もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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最終章 こぼれ落ちた運命は

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養女となってから2週間。
今日はわたしの誕生日。

じゃじゃーん!
これで16歳になりましたー!

いよいよ、ルーク様と結婚できる歳になったのだ!

わたしは、ミラー子爵家の養女になったのを機に、デイヴィス家のメイドは退職されられた。
まだまだ働くと駄々をこねてみたが、お兄様が目をすごくつり上げてダメ出しをした。

「何言ってんだ! 働く時間があったら、12歳で止まっている淑女教育に専念しろ! いくら前世の記憶で12歳までの知識があるとは言っても、本格的な淑女教育は12歳から始まるものだろう? まるまる4年分もたりないんだよ。いいか、英雄ルーク様の妻になるなら、笑われないようにマナーを身につけろ!!」

ぷりぷりと怒ったお兄様は、そのまま庭のガゼボでお茶をしているお母様を引っ張ってきた。

「母上、のんきにお茶なんてしていないで、昔を思い出してニーナを教育してください。エマが無事に格上の伯爵家に嫁げたのは、母上の厳しい教育の賜物だと思っていますから」

その日から、お母様の厳しい淑女教育が始まった。
これが地味にキツいのだ。

お母様は普段はとても優しいけれど、やるとなったらとことんやる人なので、屋根裏部屋から昔使っていたムチを探してきて、そのムチを片手にわたしの勉強を見るようになった。
ま、ムチはあくまで小道具なので、一度も振るわれたことはないけど、ペシペシと手元でムチの音をさせて威嚇しての授業は地味にツラい。


そして、お父様が養女になったお披露目と誕生パーティーを開くと言っていたのを止めたのもお兄様だった。

「父上、なに浮かれてバカなことを言っているんですか。淑女たる行動ができない令嬢を披露しても、見下されるのがオチです。身に付けるまでは我慢してください。我が家は子爵家なんです。見下されてつけ込まれたら、どうすんですか。ミラー子爵家は英雄の片腕がいると言われて、今一目置かれているんです。英雄とのつながりを求めて、爵位にモノ言わせて嫁によこせと言われたら、断れないんですよ」

そうお兄様に言われて、シュンとなるお父様がかわいかった。

でも、商家のお父さんお母さんが、誕生日のお祝いがしたいと言ってくれて、今日は商家の家の方に行くことになっている。

お父さんは、お父様達も誘ってくれたんだけど、お父様が「わたしたちがいると気を遣うでしょうから」とご辞退された。

そっか。
誰も来ないのか。と、思っていたら、ルーク様が「オレは行く!」と言い出して、今日はルーク様と2人で実家に行くことになっている。

デイヴィス侯爵家から馬車でミラー子爵家までルーク様が迎えにきてくれて、わたしはその馬車に乗り込んだ。

今日のわたしは、ドレスではなく、細かいプリーツの入ったベビーピンクのワンピースをきている。
実家で開く、庶民のパーティーだもん。
貴族のドレスとかで出席したら、浮きまくってしまうからね。

ルーク様にもよ~く言っておいたので、ルーク様も騎士服ではなく、ブラウスとトラウザーズに軽くジャケットを羽織るだけにしてくれている。

商会の店の前でおろしてもらって中に入ると、例年通り、商会の食堂を飾りつけして、所狭しとお料理が並んでいた。
貴族のパーティーのようにはいかないが、そこそこオシャレに飾り付けられている会場には、もうすでにお客さんがちらほら来ていて、その中には近所や学校のわたしの友達もいた。
抜け目ないお父さんは、毎年お得意さんとかも招いて、こそっと商談もしたりしているので、庶民の催しとしては、そこそこ規模は大きい。

ニコニコと、満面の笑みを浮かべたお父さんとお母さん、ルフィが出迎えてくれる。

「ニーナ、おかえり。ルーク様、ようこそいらっしゃいました。どうぞ楽しんで行ってください」

お父さんがそう言うと、何故かルーク様はカチコチに固まって、ぎこちなく挨拶をしていた。
そんなに緊張することないのにな。

「ねーちゃん、この人がルーク様?」

ルーク様は、挨拶にわたしの実家を訪ねたことはあったけど、その時に子どものルフィは一緒に居なかったので今日が初対面だ。

「そうよ。おねーちゃんが大好きな人」
「そっか。ルークにーちゃん、ねーちゃんをよろしくね! ほらほら、立ってないでこっちにきてよ」

ルフィに手を引かれ、一番大きな席に、ルーク様と2人で座る。

わたしとルーク様が席につくと、お客さん達が一斉にこちらを向いた。
その瞬間を狙って、お父さんがみなさんに挨拶をする。

「今日はお忙しい中ご出席いただき、ありがとうございます。娘は、隣に座る婚約者の家に嫁ぐため、子爵家の養女となりましたが、わたくしどもとの縁も切れることなく続いて行きます。どうぞ年若い2人をよろしくお願いします」

お父さんが頭を下げると、わぁっと大きな拍手に包まれた。
わたしたちも慌てて席を立ち、頭を下げた。

「すごいね、ルーク様。みんなに祝ってもらって幸せだね」
「ああ。そうだな」

ルーク様の目元は、感動したのか赤くなっていた。
ふふっ。
なんだか結婚式みたい。

そのあとは、みんな好き好きにお料理を食べたり、お酒やジュースを飲んだりと、いつもの誕生日パーティーと変わらず賑やかに過ごした。

お父さんは、挨拶の時にあえてルーク様のお名前を出さなかったけれど、知ってる人はルーク様のことを知っていたので、侯爵家の貴族で、しかも英雄のルーク様としゃべれる! と、みんな我先にと声を掛けていた。

フレンドリーに対応されるルーク様に、みんな好感を持って、いろいろな話をしてくれていた。

その中には、パン屋のユーリくんとキャロルちゃんもいた。

「ニーナは小さい頃からずっと遠くを見てる気がしたけど、ほんとに遠くへ行っちまうなんてな」

ユーリくんがしみじみと言い、それにキャロルちゃんも同意する。

「ほんと、ニーナちゃんはクラスでも人気あったのよ。でも、誰もニーナちゃんを射止めることはできなかったわ。それでも、こんな手の届かない人になるなんて思ってなかったわ」

貴族の仲間入りをして、今までのように気軽に会えなくなることを、キャロルちゃんは心配していた。

「大丈夫! ちょくちょく商会の方にも顔を出すから、またお買い物にきてよ」

わたしが笑顔でそう言うと「商売うまいなぁ~」と、ユーリくんが呆れたように言って、そしてみんなで笑った。


今日は、とても幸せな一日だ。
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