もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
139 / 255
14章 氷解

6

しおりを挟む
あれから、取り乱すわたしに、フランクさんとサリーさんは落ち着いてルーク様と話をするように言い含めて部屋を出て行った。

2人きりになった部屋に、静寂が訪れる。

ソファに座ったまま項垂れているわたしを、ルーク様はそっと抱きしめた。

「いきなり、あんな事を言って悪かった」
「さわらないでください」

うそ。
ほんとうはずっと抱きしめていてほしい。

でも、天邪鬼なわたしは、ルーク様にそんな憎まれ口しか口にすることができない。

だって、理解できないのだ。
生まれ変わって12年かけてルーク様と巡り逢い、更に何年もかけて今やっと想いを確認し合えたのに、またすぐにルーク様は目の前から居なくなってしまうかもしれないと言うのだ。

「まだ、出陣まで数ヶ月ある。ふたりの時間をゆっくり過ごそう。それに、まだオレが死ぬと決まったわけでもないし、もしオレが死んでも、今度はオレがニーナに逢いに生まれ変わってくるよ」

ルーク様はそう言って笑顔を浮かべる。

「ルーク様……。必ず生まれ変われるって決まっているわけじゃないんですよ? それに生まれ変わったって、その場所は決まっているみたいでした。必ず前世の記憶を持っていられる訳じゃないんですよ? 魂、洗われちゃうんですから」
「えつ、魂を洗うのか?」
「浄化するって言われて、ぬるま湯みたいなところに浸けられました。そこで前世の記憶を浄化されてまっさらになって生まれ変わるんです。記憶を残すなんて、よっぽどのことなんですよ!」

わたしが力説すると、何故かルーク様は頬を赤くして照れている。

「いやあ、よっぽどオレに逢いたかったんだなあ、ジーナ」
「もおっ! バカ!」
つられてわたしも赤くなった。

ニコニコと、嬉しそうにしながらルーク様がわたしを抱きしめる。

「オレはジーナとニーナに想ってもらえて幸せだ。ずっとこのまま居たいと思うが、魔物が育っているのも誤魔化しようのない事実だ。オレは英雄だから、そう生まれてしまったから、魔物を倒さなければならない。もし、オレがニーナと逃げてしまったら、この国は魔物に食い尽くされるだろう」

それは……わかっているけれど。

「ジーナの好きな義父上や義母上、エマ義姉上やオリバー義兄上も、みんなただでは済まないだろう。もちろん、ニーナの父上や母上や弟もだ。だから、オレは戦いに行く。わかってくれるな?」

ルーク様の胸に顔を埋めていたわたしは、そっと、顔を上げてルーク様と目を合わせる。

ルーク様は穏やかな優しい瞳でわたしを見つめていた。

「ん? どうした、ニーナ」

優しく微笑むルーク様は、すっかり大人の人だ。
わたしがワガママで困らせているのに、余裕を見せている。

わかってる。
ルーク様だって、好きで英雄なんかに生まれた訳じゃない。
その生まれのために、辛い思いもしただろう。
けれど、それを呑み込んで、今、こうして微笑んでくれているんだ。

「……ワガママ言って、ごめんなさい……」
小さい声で謝ると、ルーク様はとても嬉しそうに笑った。

「そういえば、ジーナはワガママなんか言ったことなかったな。いいんだ、ニーナ。ワガママ言ってくれて。なんでも言ってくれ。いろんな顔のニーナを見せてくれ」

わたしはとても切なくなって、そんな顔を見られるのが嫌で、またルーク様の胸に顔を埋めた。

「ルーク様。わたし、ルーク様が討伐に行かれるまでに、最大限の光の加護をルーク様の剣に付与できるようがんばります」

顔を埋めたままなのでわからないけど、わたしの言葉を聞いてルーク様は腕に一層力を入れてわたしを抱きしめた。

「ああ。ニーナの想いの強さが、オレの強さになるからな」

その夜は、そのままルーク様の腕の中で眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...