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14章 氷解
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「ほ、ほんとうにジーナ様なのですか……?」
信じられないという顔をして、フランクさんが言う。
だから、わたしは素直に頷いた。
「はい。ジーナです。当時はフランクさんとはあまりお会いしませんでしたが、サリーさんにはあの頃からよくお世話になりました」
わたしは左足を斜め後ろの内側に引き、2人にカーテシーをして、貴族令嬢だったジーナとしての礼を尽くした。
足を戻し直立すると、わたしの後ろにルーク様がまわり、わたしの手を取りソファまで連れて行く。
そして、わたしたちは揃ってソファに腰を下ろした。
ルーク様は紅茶に手を伸ばし、一口飲んでから2人に向き直る。
向かいに座るおふたりは何も言葉を発せず、ただただルーク様を見つめていた。
「信じられないのも無理はない。オレだって気付いていながら、まさかまさかと事実確認を先延ばしにしていた」
えっ、ルーク様、そんなに早くから気が付いていたの?
後でいつわかったのか聞いてみよう。
「正真正銘、ニーナはジーナだ」
そう言うと、ルーク様は柔らかく微笑んだ。
その笑みを見て、サリーさんも紅茶に手を伸ばす。
こくんと一口飲んで、ふぅと息をついた。
「承知しました。ルーク様がそんなに柔らかく微笑まれたのは、ジーナ様が生きていらした時以来です。それに、わたしもなんとなくニーナを見ていて既視感がありました。わたしは、ルーク様がおっしゃることを信じます」
サリーさんが温かい笑みを浮かべてそう言うと、今度はフランクさんも紅茶に手を伸ばす。
「正直、わたしはジーナ様とはあまり接点がありませんでした。ですので、ニーナがジーナ様であると感じることができません。しかし、サリーの言うように、ルーク様の様子を見るにジーナ様であることは間違い無いでしょう。ルーク様、ニーナをこの屋敷に連れてきたのはこのわたしですぞ。ゆめゆめ、お忘れなきように」
フランクさんはそう言い切って、紅茶に口をつけた。
「ふっ、ははっ。確かに、ニーナを連れてきてくれたのはフランクだ。ほんとうに感謝する」
ルーク様が頭を下げると、フランクさんは心持ち胸を張った。
主人が頭を下げるのを見る執事とか、主人の前で寛いで紅茶を飲む執事とか、大変珍しいものを見せていただきました。
「ところで、フランクとサリーにこのことを明かしたのには訳があるんだ」
ルーク様が真面目な顔で言うと、2人は姿勢を正した。
フランクさんも、いつもの優秀執事の態度に戻っている。
「実は、国王達の命令で、すぐに討伐体制に入らなければならなくなった。フランクとサリーが知っているように、……まぁその他の者も噂で知っているようだが、オレとローゼリアの討伐隊での連携は全くいい状態ではない。このまま討伐に行けばどうなるかはわからない。ニーナに加護をもらって出陣するつもりではあるが、オレが死んだ後、ニーナのことを2人に頼みたい」
ルーク様が言ったことを、わたしの中で咀嚼する。
……え?
どうなるかわからないって……。
「ルーク様! わたし聞いてない!」
近いだろうとは思っていたけど、そんなにすぐだなんて。
思わぬ事を言われ、わたしはルーク様に掴みかかった。
「いや、落ち着けニーナ」
「これが落ち着いていられますか!?」
ぐっ、ルーク様の腕を掴んでその瞳を覗き込む。
「もう討伐隊を出すことは決まってるんだ。今のままでは危ういことは、誰もが知っている。だったら、その後のことも考えておかねばならないだろう」
ひどく真剣な目でわたしに告げるルーク様に、頭から冷や水を掛けられた気分になる。
せっかく、せっかく逢えたのに。
せっかく想いを確かめ合えたのに、また、離ればなれになってしまうの……?
信じられないという顔をして、フランクさんが言う。
だから、わたしは素直に頷いた。
「はい。ジーナです。当時はフランクさんとはあまりお会いしませんでしたが、サリーさんにはあの頃からよくお世話になりました」
わたしは左足を斜め後ろの内側に引き、2人にカーテシーをして、貴族令嬢だったジーナとしての礼を尽くした。
足を戻し直立すると、わたしの後ろにルーク様がまわり、わたしの手を取りソファまで連れて行く。
そして、わたしたちは揃ってソファに腰を下ろした。
ルーク様は紅茶に手を伸ばし、一口飲んでから2人に向き直る。
向かいに座るおふたりは何も言葉を発せず、ただただルーク様を見つめていた。
「信じられないのも無理はない。オレだって気付いていながら、まさかまさかと事実確認を先延ばしにしていた」
えっ、ルーク様、そんなに早くから気が付いていたの?
後でいつわかったのか聞いてみよう。
「正真正銘、ニーナはジーナだ」
そう言うと、ルーク様は柔らかく微笑んだ。
その笑みを見て、サリーさんも紅茶に手を伸ばす。
こくんと一口飲んで、ふぅと息をついた。
「承知しました。ルーク様がそんなに柔らかく微笑まれたのは、ジーナ様が生きていらした時以来です。それに、わたしもなんとなくニーナを見ていて既視感がありました。わたしは、ルーク様がおっしゃることを信じます」
サリーさんが温かい笑みを浮かべてそう言うと、今度はフランクさんも紅茶に手を伸ばす。
「正直、わたしはジーナ様とはあまり接点がありませんでした。ですので、ニーナがジーナ様であると感じることができません。しかし、サリーの言うように、ルーク様の様子を見るにジーナ様であることは間違い無いでしょう。ルーク様、ニーナをこの屋敷に連れてきたのはこのわたしですぞ。ゆめゆめ、お忘れなきように」
フランクさんはそう言い切って、紅茶に口をつけた。
「ふっ、ははっ。確かに、ニーナを連れてきてくれたのはフランクだ。ほんとうに感謝する」
ルーク様が頭を下げると、フランクさんは心持ち胸を張った。
主人が頭を下げるのを見る執事とか、主人の前で寛いで紅茶を飲む執事とか、大変珍しいものを見せていただきました。
「ところで、フランクとサリーにこのことを明かしたのには訳があるんだ」
ルーク様が真面目な顔で言うと、2人は姿勢を正した。
フランクさんも、いつもの優秀執事の態度に戻っている。
「実は、国王達の命令で、すぐに討伐体制に入らなければならなくなった。フランクとサリーが知っているように、……まぁその他の者も噂で知っているようだが、オレとローゼリアの討伐隊での連携は全くいい状態ではない。このまま討伐に行けばどうなるかはわからない。ニーナに加護をもらって出陣するつもりではあるが、オレが死んだ後、ニーナのことを2人に頼みたい」
ルーク様が言ったことを、わたしの中で咀嚼する。
……え?
どうなるかわからないって……。
「ルーク様! わたし聞いてない!」
近いだろうとは思っていたけど、そんなにすぐだなんて。
思わぬ事を言われ、わたしはルーク様に掴みかかった。
「いや、落ち着けニーナ」
「これが落ち着いていられますか!?」
ぐっ、ルーク様の腕を掴んでその瞳を覗き込む。
「もう討伐隊を出すことは決まってるんだ。今のままでは危ういことは、誰もが知っている。だったら、その後のことも考えておかねばならないだろう」
ひどく真剣な目でわたしに告げるルーク様に、頭から冷や水を掛けられた気分になる。
せっかく、せっかく逢えたのに。
せっかく想いを確かめ合えたのに、また、離ればなれになってしまうの……?
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