もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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21章 責任

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ルーク様は、少し間を置いてからそれに答える。

「あの抜け道を使って、避難したようだ」

長である王女が避難したという事実に、光の隊員たちは動揺を隠せない。

「そんな、我々には何もいわずに、1人だけ助かろうとしたのか!?」
「それもそうだけど、あの部屋を見た? まるで別荘で休暇を楽しむマダムのように、オードブルとワインがテーブルにあったわ」
「我々が怪我人を助けるために、四苦八苦している時に、オードブルとワインだって?」
「そんなのわかってたことだろう? 訓練だってまともにしたことはないじゃないか!!」

光の隊員たちの不満が、一気に爆発した瞬間だった。

それを制するように、近衛が持っていた槍の石突いしつきの部分で床を2回叩いて、みんなを黙らせた。

「ええい! 喚くな! ローゼリア殿下は尊い身の上。王家の血を繋いでいくためにも、お逃げになるのは当たり前のことだろう」

胸を張り言い放つ近衛に、しん、と空気が重くなる。
軽蔑の眼差しを向けられているのに気付いていないのか、近衛は続ける。

「王家を御守りするのが我々国民の義務だ。その身を犠牲にしても、殿下の御無事を祈るのが、そなたらの役目であろう」

悠然と話す近衛に、ルーク様が突き放すように言葉を掛ける。

「王家が国民を、そして、近衛であるおまえ達をも犠牲にして生き延びるとしてもか?」
「ルーク殿、言葉が過ぎるぞ!」

激昂した近衛はルーク様に詰め寄る。

「本当のことだ。確か、おまえはローゼリアの部屋であの通路に入ろうとしたやつだよな? 通路には入れなかっただろう? 国王の魔法が掛かってたんだよ。おまえもオレも着ているこの隊服にな」
「なんのことだ?」
「王家から支給されたみんなの隊服には、国王の土魔法がかけられている。討伐が失敗した時には、討伐隊はエリア内で足留めをくらい、押し寄せる魔獣の餌となり、その隙に王家の者は自分達だけ安全な場所に逃げられるようにな」

ルーク様の声に続き、側に立っていたお兄様も言葉をつなぐ。

「隊服を着ている者が塔の外、討伐エリアの外に出ようとすると、身体に激痛が走るようになっていたらしい。隊服を脱げば通り抜けられたはずだ」

近衛は目を見開き、ルーク様から一歩よろけるように後ろへ下がった。

「そんな……バカな……。殿下は、王女殿下も王太子殿下も、他の者は犠牲になっても我々だけは助けてくださると……」

近衛の様子を見て、ルーク様はため息をつく。

「やっぱり、近衛との間には密約が交わされていたんだな。あいにく、その約束は反故にされたようだが」
「かっ、家族だけはきっと一緒にお連れくださっているに違いない! お約束してくださったのだ。もし、討伐が失敗した場合は、近衛の家族は安全な場所へお連れくださると。我々のことは何かの間違いだろうが、きっと、王都に戻れば家族は避難しているはずだ」

討伐隊の冷たい視線を背に受け、近衛は顔を青くしている。

「そうだといいな。王家が約束を守っていたら、おまえ達の家族は避難しているだろう。だが、討伐は成功している。討伐が失敗したと思って自分達だけ逃げた者を、世間はどう見るか。さて、どうなることかな」

きっぱりと言い放つルーク様の肩をお兄様が手を掛け、ニヤリと笑う。

「裏切り者として、ご近所様と付き合うのは大変だぞ。たっぷりとを浴びてくれ」

お兄様の言葉を聞いた近衛達は、力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。


そんな近衛達のことは置いておいて、ルーク様とお兄様は討伐隊にテキパキと指示を出し、この場を撤収したのだった。



ちなみに、王都に戻って家族の所在を確認した近衛達は、何も知らずに王都にいた家族に、涙を流して詫びたそうだ。

避難していなかった近衛の家族が世間から白い目で見られることはなかったが、討伐が失敗したと思っている王家が近衛の家族に何も知らせなかったということは、王家は平然と約束を破る、民を見捨てるということを証明したのだった。
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