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14章 氷解
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すっと離れていく唇に、寂しさを感じる。
「ルーク様……」
「ニーナから見たら、オレは随分歳をとってしまったが、オレと結婚してくれるか?」
突然の愛の告白から、スピードプロポーズにびっくりする。
「へっ? け、結婚って」
転生してからは、結婚ってすごく遠い未来の話だった。
前世貴族だった時は、小さな頃から婚約者がいることが当たり前だったし、婚約どころか政略結婚のために早くに嫁ぐことも当たり前だった。
でも、平民は違う。
平民の娘が嫁ぐのは、生活基盤の整った先だ。
当然、貴族のように幼少の頃から生活基盤ができているわけもないので、それなりに稼げるようになる10代後半から20代前半くらいまでは、男の人は結婚できない。
必然的に、お嫁さんも同じくらいの歳になる。
だから、わたしも結婚はまだまだ先だと思っていたのだ。
わたしが戸惑っているのを見て、ルーク様の眉がピクリと動く。
「……まさか、誰か結婚を約束した者がいるわけではあるまいな」
「い、いるわけないじゃないですか!」
「じゃあ、なんで即答しないんだ」
「で、できるわけ、ないじゃないですか……」
大人になったルーク様は、とても素敵だ。
昔は女の子のように華奢なお顔をしていたが、大人になったルーク様は逞しさも兼ね備えた美しさがあり、魔物を倒す英雄だ。
そして、自分の身を見返せば、なんの力もない小娘で、顔だってスタイルだって十人並だ。
ルーク様に釣り合うものなど何もない。
考えれば考えるほど思い知らさせて、しゅんとしてしまう。
そんな様子に、ルーク様はわたしの考えていることがわかったのか、クスリと笑って再度わたしを抱きしめた。
「ニーナ、なんにもいらないんだ。何も持ってなくていい。容姿も何も関係ない。君が君である限り、オレはニーナを愛し続ける」
ルーク様はわたしを抱く手に力を入れる。
「だから、もうオレの前からいなくならないでくれ」
その言葉を言ったルーク様の手は、微かに震えていた。
ああ、そうか。
わたしがいなくなってからの14年間、ルーク様はずっとひとりだった。
いや、違う。
お兄様や討伐隊のみんな、そしてアロン様もきっとルーク様に寄り添ってくれていたと思うけど、そこにわたしがいなかった。
ルーク様が一番求めてくれていた、わたしが、わたしだけがいなかったのだ。
この人がわたしをどれだけ求めてくれたのか。
それが、すごくよくわかる。
ふぅ。
わたしは観念した。
身分とか釣り合いとか、関係ない。
ルーク様がわたしを求めて、わたしがルーク様と一緒に居たい。
そのお互いの気持ちだけで充分だ。
そっと、ルーク様の手にわたしの手を乗せる。
「はい。ルーク様。わたしはもうどこにも行きません。ずっとルーク様のお側に居ります。わたしでよければ、ルーク様のお嫁さんにしてください」
熱くなる目頭をそのままに、わたしはルーク様の瞳を見つめた。
初めてルーク様にお会いした時に見た、穏やかな深い森のようなエメラルドのような目がわたしを見つめ返す。
「健やかなる時も、病める時も、死が二人を別つとも、ニーナだけを愛することを誓う」
「はい。わたしも、永遠にルーク様だけを愛します」
わたしはそっと、ルーク様の身体に腕を絡ませる。
「ルーク様、愛しています」
わたしは、昔子爵令嬢だった。
上位貴族であるルーク様とは釣り合わないと、昔から思っていた。
だから、前世でも"愛している"と言ったことはない。
それが枷になり、ルーク様の魔物討伐が終わった後に、ルーク様にお似合いの令嬢が現れた時に自分から去れるように、心にストッパーをかけていたのだ。
子どもでも言える"大好き"は言ったことがあるけど、決定的な言葉の"愛してる"は言わないようにしていた。
死ぬ間際でさえ、それが頭によぎっていたのだ。
けれど、今なら言える。
わたしはルーク様を愛してる。
わたしの唯一。
それは、ルーク様だ。
「ルーク様……」
「ニーナから見たら、オレは随分歳をとってしまったが、オレと結婚してくれるか?」
突然の愛の告白から、スピードプロポーズにびっくりする。
「へっ? け、結婚って」
転生してからは、結婚ってすごく遠い未来の話だった。
前世貴族だった時は、小さな頃から婚約者がいることが当たり前だったし、婚約どころか政略結婚のために早くに嫁ぐことも当たり前だった。
でも、平民は違う。
平民の娘が嫁ぐのは、生活基盤の整った先だ。
当然、貴族のように幼少の頃から生活基盤ができているわけもないので、それなりに稼げるようになる10代後半から20代前半くらいまでは、男の人は結婚できない。
必然的に、お嫁さんも同じくらいの歳になる。
だから、わたしも結婚はまだまだ先だと思っていたのだ。
わたしが戸惑っているのを見て、ルーク様の眉がピクリと動く。
「……まさか、誰か結婚を約束した者がいるわけではあるまいな」
「い、いるわけないじゃないですか!」
「じゃあ、なんで即答しないんだ」
「で、できるわけ、ないじゃないですか……」
大人になったルーク様は、とても素敵だ。
昔は女の子のように華奢なお顔をしていたが、大人になったルーク様は逞しさも兼ね備えた美しさがあり、魔物を倒す英雄だ。
そして、自分の身を見返せば、なんの力もない小娘で、顔だってスタイルだって十人並だ。
ルーク様に釣り合うものなど何もない。
考えれば考えるほど思い知らさせて、しゅんとしてしまう。
そんな様子に、ルーク様はわたしの考えていることがわかったのか、クスリと笑って再度わたしを抱きしめた。
「ニーナ、なんにもいらないんだ。何も持ってなくていい。容姿も何も関係ない。君が君である限り、オレはニーナを愛し続ける」
ルーク様はわたしを抱く手に力を入れる。
「だから、もうオレの前からいなくならないでくれ」
その言葉を言ったルーク様の手は、微かに震えていた。
ああ、そうか。
わたしがいなくなってからの14年間、ルーク様はずっとひとりだった。
いや、違う。
お兄様や討伐隊のみんな、そしてアロン様もきっとルーク様に寄り添ってくれていたと思うけど、そこにわたしがいなかった。
ルーク様が一番求めてくれていた、わたしが、わたしだけがいなかったのだ。
この人がわたしをどれだけ求めてくれたのか。
それが、すごくよくわかる。
ふぅ。
わたしは観念した。
身分とか釣り合いとか、関係ない。
ルーク様がわたしを求めて、わたしがルーク様と一緒に居たい。
そのお互いの気持ちだけで充分だ。
そっと、ルーク様の手にわたしの手を乗せる。
「はい。ルーク様。わたしはもうどこにも行きません。ずっとルーク様のお側に居ります。わたしでよければ、ルーク様のお嫁さんにしてください」
熱くなる目頭をそのままに、わたしはルーク様の瞳を見つめた。
初めてルーク様にお会いした時に見た、穏やかな深い森のようなエメラルドのような目がわたしを見つめ返す。
「健やかなる時も、病める時も、死が二人を別つとも、ニーナだけを愛することを誓う」
「はい。わたしも、永遠にルーク様だけを愛します」
わたしはそっと、ルーク様の身体に腕を絡ませる。
「ルーク様、愛しています」
わたしは、昔子爵令嬢だった。
上位貴族であるルーク様とは釣り合わないと、昔から思っていた。
だから、前世でも"愛している"と言ったことはない。
それが枷になり、ルーク様の魔物討伐が終わった後に、ルーク様にお似合いの令嬢が現れた時に自分から去れるように、心にストッパーをかけていたのだ。
子どもでも言える"大好き"は言ったことがあるけど、決定的な言葉の"愛してる"は言わないようにしていた。
死ぬ間際でさえ、それが頭によぎっていたのだ。
けれど、今なら言える。
わたしはルーク様を愛してる。
わたしの唯一。
それは、ルーク様だ。
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