幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 なんと便利で素晴らしい。

 買い物に行かなくても、食料が手に入る。

 今朝は朝食がなくて、コンビニに篤志がサラダとおにぎりを買いに行ってくれた。

 朝は忙しいのに。

 明日から、朝食を作ってあげられる。

 お米もある。

 キッチンを探したけれど、米びつがそもそもない。

 小さな鍋が一つ。

 フライパンすらない。

 炊飯器はあったから、それを使うことにした。 

 早速、お鍋とフライパンはネット購入する。

 今日はできる物で食事を作る。

 昼に菜都美のお風呂を済ませて、洗濯もしてしまう。

 髪を切ろうか迷って、菜都美が混乱するかもしれないので、結局、長く伸びたボサボサの髪のまま放置した。

 菜都美を抱っこしていると、俺の顔を見ている。


「菜都美、パパだよ」


 初めて、自分の事をパパと教えた。

 女じゃないから、ママじゃない。だからパパにした。

 篤志に相談したら、きっと俺のことはママと呼ばせると言うかもしれないけれど、菜都美が保育園に入ったり、小学校に入ったりしたときに、混乱することは教えない方がいいと思う。

 俺や篤志がゲイであることは、自分達で分かっていればいい。

 世間の目や中傷を受けるのは、自分達だけでいい。

 菜都美は関係ないことだ。

 俺も篤志もパパでいい。

 そう思ったのだ。

 菜都美が俺達がゲイである事で虐められたら、その時は俺は胸を張って戦う。きっと篤志も一緒に戦ってくれると思う。

 俺は与えられた時間、菜都美を大切に育てる覚悟を持った。そして、実行している。

 菜都美は毎日すくすく育っていく。

 子供の成長は早い。

 篤志は外食が多くて、帰宅も遅い。

 最初の話では、残業は殆どないという話だったけれど。

 セックスは以前よりしなくなった。だけど、抱き合った時は昔より激しくなった。

 菜都美を俺の部屋で寝かせて、寝室で抱き合って、終わると俺は菜都美の部屋に戻る感じだ。

 最初に夕食を作って待っていた日、篤志はまた外食してきた。

 帰宅も0時頃で。

 翌朝、夕食は要らないと言われた。

 そんなに忙しい仕事をしているのか?

 大学の研究と仕事はずいぶん違う事をするのだろうか?

 俺はまだ仕事場に足も運んでいないし、話し相手も菜都美と篤志しかいない。

 その篤志とも、会話らしい会話もしていない。

 俺、寂しいよ。

 篤志は寂しくないのかな?

 待っている時間が長くて、鬱になりそうだよ。

 一人のご飯も、美味しく感じない。

 久しぶりに、外出した。

 菜都美の一ヶ月検診だ。

 菜都美は正常に発達していると言われた。

 やっと一緒にお風呂に入れる。

 ベビーバスは片付けられる。

 ベビーカーを押して、外で買い物をしているとき、篤志の姿を見た。

 声を掛けようとしたら、篤志の隣に知らない女性がいた。

 俺はその姿を見て、ベビーカーを押して後を着いていった。

 仕事中なのに、どうして会社の外で女性と歩いているの?

 とっても親密そうで、俺の入る隙間も見つけられない。

 女性は、篤志の腕に捕まり、会話をしているようだった。

 笑顔が可愛い人だった。

 二人はホテル街に行き、何の躊躇いもなくホテルの中に入って行った。

 俺は呆然とその様子を見て、胸が苦しくなった。

 篤志の本命は、俺じゃなかったってこと?

 俺はずっと篤志を好きで、信じていた。

 お互いにゲイで、この先、ずっと一緒に生活を共にしていくものだと思っていた。

 一緒にご飯を食べなくなって、約一ヶ月経つ。

 菜都美がいるから、俺のこと嫌いになったの?

 俺は菜都美とマンションに戻った。

 今日のこと見なかったことにした方がいいの?

 聞いたら、関係が変わるの?

 俺は悩んで、ボイスレコーダーを取り出した。

 長時間録音できる物だから、明日もホテルに出かけるなら相手との関係も知れるはずだと思った。

 その日も帰宅は0時頃だった。

 篤志はお風呂に入るために着替えに、自室に戻った。

 篤志はお洒落で、毎日、スーツを着替えている。

 どのスーツを着るのかも賭けだった。

 スーツの内ポケットにボイスレコーダーを忍ばせた。

 こんな事をしている自分が嫌いだ。

 大好きな篤志を信じられないなんて、篤志を裏切っているようだ。

 翌日、篤志はまた0時頃に帰ってきた。

 着替えに自室に入り、お風呂に入った時、俺は篤志のスーツのポケットに忍ばせたボイスレコーダーを取り出して、自室に戻った。

 篤志はシャワー派だからお風呂の時間は短い。

 俺が風呂に入っても、湯は流しておいてくれと言う。

 篤志は菜都美とお風呂に入ってみたくないのだろうか?

 一緒に暮らしていた頃は、一緒に風呂にも入ってじゃれ合っていたのに。

 離れていた二年の間に、篤志は変わったの?

 どうして毎日0時頃に帰ってくるの?

 俺と話しもしたくなくなったの?

 聞きたいけれど、返事が怖い。

 ボイスレコーダーを聞きたいけれど、篤志が寝てからしか聞けない。

 俺は部屋の電気を消して、布団に横になっている。

 扉が開いて、篤志は部屋に入ってきて、俺の腕を掴んだ。


「痛いよ」

「来いよ。今日は抱きたい」

「今日は嫌だ」


 俺は始めて篤志の言葉に逆らった。

 拒絶したのは、初めてかもしれない。

 篤志は俺の手を離すと、部屋から出て行った。

 もう、篤志との関係は終わるのかもしれないと思った。

 録音しておいたボイスレコーダーは、怖くて結局聞けなかった。


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