219 / 255
21章 責任
6
しおりを挟む
ルーク様は、少し間を置いてからそれに答える。
「あの抜け道を使って、避難したようだ」
長である王女が避難したという事実に、光の隊員たちは動揺を隠せない。
「そんな、我々には何もいわずに、1人だけ助かろうとしたのか!?」
「それもそうだけど、あの部屋を見た? まるで別荘で休暇を楽しむマダムのように、オードブルとワインがテーブルにあったわ」
「我々が怪我人を助けるために、四苦八苦している時に、オードブルとワインだって?」
「そんなのわかってたことだろう? 訓練だってまともにしたことはないじゃないか!!」
光の隊員たちの不満が、一気に爆発した瞬間だった。
それを制するように、近衛が持っていた槍の石突の部分で床を2回叩いて、みんなを黙らせた。
「ええい! 喚くな! ローゼリア殿下は尊い身の上。王家の血を繋いでいくためにも、お逃げになるのは当たり前のことだろう」
胸を張り言い放つ近衛に、しん、と空気が重くなる。
軽蔑の眼差しを向けられているのに気付いていないのか、近衛は続ける。
「王家を御守りするのが我々国民の義務だ。その身を犠牲にしても、殿下の御無事を祈るのが、そなたらの役目であろう」
悠然と話す近衛に、ルーク様が突き放すように言葉を掛ける。
「王家が国民を、そして、近衛であるおまえ達をも犠牲にして生き延びるとしてもか?」
「ルーク殿、言葉が過ぎるぞ!」
激昂した近衛はルーク様に詰め寄る。
「本当のことだ。確か、おまえはローゼリアの部屋であの通路に入ろうとしたやつだよな? 通路には入れなかっただろう? 国王の魔法が掛かってたんだよ。おまえもオレも着ているこの隊服にな」
「なんのことだ?」
「王家から支給されたみんなの隊服には、国王の土魔法がかけられている。討伐が失敗した時には、討伐隊はエリア内で足留めをくらい、押し寄せる魔獣の餌となり、その隙に王家の者は自分達だけ安全な場所に逃げられるようにな」
ルーク様の声に続き、側に立っていたお兄様も言葉をつなぐ。
「隊服を着ている者が塔の外、討伐エリアの外に出ようとすると、身体に激痛が走るようになっていたらしい。隊服を脱げば通り抜けられたはずだ」
近衛は目を見開き、ルーク様から一歩よろけるように後ろへ下がった。
「そんな……バカな……。殿下は、王女殿下も王太子殿下も、他の者は犠牲になっても我々だけは助けてくださると……」
近衛の様子を見て、ルーク様はため息をつく。
「やっぱり、近衛との間には密約が交わされていたんだな。あいにく、その約束は反故にされたようだが」
「かっ、家族だけはきっと一緒にお連れくださっているに違いない! お約束してくださったのだ。もし、討伐が失敗した場合は、近衛の家族は安全な場所へお連れくださると。我々のことは何かの間違いだろうが、きっと、王都に戻れば家族は避難しているはずだ」
討伐隊の冷たい視線を背に受け、近衛は顔を青くしている。
「そうだといいな。王家が約束を守っていたら、おまえ達の家族は避難しているだろう。だが、討伐は成功している。討伐が失敗したと思って自分達だけ逃げた者を、世間はどう見るか。さて、どうなることかな」
きっぱりと言い放つルーク様の肩をお兄様が手を掛け、ニヤリと笑う。
「裏切り者として、ご近所様と付き合うのは大変だぞ。たっぷりと非難を浴びてくれ」
お兄様の言葉を聞いた近衛達は、力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。
そんな近衛達のことは置いておいて、ルーク様とお兄様は討伐隊にテキパキと指示を出し、この場を撤収したのだった。
ちなみに、王都に戻って家族の所在を確認した近衛達は、何も知らずに王都にいた家族に、涙を流して詫びたそうだ。
避難していなかった近衛の家族が世間から白い目で見られることはなかったが、討伐が失敗したと思っている王家が近衛の家族に何も知らせなかったということは、王家は平然と約束を破る、民を見捨てるということを証明したのだった。
「あの抜け道を使って、避難したようだ」
長である王女が避難したという事実に、光の隊員たちは動揺を隠せない。
「そんな、我々には何もいわずに、1人だけ助かろうとしたのか!?」
「それもそうだけど、あの部屋を見た? まるで別荘で休暇を楽しむマダムのように、オードブルとワインがテーブルにあったわ」
「我々が怪我人を助けるために、四苦八苦している時に、オードブルとワインだって?」
「そんなのわかってたことだろう? 訓練だってまともにしたことはないじゃないか!!」
光の隊員たちの不満が、一気に爆発した瞬間だった。
それを制するように、近衛が持っていた槍の石突の部分で床を2回叩いて、みんなを黙らせた。
「ええい! 喚くな! ローゼリア殿下は尊い身の上。王家の血を繋いでいくためにも、お逃げになるのは当たり前のことだろう」
胸を張り言い放つ近衛に、しん、と空気が重くなる。
軽蔑の眼差しを向けられているのに気付いていないのか、近衛は続ける。
「王家を御守りするのが我々国民の義務だ。その身を犠牲にしても、殿下の御無事を祈るのが、そなたらの役目であろう」
悠然と話す近衛に、ルーク様が突き放すように言葉を掛ける。
「王家が国民を、そして、近衛であるおまえ達をも犠牲にして生き延びるとしてもか?」
「ルーク殿、言葉が過ぎるぞ!」
激昂した近衛はルーク様に詰め寄る。
「本当のことだ。確か、おまえはローゼリアの部屋であの通路に入ろうとしたやつだよな? 通路には入れなかっただろう? 国王の魔法が掛かってたんだよ。おまえもオレも着ているこの隊服にな」
「なんのことだ?」
「王家から支給されたみんなの隊服には、国王の土魔法がかけられている。討伐が失敗した時には、討伐隊はエリア内で足留めをくらい、押し寄せる魔獣の餌となり、その隙に王家の者は自分達だけ安全な場所に逃げられるようにな」
ルーク様の声に続き、側に立っていたお兄様も言葉をつなぐ。
「隊服を着ている者が塔の外、討伐エリアの外に出ようとすると、身体に激痛が走るようになっていたらしい。隊服を脱げば通り抜けられたはずだ」
近衛は目を見開き、ルーク様から一歩よろけるように後ろへ下がった。
「そんな……バカな……。殿下は、王女殿下も王太子殿下も、他の者は犠牲になっても我々だけは助けてくださると……」
近衛の様子を見て、ルーク様はため息をつく。
「やっぱり、近衛との間には密約が交わされていたんだな。あいにく、その約束は反故にされたようだが」
「かっ、家族だけはきっと一緒にお連れくださっているに違いない! お約束してくださったのだ。もし、討伐が失敗した場合は、近衛の家族は安全な場所へお連れくださると。我々のことは何かの間違いだろうが、きっと、王都に戻れば家族は避難しているはずだ」
討伐隊の冷たい視線を背に受け、近衛は顔を青くしている。
「そうだといいな。王家が約束を守っていたら、おまえ達の家族は避難しているだろう。だが、討伐は成功している。討伐が失敗したと思って自分達だけ逃げた者を、世間はどう見るか。さて、どうなることかな」
きっぱりと言い放つルーク様の肩をお兄様が手を掛け、ニヤリと笑う。
「裏切り者として、ご近所様と付き合うのは大変だぞ。たっぷりと非難を浴びてくれ」
お兄様の言葉を聞いた近衛達は、力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。
そんな近衛達のことは置いておいて、ルーク様とお兄様は討伐隊にテキパキと指示を出し、この場を撤収したのだった。
ちなみに、王都に戻って家族の所在を確認した近衛達は、何も知らずに王都にいた家族に、涙を流して詫びたそうだ。
避難していなかった近衛の家族が世間から白い目で見られることはなかったが、討伐が失敗したと思っている王家が近衛の家族に何も知らせなかったということは、王家は平然と約束を破る、民を見捨てるということを証明したのだった。
3
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる