47 / 80
迷宮探究編
40.全部あげる
しおりを挟む
「おっやしっきおっやしっき~♪」
「おっおーきーなおっやしっき~♪」
ひとまずもらった屋敷の確認しようぜってことで、みんな揃って向かってるんだけど…
チラッ
「…………」
うわぁぁアルティの顔見れねぇ…
隣歩いてるのに一言も喋らねえじゃんよぉ…
緊張してんのか?ん?
私の方がしてる自信あるが?
てかなんで断らんの?
いつもみたいにふざけてるんですか?って言っていいんだよ?
「…………」
「…っ」
手が触れただけでこの感じ…
そんな場合じゃないけどたまらん。
「初々しいのう歳の瀬二桁の甘い恋心」
「見てると若返るわねぇ」
黙ってろ長命種ども。
いや、むしろもっと冷やかして。
そしたら…おいおーいw誰もツッコまないから変な空気になってんじゃーんwしょうがないから私がツッコんじゃうぞーwなんて言ってる私は突っ込むナニもないんだけどねーw
って場をシラケさせられるのに。
女王陛下のお誘いに困惑してるのか、今から始まるやも知れねえ情事にドキドキしてるのかもわからん。
確かなのは、酷くテンパってるということだけだ。
「あ、忘れないうちに渡しておくわね」
「…?なんですかこれ?」
「いろいろ調合してたら出来たスゴいことになるスゴいやつよ。一回1錠を守りなさい。たっぷりの水で。用途を守れなかったときは……責任を取れないわ」
こっち見て喋れ。
何それ?何渡してくれてんの?
「リコリスさん、アルティさん、爪のお手入れは大丈夫ですか?」
「歯を磨いておくのはマナーじゃからな」
ブチッ
「揃いも揃って茶化しやがって!!何をセ………………ッ、勧めてんだ歳上どもが!!跡継ぎ問題に苦悩した寒村の悪しき風習じゃあるまいし!!あれこれ面倒見てもらわなくても大丈夫ってんだよ!!こちとら成人だぞ!!」
「リコリス」
「あ?!」
「女王がどれほどのものかは知らないけどね、こっちもあんたのことを愛してるからこそそういう思いは強いのよ。アルティが正妻の位置なのをみんな了解してるからこそ出し抜こうとは思わなかった。むしろ応援してるくらい」
「ドロシー…」
「けれどいつまでも進展しないのが事実でしょ。大切にしてるのはわかるけど、何事もきっかけってやつが大事なのよ。だから女らしく決めなさい。この先もアタシたちのことを思うのなら」
そっか…
「ありがとう…。優柔不断な私を後押ししてくれてるんだね…」
「そのとおりよ」
「最高の仲間だ」
「知ってるわ」
「だからこそ聴かせてくれ。……本音は?」
「全てに於いておもしろすぎるいったいどんな星の下に生まれれば喜劇に塗れた人生を歩めるのかご教授いただきたぶっふぉ」
「オーケーわかったそこになおれお前からブチ犯してやんよペチャパイ魔女がァ!!」
ギャーギャーギャーギャー
そうこうしてる間に目的地である屋敷についた。
屋敷が並ぶ閑静な通り。金持ちしか住んでなさそう。
てか庭広っ!てか森?
「屋敷が見えねえ…。徒歩何分かかんのこれ」
「こんなものをポンと報酬でくださるのですから、王国の財政は考えるべくもないほど豊かなのでしょうね」
「隣が墓地なのはいただけないけど」
確かに高い柵を挟んだ向かいは妙に陰気臭い。
これが、この物件が空いていた理由ってとこなのかも。
門を開けて、ウルが牽く馬車で10分ほど。
見えた屋敷がこれまた大きい。
「ほぉ。なかなかじゃな」
「すごいすごい!リコリスお姉ちゃん、これがお姉ちゃんのお屋敷?」
「らしいね」
「中に入ってもいいですか?」
「うん。入ってみよ」
鍵を使って中へ。
明るく開放的な広い屋敷。
定期的に清掃が入っていたようで、ホコリが積もってる様子はない。
「家具も置いてくれてるじゃない。ちょっとアンティークだけど悪くないわ」
「部屋数も多いですね」
「ジャンヌ、探検しに行こ!」
「うん!」
一通り屋敷の中を見て回った感じ、厨房もお風呂もいいものが備え付けられている。
地下にはワインセラー。年代物のいいワインが多く眠っていると、師匠はご満悦だ。
裏庭にはプールまである。
日当たりもいいし、広すぎて落ち着かない以外は言うこと無し。
ダメだ緊張でなんも頭入ってこねえ…
「部屋割りはどうしましょう?」
「適当でいいじゃろ」
「リコリスの部屋を広いところにして、マリアとジャンヌの部屋は一番離れたところにしないと」
「何故ですか?」
「夜な夜な教育に悪い声が聞こえてくること請け合いだもの」
マジでここぞとばかりにいじってくるな…
念入りに防音の付与してやる。
けど、今はそんなことより…
――――――――
「まずは具合でも確かめるのに皆で湯浴みでもしようかの。のうリコリス…ん?リコリス?どこへ行った?」
「あら、アルティもいないじゃない」
「リコリスさんなら先ほど、アルティさんの手を引いて離れていきましたよ。それはそれは可愛い顔で。私の視線に気付いてすぐ、透明マントで姿を消しましたけど」
「ほう。覚悟でも決めたか?」
「さあ、どうかしら。ヘタレて戻ってくるんじゃない?」
「それもまたリコリスの良さよ。さて、他の者が邪魔せぬようにしておかぬとな。マリアとジャンヌは妾が相手をしようかの」
「じゃ、リルムたちはアタシね」
この人たちは…いえ、私を含めてこの状況を楽しんでいる。
特段娯楽に飢えているわけでもないのに。
悪趣味といえば悪趣味。
しかし、それもリコリスさんを思う気持ちが本物であるからこそ。
でなければ、お二人がこうもソワソワしたりしませんから。
「しかし、待っているだけというのもおもしろみが無いのう」
「それもそうね。じゃあ…何も変わらないに金貨1枚」
「ドロシーよ、そなた悪い大人じゃのう。では、キスまでに金貨2枚」
「賭けにならないじゃない。シャーリーは?」
「一人だけいい子は無しじゃぞ」
「そうですね…では――――――――」
子どもには聴かせられない下世話な話。
私はお二人の愛を敬いつつ、そっとテーブルの上に金貨を並べた。
――――――――
屋敷の中を散策している途中で、私はアルティの手を引いて外に出た。
ハァハァと緊張で息を荒くして、夕暮れに染まった庭の森を突っ切っていく。
どこへ向かってるのかは自分でも知らない。
ただ、みんなから離れないとと思っただけだ。
「あ、あの、リコ?」
立ち止まって透明マントを脱ぐ。
振り返ると、肩で息をするアルティの艶っぽいこと。
上気した頬にジワリと汗ばんだ肌。
あんまり色っぽくて、私は狼狽えた。
「ま、まったくあいつらにも困ったもんだよなー。って一番の困ったちゃんは私かーてへっ☆失敬失敬☆もうこうなったら今夜中にこっそり国を出ちゃうか、なっ?店のことはアンドレアさんに任せちゃおうぜっ☆」
「…………」
「よしっ、こうなったら飲もう!飲んで忘れよう!アルティ何飲むー?母乳?なーんちゃって☆てへぺろ☆」
「…………」
「あ、と…ゴメン…私…なんか変だ…」
繋いでいた手を思わず離す。
するとアルティは私の胸に手を置いて身を寄せた。
「変なのはいつもです」
私は空いた手をどうするか迷った。
不意にアルティに触れてしまえば、理性がどうにかなってしまいそうだったから。
「リコの心臓、すごいことになってますね」
「おー…。アルティ…あのさ、私」
「わかってますよ。あなたが私のことを大切に思っていることくらい。女王陛下の同衾を理由に、私を抱くことは失礼って…そう思っているのでしょう?」
「…うん。絶対間違ってんのに…。みんなに囃し立てられたからとか、そんなの言い訳だ。ほんとダサい…。ゴメ――――」
言葉を遮って、アルティは優しく唇を重ねてきた。
「だけどそうしないのは、少なくとも私と…私たちとそうしたい思いがあるからですよね」
見透かしたような穏やか笑顔で。
「怒んないの?」
「軽薄なのは今更ですからね。私が抱いてと一言言えば、あなたは優しく抱いてくれる…違いますか?誰かの命令に従った結果だなんて、そんなのはあなたらしくない。自分勝手に、本能のままに。いつどんなときでも欲しい物を欲して、やりたいことをやる。それが一番あなたらしい。私は、そんなリコが好きですよ。第一…」
アルティは更に顔を赤らめた。
「シたいと思っているのは、リコだけじゃないんですから」
交わしてした視線が泳いで、私とどこかとを行ったり来たりする。
言って混乱してるのか、恥ずかしいのか。
愛おしい。
一番初めに出てきた感情のまま、私もアルティの唇を求めた。
木にアルティの身体を預けて、指を搦め熱いのを交わす。
「好き」
「はい」
何回でも好きって言っちゃう。
キスする毎に身体が溶けていく。
やり方なんてわからなくて、おそるおそる身体に触れると、どちらが先でもなく震えた。
「あっ…」
「怖かったら言って」
「怖くはない…です。けど、外…」
「今からでもベッド行く?」
アルティはキュッと目を瞑って首を横に振った。
「恥ずかしい…けど。正直…興奮します…」
「お前…その顔私以外に絶対見せんじゃねーぞ」
首を吸って歯を立てる。
白い肌に浮かぶ赤い点を見て、誰にでもなく…私のものにしてやったぞと宣言したくなった。
どこもかしこも柔らかい…熱い。
溶けそう。焦げそう。
アルティはビクッと強く震えるだけで、声を出さないよう必死に口を押さえていた。
それがいやにゾクッとさせられて、無理やり手をどかした。
「声聞かせろよ」
押し倒して。自分だって余裕がないくせに強い言葉を使う。
「触られるの好き?」
「は、い…好き…好き…っ」
初めてはベッドの上だとか、お風呂に入ってからとか、気分を盛り上げるために酒を飲むとか、そんなつまんないマジョリティーなんかどうでもいい。
私が愛した女を、私を愛してくれてる女を、この私がこれ以上なく愛するだけだ。
「好き。大好きだよ」
「わた、私も…リ…リコぉ…」
荒っぽいキスを一つして、私はアルティにあるお願いをした。
「リコじゃなくて、昔みたいに呼べよ」
「――――ッ!!やっ…!」
断られるのは予想がついた。
だから、睨みつけるくらい目を鋭くして命令する。
「呼べっつってんだろ」
大賢者は、私を支えるために相応しくあろうとした姿。
ようは大人ぶるために、背伸びするために拵えた台座のようなもの。
それを故意に取り上げてやる。
ただのイジワル。ただのわからせだ。
お前は甘えてベッタリで私以上に子どもっぽかった幼なじみなんだぞ、と。
「リコ…ちゃん……っ」
嗜虐心が駆け巡る。
舌を這わせると、電気を流したみたいにアルティの身体が跳ねて、声にならない声を上げた。
「やっぱ、そっちのアルティも可愛い」
「リコちゃん…リコちゃん…!」
「アルティ…!」
混ざり合って溶け合って。
ただひたすらに。貪欲に。
どうせヘタレて何もしないって?
どうせ邪魔が入るって?
お約束なんて知るかバーカ。
流れもシチュエーションもぶった切って、やりたいことをやる。
それが私だ。リコリスだ。
「アルティの全部、私によこせ」
「うん…。全部あげる…だから、リコちゃんのも私にちょうだい…」
「愛してる」
「私も…んっ――――――――!」
何回も。
何回も。
私たちは――――――――
――――――――
お二人が屋敷に戻ってきたのは、あと一時間もすれば日付けが変わる頃でした。
「ただいま」
リコリスさんはいつもと同じように明るく。
アルティさんは顔をうつむかせたまま、部屋で休むまでついぞ私たちと視線を合わせることはありませんでした。
おそらくは浄化で身体や服の汚れは取り除いたのでしょうけれど、目と鼻が利くのは如何せんどうにもし難い。
僅かに乱れた髪にほんの微かに香る二人の匂い…そして固く握り合った手が全てを雄弁に語っているような気がした。
お二人は何も言わない。
私たちも何も訊かない。
「おかえりなさい」
この可愛らしい二人を迎えられて、私はなんだか嬉しくなった。
愛だの恋だのとは無縁の世界で生きてきたせいか、あまりに眩しくて、愛おしくて、羨ましくて。
なんて甘くて心地いいのでしょう。
願わくば私も…なんて、今それを言うのは野暮でしょうね。
今の私に出来ることといったら、二人のためにお風呂を沸かすことくらい。
まあ、お背中を流させていただくくらいのことは許してほしいものですね。
――――――――
一段階上のステージに上った。じゃないけれど、妙な全能感が私を覆った。
何でも出来る。何にも怖くない。
ビッと髪を纏めてバルコニーで月を見上げる。
「行くのか?」
「うん」
屋根上でワインを嗜んでいた師匠は、グラスの中身を煽ると私の元へと飛び降りてきた。
「物好きめ。約束など反故にしてしまえばいいものを」
「逃げるのは私らしくねえって言われたもんでね。いっちょかましてくるよ」
「クハハ、どちらにせよ見ものではあるな」
「んじゃ、ちょっくら行ってくる」
「待て」
「?」
師匠はぶどうの香りを漂わせ、キスの代わりに首すじから血を吸った。
吸い残しが無いように舐め取ると、月明かりに映える妖艶な笑みを浮かべる。
「人の王如きにそなたをどうこう出来るものか。せいぜい一泡吹かせてやるがよい。我が最愛の女よ」
「ニシシ。おうっ」
風を身に纏って空を飛ぶ。
待ってろ女王。生まれ変わった私を見せてやる。
「お母様から伝言です…。月のモノが始まったので興が醒めた。またいずれ相手をしてやるから帰れ…と」
夜分、こっそり城に忍び込んだ私にリエラは言って、私はポカンてした。
え?は?めちゃくちゃ悩まされた挙げ句に?ええ?
そんなことってあるかね?あるんだろうね。
混乱。その後に笑いがこぼれた。
「ハハハ」
ブチッ
「っざけんな自己チュー女王がぁ――――――――!!!」
うん、普通にキレて叫んだ。
情事に到らなかったのは…よかったけどさ。
「おっおーきーなおっやしっき~♪」
ひとまずもらった屋敷の確認しようぜってことで、みんな揃って向かってるんだけど…
チラッ
「…………」
うわぁぁアルティの顔見れねぇ…
隣歩いてるのに一言も喋らねえじゃんよぉ…
緊張してんのか?ん?
私の方がしてる自信あるが?
てかなんで断らんの?
いつもみたいにふざけてるんですか?って言っていいんだよ?
「…………」
「…っ」
手が触れただけでこの感じ…
そんな場合じゃないけどたまらん。
「初々しいのう歳の瀬二桁の甘い恋心」
「見てると若返るわねぇ」
黙ってろ長命種ども。
いや、むしろもっと冷やかして。
そしたら…おいおーいw誰もツッコまないから変な空気になってんじゃーんwしょうがないから私がツッコんじゃうぞーwなんて言ってる私は突っ込むナニもないんだけどねーw
って場をシラケさせられるのに。
女王陛下のお誘いに困惑してるのか、今から始まるやも知れねえ情事にドキドキしてるのかもわからん。
確かなのは、酷くテンパってるということだけだ。
「あ、忘れないうちに渡しておくわね」
「…?なんですかこれ?」
「いろいろ調合してたら出来たスゴいことになるスゴいやつよ。一回1錠を守りなさい。たっぷりの水で。用途を守れなかったときは……責任を取れないわ」
こっち見て喋れ。
何それ?何渡してくれてんの?
「リコリスさん、アルティさん、爪のお手入れは大丈夫ですか?」
「歯を磨いておくのはマナーじゃからな」
ブチッ
「揃いも揃って茶化しやがって!!何をセ………………ッ、勧めてんだ歳上どもが!!跡継ぎ問題に苦悩した寒村の悪しき風習じゃあるまいし!!あれこれ面倒見てもらわなくても大丈夫ってんだよ!!こちとら成人だぞ!!」
「リコリス」
「あ?!」
「女王がどれほどのものかは知らないけどね、こっちもあんたのことを愛してるからこそそういう思いは強いのよ。アルティが正妻の位置なのをみんな了解してるからこそ出し抜こうとは思わなかった。むしろ応援してるくらい」
「ドロシー…」
「けれどいつまでも進展しないのが事実でしょ。大切にしてるのはわかるけど、何事もきっかけってやつが大事なのよ。だから女らしく決めなさい。この先もアタシたちのことを思うのなら」
そっか…
「ありがとう…。優柔不断な私を後押ししてくれてるんだね…」
「そのとおりよ」
「最高の仲間だ」
「知ってるわ」
「だからこそ聴かせてくれ。……本音は?」
「全てに於いておもしろすぎるいったいどんな星の下に生まれれば喜劇に塗れた人生を歩めるのかご教授いただきたぶっふぉ」
「オーケーわかったそこになおれお前からブチ犯してやんよペチャパイ魔女がァ!!」
ギャーギャーギャーギャー
そうこうしてる間に目的地である屋敷についた。
屋敷が並ぶ閑静な通り。金持ちしか住んでなさそう。
てか庭広っ!てか森?
「屋敷が見えねえ…。徒歩何分かかんのこれ」
「こんなものをポンと報酬でくださるのですから、王国の財政は考えるべくもないほど豊かなのでしょうね」
「隣が墓地なのはいただけないけど」
確かに高い柵を挟んだ向かいは妙に陰気臭い。
これが、この物件が空いていた理由ってとこなのかも。
門を開けて、ウルが牽く馬車で10分ほど。
見えた屋敷がこれまた大きい。
「ほぉ。なかなかじゃな」
「すごいすごい!リコリスお姉ちゃん、これがお姉ちゃんのお屋敷?」
「らしいね」
「中に入ってもいいですか?」
「うん。入ってみよ」
鍵を使って中へ。
明るく開放的な広い屋敷。
定期的に清掃が入っていたようで、ホコリが積もってる様子はない。
「家具も置いてくれてるじゃない。ちょっとアンティークだけど悪くないわ」
「部屋数も多いですね」
「ジャンヌ、探検しに行こ!」
「うん!」
一通り屋敷の中を見て回った感じ、厨房もお風呂もいいものが備え付けられている。
地下にはワインセラー。年代物のいいワインが多く眠っていると、師匠はご満悦だ。
裏庭にはプールまである。
日当たりもいいし、広すぎて落ち着かない以外は言うこと無し。
ダメだ緊張でなんも頭入ってこねえ…
「部屋割りはどうしましょう?」
「適当でいいじゃろ」
「リコリスの部屋を広いところにして、マリアとジャンヌの部屋は一番離れたところにしないと」
「何故ですか?」
「夜な夜な教育に悪い声が聞こえてくること請け合いだもの」
マジでここぞとばかりにいじってくるな…
念入りに防音の付与してやる。
けど、今はそんなことより…
――――――――
「まずは具合でも確かめるのに皆で湯浴みでもしようかの。のうリコリス…ん?リコリス?どこへ行った?」
「あら、アルティもいないじゃない」
「リコリスさんなら先ほど、アルティさんの手を引いて離れていきましたよ。それはそれは可愛い顔で。私の視線に気付いてすぐ、透明マントで姿を消しましたけど」
「ほう。覚悟でも決めたか?」
「さあ、どうかしら。ヘタレて戻ってくるんじゃない?」
「それもまたリコリスの良さよ。さて、他の者が邪魔せぬようにしておかぬとな。マリアとジャンヌは妾が相手をしようかの」
「じゃ、リルムたちはアタシね」
この人たちは…いえ、私を含めてこの状況を楽しんでいる。
特段娯楽に飢えているわけでもないのに。
悪趣味といえば悪趣味。
しかし、それもリコリスさんを思う気持ちが本物であるからこそ。
でなければ、お二人がこうもソワソワしたりしませんから。
「しかし、待っているだけというのもおもしろみが無いのう」
「それもそうね。じゃあ…何も変わらないに金貨1枚」
「ドロシーよ、そなた悪い大人じゃのう。では、キスまでに金貨2枚」
「賭けにならないじゃない。シャーリーは?」
「一人だけいい子は無しじゃぞ」
「そうですね…では――――――――」
子どもには聴かせられない下世話な話。
私はお二人の愛を敬いつつ、そっとテーブルの上に金貨を並べた。
――――――――
屋敷の中を散策している途中で、私はアルティの手を引いて外に出た。
ハァハァと緊張で息を荒くして、夕暮れに染まった庭の森を突っ切っていく。
どこへ向かってるのかは自分でも知らない。
ただ、みんなから離れないとと思っただけだ。
「あ、あの、リコ?」
立ち止まって透明マントを脱ぐ。
振り返ると、肩で息をするアルティの艶っぽいこと。
上気した頬にジワリと汗ばんだ肌。
あんまり色っぽくて、私は狼狽えた。
「ま、まったくあいつらにも困ったもんだよなー。って一番の困ったちゃんは私かーてへっ☆失敬失敬☆もうこうなったら今夜中にこっそり国を出ちゃうか、なっ?店のことはアンドレアさんに任せちゃおうぜっ☆」
「…………」
「よしっ、こうなったら飲もう!飲んで忘れよう!アルティ何飲むー?母乳?なーんちゃって☆てへぺろ☆」
「…………」
「あ、と…ゴメン…私…なんか変だ…」
繋いでいた手を思わず離す。
するとアルティは私の胸に手を置いて身を寄せた。
「変なのはいつもです」
私は空いた手をどうするか迷った。
不意にアルティに触れてしまえば、理性がどうにかなってしまいそうだったから。
「リコの心臓、すごいことになってますね」
「おー…。アルティ…あのさ、私」
「わかってますよ。あなたが私のことを大切に思っていることくらい。女王陛下の同衾を理由に、私を抱くことは失礼って…そう思っているのでしょう?」
「…うん。絶対間違ってんのに…。みんなに囃し立てられたからとか、そんなの言い訳だ。ほんとダサい…。ゴメ――――」
言葉を遮って、アルティは優しく唇を重ねてきた。
「だけどそうしないのは、少なくとも私と…私たちとそうしたい思いがあるからですよね」
見透かしたような穏やか笑顔で。
「怒んないの?」
「軽薄なのは今更ですからね。私が抱いてと一言言えば、あなたは優しく抱いてくれる…違いますか?誰かの命令に従った結果だなんて、そんなのはあなたらしくない。自分勝手に、本能のままに。いつどんなときでも欲しい物を欲して、やりたいことをやる。それが一番あなたらしい。私は、そんなリコが好きですよ。第一…」
アルティは更に顔を赤らめた。
「シたいと思っているのは、リコだけじゃないんですから」
交わしてした視線が泳いで、私とどこかとを行ったり来たりする。
言って混乱してるのか、恥ずかしいのか。
愛おしい。
一番初めに出てきた感情のまま、私もアルティの唇を求めた。
木にアルティの身体を預けて、指を搦め熱いのを交わす。
「好き」
「はい」
何回でも好きって言っちゃう。
キスする毎に身体が溶けていく。
やり方なんてわからなくて、おそるおそる身体に触れると、どちらが先でもなく震えた。
「あっ…」
「怖かったら言って」
「怖くはない…です。けど、外…」
「今からでもベッド行く?」
アルティはキュッと目を瞑って首を横に振った。
「恥ずかしい…けど。正直…興奮します…」
「お前…その顔私以外に絶対見せんじゃねーぞ」
首を吸って歯を立てる。
白い肌に浮かぶ赤い点を見て、誰にでもなく…私のものにしてやったぞと宣言したくなった。
どこもかしこも柔らかい…熱い。
溶けそう。焦げそう。
アルティはビクッと強く震えるだけで、声を出さないよう必死に口を押さえていた。
それがいやにゾクッとさせられて、無理やり手をどかした。
「声聞かせろよ」
押し倒して。自分だって余裕がないくせに強い言葉を使う。
「触られるの好き?」
「は、い…好き…好き…っ」
初めてはベッドの上だとか、お風呂に入ってからとか、気分を盛り上げるために酒を飲むとか、そんなつまんないマジョリティーなんかどうでもいい。
私が愛した女を、私を愛してくれてる女を、この私がこれ以上なく愛するだけだ。
「好き。大好きだよ」
「わた、私も…リ…リコぉ…」
荒っぽいキスを一つして、私はアルティにあるお願いをした。
「リコじゃなくて、昔みたいに呼べよ」
「――――ッ!!やっ…!」
断られるのは予想がついた。
だから、睨みつけるくらい目を鋭くして命令する。
「呼べっつってんだろ」
大賢者は、私を支えるために相応しくあろうとした姿。
ようは大人ぶるために、背伸びするために拵えた台座のようなもの。
それを故意に取り上げてやる。
ただのイジワル。ただのわからせだ。
お前は甘えてベッタリで私以上に子どもっぽかった幼なじみなんだぞ、と。
「リコ…ちゃん……っ」
嗜虐心が駆け巡る。
舌を這わせると、電気を流したみたいにアルティの身体が跳ねて、声にならない声を上げた。
「やっぱ、そっちのアルティも可愛い」
「リコちゃん…リコちゃん…!」
「アルティ…!」
混ざり合って溶け合って。
ただひたすらに。貪欲に。
どうせヘタレて何もしないって?
どうせ邪魔が入るって?
お約束なんて知るかバーカ。
流れもシチュエーションもぶった切って、やりたいことをやる。
それが私だ。リコリスだ。
「アルティの全部、私によこせ」
「うん…。全部あげる…だから、リコちゃんのも私にちょうだい…」
「愛してる」
「私も…んっ――――――――!」
何回も。
何回も。
私たちは――――――――
――――――――
お二人が屋敷に戻ってきたのは、あと一時間もすれば日付けが変わる頃でした。
「ただいま」
リコリスさんはいつもと同じように明るく。
アルティさんは顔をうつむかせたまま、部屋で休むまでついぞ私たちと視線を合わせることはありませんでした。
おそらくは浄化で身体や服の汚れは取り除いたのでしょうけれど、目と鼻が利くのは如何せんどうにもし難い。
僅かに乱れた髪にほんの微かに香る二人の匂い…そして固く握り合った手が全てを雄弁に語っているような気がした。
お二人は何も言わない。
私たちも何も訊かない。
「おかえりなさい」
この可愛らしい二人を迎えられて、私はなんだか嬉しくなった。
愛だの恋だのとは無縁の世界で生きてきたせいか、あまりに眩しくて、愛おしくて、羨ましくて。
なんて甘くて心地いいのでしょう。
願わくば私も…なんて、今それを言うのは野暮でしょうね。
今の私に出来ることといったら、二人のためにお風呂を沸かすことくらい。
まあ、お背中を流させていただくくらいのことは許してほしいものですね。
――――――――
一段階上のステージに上った。じゃないけれど、妙な全能感が私を覆った。
何でも出来る。何にも怖くない。
ビッと髪を纏めてバルコニーで月を見上げる。
「行くのか?」
「うん」
屋根上でワインを嗜んでいた師匠は、グラスの中身を煽ると私の元へと飛び降りてきた。
「物好きめ。約束など反故にしてしまえばいいものを」
「逃げるのは私らしくねえって言われたもんでね。いっちょかましてくるよ」
「クハハ、どちらにせよ見ものではあるな」
「んじゃ、ちょっくら行ってくる」
「待て」
「?」
師匠はぶどうの香りを漂わせ、キスの代わりに首すじから血を吸った。
吸い残しが無いように舐め取ると、月明かりに映える妖艶な笑みを浮かべる。
「人の王如きにそなたをどうこう出来るものか。せいぜい一泡吹かせてやるがよい。我が最愛の女よ」
「ニシシ。おうっ」
風を身に纏って空を飛ぶ。
待ってろ女王。生まれ変わった私を見せてやる。
「お母様から伝言です…。月のモノが始まったので興が醒めた。またいずれ相手をしてやるから帰れ…と」
夜分、こっそり城に忍び込んだ私にリエラは言って、私はポカンてした。
え?は?めちゃくちゃ悩まされた挙げ句に?ええ?
そんなことってあるかね?あるんだろうね。
混乱。その後に笑いがこぼれた。
「ハハハ」
ブチッ
「っざけんな自己チュー女王がぁ――――――――!!!」
うん、普通にキレて叫んだ。
情事に到らなかったのは…よかったけどさ。
10
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる