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14章 氷解
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わたしが愛の告白をした後、もう大人になったというのに、ルーク様は綺麗な涙をポロポロと零していた。
幼い恋ではない。
ほんとうに、お互い心から大事な人に出逢い、想いを分かち合ったのだ。
わたしの目からも次々に涙が溢れ落ちて行った。
二人で泣いたり笑ったりをひとしきりした後、いっぱい泣いて水分を消費したね。喉が渇いたねと二人で笑い合って部屋を出ると、フランクさんとサリーさんが走り寄って来た。
「なんだ? 二人とも。血相変えてどうしたんだ?」
ケロリとルーク様が言うと、フランクさんは額に青筋を立てて、大きな声で怒鳴る。
「なんだじゃないでしょう!! 一体、どれだけ心配させれば気が済むんですか! あんな勢いで帰ってきた後、ものすごい剣幕で部屋に引き篭もり、鍵をかけて。心配するのは当たり前でしょう!!」
フランクさんも、何故か目を潤ませて、今にも涙が溢れ落ちそうになりながら、ルーク様を睨みつけた。
歳をとると涙もろくなるって言うけど、フランクさん、まだそんな歳じゃないだろうに。
「そうです! わたしだって心配しました! ルーク様のことはもちろん、ニーナのことだって、心配しました。心配して待っていれば、二人とも目が真っ赤になっているのに笑顔で出てきて。一体、何がどうなってるんですかっ!」
サリーさんも大きな声を出す。
こちらは目尻でなんとか涙が止まっているフランクさんと違い、ホロホロと涙が溢れ出ていた。
わたしとルーク様がびっくりして目をまん丸にして二人を見ていると、別棟内にいた他の使用人たちが何事が起きたのかと、遠くの廊下から様子を伺い出した。
ルーク様はそれを見て、部屋のドアを開けて端に身を寄せる。
「あー、フランクもサリーも心配かけて悪かった。ちょっと話があるから、オレの部屋へ入ってくれ。ニーナ、悪いが茶を入れて来てくれないか? 二人にも話しておきたいが、喉が渇いて」
「かしこまりました」
ルーク様はふたりを部屋に招き入れる。
多分、わたしも赤い目をしているんだろうけど、素知らぬ顔をして腰を折り頭を下げてから、キッチンへとお茶を入れに向かった。
4人分のお茶とちょっとしたお茶うけのクッキーをワゴンに乗せて、ルーク様の部屋に戻るとフランクさんとサリーさんはルーク様と向かい合わせのソファに座っていた。
ルーク様と2人のお茶を目の前に置いた後、自分のお茶はどこに置こうか悩む。
フランクさん達が座っているソファは3人掛けだから、多分そっちでいいんだよね。
だって、わたし使用人だし!
わたしがお茶を持ってサリーさんの隣に行こうとすると、ルーク様から不機嫌そうな声が上がった。
「おまえはどこに行こうとしているんだ。おまえの席はこっちだろう」
ムッとした表情で、ルーク様は目線でご自分の隣を示した。
はいはい。
ルーク様のお隣りですね。
お茶をローテーブルに置いて、ルーク様の隣に座る。
顔を上げてフランクさんとサリーさんの方を見ると、なんとも言えない表情をしていた。
なんとなく、声があげられる雰囲気ではなかったので、大人しく座ったまま、紅茶で喉を潤す。
この、張り詰めた糸のような空気を破ったのは、フランクさんだった。
「ルーク様、お気持ちはわかりますが、ニーナをジーナ様だとおっしゃるのは……」
困惑した表情で、心配そうにルーク様を見ている。
あ、ルーク様言っちゃったんだ。
ミラー家では、あんまり言っちゃいけないような雰囲気だったから、そういうものかと思っていた。
だから、近くにいたメルはもちろん、お父様やお姉様もわたしのことは知らない。
どうするのがいいかわからず、成り行きを見守っていると、サリーさんが立ち上がる。
「ルーク様、お疲れなんですよ。すぐ横になってください。今、お医者様をお呼びしますから」
オロオロとした様子だけど、はっきりとそう言うサリーさんに、ルーク様は眉間に皺を寄せた。
「落ち着け、サリー。オレは正気だ。いいから座れ」
ルーク様はサリーさんをソファに座らせると、代わりに自分が立ち上がった。
本棚の横にある花瓶を指さすと、わたしの方に向き直る。
「ニーナ、この花瓶の花を風の魔法で揺らしてみろ」
ルーク様が何をしたいのかわからないけど、わたしもその場に立ち上がり、右手を花瓶の方へ伸ばす。
「風よ、吹け」
わたしが言葉を紡ぐと、バサバサっと花が揺れる。
満足そうにそれを見ると、ルーク様は花瓶の置いてある台の引き出しを開けて、花きり鋏を取り出す。
何も言わずに、その鋏で自分の左腕を薄く傷つけた。
「ルーク様!」
とろりと血が流れ出すのを見て、わたしは慌ててルーク様に駆け寄った。
「何やってんですか!」
ルーク様の左腕を持ち上げて、光の魔法を使う。
すーっと、ルーク様を傷を撫でると、その傷はピッタリとくっついて、跡形も無くなった。
ポケットに入れてあったハンカチでルーク様の血を拭う。
うん。
綺麗に消えている。
わたしは満足してハンカチをポケットに仕舞い、もとのソファに戻るべく振り返ると、フランクさん達が目を丸くしてこちらを見ていた。
「光の魔法……」
「え、ちょっと待って! ニーナは今、風の魔法も使ったわよね?」
2人は信じられないものを見たような目をこちらに向ける。
それを見たルーク様は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「2人も知っているように、魔法は生まれ持った資質が重要で、ひとりの人間に二属性宿ることはない。風の魔法はニーナの資質、光の魔法はジーナの資質だ。これを併せ持ったニーナという者が、どういう人物か、わかってもらえただろうか」
幼い恋ではない。
ほんとうに、お互い心から大事な人に出逢い、想いを分かち合ったのだ。
わたしの目からも次々に涙が溢れ落ちて行った。
二人で泣いたり笑ったりをひとしきりした後、いっぱい泣いて水分を消費したね。喉が渇いたねと二人で笑い合って部屋を出ると、フランクさんとサリーさんが走り寄って来た。
「なんだ? 二人とも。血相変えてどうしたんだ?」
ケロリとルーク様が言うと、フランクさんは額に青筋を立てて、大きな声で怒鳴る。
「なんだじゃないでしょう!! 一体、どれだけ心配させれば気が済むんですか! あんな勢いで帰ってきた後、ものすごい剣幕で部屋に引き篭もり、鍵をかけて。心配するのは当たり前でしょう!!」
フランクさんも、何故か目を潤ませて、今にも涙が溢れ落ちそうになりながら、ルーク様を睨みつけた。
歳をとると涙もろくなるって言うけど、フランクさん、まだそんな歳じゃないだろうに。
「そうです! わたしだって心配しました! ルーク様のことはもちろん、ニーナのことだって、心配しました。心配して待っていれば、二人とも目が真っ赤になっているのに笑顔で出てきて。一体、何がどうなってるんですかっ!」
サリーさんも大きな声を出す。
こちらは目尻でなんとか涙が止まっているフランクさんと違い、ホロホロと涙が溢れ出ていた。
わたしとルーク様がびっくりして目をまん丸にして二人を見ていると、別棟内にいた他の使用人たちが何事が起きたのかと、遠くの廊下から様子を伺い出した。
ルーク様はそれを見て、部屋のドアを開けて端に身を寄せる。
「あー、フランクもサリーも心配かけて悪かった。ちょっと話があるから、オレの部屋へ入ってくれ。ニーナ、悪いが茶を入れて来てくれないか? 二人にも話しておきたいが、喉が渇いて」
「かしこまりました」
ルーク様はふたりを部屋に招き入れる。
多分、わたしも赤い目をしているんだろうけど、素知らぬ顔をして腰を折り頭を下げてから、キッチンへとお茶を入れに向かった。
4人分のお茶とちょっとしたお茶うけのクッキーをワゴンに乗せて、ルーク様の部屋に戻るとフランクさんとサリーさんはルーク様と向かい合わせのソファに座っていた。
ルーク様と2人のお茶を目の前に置いた後、自分のお茶はどこに置こうか悩む。
フランクさん達が座っているソファは3人掛けだから、多分そっちでいいんだよね。
だって、わたし使用人だし!
わたしがお茶を持ってサリーさんの隣に行こうとすると、ルーク様から不機嫌そうな声が上がった。
「おまえはどこに行こうとしているんだ。おまえの席はこっちだろう」
ムッとした表情で、ルーク様は目線でご自分の隣を示した。
はいはい。
ルーク様のお隣りですね。
お茶をローテーブルに置いて、ルーク様の隣に座る。
顔を上げてフランクさんとサリーさんの方を見ると、なんとも言えない表情をしていた。
なんとなく、声があげられる雰囲気ではなかったので、大人しく座ったまま、紅茶で喉を潤す。
この、張り詰めた糸のような空気を破ったのは、フランクさんだった。
「ルーク様、お気持ちはわかりますが、ニーナをジーナ様だとおっしゃるのは……」
困惑した表情で、心配そうにルーク様を見ている。
あ、ルーク様言っちゃったんだ。
ミラー家では、あんまり言っちゃいけないような雰囲気だったから、そういうものかと思っていた。
だから、近くにいたメルはもちろん、お父様やお姉様もわたしのことは知らない。
どうするのがいいかわからず、成り行きを見守っていると、サリーさんが立ち上がる。
「ルーク様、お疲れなんですよ。すぐ横になってください。今、お医者様をお呼びしますから」
オロオロとした様子だけど、はっきりとそう言うサリーさんに、ルーク様は眉間に皺を寄せた。
「落ち着け、サリー。オレは正気だ。いいから座れ」
ルーク様はサリーさんをソファに座らせると、代わりに自分が立ち上がった。
本棚の横にある花瓶を指さすと、わたしの方に向き直る。
「ニーナ、この花瓶の花を風の魔法で揺らしてみろ」
ルーク様が何をしたいのかわからないけど、わたしもその場に立ち上がり、右手を花瓶の方へ伸ばす。
「風よ、吹け」
わたしが言葉を紡ぐと、バサバサっと花が揺れる。
満足そうにそれを見ると、ルーク様は花瓶の置いてある台の引き出しを開けて、花きり鋏を取り出す。
何も言わずに、その鋏で自分の左腕を薄く傷つけた。
「ルーク様!」
とろりと血が流れ出すのを見て、わたしは慌ててルーク様に駆け寄った。
「何やってんですか!」
ルーク様の左腕を持ち上げて、光の魔法を使う。
すーっと、ルーク様を傷を撫でると、その傷はピッタリとくっついて、跡形も無くなった。
ポケットに入れてあったハンカチでルーク様の血を拭う。
うん。
綺麗に消えている。
わたしは満足してハンカチをポケットに仕舞い、もとのソファに戻るべく振り返ると、フランクさん達が目を丸くしてこちらを見ていた。
「光の魔法……」
「え、ちょっと待って! ニーナは今、風の魔法も使ったわよね?」
2人は信じられないものを見たような目をこちらに向ける。
それを見たルーク様は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「2人も知っているように、魔法は生まれ持った資質が重要で、ひとりの人間に二属性宿ることはない。風の魔法はニーナの資質、光の魔法はジーナの資質だ。これを併せ持ったニーナという者が、どういう人物か、わかってもらえただろうか」
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