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18章 討伐
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身支度を整えたわたしは、路地を出て討伐エリアへと足を向ける。
魔物の森には結界が張ってあり、討伐隊とは別の王宮騎士団が指揮を取り、衛兵と交代で見張っている。
光の術者が魔物の苦手な癒しの魔法を結界として流しているんだけど、どうしても流れが薄くなるところが出てくるため、騎士団がその綻びを破って出てくる魔物を倒しつつ、綻びを光の術者を直させるのだ。
今代の結界から魔獣が出てきたのは二度。
まだ魔物が誕生して間もない頃で、ルーク様が襲われた時と、わたしが襲われた時だ。
ただ、ルーク様が襲われた時は、まだ魔物が誕生したばかりで騎士団がうまく機能していなかったせいと言われているが、わたしが襲われた時のことは、調べてみてもどうして魔獣が森から学園までやってきたのかわからなかった。
まあ、図書館で当時の新聞を読み漁っただけだけど、それにしても目撃情報が、何もないっておかしくない?
森から王都までは長い距離があり、そこを魔獣が通れば、誰かしらに見られる可能性は高いのに、誰も逃げ出した魔獣を見ていないのだ。
何故なんだろう。
改めて現地を自分の目で見ると、この地で逃げ出した魔獣の姿を見なかったということが、異常なことだとわかる。
まるで、誰かが隠しているような、誰かが手引きをしたような……。
まさかね。
魔獣を秘密裏に学園まで運ぶことに利点が見出せないもの。
だって、魔獣が学園に現れて起こしたことといえば、女生徒2人を殺しただけ。
きっと、素早く移動されてしまって、見えなかっただけだわ。きっと。
そう考えて周りをもう一度見回す。
わたしが今居るこの街の人たちは、安心して生活を営んでいる。
一番魔獣に近いところにいながら、一度も魔獣を見ていないから、安心して暮らしている。
変わらぬ人々の顔を見ていると、絶対に負けるわけにはいかないと、気合いが入った。
討伐が失敗してしまったら、きっとここも大変なことになるから。
少し距離があったけど、がんばって歩いて行くと、段々と人通りも少なくなり、商店や家も見かけなくなった頃、衛兵がまばらに守っている門が見えた。
門は、国境付近に設置されているものとは違い、簡素な見た目ながら、分厚く頑丈に作られていた。
国境の門はその国を表すものだから、頑丈ではあるけど繊細な装飾が施されている。
でもこの門は、機能性を重視して作られているみたい。
もう、ルーク様はこの門の中にいるんだろうか……。
そっと門に近付くと、門番をしている衛兵に止められる。
「お嬢さん、ここから先は一般人の立ち入りは禁止ですよ」
中年、といった感じの衛兵が、2人ほどわたしに近付いてきた。
「わたしは光の術者です。討伐隊の入場から、遅れてしまったのです」
下手にオドオドしてしまうと、嘘がバレてしまうと思ったので、わたしは堂々と胸を張ってみた。
衛兵2人は不躾にジロジロとわたしを見る。
「お嬢さん、本当に光の討伐隊かい? 光の討伐隊はもっと落ち着いた人の集団なんだけど……」
くっ、わたしが落ち着いてないとでも?
と言いたいのを我慢する。
そして、おもむろに被っていたフードを外した。
「この認定章を見てください。隊服も本物であると、わかっていただけますか?」
そっと、マントの前を開けて真っ白な隊服も衛兵に見せた。
衛兵たちはしばらく認定章をじっと見ていたが、納得したように道をあけてくれた。
「どうぞ、お通りください。オレ達には討伐箇所まで行く実力がありません。でも、魔物を倒したいと思う気持ちは一緒です。心は英雄と共に。どうぞ、中の人たちを御護りください」
衛兵はわたしに頭を下げる。
「あの、ちょっと、わたしはそんな力もないし、頭をあげてください」
わたしが慌てると、衛兵2人はくすりと笑う。
「あなたに力があるとは思っていませんよ。あなた方、光の討伐隊がいるから、中に入る者たちは安心して戦えると聞いています。だから、がんばってください」
「……はいっ!」
こうして、無事に門を越えたわたしは、どんどん討伐の中心部に入って行った。
魔物の森には結界が張ってあり、討伐隊とは別の王宮騎士団が指揮を取り、衛兵と交代で見張っている。
光の術者が魔物の苦手な癒しの魔法を結界として流しているんだけど、どうしても流れが薄くなるところが出てくるため、騎士団がその綻びを破って出てくる魔物を倒しつつ、綻びを光の術者を直させるのだ。
今代の結界から魔獣が出てきたのは二度。
まだ魔物が誕生して間もない頃で、ルーク様が襲われた時と、わたしが襲われた時だ。
ただ、ルーク様が襲われた時は、まだ魔物が誕生したばかりで騎士団がうまく機能していなかったせいと言われているが、わたしが襲われた時のことは、調べてみてもどうして魔獣が森から学園までやってきたのかわからなかった。
まあ、図書館で当時の新聞を読み漁っただけだけど、それにしても目撃情報が、何もないっておかしくない?
森から王都までは長い距離があり、そこを魔獣が通れば、誰かしらに見られる可能性は高いのに、誰も逃げ出した魔獣を見ていないのだ。
何故なんだろう。
改めて現地を自分の目で見ると、この地で逃げ出した魔獣の姿を見なかったということが、異常なことだとわかる。
まるで、誰かが隠しているような、誰かが手引きをしたような……。
まさかね。
魔獣を秘密裏に学園まで運ぶことに利点が見出せないもの。
だって、魔獣が学園に現れて起こしたことといえば、女生徒2人を殺しただけ。
きっと、素早く移動されてしまって、見えなかっただけだわ。きっと。
そう考えて周りをもう一度見回す。
わたしが今居るこの街の人たちは、安心して生活を営んでいる。
一番魔獣に近いところにいながら、一度も魔獣を見ていないから、安心して暮らしている。
変わらぬ人々の顔を見ていると、絶対に負けるわけにはいかないと、気合いが入った。
討伐が失敗してしまったら、きっとここも大変なことになるから。
少し距離があったけど、がんばって歩いて行くと、段々と人通りも少なくなり、商店や家も見かけなくなった頃、衛兵がまばらに守っている門が見えた。
門は、国境付近に設置されているものとは違い、簡素な見た目ながら、分厚く頑丈に作られていた。
国境の門はその国を表すものだから、頑丈ではあるけど繊細な装飾が施されている。
でもこの門は、機能性を重視して作られているみたい。
もう、ルーク様はこの門の中にいるんだろうか……。
そっと門に近付くと、門番をしている衛兵に止められる。
「お嬢さん、ここから先は一般人の立ち入りは禁止ですよ」
中年、といった感じの衛兵が、2人ほどわたしに近付いてきた。
「わたしは光の術者です。討伐隊の入場から、遅れてしまったのです」
下手にオドオドしてしまうと、嘘がバレてしまうと思ったので、わたしは堂々と胸を張ってみた。
衛兵2人は不躾にジロジロとわたしを見る。
「お嬢さん、本当に光の討伐隊かい? 光の討伐隊はもっと落ち着いた人の集団なんだけど……」
くっ、わたしが落ち着いてないとでも?
と言いたいのを我慢する。
そして、おもむろに被っていたフードを外した。
「この認定章を見てください。隊服も本物であると、わかっていただけますか?」
そっと、マントの前を開けて真っ白な隊服も衛兵に見せた。
衛兵たちはしばらく認定章をじっと見ていたが、納得したように道をあけてくれた。
「どうぞ、お通りください。オレ達には討伐箇所まで行く実力がありません。でも、魔物を倒したいと思う気持ちは一緒です。心は英雄と共に。どうぞ、中の人たちを御護りください」
衛兵はわたしに頭を下げる。
「あの、ちょっと、わたしはそんな力もないし、頭をあげてください」
わたしが慌てると、衛兵2人はくすりと笑う。
「あなたに力があるとは思っていませんよ。あなた方、光の討伐隊がいるから、中に入る者たちは安心して戦えると聞いています。だから、がんばってください」
「……はいっ!」
こうして、無事に門を越えたわたしは、どんどん討伐の中心部に入って行った。
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