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14章 氷解
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あれから、取り乱すわたしに、フランクさんとサリーさんは落ち着いてルーク様と話をするように言い含めて部屋を出て行った。
2人きりになった部屋に、静寂が訪れる。
ソファに座ったまま項垂れているわたしを、ルーク様はそっと抱きしめた。
「いきなり、あんな事を言って悪かった」
「さわらないでください」
うそ。
ほんとうはずっと抱きしめていてほしい。
でも、天邪鬼なわたしは、ルーク様にそんな憎まれ口しか口にすることができない。
だって、理解できないのだ。
生まれ変わって12年かけてルーク様と巡り逢い、更に何年もかけて今やっと想いを確認し合えたのに、またすぐにルーク様は目の前から居なくなってしまうかもしれないと言うのだ。
「まだ、出陣まで数ヶ月ある。ふたりの時間をゆっくり過ごそう。それに、まだオレが死ぬと決まったわけでもないし、もしオレが死んでも、今度はオレがニーナに逢いに生まれ変わってくるよ」
ルーク様はそう言って笑顔を浮かべる。
「ルーク様……。必ず生まれ変われるって決まっているわけじゃないんですよ? それに生まれ変わったって、その場所は決まっているみたいでした。必ず前世の記憶を持っていられる訳じゃないんですよ? 魂、洗われちゃうんですから」
「えつ、魂を洗うのか?」
「浄化するって言われて、ぬるま湯みたいなところに浸けられました。そこで前世の記憶を浄化されてまっさらになって生まれ変わるんです。記憶を残すなんて、よっぽどのことなんですよ!」
わたしが力説すると、何故かルーク様は頬を赤くして照れている。
「いやあ、よっぽどオレに逢いたかったんだなあ、ジーナ」
「もおっ! バカ!」
つられてわたしも赤くなった。
ニコニコと、嬉しそうにしながらルーク様がわたしを抱きしめる。
「オレはジーナとニーナに想ってもらえて幸せだ。ずっとこのまま居たいと思うが、魔物が育っているのも誤魔化しようのない事実だ。オレは英雄だから、そう生まれてしまったから、魔物を倒さなければならない。もし、オレがニーナと逃げてしまったら、この国は魔物に食い尽くされるだろう」
それは……わかっているけれど。
「ジーナの好きな義父上や義母上、エマ義姉上やオリバー義兄上も、みんなただでは済まないだろう。もちろん、ニーナの父上や母上や弟もだ。だから、オレは戦いに行く。わかってくれるな?」
ルーク様の胸に顔を埋めていたわたしは、そっと、顔を上げてルーク様と目を合わせる。
ルーク様は穏やかな優しい瞳でわたしを見つめていた。
「ん? どうした、ニーナ」
優しく微笑むルーク様は、すっかり大人の人だ。
わたしがワガママで困らせているのに、余裕を見せている。
わかってる。
ルーク様だって、好きで英雄なんかに生まれた訳じゃない。
その生まれのために、辛い思いもしただろう。
けれど、それを呑み込んで、今、こうして微笑んでくれているんだ。
「……ワガママ言って、ごめんなさい……」
小さい声で謝ると、ルーク様はとても嬉しそうに笑った。
「そういえば、ジーナはワガママなんか言ったことなかったな。いいんだ、ニーナ。ワガママ言ってくれて。なんでも言ってくれ。いろんな顔のニーナを見せてくれ」
わたしはとても切なくなって、そんな顔を見られるのが嫌で、またルーク様の胸に顔を埋めた。
「ルーク様。わたし、ルーク様が討伐に行かれるまでに、最大限の光の加護をルーク様の剣に付与できるようがんばります」
顔を埋めたままなのでわからないけど、わたしの言葉を聞いてルーク様は腕に一層力を入れてわたしを抱きしめた。
「ああ。ニーナの想いの強さが、オレの強さになるからな」
その夜は、そのままルーク様の腕の中で眠りについた。
2人きりになった部屋に、静寂が訪れる。
ソファに座ったまま項垂れているわたしを、ルーク様はそっと抱きしめた。
「いきなり、あんな事を言って悪かった」
「さわらないでください」
うそ。
ほんとうはずっと抱きしめていてほしい。
でも、天邪鬼なわたしは、ルーク様にそんな憎まれ口しか口にすることができない。
だって、理解できないのだ。
生まれ変わって12年かけてルーク様と巡り逢い、更に何年もかけて今やっと想いを確認し合えたのに、またすぐにルーク様は目の前から居なくなってしまうかもしれないと言うのだ。
「まだ、出陣まで数ヶ月ある。ふたりの時間をゆっくり過ごそう。それに、まだオレが死ぬと決まったわけでもないし、もしオレが死んでも、今度はオレがニーナに逢いに生まれ変わってくるよ」
ルーク様はそう言って笑顔を浮かべる。
「ルーク様……。必ず生まれ変われるって決まっているわけじゃないんですよ? それに生まれ変わったって、その場所は決まっているみたいでした。必ず前世の記憶を持っていられる訳じゃないんですよ? 魂、洗われちゃうんですから」
「えつ、魂を洗うのか?」
「浄化するって言われて、ぬるま湯みたいなところに浸けられました。そこで前世の記憶を浄化されてまっさらになって生まれ変わるんです。記憶を残すなんて、よっぽどのことなんですよ!」
わたしが力説すると、何故かルーク様は頬を赤くして照れている。
「いやあ、よっぽどオレに逢いたかったんだなあ、ジーナ」
「もおっ! バカ!」
つられてわたしも赤くなった。
ニコニコと、嬉しそうにしながらルーク様がわたしを抱きしめる。
「オレはジーナとニーナに想ってもらえて幸せだ。ずっとこのまま居たいと思うが、魔物が育っているのも誤魔化しようのない事実だ。オレは英雄だから、そう生まれてしまったから、魔物を倒さなければならない。もし、オレがニーナと逃げてしまったら、この国は魔物に食い尽くされるだろう」
それは……わかっているけれど。
「ジーナの好きな義父上や義母上、エマ義姉上やオリバー義兄上も、みんなただでは済まないだろう。もちろん、ニーナの父上や母上や弟もだ。だから、オレは戦いに行く。わかってくれるな?」
ルーク様の胸に顔を埋めていたわたしは、そっと、顔を上げてルーク様と目を合わせる。
ルーク様は穏やかな優しい瞳でわたしを見つめていた。
「ん? どうした、ニーナ」
優しく微笑むルーク様は、すっかり大人の人だ。
わたしがワガママで困らせているのに、余裕を見せている。
わかってる。
ルーク様だって、好きで英雄なんかに生まれた訳じゃない。
その生まれのために、辛い思いもしただろう。
けれど、それを呑み込んで、今、こうして微笑んでくれているんだ。
「……ワガママ言って、ごめんなさい……」
小さい声で謝ると、ルーク様はとても嬉しそうに笑った。
「そういえば、ジーナはワガママなんか言ったことなかったな。いいんだ、ニーナ。ワガママ言ってくれて。なんでも言ってくれ。いろんな顔のニーナを見せてくれ」
わたしはとても切なくなって、そんな顔を見られるのが嫌で、またルーク様の胸に顔を埋めた。
「ルーク様。わたし、ルーク様が討伐に行かれるまでに、最大限の光の加護をルーク様の剣に付与できるようがんばります」
顔を埋めたままなのでわからないけど、わたしの言葉を聞いてルーク様は腕に一層力を入れてわたしを抱きしめた。
「ああ。ニーナの想いの強さが、オレの強さになるからな」
その夜は、そのままルーク様の腕の中で眠りについた。
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