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18章 討伐
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夜明け少し前。
第三グループに潜り込んだわたしは、仮眠を取っていたんだけど、ミルテ様が起こしにきて、一階の礼拝堂に集まるように指示を出した。
さっと身なりを整えて一階に行くと、すでに第一、第二グループの人たちは女神像前に詰めて設置された椅子に座り、黙って前を見ていた。
いよいよ、討伐が始まるので、みんな緊張しているようだった。
それはそうだろう。
光の術者は、討伐隊の中で戦いとは一番遠いところにいる人達だ。
相手が魔物でなければ、こんな風に戦場近くにいることはないのだから。
わたしたち第三グループも、詰めて長椅子に腰掛けた。
祭壇にミルテ様が立つ。
「みんな、落ち着いていて大変結構です。これから、討伐が始まります。まず、この後は塔の外に整列している隊士の剣を祝福していただきます。自分の担当する隊士が交代のタイミングは把握していますね? 光の魔法を使ったら、なるべく光の隊員同士も交代して魔力回復に努めてください。訓練でも何度もシュミレーションしていますので大丈夫だと思います。何か質問はありますか?」
ミルテ様は集まった光の隊員たちの顔を見る。
すると、年若い女性の光の隊士がおずおずと手を挙げた。
「あの、光の長、ローゼリア様はいらっしゃらないのです、か……?」
隊士はか細く呟くように質問をした。
気持ちはわかる。
王族を責めるということは不敬にあたり、討伐が終わったら処罰の対象となるかもしれない。
でも、聞かずにはいられなかったんだろう。
何故、光の討伐隊長がいないのか。
英雄ルーク様の婚約者でもあり、そのルーク様に光の加護を与えなくてはならないローゼリア様が、ここに居なくていいものなのか。
一瞬、空気が揺れたが、すぐに正常に戻る。
ミルテ様は小さくため息をついた後、しっかりとわたし達全員の目を見て口を開いた。
「ローゼリア様はすぐにいらっしゃるわ」
「でも、もう夜明けです! すぐに討伐が始まるのに、今いないなんて!」
質問をしたのとは別の光の隊士から声が上がる。
「そ、そうよ。ローゼリア様がいらっしゃらなければ、誰がデイヴィス侯爵子息様に加護を与えるというのですか? 英雄の加護は、わたしたち光の討伐隊の誰にも授けられなかったではないですか!」
「まさか、来ないなんてことは……」
「英雄が加護なしで討伐に出るなんて、ありえません!」
「英雄が居なくなってしまったら、どうなってしまうの……」
光の討伐隊に動揺が走る。
どうしよう……。
これでは、ちゃんと戦いに行く隊士達にみんなしっかり加護を授けられるかわからない。
わたしがルーク様の剣を祝福すると、名乗り出た方がいいのかしら。
ばんっ!!
わたしが足を進めようとした時、祭壇を両手で打ち鳴らす音が響いた。
「失礼。あまりにもみなさんが狼狽えていらっしゃるので、少し音を出させていただきました」
ミルテ様はそう言って、毅然とした態度で光の隊士の顔を眺めた。
「心配することはありません。いざとなれば、わたくしがデイヴィス侯爵子息様に祝福をいたします。訓練でわたくしの担当隊士を別の光の隊士が担当するようにしたことがありましたね? 数人に分けて授ける祝福を、英雄お一人に全身全霊かけてお祈りすれば、加護が付与できるからです。ですので、みなさんは多少負担が増えることはありますが、安心して挑んでください。わたくしたちの戦いに」
ミルテ様のお言葉に、みんなの動揺が走り去る。
不安な色は拭えないが、副隊長の言葉をそれぞれが納得した結果だ。
「さあ、みなさま。時間です。討伐塔の扉を開きます。ここからはみなさまの力を、全て隊士達に預けてください。魔力がなくなった者は無理せず仮眠室で魔力を蓄えて。では、行きますよ」
ミルテ様はゆっくりと祭壇を降り、扉の前まで歩みを進める。
わたしたちも立ち上がり、ミルテ様の後に続いた。
そして、ミルテ様の手でゆっくりと扉が開かれる。
扉の向こうには、薄らと太陽の光が滲んでいた。
第三グループに潜り込んだわたしは、仮眠を取っていたんだけど、ミルテ様が起こしにきて、一階の礼拝堂に集まるように指示を出した。
さっと身なりを整えて一階に行くと、すでに第一、第二グループの人たちは女神像前に詰めて設置された椅子に座り、黙って前を見ていた。
いよいよ、討伐が始まるので、みんな緊張しているようだった。
それはそうだろう。
光の術者は、討伐隊の中で戦いとは一番遠いところにいる人達だ。
相手が魔物でなければ、こんな風に戦場近くにいることはないのだから。
わたしたち第三グループも、詰めて長椅子に腰掛けた。
祭壇にミルテ様が立つ。
「みんな、落ち着いていて大変結構です。これから、討伐が始まります。まず、この後は塔の外に整列している隊士の剣を祝福していただきます。自分の担当する隊士が交代のタイミングは把握していますね? 光の魔法を使ったら、なるべく光の隊員同士も交代して魔力回復に努めてください。訓練でも何度もシュミレーションしていますので大丈夫だと思います。何か質問はありますか?」
ミルテ様は集まった光の隊員たちの顔を見る。
すると、年若い女性の光の隊士がおずおずと手を挙げた。
「あの、光の長、ローゼリア様はいらっしゃらないのです、か……?」
隊士はか細く呟くように質問をした。
気持ちはわかる。
王族を責めるということは不敬にあたり、討伐が終わったら処罰の対象となるかもしれない。
でも、聞かずにはいられなかったんだろう。
何故、光の討伐隊長がいないのか。
英雄ルーク様の婚約者でもあり、そのルーク様に光の加護を与えなくてはならないローゼリア様が、ここに居なくていいものなのか。
一瞬、空気が揺れたが、すぐに正常に戻る。
ミルテ様は小さくため息をついた後、しっかりとわたし達全員の目を見て口を開いた。
「ローゼリア様はすぐにいらっしゃるわ」
「でも、もう夜明けです! すぐに討伐が始まるのに、今いないなんて!」
質問をしたのとは別の光の隊士から声が上がる。
「そ、そうよ。ローゼリア様がいらっしゃらなければ、誰がデイヴィス侯爵子息様に加護を与えるというのですか? 英雄の加護は、わたしたち光の討伐隊の誰にも授けられなかったではないですか!」
「まさか、来ないなんてことは……」
「英雄が加護なしで討伐に出るなんて、ありえません!」
「英雄が居なくなってしまったら、どうなってしまうの……」
光の討伐隊に動揺が走る。
どうしよう……。
これでは、ちゃんと戦いに行く隊士達にみんなしっかり加護を授けられるかわからない。
わたしがルーク様の剣を祝福すると、名乗り出た方がいいのかしら。
ばんっ!!
わたしが足を進めようとした時、祭壇を両手で打ち鳴らす音が響いた。
「失礼。あまりにもみなさんが狼狽えていらっしゃるので、少し音を出させていただきました」
ミルテ様はそう言って、毅然とした態度で光の隊士の顔を眺めた。
「心配することはありません。いざとなれば、わたくしがデイヴィス侯爵子息様に祝福をいたします。訓練でわたくしの担当隊士を別の光の隊士が担当するようにしたことがありましたね? 数人に分けて授ける祝福を、英雄お一人に全身全霊かけてお祈りすれば、加護が付与できるからです。ですので、みなさんは多少負担が増えることはありますが、安心して挑んでください。わたくしたちの戦いに」
ミルテ様のお言葉に、みんなの動揺が走り去る。
不安な色は拭えないが、副隊長の言葉をそれぞれが納得した結果だ。
「さあ、みなさま。時間です。討伐塔の扉を開きます。ここからはみなさまの力を、全て隊士達に預けてください。魔力がなくなった者は無理せず仮眠室で魔力を蓄えて。では、行きますよ」
ミルテ様はゆっくりと祭壇を降り、扉の前まで歩みを進める。
わたしたちも立ち上がり、ミルテ様の後に続いた。
そして、ミルテ様の手でゆっくりと扉が開かれる。
扉の向こうには、薄らと太陽の光が滲んでいた。
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