ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン

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壱ノ章:災いを継ぐ者

第17話 サービス

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 ――――現在

 人気が無くなった仁豪町の大通りに、暗逢者の群れが跋扈していた。締め切られた店の前にだらご達は飛びつき、錆だらけのシャッターを引っ掻き回す。そんな周りの雑魚を尻目におおだらごは地面に亀裂を入れながらのそのそと歩いていた。特に目的があるわけでもない。ただただ涎を垂らして餌を探しているだけである。彼らは常に飢えているのだ。

「ああ…やっぱりいた」

 開醒を発動し、手に霊糸で生成した長尺の棒を握り締めた龍人がようやく現場に到着する。どうやらこの町の情報網はかなり優秀らしく、退避が迅速に行えていたお陰でぱっと見ではこれといった被害は見受けられなかった。街灯や標識、雑に舗装された道路が損壊させられてはいるが、許容の範囲内だろうと勝手に考える。

 生物の気配を嗅ぎつけただらご達が龍人を見て吠え出す。おおだらごも首を向けてこちらを睨んできた。あの時と同じである。幼いころ、児童養護施設を襲ってきたあの怪物達。それと同じ気配、そして臭いが彼らから放たれていた。トラウマがよみがえる。必死に息を殺し、職員や他の子供達の悲鳴を背に逃げ出したのが始まりである。齢十九に達するまで、そうしてこの世の何もかもを見捨てて過ごした。

「逃げるのは終わりだ」

 あのころとは違うという自信が自分の中に滾った頃、近くに止まったままの車を見つけつつ龍人は呟く。古ぼけたキャデラックのセダンだった。

「なあ、豆知識教えてやろうか ?」

 そしてこちらへ目がけて走り出しただらご達へ龍人が呼びかけた。

「アメ車ってメチャクチャ頑丈なんだぜ。電装以外は」

 棒で地面と小突くと、棒が先端から瓦解して無数の霊糸になってほどけていく。そしてその霊糸を車へ目がけて放つと、するすると絡みついた。

「おらよっと !」

 一本背負いのように霊糸を引っ張ると、車は動いた。というより宙を舞った。龍人の頭上を飛び、やがて地面に落ちると勢いのまま転がっていく。群がって襲い掛かろうとしていただらご達は、突然こちらへ吹っ飛んできた鉄の塊を前に反応など出来るわけも無い。転がる車に潰され、靴底に張り付いたガムのように血まみれになりながら車に死体をへばり付かせる。

 だが、おおだらごは違った。邪魔だと言わんばかりに転がって来た車へ裏拳を当て、シャッターを閉めていた商店の方へ弾き飛ばす。とんでもない怪力だった。

「あれどうすっかな…」

 大雑把に知ってはいたが、想像以上に厄介そうなおおだらごの力を見た龍人はたじろいだ。しかし気長に対策を考えている暇はない。そうしている間にも残りのだら後たちが迫っていた。戦に仕切り直しは無い。故に周到な準備を怠った者から死ぬ。そんな佐那の教えがこの土壇場で頭をよぎった。未来は考えない、今さえ凌げればいいという自分の無鉄砲さと思慮の足りない悪癖だけは悲しい事にいつも裏切らないのだ。

 再び印を結び、棒を生成して近くにいただらごを殴り飛ばして龍人は周りを見る。続いて襲い掛かって来ただらごの一体の顔面を棒の先端で突き、怯んだ直後に拳を叩きこむ。単体で見れば問題ではない。だがやはり数が多かった。更にそれを見計らうが如く、おおだらごが走って来る。血走った目がこちらを見据え、咆哮が体を僅かに震わせた。

 刹那、遠くから何か火薬が炸裂したような音が微かではあるが耳に入る。やがて小さい何かが風を切り、おおだらごの片目へと撃ち込まれた。突如として赤く染まり、やがて何も見えなくなった片側の視界に慌てふためき、おおだらごが悲鳴を上げだす。

 次の瞬間、自分の背後から何かが飛来した。それが先程邂逅した謎の鴉天狗…”S”だと分かったのは、自分の目の前にいただらご達へ飛来した勢いを利用して飛び蹴りを食らわせた時だった。速い。他の鴉天狗たちとは比べるまでも無かった。

「よう」

 華麗に着地し、金属の翼を動作確認するかのように少しバタつかせながらSが気さくに挨拶をしてきた。ボルトアクション式のライフル銃を担いでおり、その先端には銃剣も取り付けられている。体格は龍人に比べれば一回り小さく、長袖を着込んではいるがあまり肉付きも良くないのだろう。

「助けてくれるのか」
「度胸だけでゴリ押し出来るのは相手が格下の時だけだって相場が決まってんだ。あいつは違うんだろ ?…出血大サービス、今回はタダで助けてやる。有難く思ってくれ」
「普段は金取るのかよ」
「当たり前だ。善意を無償且つ無条件でもらえるものだと思うな。典型的日本人め」

 いざ面と向かって話をすると、随分余計な一言が多い男だった。だが代償付きとはいえ助けてくれる辺りからするに、決して人が悪いわけでは無いらしい。もし利己を優先するのであれば無視を決め込んでおくのが一番いいからだ。

「後で色々聞かせてもらうぞ。お前が何者なのか」
「生きてたら、な」

 気を取り直して再び襲い掛かって来るおおだらご達を前に、二人は一斉に構えた。
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