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2章 気持ちを育む
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それからわたしは、お父様と相談をして、あまり詰め過ぎないくらい間隔をあけてルーク様の家に遊びに行くことになった。
「ルーク様! お庭の噴水で遊びましょうよ」
今日は久しぶりにルーク様のおうちに遊びに来た。
ルーク様は、今日はきちんと起きていらしてわたしを玄関まで迎えてくれた。
わたしに慣れてくれたのか、顔も隠さないで普通に接してくれる。
「噴水ー? 噴水でどうやって遊ぶんだよ」
我が家の庭には噴水がない。
わたしはお庭に噴水があるのが珍しくて仕方がない。
「ばしゃばしゃとお水遊びしましょうよ」
「ばーか。噴水は入るもんじゃないぞ」
「ええー……」
そうか。
あんなにお水がたくさんあって涼しそうなのに、入れないのか。
「じゃあ、今度ミラー家にルーク様が遊びに来てください。うちの近くには川があります。入って水遊びすると涼しいし楽しいですよ」
わたしがそう言うと、ルーク様は変な顔をした。
「……水に入るのか?」
「はい! ばしゃばしゃすると、お水が太陽にキラキラ反射して綺麗です」
ルーク様は少し考えてから「ゆるす」と一言小さな声で言う。
わたしは首を傾げた。
「何をですか?」
ルーク様は顔の半分、火傷をしていない部分を赤くして言う。
「~~~だから、水遊びだ! 噴水に入ることを許す!」
「わあっ!」
わたしは嬉しくなって、ルーク様の手を引いてお庭の噴水のところまで行った。
あまりお花の咲いていない、少し寂しいお庭の真ん中に、小さな、と言っても半径2メートルくらいの噴水だ。
ルーク様の今日のお洋服は白いシャツにサスペンダーのついた黒い膝上の短いズボンだ。
膝上のズボンなら水に入っても濡れないかな。
「ルーク様、靴と靴下を脱いでください」
「えっ」
ルーク様はびっくりしたような顔をした。
「だって、そのままでは靴下が濡れて風邪を引きますよ」
わたしは目を丸くして突っ立っているルーク様をよそに、靴と靴下を脱ぎ、スカートを織り込んで下着の裾に入れた。
「なっ、何をしているんだ!!」
ルーク様が顔を赤くしてわたしを指差す。
「何って、水遊びの支度です。濡れちゃったら風邪を引くって言ったでしょう?」
どうしてだか、ルーク様の付き添いはいないので、側にいるのはうちのメルだけだ。
メルはわたしがいつも川遊びで同じ格好をしているから、びっくりすることもなく見守っている。
「おっ、おまえは貴族の子女だろう! 恥じらいというものがないのか! 令嬢が足を出すなんて何事だ!!」
ルーク様が指差したまま、叫んでいたけど、わたしは気にせず噴水に足をつける。
「足って言っても膝から下じゃないですか。ほら、ルーク様も入って。お水が冷たくて気持ちいいですよー」
わたしは濡れないように、噴水の水が掛からないところを、ばしゃばしゃ歩いた。
水は膝とくるぶしの間くらいの水位だ。
はぁ~。
冷たくて気持ちいい。
「ルーク様、涼しいですよ。ほら」
わたしはルーク様にも自分にもかからないように、手で水をすくい、空に放り投げた。
キラキラと水しぶきが天から降ってくる。
くすくすと笑い、ルーク様に振り向く。
「ルーク様?」
ルーク様は、ぽーっとわたしを見ていたけど、はっと我に返って首を振った。
「ふん。水遊びくらいで何をそんなにはしゃいでいるんだ。オレも入る」
多分、ルーク様は初めて水に入るのだろう。
恐る恐る足を水に差し入れた。
「えいっ」
わたしはルーク様の膝に水を掛けた。
「うわあっ!」
掛かった水が足の下まで滴り落ちる感覚に、ルーク様が驚く。
「ほら! ばしゃばしゃ歩いて見てください。気持ちいいでしょ」
ルーク様はゆっくりと水の中で歩いている。
「はっ、ははっ。水が足にまとわりつく。風呂に入る感覚とは違うな」
「そりゃ、お風呂はこんなに広くないですからね~」
噴水の流れがある水の中を歩くのが面白いのか、ルーク様はぐるぐると縁に沿って歩いている。
「ルーク様、えいっ!」
もう一度ルーク様の足に水を掛けて、わたしは逃げた。
ばしゃばしゃと噴水の中を走る。
「こらっ、待てっ!」
ルーク様も追いかけてくる。
わたしはうまく水を避けて走るけど、真っ向から水の抵抗を受けて走るルーク様は、結局噴水の中で転んだ。
「大丈夫ですか? ルーク様」
わたしは少し水が掛かってしまった髪をかき上げ、耳にかけながら反対の手をルーク様に差し出した。
ルーク様は、髪からポタポタとしずくの落ちるわたしを見上げると、眩しそうに目を細めた。
あ、わたしの後ろに太陽があるから、逆光で眩しいんだ。
「ほんとに、キラキラと光って綺麗だな」
ルーク様は、眩しそうにしながらも微笑んでわたしの手を取って立ち上がった。
わたしたちは噴水から出ると、メルが慌てて走って来る。
「お嬢様、ルーク様、結構濡れちゃいましたね~」
タオルを持って待っていたメルから二人ともタオルをもらって足を拭く。
わたしは足だけだけど、ルーク様は全身ずぶ濡れだ。
メルにわしゃわしゃと頭を拭かれているルーク様を、しゃがみ込んで下から見上げる。
「ルーク様?」
大人しくしているルーク様が心配になり、そっと上目遣いに見ていると、ルーク様が笑い出した。
「ははっ、ジーナ。遊ぶってこういうことなんだな。腹から笑いがこみ上げて……。くくっ、オレともあろうものが、転んで濡れネズミなど……。あははっ」
楽しそうに笑うルーク様に、わたしは安心した。
「ルーク様、風邪をひきます。お屋敷に戻りましょう」
「ああ!」
わたしとルーク様は手を繋いで、屋敷の中に戻った。
屋敷に戻ると、びしょ濡れのルーク様を見て、執事さんが慌ててメイドを呼び、ルーク様は冷えた身体を温めるように、湯あみをしに連れられて行った。
「ルーク様! お庭の噴水で遊びましょうよ」
今日は久しぶりにルーク様のおうちに遊びに来た。
ルーク様は、今日はきちんと起きていらしてわたしを玄関まで迎えてくれた。
わたしに慣れてくれたのか、顔も隠さないで普通に接してくれる。
「噴水ー? 噴水でどうやって遊ぶんだよ」
我が家の庭には噴水がない。
わたしはお庭に噴水があるのが珍しくて仕方がない。
「ばしゃばしゃとお水遊びしましょうよ」
「ばーか。噴水は入るもんじゃないぞ」
「ええー……」
そうか。
あんなにお水がたくさんあって涼しそうなのに、入れないのか。
「じゃあ、今度ミラー家にルーク様が遊びに来てください。うちの近くには川があります。入って水遊びすると涼しいし楽しいですよ」
わたしがそう言うと、ルーク様は変な顔をした。
「……水に入るのか?」
「はい! ばしゃばしゃすると、お水が太陽にキラキラ反射して綺麗です」
ルーク様は少し考えてから「ゆるす」と一言小さな声で言う。
わたしは首を傾げた。
「何をですか?」
ルーク様は顔の半分、火傷をしていない部分を赤くして言う。
「~~~だから、水遊びだ! 噴水に入ることを許す!」
「わあっ!」
わたしは嬉しくなって、ルーク様の手を引いてお庭の噴水のところまで行った。
あまりお花の咲いていない、少し寂しいお庭の真ん中に、小さな、と言っても半径2メートルくらいの噴水だ。
ルーク様の今日のお洋服は白いシャツにサスペンダーのついた黒い膝上の短いズボンだ。
膝上のズボンなら水に入っても濡れないかな。
「ルーク様、靴と靴下を脱いでください」
「えっ」
ルーク様はびっくりしたような顔をした。
「だって、そのままでは靴下が濡れて風邪を引きますよ」
わたしは目を丸くして突っ立っているルーク様をよそに、靴と靴下を脱ぎ、スカートを織り込んで下着の裾に入れた。
「なっ、何をしているんだ!!」
ルーク様が顔を赤くしてわたしを指差す。
「何って、水遊びの支度です。濡れちゃったら風邪を引くって言ったでしょう?」
どうしてだか、ルーク様の付き添いはいないので、側にいるのはうちのメルだけだ。
メルはわたしがいつも川遊びで同じ格好をしているから、びっくりすることもなく見守っている。
「おっ、おまえは貴族の子女だろう! 恥じらいというものがないのか! 令嬢が足を出すなんて何事だ!!」
ルーク様が指差したまま、叫んでいたけど、わたしは気にせず噴水に足をつける。
「足って言っても膝から下じゃないですか。ほら、ルーク様も入って。お水が冷たくて気持ちいいですよー」
わたしは濡れないように、噴水の水が掛からないところを、ばしゃばしゃ歩いた。
水は膝とくるぶしの間くらいの水位だ。
はぁ~。
冷たくて気持ちいい。
「ルーク様、涼しいですよ。ほら」
わたしはルーク様にも自分にもかからないように、手で水をすくい、空に放り投げた。
キラキラと水しぶきが天から降ってくる。
くすくすと笑い、ルーク様に振り向く。
「ルーク様?」
ルーク様は、ぽーっとわたしを見ていたけど、はっと我に返って首を振った。
「ふん。水遊びくらいで何をそんなにはしゃいでいるんだ。オレも入る」
多分、ルーク様は初めて水に入るのだろう。
恐る恐る足を水に差し入れた。
「えいっ」
わたしはルーク様の膝に水を掛けた。
「うわあっ!」
掛かった水が足の下まで滴り落ちる感覚に、ルーク様が驚く。
「ほら! ばしゃばしゃ歩いて見てください。気持ちいいでしょ」
ルーク様はゆっくりと水の中で歩いている。
「はっ、ははっ。水が足にまとわりつく。風呂に入る感覚とは違うな」
「そりゃ、お風呂はこんなに広くないですからね~」
噴水の流れがある水の中を歩くのが面白いのか、ルーク様はぐるぐると縁に沿って歩いている。
「ルーク様、えいっ!」
もう一度ルーク様の足に水を掛けて、わたしは逃げた。
ばしゃばしゃと噴水の中を走る。
「こらっ、待てっ!」
ルーク様も追いかけてくる。
わたしはうまく水を避けて走るけど、真っ向から水の抵抗を受けて走るルーク様は、結局噴水の中で転んだ。
「大丈夫ですか? ルーク様」
わたしは少し水が掛かってしまった髪をかき上げ、耳にかけながら反対の手をルーク様に差し出した。
ルーク様は、髪からポタポタとしずくの落ちるわたしを見上げると、眩しそうに目を細めた。
あ、わたしの後ろに太陽があるから、逆光で眩しいんだ。
「ほんとに、キラキラと光って綺麗だな」
ルーク様は、眩しそうにしながらも微笑んでわたしの手を取って立ち上がった。
わたしたちは噴水から出ると、メルが慌てて走って来る。
「お嬢様、ルーク様、結構濡れちゃいましたね~」
タオルを持って待っていたメルから二人ともタオルをもらって足を拭く。
わたしは足だけだけど、ルーク様は全身ずぶ濡れだ。
メルにわしゃわしゃと頭を拭かれているルーク様を、しゃがみ込んで下から見上げる。
「ルーク様?」
大人しくしているルーク様が心配になり、そっと上目遣いに見ていると、ルーク様が笑い出した。
「ははっ、ジーナ。遊ぶってこういうことなんだな。腹から笑いがこみ上げて……。くくっ、オレともあろうものが、転んで濡れネズミなど……。あははっ」
楽しそうに笑うルーク様に、わたしは安心した。
「ルーク様、風邪をひきます。お屋敷に戻りましょう」
「ああ!」
わたしとルーク様は手を繋いで、屋敷の中に戻った。
屋敷に戻ると、びしょ濡れのルーク様を見て、執事さんが慌ててメイドを呼び、ルーク様は冷えた身体を温めるように、湯あみをしに連れられて行った。
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