もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
184 / 255
18章 討伐

8

しおりを挟む
門から程なく離れたところに、こんな王都から離れたところには通常あり得ないような立派な塔が見えた。
きっとあれが討伐塔だろう。

塔の入り口までやってくると、そこから森の入り口がよく見える。
テントがいくつか張ってあり、あそこにルーク様がいるのだろう。
鎧をつけた隊士たちが、せわしなく出入りをしている。

さすがに、最前線からは距離を置いたところに討伐塔があるのだなと思いながら、塔の扉を少し開けて中の様子を探った。

塔の一階部分は礼拝堂のような作りになっていて、そこでもまた、光の討伐の人たちが忙しなく動き回っている。
こそっと扉を開けてこの身を中に滑り込ませる。

ほっ。
誰も外部の人間が侵入したとは、気がついていないみたい。
それもそうか。
そのための隊服だったんだし。

そーっと行き交う光の討伐隊に紛れる。

何をしているのか、注意深く見ていると、どうやら礼拝堂の椅子を移動させて、入り口付近を広くしているようだった。
わたしも数人に混じっていくつもある長椅子を持ち上げる作業を手伝う。

すると、20代半ばくらいの歳の、金髪をキュッと結っている若い女の人が全体を見渡しながら声をあげた。

「わたしたちが座る部分はなるべく詰めて、祭壇の方へ寄せて。負傷兵が横に慣れるくらいのスペースを確保してください」

指示を出した女性は、あちこち見て回りながらそばに居る人に更に細かく指示を出していった。

あの人は光の討伐隊の隊長さんかな……。
あ、隊長はローゼリア様だったっけ。

わたしは椅子を運びながら近くの人に声を掛けた。
「ローゼリア様はどちらにいらっしゃるのでしょうね」
わたしと同じ光の隊服に身を包んだちょっと太めのオバさんは、呆れた目をしてわたしを見る。
「ローゼリア様がこんなに早く来るわけないでしょう。副隊長のミルテ様が全て整えた後で、ゆっくりいらっしゃるわ」

オバさんのその言葉に、近くに居た人達はうんうんと頷いていた。
ローゼリア様は、自分が所属する光の討伐隊でも評判が悪いようだ。
そして、あの金髪のひとが副隊長さんなんだな。

そこから先は、わたしが何か聞かなくても、光の討伐隊の人達がブツブツとローゼリア様について愚痴っていた。

どうやら、隊の人達も相当鬱憤が溜まっているらしい。
日々の訓練にはほとんど参加しない。
演習場に来てもパラソルの下で優雅にお茶を飲む。
ルーク様に授ける祝福は、ほとんど意味のない微々たる力のみ。

やっぱり、同じ光属性の人には、あの祝福が見せかけだけのものであるとわかっていたようだ。

「だから、この討伐は失敗するだろう」
最初に口火を切ったオバさんは、切なそうに目を細めた。

「わたしには、年頃の娘がいる。魔物から護るために、討伐隊に志願したのに、実態がわかればこんなことだなんて。どうせ魔物に殺されるなら、最期は家族と過ごしたかったと思うよ」

みんな思うことは同じなのだろう。
それを聞いていた周りの人達も、表情を暗くして口を閉じてしまった。

急に、パンパンと手を叩く音がして、落ち込んだ空気が、一瞬震える。

「ほら、そこは何をしているの。休まないでさっさと手を動かして」
副隊長のミルテ様がこちらに視線を向けていた。

金色の絹糸のような髪に菫色の瞳。
美人のミルテ様が凄むと迫力があり、わたしたちはそそくさと作業を再開した。

作業が終わったのは夕刻、陽も落ちる頃。
今、塔の中にいるものは一階に集められ、その場で3つに分けられた。

第一のグループは、このまま塔の上にある控室で仮眠を取ること。
第二のグループは、食事の支度をすること。
第三のグループは、礼拝堂の椅子に座り、祭壇にある女神像に祈りを捧げて魔力を貯めること。

わたしはなんとか人に紛れて第三のグループに入り込んだ。
点呼とか取られたらどうしようかと思っていたけど、外の隊と連絡を取っている人もいるため、細かくは確認されなかった。よかった。

グループごとに解散する前に、ミルテ様が声高らかに宣言した。

明朝、夜が明けると共に結界が解かれ、討伐が開始されると。

その夜は、グループごとに交代で食事を取ったり仮眠を取ったりして、夜を明かした。



結局、この日にローゼリア様が姿を見せることはなかったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...