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プロローグ
二人の王子と舞い降りる美少女?
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慈母神アナスタシアより生まれし四人の女神。
慈悲の女神エリノア、歓喜の女神レティシア、繫栄の女神ルクレティア、希望の女神ネイディーン。
女神たちはその大いなる力で、人の子を護り、慈しみ、その営みを支えてきた。
しかし、その加護が、一万年に一度の女神たちの眠りにより失われ。実に十五年の間、人々の間に子を生すことが叶わなかった。
人々はそれを、暗黒の時代と呼んだ。
豊かなこの世界の侵略を狙う魔界、大魔界、獄界、地獄界からの攻撃による厄災にも見舞われ。花は枯れ、鳥は空を捨て、人は微笑みを失いかけたが。
侵略者は、とある二人の英雄の登場によって倒された。
やがて、暗黒の時代が過ぎ去り。
女神たちは目覚め。
また新しい命が芽吹き、次々と産声を上げたのだった。
◆◇◆
ネイディーンの国王、カールの元に待望の子が生まれた。
それは同じ日、ほぼ同時刻。
双子ではなかったが、二人の男子であった。
黒い髪と闇を映す黒い瞳、カカオ色の肌を持つ赤子は、漆黒の王子クリシュナと名付けられ。
金の髪と空を映す青い瞳、蜂蜜色の肌を持つ赤子は、太陽の王子オーランドと名付けられた。
二人はそれぞれ賢くも美しい少年に成長した。
王は、王子らが十五の年に、それぞれに従者を一人伴わせ、二人を城から出立させた。
王曰く、暗黒の時代に生まれた娘を探せという。
その娘を探し出し、女王に仕立て上げよ、と命じたのだった。
「オヤジ、とうとうボケたか」
太陽の王子、オーランドは白皙を皮肉に歪ませたが。それでも輝くような美貌は少しも損なわれない。
白地に金糸の細かい刺繍の軍服に身を包んでいる。十五になったばかりだというのに、初々しさはなく、立派な体格で。もうすっかり一人前の騎士のように見える。腰に佩いた剣も、実用的なものだ。
白馬の手綱を操り、光に透けるような金髪をなびかせ、青のマントをひるがえしながら、彼は兄と従者らを振り返った。
「この国に、女なんている訳ないよな? 兄上」
「わからんぞ、オーランド。暗黒の時代、世界を救ったという勇者の母は、異世界の女性だったとの話だ。いずこかの世界より、此の国に流れ着いているやもしれん」
漆黒の王子、クリシュナは怜悧な美貌を弟に向けた。
同じく青いマントを羽織り、黒地に銀糸の刺繍の軍服で。乗っているのは黒毛の馬だ。腰には鞭を装備している。髪はゆるく癖のついた黒い短髪である。
見た目は正反対なこのふたり。
さぞや馬が合わないだろうと思われがちだが、意外に仲は良いのである。
「とにかく、王命だ。探すしかあるまい」
「御意」
「……御意」
オーランドの騎士リッターは頷き、クリシュナの騎士ナイジェルは肩を落とした。
リッターは金髪に茶色の瞳の端正な顔立ちをした、育ちの良さそうなおっとりとした青年で。ナイジェルは黒髪に緑の瞳の、野生的な雰囲気を持つ精悍な青年である。
ナイジェルは趣味の鍋磨きの最中に呼び出され、無理矢理旅立ちの供とされ、意気消沈している。
二人の騎士は、それぞれの主人に合わせ、衣装も黒と白に分かれている。
遠目からも美しい姿勢で騎馬を繰る四人の姿は、知らず衆目を集めた。
美貌の王子達と、凛々しい騎士達。
とてつもなく目立つ、世にも美しい一行に。村人たちは一時農作業の手を止め、見惚れてしまっていた。
「……あれは、何だ?」
兄の声に、弟は顔を上げた。
◆◇◆
ちょうどその頃。
舞い散る薄桃色の花びらと共に、ふわりふわりと。
天女のような薄桃色の衣装を身に着けた少女が、天から舞い降りてきていた。
ふっくらとした桃色の唇、白桃のような頬。
柳のような眉。長い睫毛。
薄化粧を施した美少女の、腰まである亜麻色の長い髪……がぽとりと落ちた。
カツラである。
カツラの下から、ショートヘアからミディアムの間ほどの中途半端な長さの黒髪が、さらさらと風に流れる。
花畑にふわりと着地して。
小鳥が少女の胸に乗り。ちゅん、とひと鳴きした。
小鳥の声にで目覚めたか。
少女はゆっくりと目を開けた。
アーモンド形のぱっちりとした瞳が開かれると、あどけない寝顔は一転、気の強そうな印象を受ける。
少女は辺りを見回し。
どすん、と花畑に胡坐をかいて座り。だるそうに股ぐらをぼりぼりと掻いて。
『んあー? 何だ、ここ。天国か?』
ハスキーな声で呟いた。
どこから見ても美少女としか思えない容姿であったが。彼は男であった。
慈悲の女神エリノア、歓喜の女神レティシア、繫栄の女神ルクレティア、希望の女神ネイディーン。
女神たちはその大いなる力で、人の子を護り、慈しみ、その営みを支えてきた。
しかし、その加護が、一万年に一度の女神たちの眠りにより失われ。実に十五年の間、人々の間に子を生すことが叶わなかった。
人々はそれを、暗黒の時代と呼んだ。
豊かなこの世界の侵略を狙う魔界、大魔界、獄界、地獄界からの攻撃による厄災にも見舞われ。花は枯れ、鳥は空を捨て、人は微笑みを失いかけたが。
侵略者は、とある二人の英雄の登場によって倒された。
やがて、暗黒の時代が過ぎ去り。
女神たちは目覚め。
また新しい命が芽吹き、次々と産声を上げたのだった。
◆◇◆
ネイディーンの国王、カールの元に待望の子が生まれた。
それは同じ日、ほぼ同時刻。
双子ではなかったが、二人の男子であった。
黒い髪と闇を映す黒い瞳、カカオ色の肌を持つ赤子は、漆黒の王子クリシュナと名付けられ。
金の髪と空を映す青い瞳、蜂蜜色の肌を持つ赤子は、太陽の王子オーランドと名付けられた。
二人はそれぞれ賢くも美しい少年に成長した。
王は、王子らが十五の年に、それぞれに従者を一人伴わせ、二人を城から出立させた。
王曰く、暗黒の時代に生まれた娘を探せという。
その娘を探し出し、女王に仕立て上げよ、と命じたのだった。
「オヤジ、とうとうボケたか」
太陽の王子、オーランドは白皙を皮肉に歪ませたが。それでも輝くような美貌は少しも損なわれない。
白地に金糸の細かい刺繍の軍服に身を包んでいる。十五になったばかりだというのに、初々しさはなく、立派な体格で。もうすっかり一人前の騎士のように見える。腰に佩いた剣も、実用的なものだ。
白馬の手綱を操り、光に透けるような金髪をなびかせ、青のマントをひるがえしながら、彼は兄と従者らを振り返った。
「この国に、女なんている訳ないよな? 兄上」
「わからんぞ、オーランド。暗黒の時代、世界を救ったという勇者の母は、異世界の女性だったとの話だ。いずこかの世界より、此の国に流れ着いているやもしれん」
漆黒の王子、クリシュナは怜悧な美貌を弟に向けた。
同じく青いマントを羽織り、黒地に銀糸の刺繍の軍服で。乗っているのは黒毛の馬だ。腰には鞭を装備している。髪はゆるく癖のついた黒い短髪である。
見た目は正反対なこのふたり。
さぞや馬が合わないだろうと思われがちだが、意外に仲は良いのである。
「とにかく、王命だ。探すしかあるまい」
「御意」
「……御意」
オーランドの騎士リッターは頷き、クリシュナの騎士ナイジェルは肩を落とした。
リッターは金髪に茶色の瞳の端正な顔立ちをした、育ちの良さそうなおっとりとした青年で。ナイジェルは黒髪に緑の瞳の、野生的な雰囲気を持つ精悍な青年である。
ナイジェルは趣味の鍋磨きの最中に呼び出され、無理矢理旅立ちの供とされ、意気消沈している。
二人の騎士は、それぞれの主人に合わせ、衣装も黒と白に分かれている。
遠目からも美しい姿勢で騎馬を繰る四人の姿は、知らず衆目を集めた。
美貌の王子達と、凛々しい騎士達。
とてつもなく目立つ、世にも美しい一行に。村人たちは一時農作業の手を止め、見惚れてしまっていた。
「……あれは、何だ?」
兄の声に、弟は顔を上げた。
◆◇◆
ちょうどその頃。
舞い散る薄桃色の花びらと共に、ふわりふわりと。
天女のような薄桃色の衣装を身に着けた少女が、天から舞い降りてきていた。
ふっくらとした桃色の唇、白桃のような頬。
柳のような眉。長い睫毛。
薄化粧を施した美少女の、腰まである亜麻色の長い髪……がぽとりと落ちた。
カツラである。
カツラの下から、ショートヘアからミディアムの間ほどの中途半端な長さの黒髪が、さらさらと風に流れる。
花畑にふわりと着地して。
小鳥が少女の胸に乗り。ちゅん、とひと鳴きした。
小鳥の声にで目覚めたか。
少女はゆっくりと目を開けた。
アーモンド形のぱっちりとした瞳が開かれると、あどけない寝顔は一転、気の強そうな印象を受ける。
少女は辺りを見回し。
どすん、と花畑に胡坐をかいて座り。だるそうに股ぐらをぼりぼりと掻いて。
『んあー? 何だ、ここ。天国か?』
ハスキーな声で呟いた。
どこから見ても美少女としか思えない容姿であったが。彼は男であった。
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