167 / 255
17章 隊服
4
しおりを挟む
お父様……どうしてここに?
そういえば、ミラー家に泊まらせてもらっていた時、お仕事でずっとお姿をお見掛けしなかった。
教会で働いていたからなの?
「なんで……」
わたしが目を見開いてやっとのことで言葉を絞り出すと、お父様はわたしから少し離れてわたしの顔を覗き込んだ。
「ああ、失礼。急にすみません。年頃のお嬢さんに抱きつくとは、大変失礼いたしました。ひとまず、中にお入りください」
お父様はにっこりと笑い、わたしを建物の中に案内した。
え、ジーナって呼んだわよね?
でも、そのすぐ後から他人のような態度になって。
え?え?
どういうこと?
混乱するわたしをよそに、お父様は廊下を通り、いくつか角を曲がった後に、奥の部屋へとわたしを連れて行き、小さな部屋の小さなソファセットをわたしを座らせた。
「お茶をお持ちしますので、ここでお待ちください」
そのまま、お父様は一旦部屋を出て、ワゴンにティーセットを乗せて部屋に戻って来た。
そして、ポットを片手に紅茶を淹れ出す。
うそでしょう!?
下級貴族とはいえ、子爵家当主のお父様がお茶を入れるなんて!!
あんぐりと口を開けてその様子を見ていると、お父様はくすりと笑った。
「何か面白いことでもありますかな?」
「いえ、男性にお茶を入れていただくなんて、なかったものですから……」
紅茶をすすめられて、わたしは紅茶を口に含んだ。
「おいしい……」
お父様はご自分の分も紅茶を入れて、わたしの向かいのソファに腰を降ろした。
「それで、お嬢さんは何をしに教会へ? 大聖堂まで来なくても、街には街の教会があるでしょうに」
お父様から話しかけられて、わたしはそっとカップを置いた。
もうジーナではなく、お嬢さんと呼ばれたからには、他人として答えた方がいいだろう。
「はい。でも、こちらに来たかったんです」
「そうですか。では、ゆっくりしていってください」
にこにこと笑顔を浮かべてわたしを見ているお父様に、胸が痛くなる。
髪も白髪になったけど、目元もシワが増えたね。
お父様はまだ50代になったばかりのはずなのに。
カップを差し出す手にもシワがあり、そしてその手はとても痩せ細っていた。
十数年の間に、こんなに老け込んでしまうほど、ジーナお父様に心配をかけたんだね。
「あの、先程わたしのことを“ジーナ“とお呼びになったのは……」
きっと、同じ髪色と瞳の色の姿形とジーナが亡くなった年齢が同じだったからつい口に出てしまったんだろうと思ったけれど、一応聞いてみる。
「ジーナというのはわたしの娘なのですが、12歳の時に不慮の事故で亡くなったのです。お嬢さんと同じかわいい娘でした」
お父様はそう言うと、昔と同じ優雅な仕草で紅茶を飲んだ。
わたしも、震えそうになる手を誤魔化し、再度紅茶に口をつける。
「あの、あなたは教会の方なのですか?」
わたしは違うのを知っていてお父様に尋ねた。
だって、子爵家当主が教会で掃除をしているなんて、何がどうしてそうなったのかわからない。
「いいえ。わたしはここのお手伝いをさせていただいているだけです。本職は別にありますよ」
「何故、お手伝いを……?」
胸がざわつくのを押さえて、わたしはお父様の目を見つめる。
お父様はわたしの真剣な眼差しに気がつくと、ふ、と息を漏らした。
「ジーナが還ってくるのに必要だと思ったからですよ」
どきんっ……。
わたしの心臓が早鐘を鳴らす。
「な、何故、娘様が還ってくるのに必要だと?」
お父様はわたしの問いを聞くと、ゆっくりと手にしていたカップをソーサーに戻した。
「夢をね、見たんですよ。ジーナが亡くなったあの日、姿形を変えてわたしたちの元へ戻って来るジーナの夢を」
そして、微笑んでわたしの顔を見る。
「ジーナは何かに困っていて、わたしに助けを求めにやってくるんだ。わたしはそれに応えたかった。そのためには、教会の中枢に入り込む必要があったんだ」
ジーナのため……。
この間、ミラー家に居た時に聞いたお父様は、子爵としての仕事をきちんとしていて、尚且つ、仕事で家に帰って来ないことも多いと聞いていた。
ジーナが還ってきて、教会に助けを求めることを夢で見たから、自分の生活を削って、教会へ……。
そして、お父様は再度口を開いた。
「わたしは人の纏う空気が見えるんだ。君は、ジーナだね?」
そういえば、ミラー家に泊まらせてもらっていた時、お仕事でずっとお姿をお見掛けしなかった。
教会で働いていたからなの?
「なんで……」
わたしが目を見開いてやっとのことで言葉を絞り出すと、お父様はわたしから少し離れてわたしの顔を覗き込んだ。
「ああ、失礼。急にすみません。年頃のお嬢さんに抱きつくとは、大変失礼いたしました。ひとまず、中にお入りください」
お父様はにっこりと笑い、わたしを建物の中に案内した。
え、ジーナって呼んだわよね?
でも、そのすぐ後から他人のような態度になって。
え?え?
どういうこと?
混乱するわたしをよそに、お父様は廊下を通り、いくつか角を曲がった後に、奥の部屋へとわたしを連れて行き、小さな部屋の小さなソファセットをわたしを座らせた。
「お茶をお持ちしますので、ここでお待ちください」
そのまま、お父様は一旦部屋を出て、ワゴンにティーセットを乗せて部屋に戻って来た。
そして、ポットを片手に紅茶を淹れ出す。
うそでしょう!?
下級貴族とはいえ、子爵家当主のお父様がお茶を入れるなんて!!
あんぐりと口を開けてその様子を見ていると、お父様はくすりと笑った。
「何か面白いことでもありますかな?」
「いえ、男性にお茶を入れていただくなんて、なかったものですから……」
紅茶をすすめられて、わたしは紅茶を口に含んだ。
「おいしい……」
お父様はご自分の分も紅茶を入れて、わたしの向かいのソファに腰を降ろした。
「それで、お嬢さんは何をしに教会へ? 大聖堂まで来なくても、街には街の教会があるでしょうに」
お父様から話しかけられて、わたしはそっとカップを置いた。
もうジーナではなく、お嬢さんと呼ばれたからには、他人として答えた方がいいだろう。
「はい。でも、こちらに来たかったんです」
「そうですか。では、ゆっくりしていってください」
にこにこと笑顔を浮かべてわたしを見ているお父様に、胸が痛くなる。
髪も白髪になったけど、目元もシワが増えたね。
お父様はまだ50代になったばかりのはずなのに。
カップを差し出す手にもシワがあり、そしてその手はとても痩せ細っていた。
十数年の間に、こんなに老け込んでしまうほど、ジーナお父様に心配をかけたんだね。
「あの、先程わたしのことを“ジーナ“とお呼びになったのは……」
きっと、同じ髪色と瞳の色の姿形とジーナが亡くなった年齢が同じだったからつい口に出てしまったんだろうと思ったけれど、一応聞いてみる。
「ジーナというのはわたしの娘なのですが、12歳の時に不慮の事故で亡くなったのです。お嬢さんと同じかわいい娘でした」
お父様はそう言うと、昔と同じ優雅な仕草で紅茶を飲んだ。
わたしも、震えそうになる手を誤魔化し、再度紅茶に口をつける。
「あの、あなたは教会の方なのですか?」
わたしは違うのを知っていてお父様に尋ねた。
だって、子爵家当主が教会で掃除をしているなんて、何がどうしてそうなったのかわからない。
「いいえ。わたしはここのお手伝いをさせていただいているだけです。本職は別にありますよ」
「何故、お手伝いを……?」
胸がざわつくのを押さえて、わたしはお父様の目を見つめる。
お父様はわたしの真剣な眼差しに気がつくと、ふ、と息を漏らした。
「ジーナが還ってくるのに必要だと思ったからですよ」
どきんっ……。
わたしの心臓が早鐘を鳴らす。
「な、何故、娘様が還ってくるのに必要だと?」
お父様はわたしの問いを聞くと、ゆっくりと手にしていたカップをソーサーに戻した。
「夢をね、見たんですよ。ジーナが亡くなったあの日、姿形を変えてわたしたちの元へ戻って来るジーナの夢を」
そして、微笑んでわたしの顔を見る。
「ジーナは何かに困っていて、わたしに助けを求めにやってくるんだ。わたしはそれに応えたかった。そのためには、教会の中枢に入り込む必要があったんだ」
ジーナのため……。
この間、ミラー家に居た時に聞いたお父様は、子爵としての仕事をきちんとしていて、尚且つ、仕事で家に帰って来ないことも多いと聞いていた。
ジーナが還ってきて、教会に助けを求めることを夢で見たから、自分の生活を削って、教会へ……。
そして、お父様は再度口を開いた。
「わたしは人の纏う空気が見えるんだ。君は、ジーナだね?」
2
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる