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16章 討伐前
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目が覚めると、やわらかな陽射しがベッドにまで届くような時間だった。
その明るい光の中、横に目を向けると、わたしの隣にはルーク様がいて、笑みを浮かべてわたしのことを見ていた。
「ルーク様、何してるんですか」
「んー? ニーナの寝顔を見てた」
そして、腕を伸ばしてわたしをその胸に抱き寄せる。
「ニーナ、体は大丈夫? 痛くない?」
「……大丈夫ですが、痛いです」
わたしがブスくれると、ルーク様はくつくつと笑う。
「ルーク様、わかってて言ってるでしょう」
「なんのことかな?」
「わたしが前に"朝チュン"の話をした時に、面白がっていたのは知ってるんですよ」
睨みつけてもルーク様は笑っているだけで何も言わない。
「セリフだけ"朝チュン"しても嬉しくないです」
わたしは不貞腐れて、掛布を体に巻きつける。
厚手の寝衣に掛布は少し暑い。
……そう。
わたしはきちんと寝衣を着ている。
胸元はきっちりと締められて、袖口のボタンも外れてはいない。
ご機嫌ナナメなわたしを、掛布の上からルーク様が抱きしめた。
「ごめんって、ニーナ。ニーナが読んでいた小説にこんな会話があったなと思って言ってみただけだよ。でも、内容に間違ったところはないだろう? 体は大丈夫か? あんなに勢いよくベッドから転げ落ちるなんて、予想もできなかったよ」
ルーク様に背を向けているわたしは、ルーク様がどんな表情をしているか見えないが、絶対にニヤニヤ笑いをしているに違いない。
昨日、ルーク様とふざけて遊んでいたわたしは、ルーク様が抱き締めて温めてくれたからか、すぐに寝てしまった。
そして、夢を見た。
わたしはジーナになっていて、ルーク様も子どもに戻っていた。
わたしたちは夢の中で、お兄様やお姉様と一緒に枕投げをしたのだ。
わたしは枕をぶつけられないように、夢の中で逃げて逃げて逃げまくって、現実世界でベッドから落ちた。
夜中にすごい音がして、ルーク様も飛び起きたくらいだ。
「キングサイズのベッドからも落ちるなんて、ニーナはすごいな」
「ルーク様、それ褒めてないです。だいたい、ルーク様が寝る前に枕投げをやったりするから、夢に見ちゃったんです!」
ぷんすか怒るわたしの頭に一つキスが落とされる。
「ごめんごめん。さ、お姫様。機嫌を直してくれよ。今日も少し出掛けるだろう? 帰り道はサリーとフランクに土産を買いに、どこかに寄ろう」
わたしをきゅっと抱きしめて、頬ずりしながら言うルーク様に、わたしはそれ以上怒れなくなってしまった。
「……サリーさんには、来る時みた葡萄を買いたいです」
「うん、了解。じゃ、起きよう。多分、もう朝食ができているだろうから、着替えをしたらまた迎えに来るよ」
わたしはくるりと向きを変えて、ルーク様の顔を見つめて、頬にちゅっとキスをした。
「はい。今日はクローゼットにあったフリルのワンピースを着てもいいですか? とっても可愛かったので」
「ああ。もちろん。ニーナに似合うと思って用意したものだ。好きなものを着るといい」
ルーク様は微笑んで部屋を出て行った。
穏やかな時間。
いつまでもこの時間が続けばいいのに。
わたしは部屋に一人になると急に寂しくなり、気分が暗くなってしまった。
もうすぐ討伐だ。
討伐が終われば、ルーク様は手の届かない人になる。
ルーク様には、ローゼリア様という婚約者がいるのだ。
わたしの目からは一粒の涙がこぼれ落ちてしまう。
いけない。
今日は楽しもう。
ルーク様と二人きりでゆっくり過ごせる、最後の機会なのだから。
わたしはくいっと涙を拭くと、顔を洗いに洗面所に向かった。
帰りながら、いろいろなお店を物色したり、サリーさんに葡萄のお土産を買ったりと、ディヴイス家までの道のりもとても楽しく過ごした。
わたしは行きと違って、ルーク様が用意してくれたワンピースを着ていたので、貴族のお嬢様に見えたらしく、お店の人たちなど、誰もわたしのことをメイド扱いしなかったので、ルーク様も満足そうに笑っていた。
きっと、貴族の恋人同士に見えただろう。
けれど、帰宅した後、ルーク様はフランクさんとサリーさんにめちゃくちゃ怒られて、しょんぼりと肩を落としていた。
フランクさんはその姿を見て、「まるで幼少の頃に戻られたようですな」と、怒りながら微笑むという、器用なことをしていた。
その明るい光の中、横に目を向けると、わたしの隣にはルーク様がいて、笑みを浮かべてわたしのことを見ていた。
「ルーク様、何してるんですか」
「んー? ニーナの寝顔を見てた」
そして、腕を伸ばしてわたしをその胸に抱き寄せる。
「ニーナ、体は大丈夫? 痛くない?」
「……大丈夫ですが、痛いです」
わたしがブスくれると、ルーク様はくつくつと笑う。
「ルーク様、わかってて言ってるでしょう」
「なんのことかな?」
「わたしが前に"朝チュン"の話をした時に、面白がっていたのは知ってるんですよ」
睨みつけてもルーク様は笑っているだけで何も言わない。
「セリフだけ"朝チュン"しても嬉しくないです」
わたしは不貞腐れて、掛布を体に巻きつける。
厚手の寝衣に掛布は少し暑い。
……そう。
わたしはきちんと寝衣を着ている。
胸元はきっちりと締められて、袖口のボタンも外れてはいない。
ご機嫌ナナメなわたしを、掛布の上からルーク様が抱きしめた。
「ごめんって、ニーナ。ニーナが読んでいた小説にこんな会話があったなと思って言ってみただけだよ。でも、内容に間違ったところはないだろう? 体は大丈夫か? あんなに勢いよくベッドから転げ落ちるなんて、予想もできなかったよ」
ルーク様に背を向けているわたしは、ルーク様がどんな表情をしているか見えないが、絶対にニヤニヤ笑いをしているに違いない。
昨日、ルーク様とふざけて遊んでいたわたしは、ルーク様が抱き締めて温めてくれたからか、すぐに寝てしまった。
そして、夢を見た。
わたしはジーナになっていて、ルーク様も子どもに戻っていた。
わたしたちは夢の中で、お兄様やお姉様と一緒に枕投げをしたのだ。
わたしは枕をぶつけられないように、夢の中で逃げて逃げて逃げまくって、現実世界でベッドから落ちた。
夜中にすごい音がして、ルーク様も飛び起きたくらいだ。
「キングサイズのベッドからも落ちるなんて、ニーナはすごいな」
「ルーク様、それ褒めてないです。だいたい、ルーク様が寝る前に枕投げをやったりするから、夢に見ちゃったんです!」
ぷんすか怒るわたしの頭に一つキスが落とされる。
「ごめんごめん。さ、お姫様。機嫌を直してくれよ。今日も少し出掛けるだろう? 帰り道はサリーとフランクに土産を買いに、どこかに寄ろう」
わたしをきゅっと抱きしめて、頬ずりしながら言うルーク様に、わたしはそれ以上怒れなくなってしまった。
「……サリーさんには、来る時みた葡萄を買いたいです」
「うん、了解。じゃ、起きよう。多分、もう朝食ができているだろうから、着替えをしたらまた迎えに来るよ」
わたしはくるりと向きを変えて、ルーク様の顔を見つめて、頬にちゅっとキスをした。
「はい。今日はクローゼットにあったフリルのワンピースを着てもいいですか? とっても可愛かったので」
「ああ。もちろん。ニーナに似合うと思って用意したものだ。好きなものを着るといい」
ルーク様は微笑んで部屋を出て行った。
穏やかな時間。
いつまでもこの時間が続けばいいのに。
わたしは部屋に一人になると急に寂しくなり、気分が暗くなってしまった。
もうすぐ討伐だ。
討伐が終われば、ルーク様は手の届かない人になる。
ルーク様には、ローゼリア様という婚約者がいるのだ。
わたしの目からは一粒の涙がこぼれ落ちてしまう。
いけない。
今日は楽しもう。
ルーク様と二人きりでゆっくり過ごせる、最後の機会なのだから。
わたしはくいっと涙を拭くと、顔を洗いに洗面所に向かった。
帰りながら、いろいろなお店を物色したり、サリーさんに葡萄のお土産を買ったりと、ディヴイス家までの道のりもとても楽しく過ごした。
わたしは行きと違って、ルーク様が用意してくれたワンピースを着ていたので、貴族のお嬢様に見えたらしく、お店の人たちなど、誰もわたしのことをメイド扱いしなかったので、ルーク様も満足そうに笑っていた。
きっと、貴族の恋人同士に見えただろう。
けれど、帰宅した後、ルーク様はフランクさんとサリーさんにめちゃくちゃ怒られて、しょんぼりと肩を落としていた。
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