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21章 責任
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動けるようになったお兄様とルーク様は、全身の倦怠感を抱えてはいたけれど、なんとか歩いて塔まで戻った。
なんか、わたし1人だけなんともないのが申し訳ない。
隠し通路まで来ると、近衛を先頭に、みんながこちらを覗き込んでいた。
「……なんだ? おまえら、何やってんだ?」
お兄様が通路から出て、近衛に不審な顔を見せる。
「わ、我々は王女の無事を確かめようと」
「じゃ、なんで入って来なかったんだよ」
「それは……」
お兄様はため息をついて、両腕を組んだ。
「ここに入ろうとすると身体に激痛が走ったからだろ? まったく。情けないな。ルーク様はその痛みに耐えて中に入ってきたぞ」
近衛の人たちは、眉根を寄せて不満そうに声を発した。
「それは、ルーク殿は英雄だから」
「英雄だからって、身体が痛かったことに変わりはない。それを乗り越えられるか、乗り越えられないかだ。ルーク様は乗り越えて、おまえらは乗り越えられなかった。ただ、それだけだろ」
近衛に軽蔑の眼差しを向けるお兄様を手で制し、ルーク様はみんなに向かって言った。
「今後のことやこの通路のことを説明する。みんな、一階のホールに集まってくれ」
近衛とお兄様のやり取りを遠巻きに見ていた光の術者や動ける討伐隊のみんなは、言いたいこともあっただろうけど、黙って階段を降りて行った。
一階のホールは、壁に沿って怪我人が寝かされ、魔力切れとなった光の隊員も一緒に座っている。
よかった。
怪我人も落ち着いたみたいで、重傷な患者様はいないみたい。
歩ける者はホールの中心に集まって祭壇の上に立ったルーク様を、じっと見つめていた。
ルーク様は、ホール全体を見回し、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「みんな、ご苦労であった。討伐は無事に完了した。合図の件だが、紙面での報告を王家には上げていたのだが、どうやら読まれなかったようで、全ての者に伝わらなかったことは、申し訳なく思う」
ルーク様は一歩下がって頭を下げた。
「そんなっ!」
「隊長が頭を下げることではありません!」
討伐隊の面々は、ルーク様のことをよく知り、王家の横暴さも知っているために声を上げてくれる。
反対に、数人しかいないけど、近衛は不満げな顔をしていた。
続いて、ルーク様は魔物との戦いの一部始終を話して聞かせた。
王家が闇に葬った過去。
犠牲となった家族。
その犠牲のために使えるようになった魔法。
「魔物が消えた今、オレたちの魔法も使えなくなっている」
静かにルーク様が告げると、光の討伐隊の中には、泣き崩れる者もいた。
光の術者は、治療を生業にしているものも多い。
教会に属し、光の治療を信者に施して生活をしている。
魔法が消えてしまったら、どうやって食べて行くのか不安に思うのだろう。
「いきなりこんな話をして申し訳ない。オレも、魔物と戦い、初めて知ったことなんだ。魔物がいなくなると魔法も消えるなんて。だが、魔法を生業にしているものの今後は、きちんと責任を持って食べていけるようになるまで面倒をみる。生活を犠牲にして戦ってくれたみんなを、オレに守らせてくれ」
ルーク様が壇上から強い意志を持った目で訴えるけど、泣き出した者の急には涙は止まらない。
啜り泣きの聞こえる中で、ルーク様の言葉は続いた。
「あと、もう一つ。先ほど、王女の控室にあった抜け道の件だが、王女が避難するためのものだった。決して、そこから魔物や賊が入ってくるようなことはないから安心して欲しい」
ルーク様の言葉を聞いて、その場がざわつく。
光の討伐隊のひとりが、おずおずと手を挙げた。
ルーク様はその人を見ると、発言を許可する。
「あの、避難、とはどういうことでしょうか……。わたしたちの長である王女様は、今どちらに?」
年若い女性であるその人は、日和見主義である城の老害大臣たちのように空気を読んで口を閉じたりしない。だから、純粋に疑問を口にした。
なんか、わたし1人だけなんともないのが申し訳ない。
隠し通路まで来ると、近衛を先頭に、みんながこちらを覗き込んでいた。
「……なんだ? おまえら、何やってんだ?」
お兄様が通路から出て、近衛に不審な顔を見せる。
「わ、我々は王女の無事を確かめようと」
「じゃ、なんで入って来なかったんだよ」
「それは……」
お兄様はため息をついて、両腕を組んだ。
「ここに入ろうとすると身体に激痛が走ったからだろ? まったく。情けないな。ルーク様はその痛みに耐えて中に入ってきたぞ」
近衛の人たちは、眉根を寄せて不満そうに声を発した。
「それは、ルーク殿は英雄だから」
「英雄だからって、身体が痛かったことに変わりはない。それを乗り越えられるか、乗り越えられないかだ。ルーク様は乗り越えて、おまえらは乗り越えられなかった。ただ、それだけだろ」
近衛に軽蔑の眼差しを向けるお兄様を手で制し、ルーク様はみんなに向かって言った。
「今後のことやこの通路のことを説明する。みんな、一階のホールに集まってくれ」
近衛とお兄様のやり取りを遠巻きに見ていた光の術者や動ける討伐隊のみんなは、言いたいこともあっただろうけど、黙って階段を降りて行った。
一階のホールは、壁に沿って怪我人が寝かされ、魔力切れとなった光の隊員も一緒に座っている。
よかった。
怪我人も落ち着いたみたいで、重傷な患者様はいないみたい。
歩ける者はホールの中心に集まって祭壇の上に立ったルーク様を、じっと見つめていた。
ルーク様は、ホール全体を見回し、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「みんな、ご苦労であった。討伐は無事に完了した。合図の件だが、紙面での報告を王家には上げていたのだが、どうやら読まれなかったようで、全ての者に伝わらなかったことは、申し訳なく思う」
ルーク様は一歩下がって頭を下げた。
「そんなっ!」
「隊長が頭を下げることではありません!」
討伐隊の面々は、ルーク様のことをよく知り、王家の横暴さも知っているために声を上げてくれる。
反対に、数人しかいないけど、近衛は不満げな顔をしていた。
続いて、ルーク様は魔物との戦いの一部始終を話して聞かせた。
王家が闇に葬った過去。
犠牲となった家族。
その犠牲のために使えるようになった魔法。
「魔物が消えた今、オレたちの魔法も使えなくなっている」
静かにルーク様が告げると、光の討伐隊の中には、泣き崩れる者もいた。
光の術者は、治療を生業にしているものも多い。
教会に属し、光の治療を信者に施して生活をしている。
魔法が消えてしまったら、どうやって食べて行くのか不安に思うのだろう。
「いきなりこんな話をして申し訳ない。オレも、魔物と戦い、初めて知ったことなんだ。魔物がいなくなると魔法も消えるなんて。だが、魔法を生業にしているものの今後は、きちんと責任を持って食べていけるようになるまで面倒をみる。生活を犠牲にして戦ってくれたみんなを、オレに守らせてくれ」
ルーク様が壇上から強い意志を持った目で訴えるけど、泣き出した者の急には涙は止まらない。
啜り泣きの聞こえる中で、ルーク様の言葉は続いた。
「あと、もう一つ。先ほど、王女の控室にあった抜け道の件だが、王女が避難するためのものだった。決して、そこから魔物や賊が入ってくるようなことはないから安心して欲しい」
ルーク様の言葉を聞いて、その場がざわつく。
光の討伐隊のひとりが、おずおずと手を挙げた。
ルーク様はその人を見ると、発言を許可する。
「あの、避難、とはどういうことでしょうか……。わたしたちの長である王女様は、今どちらに?」
年若い女性であるその人は、日和見主義である城の老害大臣たちのように空気を読んで口を閉じたりしない。だから、純粋に疑問を口にした。
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