もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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17章 隊服

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お父様……どうしてここに?
そういえば、ミラー家に泊まらせてもらっていた時、お仕事でずっとお姿をお見掛けしなかった。
教会で働いていたからなの?

「なんで……」

わたしが目を見開いてやっとのことで言葉を絞り出すと、お父様はわたしから少し離れてわたしの顔を覗き込んだ。

「ああ、失礼。急にすみません。年頃のお嬢さんに抱きつくとは、大変失礼いたしました。ひとまず、中にお入りください」
お父様はにっこりと笑い、わたしを建物の中に案内した。

え、ジーナって呼んだわよね?
でも、そのすぐ後から他人のような態度になって。
え?え?
どういうこと?

混乱するわたしをよそに、お父様は廊下を通り、いくつか角を曲がった後に、奥の部屋へとわたしを連れて行き、小さな部屋の小さなソファセットをわたしを座らせた。
「お茶をお持ちしますので、ここでお待ちください」

そのまま、お父様は一旦部屋を出て、ワゴンにティーセットを乗せて部屋に戻って来た。
そして、ポットを片手に紅茶を淹れ出す。

うそでしょう!?
下級貴族とはいえ、子爵家当主のお父様がお茶を入れるなんて!!

あんぐりと口を開けてその様子を見ていると、お父様はくすりと笑った。

「何か面白いことでもありますかな?」
「いえ、男性にお茶を入れていただくなんて、なかったものですから……」

紅茶をすすめられて、わたしは紅茶を口に含んだ。
「おいしい……」
お父様はご自分の分も紅茶を入れて、わたしの向かいのソファに腰を降ろした。

「それで、お嬢さんは何をしに教会へ? 大聖堂まで来なくても、街には街の教会があるでしょうに」

お父様から話しかけられて、わたしはそっとカップを置いた。
もうジーナではなく、お嬢さんと呼ばれたからには、他人として答えた方がいいだろう。

「はい。でも、こちらに来たかったんです」
「そうですか。では、ゆっくりしていってください」

にこにこと笑顔を浮かべてわたしを見ているお父様に、胸が痛くなる。

髪も白髪になったけど、目元もシワが増えたね。
お父様はまだ50代になったばかりのはずなのに。
カップを差し出す手にもシワがあり、そしてその手はとても痩せ細っていた。
十数年の間に、こんなに老け込んでしまうほど、ジーナわたしはお父様に心配をかけたんだね。

「あの、先程わたしのことを“ジーナ“とお呼びになったのは……」
きっと、同じ髪色と瞳の色の姿形とジーナが亡くなった年齢が同じだったからつい口に出てしまったんだろうと思ったけれど、一応聞いてみる。

「ジーナというのはわたしの娘なのですが、12歳の時に不慮の事故で亡くなったのです。お嬢さんと同じかわいい娘でした」
お父様はそう言うと、昔と同じ優雅な仕草で紅茶を飲んだ。

わたしも、震えそうになる手を誤魔化し、再度紅茶に口をつける。

「あの、あなたは教会の方なのですか?」
わたしは違うのを知っていてお父様に尋ねた。

だって、子爵家当主が教会で掃除をしているなんて、何がどうしてそうなったのかわからない。

「いいえ。わたしはここのお手伝いをさせていただいているだけです。本職は別にありますよ」
「何故、お手伝いを……?」

胸がざわつくのを押さえて、わたしはお父様の目を見つめる。
お父様はわたしの真剣な眼差しに気がつくと、ふ、と息を漏らした。

「ジーナが還ってくるのに必要だと思ったからですよ」

どきんっ……。

わたしの心臓が早鐘を鳴らす。

「な、何故、娘様が還ってくるのに必要だと?」

お父様はわたしの問いを聞くと、ゆっくりと手にしていたカップをソーサーに戻した。

「夢をね、見たんですよ。ジーナが亡くなったあの日、姿形を変えてわたしたちの元へ戻って来るジーナの夢を」

そして、微笑んでわたしの顔を見る。

「ジーナは何かに困っていて、わたしに助けを求めにやってくるんだ。わたしはそれに応えたかった。そのためには、教会の中枢に入り込む必要があったんだ」

ジーナわたしのため……。

この間、ミラー家に居た時に聞いたお父様は、子爵としての仕事をきちんとしていて、尚且つ、仕事で家に帰って来ないことも多いと聞いていた。

ジーナわたしが還ってきて、教会に助けを求めることを夢で見たから、自分の生活を削って、教会へ……。

そして、お父様は再度口を開いた。

「わたしは人の纏う空気が見えるんだ。君は、ジーナだね?」
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