上 下
28 / 48
第三章

7   助手

しおりを挟む

「アミ、わしが治療したテリだが、もしや皮膚が硬くなっていたら、再手術を頼んでもいいか?わしは、美を意識せずに、再生魔法で治しただけだ。男なら、それでも、構わないだろうが、年頃の女の子だ。治せるなら、元通りに治してやってほしい」

「分かりましたわ、お父様」


 朝食の時、お祖父様が、アミの顔の状態を気にして、母に再手術を頼んでいた。

 確かに、アミの手術は皮膚を再生しただけだった。鏡の術も使ってなかったので、今までの顔とは違っていてもおかしくはない。

 顔の半分を火傷していたテリの気持ちを考えると、やはり気の毒だ。


「アミ、フラウムを助手に連れて行きなさい。フラウムにとって、いい勉強になる」

「勉強になるけれど、彼女たちの気持ちを考えると、連れて行っていいものか?」

「アミの術式をフラウムに教える機会ではないか?」

「それもそうね。フラウム、助手になりますか?」

「是非、お願いします。いろんな術式を学べるなら、学びたいです」


 ということで、テリとナターシャの治療について行けることになった。

 食事を終えると、学校が始まる前に、テリとナターシャの家を訪ねる。

 まずはナターシャの家を訪ねると、ナターシャは眠らされていた。傍らに、モナルコスが付き添っていた。


「夜中に目覚めて、錯乱したので、眠らせました」

「そう、お疲れ様でした」

 本人に対しての術は、術者が起きていないと効果が持続しない。

 フラウムが家にかけていた魔術は、水晶魔術ではなかったので、眠っていても持続できた。
 
 水晶魔術は強力なものが多いが、魔術を呪文で唱える魔術は、どちらかというと地味だ。しかし、持続するので、使用方法を正しくすれば、かなり使える魔術だ。


「診察しますね」

「お願いします」


 メーロスが付き添いで部屋の中に入ってきた。父親らしき人も心配げに見ている。

 母はナターシャを起こさないように、包帯を外す。外した包帯は、フラウムに渡す。フラウムは、持ってきた鞄の中に片付けた。

 皮膚は思った以上に、引き攣っていた。

 母はブレスレットの水晶に触れて、魔力を貯めると、両手を使って、ナターシャの皮膚を柔らかにしていく。手は触れずに、かざしているだけだ。それでも、フラウムには母の魔力が視えていた。

 包帯を外した直後より、皮膚が柔らになっていくのが分かる。


「モナルコス、魔法を解いてくださいますか?」

「では、起こします」


 モナルコスがナターシャの肩に触れると、ナターシャは目を見開いて、「いやー」と叫んだ。


「ナターシャ、診察に来ましたよ」

「アミ先生?……どうしてフラウムがいるの?」

「わたくしの助手よ」

「嫌よ。助手なんて」

「ナターシャ、指は見えるかしら?」


 母はなんともない目を隠して、目の前に指を立てた。


「はい、見えます」

「フラウム、足下に立って」

「はい」

 フラウムは、ベッドの足下に立って、指を一本立てた。

「見えますか?」


 できるだけ元気に聞く。



「見えます」

「何本ですか?」

「一本」

「正解です」

 母が微笑んだので、フラウムも一緒に微笑んだ。


「よかったわ。昨日よりよくなっています。毎日、皮膚を柔らかくしていきますから、顔には触れてはいけません。いいですね?」

「はい」


 ナターシャは不安げに返事をした。


「フラウム、包帯を」


「はい」


 フラウムは、新しい包帯を巻いていく。

 まだ顔は見ない方がいい。

 母が言うように、昨日より皮膚が柔らかくなっている。

 続ければ、綺麗になっていくはずだ。


「アミ、ありがとう。思ったより綺麗で安心しました」


 母は微笑んだ。


「アミ、ありがとう」

「兄様、続ければ、もっと綺麗になっていくわ」

「頼む」


 フラウムはお辞儀をした。


「兄様、娘のフラウムよ。フラウム、兄のビステイスよ」

「よろしくお願いします」

「アミによく似ている」 


 フラウムは母に似ていると言われて、嬉しかった。


「では、次に行くわ」


 母は二人にお辞儀をすると、テリの家に向かった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...