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第1章 出逢い
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神殿に行って、もう一度魔力測定の水晶を出してもらったけど、結果は前と同じだった。
普通の5歳児よりは少し多い魔力量だったけど、それ以外は特に変わったところは見当たらないと言われた。
年若い神官様は言う。
「ルーク様と、よほど相性が良かったのではないでしょうか?」
神殿の談話室で、わたしとお父様、神官様は向かい合って座って話をしている。
「では、何も問題はないということですか?」
お父様が聞くと、神官様は答える。
「問題はないでしょう。倒れたのも、まだ魔力の使い方がわかっていないせいだと思います。魔力の使い方を習うのは10歳になってからなので、そのせいでしょう」
神官様は笑顔で続ける。
「私たちは魔力を持っていますが、大人でも日常生活で困らない限り魔法は使いません。しかし、光の魔力を持つ者だけは、望まれて魔法を使うことがあります。
他の魔力で例えると、水の魔力を持たない私たちが水を汲む時には、桶に水を汲み、持って歩いて必要なところまで持ってきます。体力を使います。とても疲れる作業です。
水の魔力を持つものは、それを魔法で行います。いくら魔法を使ったからと言って、疲れないわけではありません。水を持って運ぶのと同じくらい体力を使います。体力を使うか、魔力を使うかの差だけなのです。干魃の時などは、水の魔力に頼ることありますが、そうでない限りは同じように疲れることなので、体力に自信のある水の術者は水の魔法を使わないことの方が多いです。光の術者も同じです。魔法を使えば疲れます。それが、熟練の光の術者でも治せなかったような火傷跡を治したのです。倒れ込むほど疲れても不思議はないでしょう」
お父様は心配そうに隣に座るわたしの髪を撫でた。
「では、倒れたのは魔法を使った疲れからだということでしょうか?」
「私から見る限りでは、そのようですね」
お父様は身を乗り出す。
「今後、何か気をつけることはありますか?」
「魔力の注ぎ方は消して変えないように。まだ正式な魔法を習っていないので、それ以上変わったことはしないように。あとは、今後も魔法を使い過ぎれば疲れて倒れるでしょう。魔力切れになるかどうか、使い具合でわからないうちは、人のいないところで魔法を使うのはやめた方がいいでしょう。寝込んでしまっても、誰かがきちんと面倒を見れるところであるならば、問題はありません」
「使わない方がいいということはないのですか?」
「どちらかと言えば、魔力を増やしたいなら使った方がいいでしょう。騎士が体力の限界まで身体を酷使して訓練をするのは、それを伸ばしたいからです。使えば使うほど、魔力量は増えるでしょう。神殿で治癒師の職についている者は、そうやって力を増やしたものもおりますよ。学校に入るまで魔法の使い方を教えないのは、子どものうちは使い方を誤ってしまう場合があるからです。火の魔力を持つ子が、間違って火事を起こしてしまったりすることは、大昔にあったそうです。そういったことを防ぐためにも、子どもに使い方を教えないだけなので、お嬢様が使い方を心得て練習するのなら大丈夫でしょう」
「……そうですか」
二人の話はよくわからなかったけど、要は、わたしはこれからも魔法を使っていいということよね。
まだまだルーク様の傷は治すところが多いんだから、魔法を使っていいと言われたら嬉しい。
「ふんふーんふふん」
帰りの馬車の中で、わたしは鼻歌を歌うほど機嫌が良かった。
これからも、ルーク様を治してあげられる!
馬車の窓に肘を掛けて歌っていると、お父様が話し掛ける。
「ジーナ、ルーク様の婚約者、辞めたいかい?」
わたしは振り向いてにっこり笑った。
「ううん。ルーク様のこんやくしゃ、楽しい」
「楽しい?」
「うん! だって、これからルーク様の火傷を治すことができるのよ。少しずつだけど、いつかはきっと治るわ! そうしたら、きっとルーク様も嬉しいと思うの。それを考えたら楽しみだわ」
「そうか。でも、無理をするんじゃないぞ」
「はいっ!」
わたしが手を挙げて返事をすると、難しいお顔をしていたお父様も、にっこりと笑った。
普通の5歳児よりは少し多い魔力量だったけど、それ以外は特に変わったところは見当たらないと言われた。
年若い神官様は言う。
「ルーク様と、よほど相性が良かったのではないでしょうか?」
神殿の談話室で、わたしとお父様、神官様は向かい合って座って話をしている。
「では、何も問題はないということですか?」
お父様が聞くと、神官様は答える。
「問題はないでしょう。倒れたのも、まだ魔力の使い方がわかっていないせいだと思います。魔力の使い方を習うのは10歳になってからなので、そのせいでしょう」
神官様は笑顔で続ける。
「私たちは魔力を持っていますが、大人でも日常生活で困らない限り魔法は使いません。しかし、光の魔力を持つ者だけは、望まれて魔法を使うことがあります。
他の魔力で例えると、水の魔力を持たない私たちが水を汲む時には、桶に水を汲み、持って歩いて必要なところまで持ってきます。体力を使います。とても疲れる作業です。
水の魔力を持つものは、それを魔法で行います。いくら魔法を使ったからと言って、疲れないわけではありません。水を持って運ぶのと同じくらい体力を使います。体力を使うか、魔力を使うかの差だけなのです。干魃の時などは、水の魔力に頼ることありますが、そうでない限りは同じように疲れることなので、体力に自信のある水の術者は水の魔法を使わないことの方が多いです。光の術者も同じです。魔法を使えば疲れます。それが、熟練の光の術者でも治せなかったような火傷跡を治したのです。倒れ込むほど疲れても不思議はないでしょう」
お父様は心配そうに隣に座るわたしの髪を撫でた。
「では、倒れたのは魔法を使った疲れからだということでしょうか?」
「私から見る限りでは、そのようですね」
お父様は身を乗り出す。
「今後、何か気をつけることはありますか?」
「魔力の注ぎ方は消して変えないように。まだ正式な魔法を習っていないので、それ以上変わったことはしないように。あとは、今後も魔法を使い過ぎれば疲れて倒れるでしょう。魔力切れになるかどうか、使い具合でわからないうちは、人のいないところで魔法を使うのはやめた方がいいでしょう。寝込んでしまっても、誰かがきちんと面倒を見れるところであるならば、問題はありません」
「使わない方がいいということはないのですか?」
「どちらかと言えば、魔力を増やしたいなら使った方がいいでしょう。騎士が体力の限界まで身体を酷使して訓練をするのは、それを伸ばしたいからです。使えば使うほど、魔力量は増えるでしょう。神殿で治癒師の職についている者は、そうやって力を増やしたものもおりますよ。学校に入るまで魔法の使い方を教えないのは、子どものうちは使い方を誤ってしまう場合があるからです。火の魔力を持つ子が、間違って火事を起こしてしまったりすることは、大昔にあったそうです。そういったことを防ぐためにも、子どもに使い方を教えないだけなので、お嬢様が使い方を心得て練習するのなら大丈夫でしょう」
「……そうですか」
二人の話はよくわからなかったけど、要は、わたしはこれからも魔法を使っていいということよね。
まだまだルーク様の傷は治すところが多いんだから、魔法を使っていいと言われたら嬉しい。
「ふんふーんふふん」
帰りの馬車の中で、わたしは鼻歌を歌うほど機嫌が良かった。
これからも、ルーク様を治してあげられる!
馬車の窓に肘を掛けて歌っていると、お父様が話し掛ける。
「ジーナ、ルーク様の婚約者、辞めたいかい?」
わたしは振り向いてにっこり笑った。
「ううん。ルーク様のこんやくしゃ、楽しい」
「楽しい?」
「うん! だって、これからルーク様の火傷を治すことができるのよ。少しずつだけど、いつかはきっと治るわ! そうしたら、きっとルーク様も嬉しいと思うの。それを考えたら楽しみだわ」
「そうか。でも、無理をするんじゃないぞ」
「はいっ!」
わたしが手を挙げて返事をすると、難しいお顔をしていたお父様も、にっこりと笑った。
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