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14章 氷解
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朝起きると、わたしは昨日ミラー子爵家から帰った時の服のまま、ルーク様に抱きしめられてルーク様のベッドの上に居た。
窓から差し込む朝陽が、ルーク様のお顔を照らす。
光を弾く金糸の髪に彩られ、ルーク様の整ったお顔をより綺麗に見せていた。
起き抜けにそんなルーク様を見ていたら、急に顔が熱くなった。
もしかしたら、顔が真っ赤になっているかもしれない。
こっ、これは!
お花屋のミーちゃんが言っていた"朝チュン"なのでは!?
ミーちゃんは恋愛小説が好きで、よく萌えポイントをわたしに熱く語っていたけど、わたしにはちっともわからなかった。
そうか。
このドキドキが萌えポイントで、このシチュエーションが朝チュンなんだ!
ほうほう、と1人納得していると、ルーク様の口元がふるふると震え出すのが見えた。
どうしたんだろうのもっと近くに行って覗き込むと、もう耐えられないというようにルーク様が笑い出した。
「ぷーっくくくっ、ニーナ、絶対違うからな。これは朝チュンではないからな。っ、ははっ!」
「えー、なんで考えてることがわかるんですか? それと、朝、スズメがチュンチュン言ってる声が聞こえるんですもの。朝チュンでしょう?」
クスクスと笑いながらルーク様は体を起こす。
「朝、スズメがチュンチュン鳴いているだけでは、朝チュンではないんだよ」
「何が足りないんですか?」
「それは、オレが討伐から帰ってきたら、思う存分教えてあげよう」
「~~~っ、ルーク様のケチっ!」
わたしはベッドから降りると、ぷんすか怒りながらルーク様の部屋を出た。
ルーク様の部屋のドアを閉めた後、部屋の中からまだクスクスと笑うルーク様の声が聞こえる。
もぉっ!ルーク様のいじわる!!
ふんふんっ! と勢いよく歩き、使用人棟の自室に入ると、わたしの荷物が部屋の中に置いてあった。
きっと、サリーさんが置いてくれたんだろう。
バッグの中身を出して元に戻して一息つくと、わたしはいつものお仕着せに着替えをする。
うん。
ミラー家のお仕着せも悪くなかったけど、やっぱりわたしはこの家のお仕着せが好きかも。
時計を見ると、いつも働き出すよりも早い時間だったけど、わたしはそのまま厨房に行き、ルーク様の朝食の準備に取り掛かった。
……と、言っても作ってくれるのは本館の厨房なので、別棟の厨房では盛り付けたりお茶の用意をしたりするだけなんだけど。
鼻歌混じりでルーク様のティーカップを温めていると、サリーさんが厨房に顔を出した。
サリーさんが何かを言うよりも早く、わたしはサリーさんに向かって頭を下げる。
「サリーさん。おはようございます。昨日はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
頭を下げたままじっとしていると、サリーさんの優しい手が、わたしの頭を撫でてくれる。
「ニーナ、いいのよ。頭を上げて、顔を見せて」
ゆっくりと顔をあげると、サリーさんは微笑んでわたしのことを見ていてくれた。
「おかえり、ニーナ。そして、おかえりなさいませ、ジーナ様。あなたがこの屋敷に戻ってきてくれて、本当に嬉しい。ニーナもジーナ様も、わたしは大好きだから」
「サリーさんっ!」
わたしはサリーさんに抱きついた。
「あらあら、わたしが知っている頃のジーナ様に戻ったみたいよ。もうニーナはそれよりも大きくなったのに」
サリーさんはそう言いつつも、わたしをきゅっと抱きしめ返してくれた。
「それはそうと、ニーナは何をやっているの? あなたまだ休暇中でしょう?」
「えーっと、でももうルーク様は怒っていらっしゃらないみたいですし、復帰しようかと……」
「そう。でも、まだルーク様も混乱なさっているだろうし、わたしもフランクさんも、戸惑っている部分があるわ。ジーナ様に侍女の仕事をやらせていいのか、とか……」
サリーさんはあの後、フランクさんと少し話をしたようで、今後のわたしの処遇については、改めて相談しようということになっていたそうだ。
「サリーさん、そのことでお話があるんですけど……。ひとまず、カップが冷めてしまうし、ルーク様にも聞いていただきたいので、このワゴンをルーク様のお部屋に持って行って、そこでお話してもいいでしょうか?」
わたしがそう言うと、サリーさんはニコリと笑った。
「その、首を傾げる仕草、確かにジーナ様と同じだったのに、どうしてわたしは気が付かなかったのかしら……。わかったわ。では、フランクさんも呼んでくるから、先にワゴンを押してルーク様のお部屋に行っていてくれる? あとは、この水差しで全部かしら」
朝食を乗せたワゴンに水差しを置き、サリーさんは指差し確認をして、忘れ物がないか見てくれた。
「はい。これで全部です。では、先に行っていますね」
よっこらしょっとワゴンを押して、わたしは厨房を出た。
ルーク様のお部屋に行ったら、サリーさんとフランクさんにはお願いしたいことがある。
ご迷惑をお掛けすることになるから、ちゃんとお願いしなくては。
あとは、ルーク様も反対しそうな気がするので、なんて言って納得してもらおうかと、頭の中で考えながら、ルーク様のお部屋までワゴンを押して行った。
窓から差し込む朝陽が、ルーク様のお顔を照らす。
光を弾く金糸の髪に彩られ、ルーク様の整ったお顔をより綺麗に見せていた。
起き抜けにそんなルーク様を見ていたら、急に顔が熱くなった。
もしかしたら、顔が真っ赤になっているかもしれない。
こっ、これは!
お花屋のミーちゃんが言っていた"朝チュン"なのでは!?
ミーちゃんは恋愛小説が好きで、よく萌えポイントをわたしに熱く語っていたけど、わたしにはちっともわからなかった。
そうか。
このドキドキが萌えポイントで、このシチュエーションが朝チュンなんだ!
ほうほう、と1人納得していると、ルーク様の口元がふるふると震え出すのが見えた。
どうしたんだろうのもっと近くに行って覗き込むと、もう耐えられないというようにルーク様が笑い出した。
「ぷーっくくくっ、ニーナ、絶対違うからな。これは朝チュンではないからな。っ、ははっ!」
「えー、なんで考えてることがわかるんですか? それと、朝、スズメがチュンチュン言ってる声が聞こえるんですもの。朝チュンでしょう?」
クスクスと笑いながらルーク様は体を起こす。
「朝、スズメがチュンチュン鳴いているだけでは、朝チュンではないんだよ」
「何が足りないんですか?」
「それは、オレが討伐から帰ってきたら、思う存分教えてあげよう」
「~~~っ、ルーク様のケチっ!」
わたしはベッドから降りると、ぷんすか怒りながらルーク様の部屋を出た。
ルーク様の部屋のドアを閉めた後、部屋の中からまだクスクスと笑うルーク様の声が聞こえる。
もぉっ!ルーク様のいじわる!!
ふんふんっ! と勢いよく歩き、使用人棟の自室に入ると、わたしの荷物が部屋の中に置いてあった。
きっと、サリーさんが置いてくれたんだろう。
バッグの中身を出して元に戻して一息つくと、わたしはいつものお仕着せに着替えをする。
うん。
ミラー家のお仕着せも悪くなかったけど、やっぱりわたしはこの家のお仕着せが好きかも。
時計を見ると、いつも働き出すよりも早い時間だったけど、わたしはそのまま厨房に行き、ルーク様の朝食の準備に取り掛かった。
……と、言っても作ってくれるのは本館の厨房なので、別棟の厨房では盛り付けたりお茶の用意をしたりするだけなんだけど。
鼻歌混じりでルーク様のティーカップを温めていると、サリーさんが厨房に顔を出した。
サリーさんが何かを言うよりも早く、わたしはサリーさんに向かって頭を下げる。
「サリーさん。おはようございます。昨日はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
頭を下げたままじっとしていると、サリーさんの優しい手が、わたしの頭を撫でてくれる。
「ニーナ、いいのよ。頭を上げて、顔を見せて」
ゆっくりと顔をあげると、サリーさんは微笑んでわたしのことを見ていてくれた。
「おかえり、ニーナ。そして、おかえりなさいませ、ジーナ様。あなたがこの屋敷に戻ってきてくれて、本当に嬉しい。ニーナもジーナ様も、わたしは大好きだから」
「サリーさんっ!」
わたしはサリーさんに抱きついた。
「あらあら、わたしが知っている頃のジーナ様に戻ったみたいよ。もうニーナはそれよりも大きくなったのに」
サリーさんはそう言いつつも、わたしをきゅっと抱きしめ返してくれた。
「それはそうと、ニーナは何をやっているの? あなたまだ休暇中でしょう?」
「えーっと、でももうルーク様は怒っていらっしゃらないみたいですし、復帰しようかと……」
「そう。でも、まだルーク様も混乱なさっているだろうし、わたしもフランクさんも、戸惑っている部分があるわ。ジーナ様に侍女の仕事をやらせていいのか、とか……」
サリーさんはあの後、フランクさんと少し話をしたようで、今後のわたしの処遇については、改めて相談しようということになっていたそうだ。
「サリーさん、そのことでお話があるんですけど……。ひとまず、カップが冷めてしまうし、ルーク様にも聞いていただきたいので、このワゴンをルーク様のお部屋に持って行って、そこでお話してもいいでしょうか?」
わたしがそう言うと、サリーさんはニコリと笑った。
「その、首を傾げる仕草、確かにジーナ様と同じだったのに、どうしてわたしは気が付かなかったのかしら……。わかったわ。では、フランクさんも呼んでくるから、先にワゴンを押してルーク様のお部屋に行っていてくれる? あとは、この水差しで全部かしら」
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「はい。これで全部です。では、先に行っていますね」
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ご迷惑をお掛けすることになるから、ちゃんとお願いしなくては。
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