もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
159 / 255
16章 討伐前

6

しおりを挟む
……と、思いつつも、ルーク様に言われたように湯浴みをして、バスルームに用意されていた寝衣を身にまとう。
いつもより念入りに泡を立てて綺麗にした。
パウダールームに置いてあった香油なんかも塗っちゃったりして。

寝衣、世に聞くスケスケの新婚さん用とかじゃないのね。
胸元が編み上げ紐になっていて、脱がせるのは大変そう。
べ、別に緩めといたりしなくていいのよね!?
袖口もボタンで留めるようになっているから、脱ぐ時は引っかかりそう。
丈は足首まであるし。

……討伐前の思い出作りとかかな。
ルーク様、わたしの気持ちを考えてくれて、色々としてくれるのかな。

あまり深く考えないようにしていたけど、討伐が終わったら、ルーク様はローゼリア様とご結婚なさるのだ。
わたしはデイヴィス家で働けても、王宮で働くことはできない。
例え、ご結婚されたルーク様が王宮で暮らすことなくデイヴィス家で暮らすとしても、今の別棟にローゼリア様がいらっしゃることはないだろう。

わたしは紹介状もなく、フランクさんがスカウトしてくれただけのメイドだ。
本館の方で雇ってもらえる訳がない。
きっと、実家に戻ることになるだろう。

もともと、侯爵家の嫡男で、魔物討伐の英雄のルーク様とは身分が違うんだ。
それは、商家の娘である今もそうだけど、子爵令嬢だった時だって、身分違いだったんだ。
わたしが、光の術者でなければ、結ばれなかった縁談なのだから。


ベッドの淵に腰掛けていると、ノックの音と共に寝支度をしたルーク様が部屋へとやって来た。

何故か、ニヤニヤしながらこちらに近付いてくる。

えー。
こういう時は、ニヤニヤじゃなくて、爽やかな王子様笑顔でくるもんじゃないの?

不審に思いながらルーク様を見ていると、突然ルーク様は後ろに隠していた枕でわたしの顔を覆った。
「うぷっ、な、なにするんですか~」
「ははっ! 昔ジーナは義兄上や義姉上と枕投げをして遊んだと言っていただろう? オレもやってみたかったんだ」

ニコニコと子どものような笑顔のルーク様に、何も言えなくなる。

「……もおっ! 負けませんよ~!!」
わたしもベッドに置いてあった枕を掴み、ルーク様のお顔目掛けて力一杯投げた。

「あははっ! ノーコンニーナ。かすりもしないぞ」
「うるさいです! 今に見てろ!です」

キングサイズのベッドには、枕がたくさん置いてあったので、わたしはそれら全てを使ってルーク様を攻撃する。
ルーク様も負けてはおらず、わたしに投げられた枕を拾ってわたしめがけて投げてくる。
がんばって応戦したわたしだけど、さすが毎日鍛錬なさってるルーク様。
わたしはコテンパンにやられてしまった。

「あ、ルーク様。枕から羽毛が出てきてしまいました。これでストップです」
「そうか。でも満足したぞ。ジーナから話を聞いて、一度やってみたいと思ってたんだ。しかし、ミラー兄弟はすごいな。こんな運動量の遊びを子どもの頃から毎日のようにしていたんだな。義兄上の運動神経がよくなるはずだよ」

ぐちゃぐちゃになったベッドにゴロンと横になり、ルーク様がこちらを見る。

「そうですか? 寝る前のちょっとした運動なだけですけど……」
そう言いつつも、わたしも久々の運動なので疲れてしまい、ルーク様の隣に横になった。

豪華な天蓋付きのベッドの天井を見ながら、ルーク様がポツリとつぶやく。
「……もう、ジーナには会えないと思っていた。それなのに、こんな奇跡に出会えるなんて」

嬉しそうに、ルーク様はわたしを見る。

「ありがとう、ジーナ」

笑顔でそう言うルーク様は、とても眩しかった。

「いえ、そんな、わたしの方こそ、またお側に置いていただけて、嬉しいです」

わたしも、会えて嬉しい。
だって、身分も違うルーク様と、またこんなに近くでお話ができるなんて、奇跡に近い。
記憶が戻った頃は、遠くから見つめるだけしかできないと思ってたから。

わたしたちは見つめ合い、そして、どちらからともなく近付いて行く。

肩が触れるくらいに。

髪が触れるくらいに。

唇が触れるくらいに。

どちらからともなく、重ねられた唇は、とても熱かった。


ルーク様はわたしを抱き寄せ、愛おしそうに何度も何度もわたしの顔にキスを落とした。

「何度でも言うよ。ニーナ、生まれて来てくれてありがとう」

愛しているよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜

白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人の心は結ばれるのか? ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...