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14章 氷解
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「廃嫡って……」
わたしはその言葉のパワーに圧倒される。
「討伐に成功して爵位を継いだら、まず間違いなくローゼリアとの結婚は強制される。断ればディヴィス家の存続を盾に取られ、オレは断りきれなくなる。だから、討伐が終わったらその日のうちに廃嫡の手続きをする予定だ。いくら英雄としてこの王都に帰ってきても、プライドの高いローゼリアを平民に降嫁させることはないだろう」
「廃嫡の理由は?」
「そうだな。魔物との戦いで負傷し、余命いくばくもなく、爵位を継げないことにでもするかな」
ルーク様は貴族であることに、なんの未練もないようだった。
だけど、わたしはどうしても納得ができなかった。
「命をかけてこの国を護るあなたが廃嫡なんて……」
思わず目を伏せてしまう。
そんなわたしをルーク様は抱き寄せた。
「オレは、地位も名誉もいらない。貴族の身分も余計な荷物だと思ってる。ジーナがこうしてオレの腕の中に還ってきた今、尚更そう思う。ジーナが居てくれれば、それだけでいいんだ」
それから、ルーク様はわたしが居なくなった後、何があったかを話してくれた。
顔の火傷がなくなり、婚約者も居なくなったルーク様は、すぐに王家からローゼリア様との婚約が持ちかけられる。
断り続けたが、ローゼリア様からディヴィス家とアロンがどうなってもいいのかと脅され、また熱心に口説く王家にディヴィス侯爵様が首を縦に振り、ルーク様の意思は不在のまま、婚約を結んだと。
ルーク様の婚約者となったことで、ローゼリア様が光の術者討伐隊の長となり、ルーク様率いる討伐隊と合同訓練を行うも、成果が出ず苦しんでいたと。
わたしもまた、ルーク様にあれからのことを話した。
ニーナとして生を受け、前世の記憶が戻るまでと戻ってから。
どうしてお兄様が知っていたのか。
何故、光の魔法が使えるのか。
「では、光の魔法はずっと前から使えていたのか」
「はい。でも、産まれた時に教会で下されたのは風の術者の判定のみでした。もしかしたら、少しずつ前世の記憶が覚醒してきたのに反応して、光の魔法も使えるようになったのかもしれないです。そして、光の魔法を勉強し始めたのは最近ですし、ジーナの頃の魔法の教科書を読んだりして独学で学んだので、ちょっと自信がないです」
「そうか……」
ルーク様はわたしを膝の上に抱えたまま、離さずに「うーん」と唸り、考え込んだ。
「あの、ルーク様。息が耳元にかかります。ドキドキしちゃうので、そろそろ離していただけませんか?」
「やだ」
駄々っ子か!?
「いえいえ、ルーク様。困りますって」
「何が?」
「え? いや、でも、だって」
ルーク様はわたしがジーナだってわかってから、ニーナの頃に接したようなご主人様として威厳たっぷりの態度がなくなってしまった。
昔の、ジーナと対等に話していた頃のルーク様のようだ。
「せっかくジーナがいるのに、なんで離れて居なくちゃならないんだ?」
「なんでって……」
廃嫡希望であるとしても、今は侯爵家の御子息様だ。
婚約者も、書類上だけのことであってもいらっしゃることに変わりはない。
何より、身分が違い過ぎる。
子爵家の令嬢として婚約していた時だって、身分に差があったのだ。
今となっては、裕福とはいえ平民の小娘。
畏れ多すぎて、どうにも居心地が悪い。
「考えが全部顔に出てるぞ。身分は関係ないからな。オレが愛しているのはおまえだけだ」
どきんっ!
愛してるって……。
そして、ルーク様はわたしの顔をルーク様の方に向けさせて、わたしの両頬を両手で覆う。
「他の誰とも結婚なんかしない。ニーナ、愛してる」
ボンっ!
わたしの顔は爆発したみたいに、真っ赤になった。
どうしていいのかわからずに、焦ってルーク様を見る。
「? どうした、ニーナ」
「だって、ルーク様、あいしてるって、その、あの」
「オレがおまえに気持ちを伝えるのは初めてじゃないだろう?」
「初めてですっ! 前世今世合わせても、こんな告白されたのは初めてですってば!」
その言葉にルーク様は目を丸くした。
「初めて……?」
「そうです!」
すーっと、ルーク様の視線が天井の方へ向く。
どうやら、記憶を反芻しているみたい。
ふーっと、またルーク様の視線がわたしに戻ってきた。
「どうやら昔のオレは幼すぎて、ストレートに気持ちが伝えられなかったみたいだ。好きだとは言っていたつもりだが、愛を告げたことはなかったかもしれないな」
熱を帯びたルーク様の視線が、わたしの瞳を貫く。
「ニーナ、愛してる」
再びの愛の告白と共に、わたしの唇にルーク様の唇が重なった。
わたしはその言葉のパワーに圧倒される。
「討伐に成功して爵位を継いだら、まず間違いなくローゼリアとの結婚は強制される。断ればディヴィス家の存続を盾に取られ、オレは断りきれなくなる。だから、討伐が終わったらその日のうちに廃嫡の手続きをする予定だ。いくら英雄としてこの王都に帰ってきても、プライドの高いローゼリアを平民に降嫁させることはないだろう」
「廃嫡の理由は?」
「そうだな。魔物との戦いで負傷し、余命いくばくもなく、爵位を継げないことにでもするかな」
ルーク様は貴族であることに、なんの未練もないようだった。
だけど、わたしはどうしても納得ができなかった。
「命をかけてこの国を護るあなたが廃嫡なんて……」
思わず目を伏せてしまう。
そんなわたしをルーク様は抱き寄せた。
「オレは、地位も名誉もいらない。貴族の身分も余計な荷物だと思ってる。ジーナがこうしてオレの腕の中に還ってきた今、尚更そう思う。ジーナが居てくれれば、それだけでいいんだ」
それから、ルーク様はわたしが居なくなった後、何があったかを話してくれた。
顔の火傷がなくなり、婚約者も居なくなったルーク様は、すぐに王家からローゼリア様との婚約が持ちかけられる。
断り続けたが、ローゼリア様からディヴィス家とアロンがどうなってもいいのかと脅され、また熱心に口説く王家にディヴィス侯爵様が首を縦に振り、ルーク様の意思は不在のまま、婚約を結んだと。
ルーク様の婚約者となったことで、ローゼリア様が光の術者討伐隊の長となり、ルーク様率いる討伐隊と合同訓練を行うも、成果が出ず苦しんでいたと。
わたしもまた、ルーク様にあれからのことを話した。
ニーナとして生を受け、前世の記憶が戻るまでと戻ってから。
どうしてお兄様が知っていたのか。
何故、光の魔法が使えるのか。
「では、光の魔法はずっと前から使えていたのか」
「はい。でも、産まれた時に教会で下されたのは風の術者の判定のみでした。もしかしたら、少しずつ前世の記憶が覚醒してきたのに反応して、光の魔法も使えるようになったのかもしれないです。そして、光の魔法を勉強し始めたのは最近ですし、ジーナの頃の魔法の教科書を読んだりして独学で学んだので、ちょっと自信がないです」
「そうか……」
ルーク様はわたしを膝の上に抱えたまま、離さずに「うーん」と唸り、考え込んだ。
「あの、ルーク様。息が耳元にかかります。ドキドキしちゃうので、そろそろ離していただけませんか?」
「やだ」
駄々っ子か!?
「いえいえ、ルーク様。困りますって」
「何が?」
「え? いや、でも、だって」
ルーク様はわたしがジーナだってわかってから、ニーナの頃に接したようなご主人様として威厳たっぷりの態度がなくなってしまった。
昔の、ジーナと対等に話していた頃のルーク様のようだ。
「せっかくジーナがいるのに、なんで離れて居なくちゃならないんだ?」
「なんでって……」
廃嫡希望であるとしても、今は侯爵家の御子息様だ。
婚約者も、書類上だけのことであってもいらっしゃることに変わりはない。
何より、身分が違い過ぎる。
子爵家の令嬢として婚約していた時だって、身分に差があったのだ。
今となっては、裕福とはいえ平民の小娘。
畏れ多すぎて、どうにも居心地が悪い。
「考えが全部顔に出てるぞ。身分は関係ないからな。オレが愛しているのはおまえだけだ」
どきんっ!
愛してるって……。
そして、ルーク様はわたしの顔をルーク様の方に向けさせて、わたしの両頬を両手で覆う。
「他の誰とも結婚なんかしない。ニーナ、愛してる」
ボンっ!
わたしの顔は爆発したみたいに、真っ赤になった。
どうしていいのかわからずに、焦ってルーク様を見る。
「? どうした、ニーナ」
「だって、ルーク様、あいしてるって、その、あの」
「オレがおまえに気持ちを伝えるのは初めてじゃないだろう?」
「初めてですっ! 前世今世合わせても、こんな告白されたのは初めてですってば!」
その言葉にルーク様は目を丸くした。
「初めて……?」
「そうです!」
すーっと、ルーク様の視線が天井の方へ向く。
どうやら、記憶を反芻しているみたい。
ふーっと、またルーク様の視線がわたしに戻ってきた。
「どうやら昔のオレは幼すぎて、ストレートに気持ちが伝えられなかったみたいだ。好きだとは言っていたつもりだが、愛を告げたことはなかったかもしれないな」
熱を帯びたルーク様の視線が、わたしの瞳を貫く。
「ニーナ、愛してる」
再びの愛の告白と共に、わたしの唇にルーク様の唇が重なった。
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