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第三章

8   テリの治療

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 テリも侯爵家のお嬢様だった。

 兄妹は三男三女の末っ子で、家に到着すると、兄達が外に出ていた。


「おはようございます」

「おはようございます。テリの先生ですか?」

「テリ嬢の治療を任されました。アミと言います。助手は娘のフラウムです」


 フラウムは頭を下げた。


「昨夜はテリさんの具合は如何でしたか?」

「錯乱状態で、順番に眠らせておりました。今は父が見ております」

「診察をさせていただきます」

「お願いします」


 上品な大きな屋敷に入ると、使用人達も疲弊していた。


「母様、テリの診察をしてくださるアミ先生がいらっしゃいました」


 長男だろうか?物腰が柔らかな男性が、母親に声をかけた。

 暖炉の部屋でぐったりとソファーに凭れていた女性が、目を開けた。


「立ち会います」

「アミと申します」

「あのアミさん?」

「きっと、そのアミですわ」


 母はお辞儀をした。


「今は主人が見ています。あの子、顔が痛むのか、魔術で寝かせていても、起きて、傷に触ろうとするのです」

「そうですか?一番、酷い傷だと言われておりました。引き継ぎを受けておりますので、診察させていただきます」

「お願いします」


 テリの母に案内されて、テリが眠る部屋に行くと、テリは起きて泣いていた。


「痛いよ。痛いよ……」

「テリ、先生がお見えですよ」

「テリは顔を上げて、フラウムの顔を見て、いきなり枕を投げつけてきた。

(停止)

 枕は、浮かんだまま止まった。

 その枕を掴んで、ベッドの足下に置いた。

「痛いのね?」

「痛いわ」

「目は見えますか?」

「見えるわ」

「分かりました。フラウム、眠らせて」

「はい、睡眠」

 フラウムは、呪文を唱えて、深く眠らせた。

 倒れる体を素早く支えて、ベッドに横にさせると、包帯を外していく。

 ご両親が息をのむ。

 なるほど、これは痛いかもしれないと思った。

 新たな皮膚が炎症を起こしている。


「再手術を致します。お部屋から出て行かれた方が精神的に楽かもしれません」

「見届けます」


 夫婦二人は、そう言うとベッドの足下に立った。


「フラウム、睡眠の管理を頼みます」

「はい」


 母は、暫く、水晶に指先で触れていた。


「始めます」と言うと、炎症を起こしている皮膚を豪快に切除していった。


(すごく早い)


 炎症は骨まで達して、そこで、洗浄をした。

 まだ硫酸が残っていたのか、移植した皮膚が壊死していた。それを取り除き、再度、洗浄をして、そこで、魔力を送り続ける。抉れた骨が再生して、変色していた色も元に戻っていく。今度は、慎重に皮膚移植を始めた。少しずつ成長させて、また伸ばす。それを繰り返して、鏡の術で左右、同じ顔立ちに整えていく。

 瞼の形も整えていく。魔力を注ぎ込んで皮膚に弾力を与えると、表面の皮膚に傷口を塞ぐように、綺麗に整えていく。


「すごいわ」

「素晴らしい」


 悲観していた、両親がやっとホッとしたように口にした。


「包帯をしてください」

「はい」


 フラウムは、テリの顔に包帯を巻いた。


「どれくらい、眠らせましょうか?」


 フラウムは、母に聞いた。

 家族はずいぶん、疲れているように見える。

「ご家族は、皆さん、休まれていないのですね?」

 フラウムは聞いた。


「はい、テリが暴れるので、押さえつけるのに必死で」

「痛むようで、暴れたのですわ」


 父と母は、そう言うと、疲れたようにため息をついた。


「もう痛くはないと思います。ただ、まだ移植した皮膚が定着していないので、触らないように見ていて欲しいのです。眠らせる術は使えますか?」


 母が丁寧に確認した。


「息子達は魔法学校に通っていたので使えますが、昨夜は全く利かなかったのです」

「炎症を起こしていたので、痛んだと思います」

「お母様、お小水等、転移させておきます」

「そうね、お願い」

「夕方まで、眠るようにしておきます。午後6時に目覚めます。それまで、皆さん、お休みください。もし、眠らせることが難しかったら、わたくしをお呼びください。午後6時なら授業も終わっています」

「フラウム、そんな事いつ覚えたの?」

「シュワルツを助けたときにですわ。だって、買い物に出掛けるときに、危険ですもの」


 母は、呆れている。


「分かったわ。この子の言うとおりにしてください。わたくしは学校の教師、アミ・プラネット侯爵ですわ。この子はわたくしの娘、フラウムですわ。何かあれば、学校でも家でも訪ねてきてください。直ぐに対処致します」

「ありがとうございます」


 フラウムは、全て片付けて、ベッド周りを綺麗に整えた。

 それから、テリにクリーン魔法をかけた。

 これでさっぱりしたはずだ。


「それでは、失礼したします」


 母の声に合わせて、フラウムは頭を下げた。

 母と一緒に学校に向かう。


「フラウム、あなた、知らぬ間に、いろんな魔法を覚えたのね?」

「お母様の本が先生でしたわ。今度、シュワルツに会ったら、本を返していただかなくては」

「呪文魔法を覚えたのね?」

「はい、本に書いてある魔法は全部覚えました。他にもあるなら、教えてください」

「わたくしは全部は覚えていないわ。図書館に古代魔法があるそうよ。誰も見つけることができなかったようよ。わたくしも見たことはないわね。探してみるのも楽しいかもしれないわね」

「古代魔法ですね。今度、探してみます」

 学校に到着して、母と別れた。

 フラウムは、テリの壊死した皮膚や切除した物を冷蔵庫に片付けて、包帯も新しい物と交換して置いた。

 教室に行くと授業が始まっていた。ノックをして、「遅れました」と言って、席に座る。

 先生は、特に何も言わなかった。

 その代わり、テスト用紙を置かれた。


「今日は、君だけテストだ」

「はい」


 フラウムは名前を書いてから、テストを始めた。


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