もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
217 / 255
21章 責任

4

しおりを挟む
不思議に思って手をじっと見ていると、お兄様がわたしたちの元へと走ってきた。

「ニーナ、ルーク様、無事か?」
「義兄上、こちらは2人とも怪我はありません。義兄上は大丈夫ですか?」
「オレも大事ない」

お互いを心配し合う2人を見て、わたしは首を傾げる。

「お2人とも、身体は痛くないのですか?」

2人は顔を見合わせる。

「なぜかわからないが、急に楽になったんだ。ルーク様は?」
「オレも急に身体が楽になりました」

わたしたちが揃って首を傾げていると、ローゼリア様が乗り込んだ馬車の扉を閉めて、こちらを伺っている御者の少年が目に入った。

「何をしている!? 早く馬車を出しなさい!」

姿は見えないけど、馬車の中からのローゼリア様の怒鳴り声がきこえた。

「は、はいっ」

少年はおずおずとこちらを見てから、御者席の方へと足を向ける。

その後ろ姿に、お兄様が声をかけた。

「少年! もし、君に勇気があるなら、出口の港町で、今見たことを全て話すんだ。王家の命令があっても、君を害することはさせないから!!」

少年は声に一瞬立ち止まったけど、ローゼリア様に急かされて御者席に乗って馬を走らせた。

走り去った馬車を見送ってから、わたしはお兄様の顔を見る。

「お兄様、なんの話ですか?」
「いや、近い未来の話だよ。それより、魔法の効力は消えたということかな、ルーク様」
「そうですね。最後の魔獣が死んだことによって、世の中の魔素が全て消えたのかもしれません」

そう。
魔物は言っていた。

マイナスがあるからプラスがあるように、魔物や魔獣(マイナス)がいるから魔法(プラス)があると。

本当に、討伐は成功したんだ。
ルーク様は、成し遂げたんだ。

ルーク様はお兄様に向き直る。

「ところで、魔法が消えて、オレたちが動けるようになったということは、ここに入るのに激痛が走ったのは魔法だったということですか?」

ルーク様の問いに、お兄様は難しい顔をして答える。

「ああ。魔法だったんだよ。ローゼリアが言っていた。隊服に国王の魔法を描けたと。討伐隊をこの地に留め置き、魔獣の餌とするための魔法を隊服に掛けたとな」
「なっ!?」

なんということを……。

「おそらく、王家が討伐が失敗したらすぐにわかるように花火を上げろというのは、我々を足留めして魔獣の餌にして、自分達は逃げる為だったのだろう。現に、ローゼリア以外の者は避難する様子が見られなかった。それは王都に行ってもきっとかわらないだろう。国王は土魔法が使えたはずだ。その地に留め置く魔法は土魔法しか考えられない。きっと、オレたちの隊服になんらかの形で魔法を付与したんだ。隊服は国から、強いて言えば国王から支給されたものだからな」

お兄様はそう言い終わると、どさりと腰を下ろした。

「あー、痛かったー。最後の激痛は、討伐するより、訓練よりも痛い試練だったなあー」

お兄様の様子を見て、ルーク様も腰を下ろした。

「ほんとですよ。この身が粉々になるかと思いましたよ」

ゴロンとふたりは寝そべった。

「ルーク様、よくあの激痛の中、ここまで来たよなー」
「まあ、そうですね。痛かったですけど」
「愛だよなー。オレなんか、身動きすることすらできなかったのに」
「ま、愛ですね」
「そーだなー。じゃ、しょーがないから、大事な妹だけど、ルーク様にやるよー」
「はい。有り難く、いただきます」

でれーっと寝そべってする会話じゃないような気がするんですけど……。

わたしはしゃがみ込んで、ふたりの顔を見比べた。

「あの……?」

四つの目がわたしに集中する。

「ニーナ、ルーク様と今度こそ結婚しろよ」

真剣なお兄様の視線に、わたしはしどろもどろになる。

「えっと、あの、でも、」

恋人ならともかく、結婚となると身分の違いが出てくる。
わたしは平民で、ルーク様は次期侯爵様だ。
しかも、逃げて行ったけど、王女であるローゼリア様の婚約者でもある。

お兄様はニヤリと笑う。

「恋人のままでいい、とか侍女として側にいるだけでも、とか考えてんだろ。でもな、ルーク様はおまえ以外とは結婚しないぞ。観念しておまえも覚悟を決めろ」
「えっ、」

驚くわたしを見て、ルーク様が起き上がり、お兄様がここに居るにも関わらず、そっとわたしに口づけをした。

「ひゃっ? ~~ルーク様っ!!」

一瞬、ぽーっとしていたわたしだけど、お兄様の止まらないニヤニヤ笑いに、我に返った。

お兄様は寝そべったまま、右手でパタパタと顔をあおいだ。

「あー、熱い熱い。ヒューヒュー。おふたりさん、独り身の悲しき30男の前で何やっちゃってんの」

お兄様の冷やかしに、ルーク様はツンとして答える。

「やっと、仕事が終わって、思う存分イチャイチャできるようになったんですよ。やらなきゃ損でしょう」
「いや、まだまだ仕事は終わってませんよ、隊長。後処理が残ってますからねー。イチャイチャは、それが終わってからにしてくださーい」
「わかりました。では義兄上、さっさとみんなのところに戻りましょう」

ルーク様はお兄様の腕を掴んで引っ張り起こそうとする。

「いや、ちょっ、ちょっと待てよ。オレ、身体クタクタなんだけど。すごく痛かったんだけど!」
「オレだって痛かったですよ」
「いやいや、若者と一緒にするなよ! しかも、リア充! ルーク様はこれから薔薇色の未来が待っているんだろうけど、オレに待っているのは討伐処理だけなんだぞ!」
「大丈夫です。妹の薔薇色の未来を彩るのも、兄の役目ですよ」
「いーやーだー! もう少し休ませろー!」

ルーク様は子どものようにイヤイヤをするお兄様を引きずって、みんなのところに戻ったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

処理中です...