幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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「プログラミング・スターって、社名?」

「5年前の先輩達が立ち上げているらしい。先生から連絡してもらっている」


 ゴールデンウィークが終わった日に、事務所に来るように言われた。

 篤志は『母の具合が悪くて』と元気な叔母さんを病気にして、会社を休んでいる。

 事務所は東京の丸の内にあるビルの最上階に事務所を構えていた。

 丸の内は、有名な会社があるイメージがする。

 皇居もあるし、事務所を構えるのもお金がかかりそうだ。

 その賃金を払えるほど、収入があるのか?

 塗装をしたばかりなのか、白いビルだ。

 車から菜都美を下ろすと、ベビーカーに乗せて、大量な熱湯とミルクとミルクの消毒を持って出かけた。

 日差しが強くなってきたので、菜都美に日焼け止めを塗って、可愛い帽子をかぶせた。

 お腹が冷えるといけないので、バスタオルを半分に折って、お腹の上に載せる。

 車の中には、着替えも、綿毛布も入れてある。

 エレベーターで最上階まで上がると、幾つも事務所があった。

 エレベーターを降りて、くるっと角を曲がったところに、『プログラミング・スター』という会社があった。入り口に、インターフォンがあった。

 篤志は、そのインターフォンを押した。


「どなた?」


 ずいぶん色っぽい声がする。


「滝川篤志と新井真です」

「どうぞ」


 扉を開けると、もう一つ扉があって、その扉は、金髪の男性が開けてくれた。

 中の部屋の中は冷房が既に付けられていて、俺は篤志から鍵をもらうと「すみません」と言って、車まで階段で下りた。

 車の中から、綿毛布を掴むと施錠して、今度は下まで下りていたエレベーターに乗った。

 パソコンがたくさんある場合、熱を発して部屋が暑くなるから、冷房をつけている場合も考えていた。

 扉はまだ開いていた。

 ベビーカーは内扉の外にあった。俺は菜都美に綿毛布をかけて、中に入った。

 たぶん寒くはないはずだ。

 朝、菜都美と遊んで疲れて眠ってしまった。ミルクの時間はまだ少し先だ。ぐっすり眠っている。

「揃ったみたいだね」と言ったのは、俺より髪の長い綺麗な女の人?だった。

 俺は篤志と「初めまして」とお辞儀をした。

 そうして、名乗った。


「私が代表の朝霧要です。女顔だから、時々女装を楽しんでます。髪の手入れと肌の手入れにお金を費やしてます」


 それって、男だったのか?

 あまりに綺麗だから、女性だと思った。

 女顔だから、それを楽しみにしているのは、俺とは逆で驚いた。


「新井君もかなり美形だけど、ハマると面白いよ」

「いいえ、俺、私はこの顔が嫌いで、女顔って言われるのが嫌です」

「あら、ごめんなさいね。趣味を押しつけるつもりはないのよ。でも、勿体ないね」

「そうですか?」

「まだ学校を卒業したばかりだから、女顔の特を知らないだけだ。ほら次はイケメン自己紹介」

「イケメンの前島祐二です。イケメンのお陰でモテすぎて、プレゼントを貢がれています。因みに、要とは結婚しています」

「次は俺か?佐伯真二郎といいます。代表とイケメンが暴走しないように見張っているのが俺です」

「俺が安井晃。金髪なのは威厳がないように見えるかなと思って、染めてます。仕事はきちんとしてます」


 金髪にすると威厳があるように見えるのか?

 逆じゃないか?

 変わった人達だ。


「先生から話は聞いている。滝川君は会社を辞める覚悟はできているの?」

「直ぐでも辞めたいです。毎日、社長のお嬢さんと結婚させようとさせられるのにウンザリしているんです。俺は真と結婚しました」

「社長のお嬢さんと結婚したら、会社もらえるじゃないか?」

「俺はずっと昔から真を好きで、女に欲情した事がないんです。だから無理です」

「真君でいいかな?真君は気の毒だね。家族をいっぺんに亡くして、赤ちゃんを残されて、仕事もしたくてもできないって聞いた。去年の学会の発表、総なめだったらしいじゃないか。そこら中から声がかかっただろう?」

「はい、大手の企業からも声を掛けてくださいましたけれど、俺は篤志と一緒の会社に行きたかったのです」

「滝川君はモテすぎても真君だけなんだね?」

「はい。俺が最初に告ったんです」

「滝川君も学会の発表、凄かったらしいじゃないか?」

「ええ、まあ。もう真に抜かされています。でも、どうして、あんな中途半端な会社に入社したんだろう?俺がいなくなれば、間違いなく会社はかたむきます。中枢を作り直したのは俺ですけれど、俺以外にプログラムを扱える者はいないので」


 篤志は、ニヤッと笑った。


「悪い顔してるよ」


 俺は篤志の腕を掴んだ。


「これくらいの自信がなければ、フリーでは、やっていけない」


 篤志だけじゃなくて、みんな悪い顔をしている。自信の表れなのかな?


「入社試験を受けてもらう。俺達の仕事は、会社一つを倒産させる程の影響を与えるからね」

「はい」

「はい、どんな試験ですか?」

「試験は二つ。一つ目はプログラムをどれほど使えるか試してもらう。二つ目は人気が来そうな動物ロボットを作ってもらう。材料は箱の中に入っている。好きな物を使ってもいい」


 朝霧さんは美人だけど、見かけだけ女のフリをしているだけだ。

 実力もありそうだ。


「実は先生から電話をもらってから、最強なウイルスを作った。二つのノートパソコンに仕込んだ。ノートパソコンが停止する前に排除できたら合格。できなければ不合格。さて、やってみるか?

「エグい」と篤志は言った。


「あの、もうすぐ菜都美がミルクを欲しがる時間なのですが」

「ミルクを作っておいてくれれば、俺がお姫様のお世話をしているよ」と言ったのは金髪の男性、安井晃さんだ。

「晃はベビーシッターのバイトをしていた事があるから任せても大丈夫」

「それならお願いします」


 俺はおしめも入っているマザーズバックをベビーカーから降ろし、テーブルの上に置いた。ミルクは作って、冷まさずに置いておく。

 俺と篤志は、ノートパソコンの置いてあるテーブルに、並んで座った。


「始め」


 どうやら既に感染しているようだ。

 使ってもいい箱の中には、USBが入っている。

 俺がUSBを持つと、篤志も気づいたようだ。

 消去して、クリーンアップして、USBのデーターをインストール。

 色々あるから惑わされる。

 これはパニクらないか試されたんだな。

 感染すらしていない。

 箱を開けて、必要な部品だけ出して、後は横に置いておく。

 動物ロボットは、大人用から子供用まである。顔が幾つか選べるようになっていた。

 菜都美にやるなら可愛い物がいいが、購入者はおそらく男の高収入者。

 ストイックで、格好いい物がいい。一緒にランニングするなら、俺は!

 菜都美が起きて、おしめを替えてもらっている。

 ギャン泣きして、俺を探している。

 ごめんな、菜都美。

 ミルクはたぶん飲み頃のはず。

 もしかしたら、俺と菜都美が互いに離れられるか試されているかもしれない。

 俺は大学で、俺の犬を三体も持っていた。作るのもプログラミングするのも早い。

 弄くり回していたから、俺のオモチャだ。


「できました。菜都美のところに行ってもいいですか?」

「いいよ」


 ギャン泣きの菜都美に「菜都美、おいでパパだよ」と声を掛けると、「んぱんぱ・・・」と声を出して、手を上げた。

 ビックリさせないように、抱っこすると、俺にすり寄ってくる。


「んぱんぱ・・・」

 パパと呼んでいるように聞こえる。


「可愛い、菜都美」


 優しく抱きしめて、篤志を見た。

 篤志はロボットは作っていたけれど、ペットタイプは初めてかもしれない。工業用ロボットがメインだったから。


「できました」


 俺はホッとした。


「ペットタイプは作ったことがなかったので、見た目に自信はありませんが、内容はひたすら、おにぎりを並べます。急だったので、ハンカチを丸めたサイズです」

「面白い物作ったね」


 本当に予想も付かない物を作る人だ。

 天才的な発想だ。


「真君はどんなロボットを作ったのか教えて」

「持ち主は大人のランニング好きの人で、チューニングしました。一緒にランニングができます。『Go!』で出発『Stop!』で静止します。部屋の中ではペットとして愛玩動物にもなります。足の形を変えれば、お座り、お手、回れ、伏せを音声認識で動きます。充電は自動で行いますが、細かな調整は、できていません。広い場所がないと覚えさせられませんし、動かせません。俺は大学で、自分の犬を三体飼っていたので、調整ができれば、売り出すことができます。この犬型は学会で受賞しました。一緒にランニング、一緒に散歩、球拾い、おうちで遊び等のプログラムは出来上がっています。AIが入っているので、会話機能もあります。おうちで認知症の人の見張りもできます。会話ができますので、ご家族や警察にも電話ができます」

「それは凄いな。即販売も可能なのか?」

「可能です」

「菜都美ちゃんが一緒でも作れそうか?」

「やってみないと分かりませんが、できると思います」

「では、二人とも採用する。滝川君は会社に派遣する。会社の中枢を弄ってきたのなら、できるはずだ。最初は前島がフォローして、一人で可能だと思ったら、直ぐに独り立ちしてもらう」

「はい、よろしくお願いします」

「その前に、会社を退職してきてね」

「はい、早速、辞めます」


 篤志は楽しそうな声を出している。


「真君は、自宅でも、子連れでもこの事務所に来てでも、どこでも好きなところで作業してくれてもいい」

「え、いいんですか?」

「真君の犬は真君のプログラムで動く。正直に言って、私には作れない。できる者ができる仕事をすればいい。一体、作って売ったら、私達がちまちま仕事しているより、大金が入る。期待している」


「ありがとうございます。それなら自宅で作業します。ちゃんと安全装置も付いていますので、安心してください。あとカラーも色々付けられますが、希望があれば、おっしゃってください。今の所、ブラック、メタリックブルー、レッドの三色の子は作りました」


 俺はスマホの写真を開いて、スクロールさせる。

 殆ど菜都美の写真ばかりだけど、菜都美の写真が終わったら、後はロボットの写真ばかりになる。

 作った三体の犬を見せていく。


「顔はないのだな?」

「付ければありますが、なくて、するりとしていた方がスタイリッシュに見えたので、この形にしました」

「先ずは真君が作り出した三体のうち一体でもできたら持ってきて欲しい。即特許取るから。最終的に三体の特許をとるから、頼むよ」

「はい、しっかり作ってきます」

「材料は何がいるか分からないから、真君が会社名で購入してくれるか?支払いは会社がする」

「お願いします」

 俺は嬉しくて、「やった!」と喜んだ。

 篤志が俺を抱きしめてくれる。

「よかったな」

「凄く嬉しい」

「はい、そこ、仲がいいのは分かったから、会社でイチャイチャしないように」

「あはは」と佐伯さんが笑っている。

「それ、俺がいつも言ってる事だね?これからしっかり働いてくれると助かるな」

「うるさい」

 朝霧さんが、佐伯さんに蹴り入れて、前島さんに止められている。

 なんだか、楽しそうな会社だ。

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