた頃だろう。
舞台や、コンサートのゲストがメインだった。

テレビに出なくなると、芸能人はすぐに忘れられるものだ。


*****


「うちの母親ミーハーだったから。知ってるかも。な、名前は?」
興奮気味に訊かれた。

「榊原流星、という名だったよ」


リンはぴたりと動きを止めた。
やはり年のいった元アイドルの名前など知らなかったのだろう。


「聞いたことなかった? 男の子は興味ないだろうね」

ぶんぶんと首を振り。頬を染めている。
「すごく、知ってる。昭和の大スター! ダニーズ所属。美少年 ファイブのリューセー。一日中ニュースやってた!」

……昭和の大スター……。

何だか自分がひどく年老いたような気がしてならないのだが。
どうやら私の死後、特番を組まれたようだ。

改めてグループ名を言われると、恥ずかしいものだ。
私がつけたのではないが、30超えた男が美少年も何もないだろうと思っていた。


「……そ、そうか……」
「母さんが大ファンで。俺が小さい頃、リューセーのマイフェイバリットテープ作ってテープがべろんべろんになるまで鬼リピで聞いてたし。写真集もあったよ。水着とか、シャツの前を開けてるやつ! あ、ベスト盤含めてCD20枚。リューセーのソロ曲も全部歌えるよ!」


それは。
「……忘れなさい」
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