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16章 討伐前
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……と、思いつつも、ルーク様に言われたように湯浴みをして、バスルームに用意されていた寝衣を身にまとう。
いつもより念入りに泡を立てて綺麗にした。
パウダールームに置いてあった香油なんかも塗っちゃったりして。
寝衣、世に聞くスケスケの新婚さん用とかじゃないのね。
胸元が編み上げ紐になっていて、脱がせるのは大変そう。
べ、別に緩めといたりしなくていいのよね!?
袖口もボタンで留めるようになっているから、脱ぐ時は引っかかりそう。
丈は足首まであるし。
……討伐前の思い出作りとかかな。
ルーク様、わたしの気持ちを考えてくれて、色々としてくれるのかな。
あまり深く考えないようにしていたけど、討伐が終わったら、ルーク様はローゼリア様とご結婚なさるのだ。
わたしはデイヴィス家で働けても、王宮で働くことはできない。
例え、ご結婚されたルーク様が王宮で暮らすことなくデイヴィス家で暮らすとしても、今の別棟にローゼリア様がいらっしゃることはないだろう。
わたしは紹介状もなく、フランクさんがスカウトしてくれただけのメイドだ。
本館の方で雇ってもらえる訳がない。
きっと、実家に戻ることになるだろう。
もともと、侯爵家の嫡男で、魔物討伐の英雄のルーク様とは身分が違うんだ。
それは、商家の娘である今もそうだけど、子爵令嬢だった時だって、身分違いだったんだ。
わたしが、光の術者でなければ、結ばれなかった縁談なのだから。
ベッドの淵に腰掛けていると、ノックの音と共に寝支度をしたルーク様が部屋へとやって来た。
何故か、ニヤニヤしながらこちらに近付いてくる。
えー。
こういう時は、ニヤニヤじゃなくて、爽やかな王子様笑顔でくるもんじゃないの?
不審に思いながらルーク様を見ていると、突然ルーク様は後ろに隠していた枕でわたしの顔を覆った。
「うぷっ、な、なにするんですか~」
「ははっ! 昔ジーナは義兄上や義姉上と枕投げをして遊んだと言っていただろう? オレもやってみたかったんだ」
ニコニコと子どものような笑顔のルーク様に、何も言えなくなる。
「……もおっ! 負けませんよ~!!」
わたしもベッドに置いてあった枕を掴み、ルーク様のお顔目掛けて力一杯投げた。
「あははっ! ノーコンニーナ。かすりもしないぞ」
「うるさいです! 今に見てろ!です」
キングサイズのベッドには、枕がたくさん置いてあったので、わたしはそれら全てを使ってルーク様を攻撃する。
ルーク様も負けてはおらず、わたしに投げられた枕を拾ってわたしめがけて投げてくる。
がんばって応戦したわたしだけど、さすが毎日鍛錬なさってるルーク様。
わたしはコテンパンにやられてしまった。
「あ、ルーク様。枕から羽毛が出てきてしまいました。これでストップです」
「そうか。でも満足したぞ。ジーナから話を聞いて、一度やってみたいと思ってたんだ。しかし、ミラー兄弟はすごいな。こんな運動量の遊びを子どもの頃から毎日のようにしていたんだな。義兄上の運動神経がよくなるはずだよ」
ぐちゃぐちゃになったベッドにゴロンと横になり、ルーク様がこちらを見る。
「そうですか? 寝る前のちょっとした運動なだけですけど……」
そう言いつつも、わたしも久々の運動なので疲れてしまい、ルーク様の隣に横になった。
豪華な天蓋付きのベッドの天井を見ながら、ルーク様がポツリとつぶやく。
「……もう、ジーナには会えないと思っていた。それなのに、こんな奇跡に出会えるなんて」
嬉しそうに、ルーク様はわたしを見る。
「ありがとう、ジーナ」
笑顔でそう言うルーク様は、とても眩しかった。
「いえ、そんな、わたしの方こそ、またお側に置いていただけて、嬉しいです」
わたしも、会えて嬉しい。
だって、身分も違うルーク様と、またこんなに近くでお話ができるなんて、奇跡に近い。
記憶が戻った頃は、遠くから見つめるだけしかできないと思ってたから。
わたしたちは見つめ合い、そして、どちらからともなく近付いて行く。
肩が触れるくらいに。
髪が触れるくらいに。
唇が触れるくらいに。
どちらからともなく、重ねられた唇は、とても熱かった。
ルーク様はわたしを抱き寄せ、愛おしそうに何度も何度もわたしの顔にキスを落とした。
「何度でも言うよ。ニーナ、生まれて来てくれてありがとう」
愛しているよ。
いつもより念入りに泡を立てて綺麗にした。
パウダールームに置いてあった香油なんかも塗っちゃったりして。
寝衣、世に聞くスケスケの新婚さん用とかじゃないのね。
胸元が編み上げ紐になっていて、脱がせるのは大変そう。
べ、別に緩めといたりしなくていいのよね!?
袖口もボタンで留めるようになっているから、脱ぐ時は引っかかりそう。
丈は足首まであるし。
……討伐前の思い出作りとかかな。
ルーク様、わたしの気持ちを考えてくれて、色々としてくれるのかな。
あまり深く考えないようにしていたけど、討伐が終わったら、ルーク様はローゼリア様とご結婚なさるのだ。
わたしはデイヴィス家で働けても、王宮で働くことはできない。
例え、ご結婚されたルーク様が王宮で暮らすことなくデイヴィス家で暮らすとしても、今の別棟にローゼリア様がいらっしゃることはないだろう。
わたしは紹介状もなく、フランクさんがスカウトしてくれただけのメイドだ。
本館の方で雇ってもらえる訳がない。
きっと、実家に戻ることになるだろう。
もともと、侯爵家の嫡男で、魔物討伐の英雄のルーク様とは身分が違うんだ。
それは、商家の娘である今もそうだけど、子爵令嬢だった時だって、身分違いだったんだ。
わたしが、光の術者でなければ、結ばれなかった縁談なのだから。
ベッドの淵に腰掛けていると、ノックの音と共に寝支度をしたルーク様が部屋へとやって来た。
何故か、ニヤニヤしながらこちらに近付いてくる。
えー。
こういう時は、ニヤニヤじゃなくて、爽やかな王子様笑顔でくるもんじゃないの?
不審に思いながらルーク様を見ていると、突然ルーク様は後ろに隠していた枕でわたしの顔を覆った。
「うぷっ、な、なにするんですか~」
「ははっ! 昔ジーナは義兄上や義姉上と枕投げをして遊んだと言っていただろう? オレもやってみたかったんだ」
ニコニコと子どものような笑顔のルーク様に、何も言えなくなる。
「……もおっ! 負けませんよ~!!」
わたしもベッドに置いてあった枕を掴み、ルーク様のお顔目掛けて力一杯投げた。
「あははっ! ノーコンニーナ。かすりもしないぞ」
「うるさいです! 今に見てろ!です」
キングサイズのベッドには、枕がたくさん置いてあったので、わたしはそれら全てを使ってルーク様を攻撃する。
ルーク様も負けてはおらず、わたしに投げられた枕を拾ってわたしめがけて投げてくる。
がんばって応戦したわたしだけど、さすが毎日鍛錬なさってるルーク様。
わたしはコテンパンにやられてしまった。
「あ、ルーク様。枕から羽毛が出てきてしまいました。これでストップです」
「そうか。でも満足したぞ。ジーナから話を聞いて、一度やってみたいと思ってたんだ。しかし、ミラー兄弟はすごいな。こんな運動量の遊びを子どもの頃から毎日のようにしていたんだな。義兄上の運動神経がよくなるはずだよ」
ぐちゃぐちゃになったベッドにゴロンと横になり、ルーク様がこちらを見る。
「そうですか? 寝る前のちょっとした運動なだけですけど……」
そう言いつつも、わたしも久々の運動なので疲れてしまい、ルーク様の隣に横になった。
豪華な天蓋付きのベッドの天井を見ながら、ルーク様がポツリとつぶやく。
「……もう、ジーナには会えないと思っていた。それなのに、こんな奇跡に出会えるなんて」
嬉しそうに、ルーク様はわたしを見る。
「ありがとう、ジーナ」
笑顔でそう言うルーク様は、とても眩しかった。
「いえ、そんな、わたしの方こそ、またお側に置いていただけて、嬉しいです」
わたしも、会えて嬉しい。
だって、身分も違うルーク様と、またこんなに近くでお話ができるなんて、奇跡に近い。
記憶が戻った頃は、遠くから見つめるだけしかできないと思ってたから。
わたしたちは見つめ合い、そして、どちらからともなく近付いて行く。
肩が触れるくらいに。
髪が触れるくらいに。
唇が触れるくらいに。
どちらからともなく、重ねられた唇は、とても熱かった。
ルーク様はわたしを抱き寄せ、愛おしそうに何度も何度もわたしの顔にキスを落とした。
「何度でも言うよ。ニーナ、生まれて来てくれてありがとう」
愛しているよ。
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