幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

文字の大きさ
上 下
24 / 67

24

しおりを挟む
 自宅に帰って、俺は先にお風呂に入って、ゆっくり湯に浸かる。

 久しぶりに大泣きして、疲れたのか、頭がボンヤリしてしまった。

 無差別な差別だ。

 篤志と一緒に生きて行く事を選べば、ずっと冷やかされたり、心ない言葉を向けられることは、多くなるだろう。

 引き返すならば、今しかない。

 でも、俺は篤志を愛している。

 ずっと好きで、やっと隣に並べるようになったというのに、今更、悩むの?

 俺からこの感情を捨てたら、生きる意欲も捨ててしまうかもしれない。

 人の心ない言葉より、篤志から『愛している』と言われた方が俺は何でもできる予感がする。

 お風呂の扉をノックされて、扉が開けられる。


「寝てるんじゃないか?」

「起きてるよ」

「どうする?菜都美は俺が入れるか?」

「俺が入れるよ、連れてきて」

「無理はするなよ」

「うん」


 扉が閉まって、菜都美の嫌がる声が聞こえる。

 お風呂は好きみたいだけれど、服を脱がされるのが嫌みたいだ。

 俺はお風呂に水を足して、少しぬるくする。


「よろしく、お姫様をお連れしました」と言いながら、篤志は扉を開ける。

「菜都美、大好きなお風呂だよ」


 俺は菜都美を抱いて、お湯を掛けて、先に洗ってしまう。


「可愛いね」

「ウックン、ウックン、うーうー」


 今日は暑かったので、汗もかいている。

 可愛い、帽子もプレゼントしなくちゃね。

 石鹸も流して、湯船に入ると、菜都美は浮遊感を楽しんでいる。


「菜都美、パパって呼んで」

「あうーうーうー」

「そろそろ出ような」


 バスタオルで身体を包むと、お風呂の扉を叩く。

 直ぐに、篤志が立っていた。


「お姫様をよろしく」

「はいよ」


 篤志は菜都美を抱きしめた。


「あっちゃんもお風呂入る?」

「はいるよ」

「俺は出るよ」

 俺は洗い場で身体を拭くと脱衣所で下着とTシャツを着た。リビングに行くと、菜都美が足の指を吸っていた。


 可愛い姿に、俺の心も癒やされる。

 篤志はミルクを作っていた。

 台所にいる篤志の横に並ぶ。

「ありがとう」

「今日は暑いから、少しいつもより冷ました方がいいのか?」

「熱すぎると、菜都美は飲まないよ」

「そうだったんだな?温度の管理は難しいな?」

「冷やしすぎると、下痢するし、温度は気をつけてる。下痢すると、機嫌も悪いし」

「真は、昔から細かな事に気が回る。大雑把な俺とは、正反対だよな」

「俺は神経質なだけ。ちょっとのことですごく気にするから」


 俺は篤志からミルクをもらうと、菜都美のところに行く。


「菜都美。可愛いね。パパがミルクをあげよう」


 菜都美は両手と両足を上げている。

 抱っこしての合図だけれど、菜都美の腹筋はかなりありそうだ。

 哺乳瓶を口元に近づけると、口を開く。

 今日は機嫌が良さそうだ。

 俺は菜都美を抱っこすると、ミルクを飲ます。

 なんか静かだと思ったら、篤志がスマホで録画をしている。

 可愛いくて、小さい時は、あっという間に過ぎてしまうのだろう。

 記念に残してもいいと思う。

 兄ちゃんや菜々美さんだったら、毎日でも写真や動画を撮ってあげていると思う。


「菜都美、可愛いね」

「あいあいあい・・・」


 背中をさすると、可愛いゲップをする。

 まだ撮影しているから、菜都美を畳の上に寝かせる。


「アイアイウーうー」


 俺は哺乳瓶を洗って、消毒液につける。


「真!」


 振り返ると、篤志が手を振っていた。

 俺も手を振り返す。


「ちょっと貸して」


 俺は素早く篤志の元に行くと、篤志のスマホを借りて、イケメンな顔を撮影した。


「菜都美のもう一人のパパだよ」


 篤志は嬉しそうに笑った。


「早くパパと呼んでくれよ」


 最後はお姫様の菜都美の姿を写す。

 菜都美は手で足を持って、足の指を舐めている。


「ご機嫌です」


 俺はスマホを篤志に返した。

 篤志はスマホの録画を消した。


「真は嫌がると思ったけれど、写しても怒らないんだな?」

「将来、菜都美に見せるなら、幸せだったと思える映像にしたいと思っただけだよ」


 篤志はスマホで俺を写した。


「俺、写真とか嫌いだから、今度写したら、後で消すからね」


「菜都美と一緒にしか写らないつもりか?」

「俺、自分の顔が好きじゃないんだ。女顔で、いつも馬鹿にされる」

「俺は真が好きだよ。その顔も、性格も」

「あっちゃんのこと好きだけど・・・はぁ」

 菜都美が畳の上で寝ている。

 リビングに畳んである布団を伸ばして、そっと菜都美を寝かして、綿毛布をかけておく。


「真、今のうちに、大切なことしておこう」

「大切な事って?」

「結婚の証明書を検索しようよ」

「ああ」


 俺は赤面した。

 篤志の事だから、抱き合おうと言うと思ったのだ。

 俺の頭、腐ってやがる。

 部屋の端に寄せてあるテーブルに並んで座った。

 篤志が俺のノートパソコンを持ってきて、ニコニコ笑っている。

 仕方なく、パソコンを立ち上げて、もらってきた用紙を見て、進んで行く。

 書き込む頁が出てきて、俺は篤志の前にノートパソコンを置いた。


「俺はママなんだろう?パパが書けば?」

「おう、それもそうだな」と言って、書き込みの蘭を埋めていく。


 全て書き込んだ後に、ノートパソコンを俺の方に向ける。

 俺は間違いがないか確かめていく。

 菜都美の欄が複雑だ。

 俺の子ではあるが、俺は未婚だし、何と書くのが正しいのだろう。 

 篤志は俺の子と書いている。

 俺の子でいいのかな?

 後は、滞りなく書かれている。

 互いの連絡先も間違ってはいない。

 俺は篤志の方にノートパソコンを向けた。

 篤志は俺の手を握ると、一緒にエンターキーを押した。

 宣誓をするのは片方でいいみたいなので、篤志の名前が書かれていた。


「今日は祝いだ。なんか注文するか?」

「俺が作るよ。この辺りで注文で来るものはピザくらいだよ。腹一杯食べたら、幾らになるか分からない。だったら、その金額で肉が買える。菜都美が寝てるから、風呂入っておいでよ。あっちゃんが風呂から出たら、買い物に行ってくる。帰ったら、もう一度、風呂に入るから、湯は抜かないで」

「分かった」


 そう言うと、篤志は楽しげに風呂場に向かった。


「結婚か」


 嬉し恥ずかしい。

 自然に笑顔が浮かんできた。

 菜都美の隣に横になって、愛らしい顔を見続けた。

 兄ちゃんと菜々美さんには悪いけれど、今が幸せだと思った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...