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調教
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しおりを挟む豪華絢爛な後宮に、隣国の美しい王女が一人でいた。
王妃でもある彼女の周りには大勢の侍女や女官が傅いていたが、それらは彼女にとって対等ではなく、人とは数えられなかったのだ。
だから王女は今も自分は一人だと、寂しそうに涙を流す。
隣国からこの国に嫁ぎ、夫は国王として即位した。
眼帯で顔の半分を隠しても、夫であるディエゴの凛々しくも精悍な魅力は変わらない。
初めてディエゴに会ったのは遠い昔のことだ。
お見合いの席で、噂に聞く戦場で誰よりも多くの敵を倒し、英雄として慕われているディエゴと初めて会ったとき、王女は魂を奪われてしまった。
戦ばかりを繰り返す血の気の多い国の王太子は短気で気難しいところがあると噂に聞いていた。
怖ろしく思いながらお見合いをし、自国の男の中にはいない荒々しい眼光をしたディエゴに王女はすぐに夢中になった。
それからずっと、王女は変わらずディエゴを愛していた。
彼が肉体と心に深い傷を負って隣国に来たとき、王女は運命だと思った。
絶望と復讐で苦しむディエゴに寄り添い、彼が色んな女と浮き名を流し、悪食と揶揄されるほど自分を傷つけるように、何かを忘れるように女を抱くのを、王女は嫉妬し涙を流して耐えた。
いつか自分のこの清い愛が届くように。
そして、長年の献身が実を結び、王女は唯一の妻として後宮の一室を与えられた。
隣国でディエゴの恋人に、そして婚約者になったときから王女はディエゴに抱かれたいと思い、その高貴な純潔を捧げた。
女慣れしたディエゴの愛撫に王女は心や魂だけではなく肉体も奪われた心地だった。
そして後宮の一室を与えられたときから、毎晩ディエゴは優しく王女を抱く。
王女はディエゴ無しではいられなくなり、そしてどんどんディエゴに依存していく自身を誇りに思った。
だが、この頃のディエゴはひどく忙しく、すれ違いが続いていた。
無理もない。
いくら悪政を布いた暴虐な王とはいえ、自分の父を倒したのだ。
ディエゴがどれだけ嘆き悲しみ、それでも自身に忠実な家臣や不幸な国民のために、ディエゴは己の気持ちを隠して正義の鉄槌をこの国に下した。
ディエゴを反逆者と非難する狂人もいたが、いずれ皆がディエゴの高潔な人柄に触れ、歴史に残るだろう名君と讃えるはずだ。
そして、その横で常に寄り添い、ディエゴを生涯助け癒した聖女として、王女でもあり王妃でもある自分の名前が永遠にディエゴの隣りに並ぶのだ。
美しい金髪を持つ美貌の王女は、そう信じて疑わなかった。
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