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迷宮探究編
39.ヤっちゃえばいいんじゃない?
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切腹するしかない…
ヒノカミノ国には罪を犯したらお腹を切って詫びることで誠意を見せる文化があるらしいし…
あ、でも私お腹切ったくらいじゃ死なない…
再生力も生命力も人一倍でゴメンなさい…
「もうこうなったら大賢者の称号を返上するしか…」
「なにをバカなこと言ってるんですか」
「サリーナぁ…」
「涙と鼻水でシーツぐっしょぐしょじゃないですか汚い…。ほーら脱水でミイラになっちゃいますよー。一日経ってるんですからいい加減部屋から出てくださいってば。リコリスさんも気にしてないって言ってたでしょ。ほら、カーテン開けますよ」
「うあ゛ぁ!目がぁぁ!」
本棚で埋め尽くされた部屋に差し込んだ光が、容赦なく私の目を焼いた。
「窓も開けますよ。すぐ引き籠もっちゃうんですから。そんなんじゃリコリスさんに嫌われちゃいますよ」
「吐瀉物引っ掛けるのと部屋に引き籠もるのとどっちの方が罪が深い?」
「す、すみません…軽率でした…」
嫌われちゃいますよ…その言葉は深く心に刺さったけれど、もう手遅れだ…
合わせる顔がない…
私の中に芽生えた感情は、花が咲く前に摘んでしまった…
あ、でも初めから叶うことがない思いだったとすれば…
そうだ、分不相応だったんだ…
リコリスちゃんは高嶺の花…こんな底辺で這いずってるのがお似合いな私とは格が違うのに…
ちょっと優しくされただけで勘違いして…
……ダメだ泣きそう。
「うっぐ…ひぐ…お゛お゛お゛お゛おぉぉぉ…」
「まあそれはさておき」
え?人の不幸をさておかれた…?
血統に悪魔混ざってる?
「今日は私いつもの用事があるので。帰りは明日になりますけど、私がいないからって日の光を浴びるのを怠っちゃダメですよ」
「はい…」
「それじゃ」
…………師匠を思いやる優しさが無い。
いいもんベッドの上が一番落ち着くから…
『好っ…!しゅきでボロロロロロロロロロロ!!!』
「うわぁぁぁぁ!!ダメだトラウマが細胞レベルでぶり返す!!な、何か…何かしなきゃ!!」
ベッドから転げ落ちるまま、私は家を飛び出した。
――――――――
エヴァ、どうしてるかな。
全然気にしてないから会いに行きたいんだけど。
「リコリスさん、メニューの価格設定についてですが」
「リコリス、告知のチラシを作るわよ」
やることが多いんじゃ…
これでも有識者たちに面倒を見てもらってるわけだから、実際の開業って資金も労力も桁違いなんだろうな。
本当なら何ヶ月、何年ってかかるはずのことを数日で形にしてしまうんだから、この商人たちの力が並じゃないことが窺える。
ワーグナーさんたちも、私のレシピを昇華せんとする余念がなく、プロ意識の高さを見せつけてられて…軽くOKを出した自分の浅慮が露呈しているところ。
みんな忙しそう、これはオーナーとして労わねば!
という思慮に基づいて、
「みなさんおつかれさま。パイを焼いたから少し休憩してください」
甘いカスタードクリームを使ったアップルパイをお茶請けに出してみた。
だけなのに。
「先生、これもメニューに出すべきです!」
「さすが姐さん!」
この有り様。
能力が高すぎてゴメン。
「準備は着々と進んでおりますので、まずはプレオープンで様子を見るのがいいかと思います」
「プレオープンか。って言っても、伝手があるわけじゃないので招待出来る人なんていませんよ?」
アンドレアさんの意見に首を傾げていたのが十分前。
「まあ、楽しそうですね。お母様、ぜひ私たちもお呼ばれしましょう」
「うむ。よかろう」
迷宮攻略の報酬の件で城に呼ばれた折に、最初のゲストが決定した。
…いやロイヤルすぎるな。
「市井の様子を把握するのは上に立つ者の責務だ。存分にもてなすがいい。先の件もあることだ」
「先の件?」
「我を逢い引きに誘うのだろう?」
うっお色っぺぇ~…
圧エグいけど、やっぱレベル違う美人だわこの人。
気品以上に生物としての格の違いを直に訴えかけてくる。
「興じてやろうではないか。ただし…我の口に合わぬものを出したときは、わかっているな」
「ハハハ…」
目が本気すぎりゅ…
首チョンパされそうになったら国外に逃げよう…
「さて、報酬の件を話そうか。大臣」
「はっ。それではこれより、迷宮攻略における功績を称え、それにおける以下の報酬をアイナモアナ公国名誉子爵、リコリス=ラプラスハート氏に授与致します」
大臣は紐解いた書状を読み上げた。
「一つ、白金貨10枚」
「初っ端からイカちぃの来た!!」
白金貨って発行されてる一番高い貨幣でしょ?
確か日本円換算で…1000万!てことは…1億?!
なんで?!
「それだけ迷宮攻略には価値があるということだ。加えて未発見の新種の魔物…アンノウンの情報も加えた額になっている。今後そなたの名前は第一発見者として学術書に記載されることになる」
サラッと言うじゃんそういうの…
本人の許可とか要るんじゃないんですかねえ…
「次に、百合の楽園所属の冒険者のランクの昇格。並びにリコリス=ラプラスハート氏に、ドラグーン王国伯爵位を授ける」
「伯、爵、位?!!いやだ!!」
冒険者ランクが上がるのはいいけど伯爵位?!困る!!
アイナモアナの名誉爵位と違ってガチなやつじゃんヤダぁ!!
「辞退!!」
「落ち着いてくださいリコリスさん。これは政治的措置というよりは、迷宮攻略における国が定めた正当な報酬なんです」
「だとしても!爵位は!いらんのよ!」
貴族同士のいざこざとかぁ、妬み嫉みとかぁ、知ってるんだって異世界転生あるあるだから。
「叙爵を拒まれたのはユージーンとソフィア以来か。さすが奴らの娘なだけのことはある。リコリスよ、何も領地を営み国の政治に関われとは言わぬ。形だけの叙爵だ。迷宮攻略による叙爵がすでに法令で定まっている以上、当人の意思を尊重するというわけにもいかぬのだ」
話を聞く限り、迷宮を攻略したのが無名では他国への牽制にならない…みたいなことらしい。
行かせたのそっちなのに…めちゃくちゃ政治の矢面に立たされるじゃん…
はっ、そうだ!
「倒したのはエヴァ!奈落の大賢者!私じゃない!それで全て丸く収まる!」
「エヴァ=ベリーディースからの報告書ではそなたが活躍したとあるが」
「意外って言うのは悪いけど恐ろしく仕事が早いなあ奴!!」
そんでね、わかってんのよ…ここで私一人騒いでも覆らんてこと…
諦めるしかねえ…
早めに旅に出てうやむやにしてやろ…
「叙爵のパーティーを開かないだけありがたく思え」
「感謝感激雨あられでごぜーやす」
「よろしい」
「えーそれでは最後に、リコリス=ラプラスハート氏の伯爵位叙爵に伴い屋敷を贈呈致します」
「屋敷かぁ…」
これは素直に嬉しいんだけど、こっちは旅の途中なわけだし、邸宅ってより別荘みたいな扱いになりそう。
その間の維持とかが大変なんじゃないだろうか。
「こちらが土地の権利書と屋敷の鍵でございます」
「あ、どうも」
所帯も増えたし、宿代がかからなくなったと思えばいいか。
ありがとうございます。
あとでみんなで見に行こう。
「これにて簡易的ではありますが、リコリス=ラプラスハート氏への授与式を終了とさせていただきます」
「おつかれさまでした、リコリスさん」
「おつ。王都到着二日目にして伯爵になるとは思わなかった」
「伯爵では不満か?」
「滅相もないでございますとも女王陛下。まあただ欲を言わせてもらえれば、爵位よりも陛下と殿下共々ベッドの上で熱い一夜を過ごさせていただける方が嬉しかったかなぁ、と」
私の口は何故こうも軽く不敬を紡ぐのか…
すぐにハッと口を押さえた。
けど女王陛下は、上機嫌に笑った。
「ククク、ハハハ!聴いたか皆の者。よもやラプラスハート伯爵からこんなにも情熱的な誘いを受けたぞ」
ヤッベ…一般人でもマズいことなのに伯爵だとヤバいの度合いが桁違いなんじゃね?
翻意有り的な…
本格的に首チョンパあるぞこれ…
「逢い引きも待たず同衾を欲するか。大した豪胆ぶりだ。最初に出逢ったときからそうだ。やはり我はお前を気に入っているようだぞリコリス」
「そ、それはどうも…光栄至極…。そいじゃ私はこの辺で…」
「待て」
「ひゃい!!」
ビクーってなった…
「迷宮攻略の個人的な報酬がまだだったな」
「は、はい…?」
「そなたの願いを叶えようではないか」
「へ?」
「今夜だ。リエラと共に寝室で待つ。必ず来い」
「へ…?へ??」
「お、お母様?!」
「陛下?!」
……夜にベッドに誘われてりゅ!!
ちょいちょいちょいご乱心じゃて女王陛下!!
「我とて女だ。前王の崩御から数年、最後に到したのがそれよりも前ともなれば、女を持て余すのも仕方あるまい?」
「お母様!だ、だとしても堂々としすぎです!」
「リエラよ、私がお前の年齢のときには、すでにお前は私の胎の中にいた。私に言わせれば、お前は女を自覚するのが遅すぎる。いい機会だ、教えてやろうじゃないか。ベッドの上での帝王学というものを」
ベッドの上での帝王学とか言ってみたすぎる。
前王の死因って女王陛下の圧倒的な威圧感とかじゃないの…?
え?ていうかマジでスる流れになってる?
こちとら処女ぞ?
自他ともに認めるヘタレぞ?
うーん…………よし、逃げよう☆
「逃げるなよ。今夜部屋の鍵を開けておいてやる。せいぜい楽しませろ、リコリス」
薄く紅を差した唇を舌舐めずりする女王陛下の目は、肉食獣そのもので…ドキドキというか、ゾクゾクさせられた。
リエラも大臣たちも手がつけられないといった顔をしている。
いや、ほんと…謝るのでなにとぞ…なにとぞご容赦を願いたくぅぅぅ!!!
「城に行ったら伯爵位と屋敷を与えられて…」
「その上、女王陛下と王女殿下両名と同衾に誘われたと」
「どういう業を犯せばそこまで波瀾に満ちた人生を歩めるんじゃそなた」
「そんなの私が聞きてえし諌められて然るべきだと思ってるからこの状況を打開するアイデアをみんなで考えてくれぇ!!!」
店のテーブルに、私は頭を抱えて突っ伏した。
「冒険者ランク上がったー!」
「わーい!」
ああ、うん…君たちはいい。
そのままお菓子食べながらはしゃいでなさい。
「このままじゃマジで王家ックス一直線だ!!何か無い?!ねえ?!Hey Siriヤフーで王家ックス回避の仕方ググってぇぇぇ!!」
「王家ックスって何よ」
「まだだいぶ余裕あるようじゃの。のうアルティ……おお、昨今の平和な世に似つかわしからぬ殺意に満ちた目じゃな」
みんなが恐れて顔を背けるくらいにはアルティがブチキレてるンゴ…
手元の紅茶がフラッペになってんじゃねーか…
「あ、あのアルティさん…」
アルティはひとしきり私を睨みつけると、ハァ…と息をついた。
「どうせいつもの下半身で物事を考えた悪癖が出たのでしょう。もう慣れたものですから、そんなことを今更咎めるつもりはありませんよ」
「アルチぃぃぃ…」
「ただ…」
「ひうっ!!」
「問題なのは女王陛下から同衾を命じられていることよりも、悩みながらも断れないならやむ無しで二人同時に可愛がってやるしかないなぁ、と考えているであろうことです」
「おい師匠こいつに心読むスキル渡しただろ!一言一句当ててきたぞ!」
「何をどう考えてもそなたの普段の奇行による賜物じゃろ」
「さーせん!!このままワンチャン余裕で考えてました!!」
私は上半身が取れる勢いでお辞儀した。
「それで、打開案でしたね」
「お、なになに?何かあるのアルティ!ちょうだいちょうだい!」
「リコの局部を氷漬けにするとか、ですかね」
「それなら普通に貞操帯着けさせてくんね?!リコリスさんポンポン冷えちゃうよ?!」
ていうか大賢者の魔法でそんなことされたら壊死しちゃうだろ。
「再生スキルがあるでしょう?」
「真性のサイコパスか貴様は」
「では、陛下の飲み水に睡眠薬を混入するというのは如何でしょう。ドロシーさんの薬なら効き目は間違いないでしょうし、混入するために忍び込むのは私にお任せいただければ」
「若干乱暴だけどオーケー出したい自分がいる…」
「睡眠薬と偽ってゴリゴリの精力剤飲ませてヒィヒィ泣かされてるリコリスを見たいアタシがいるのはどうしたらいいと思う?」
「却下却下もっと平和的な考えがあるはずだ絶対!!」
あんな肉食獣にそんなもん飲ませてみろ次の日の私は干物になってるぞ!!
「なら王都もろとも城を壊すというのはどうじゃ」
「純潔を守りたいだけで犯罪者になりたいわけじゃねえ!あーこうしてる間にも刻々と時間が迫ってくるぅ!どうしようとりあえずお風呂?!下着とか変えた方がいいよね?!あと何?!香水とかかけるのが礼儀なの?!どっから始めるのが正解?!ハグ?!キス?!前戯って何分が基本?!!ねえって!!」
「思考がもうヤる方向で定まっとる者のそれなんじゃが」
「ていうか、ヤっちゃえばいいんじゃない?」
ドロシーの一言で場の空気がピッとなった。
「何?え?なんて?」
「だから、リコリスがヤりたいならそれでいいんじゃないって言ったんだけど」
「おまッ、この、えっち!!淫乱魔女!!スケベ!貧乳!!」
「腸抉って薬にするわよクソ処女。結局、あんたは体面上ダメだって思ってるだけで性欲に忠実に在りたいわけでしょ?けどアタシたちが…というかアルティが止めようとしてるのって、ようはリコリスの初めてが欲しいからってことじゃない」
「なッ――――――――?!」
アルティ顔真っ赤。
なら、とドロシーは見た目に寄らない老獪ぶりを見せつけた。
「女王陛下よりも先に、アタシたちがリコリスと寝ちゃえばいいのよ」
もちろんアルティが最初でね、と幼くも色気を含んだ風にウインクして。
…………マジで?
ヒノカミノ国には罪を犯したらお腹を切って詫びることで誠意を見せる文化があるらしいし…
あ、でも私お腹切ったくらいじゃ死なない…
再生力も生命力も人一倍でゴメンなさい…
「もうこうなったら大賢者の称号を返上するしか…」
「なにをバカなこと言ってるんですか」
「サリーナぁ…」
「涙と鼻水でシーツぐっしょぐしょじゃないですか汚い…。ほーら脱水でミイラになっちゃいますよー。一日経ってるんですからいい加減部屋から出てくださいってば。リコリスさんも気にしてないって言ってたでしょ。ほら、カーテン開けますよ」
「うあ゛ぁ!目がぁぁ!」
本棚で埋め尽くされた部屋に差し込んだ光が、容赦なく私の目を焼いた。
「窓も開けますよ。すぐ引き籠もっちゃうんですから。そんなんじゃリコリスさんに嫌われちゃいますよ」
「吐瀉物引っ掛けるのと部屋に引き籠もるのとどっちの方が罪が深い?」
「す、すみません…軽率でした…」
嫌われちゃいますよ…その言葉は深く心に刺さったけれど、もう手遅れだ…
合わせる顔がない…
私の中に芽生えた感情は、花が咲く前に摘んでしまった…
あ、でも初めから叶うことがない思いだったとすれば…
そうだ、分不相応だったんだ…
リコリスちゃんは高嶺の花…こんな底辺で這いずってるのがお似合いな私とは格が違うのに…
ちょっと優しくされただけで勘違いして…
……ダメだ泣きそう。
「うっぐ…ひぐ…お゛お゛お゛お゛おぉぉぉ…」
「まあそれはさておき」
え?人の不幸をさておかれた…?
血統に悪魔混ざってる?
「今日は私いつもの用事があるので。帰りは明日になりますけど、私がいないからって日の光を浴びるのを怠っちゃダメですよ」
「はい…」
「それじゃ」
…………師匠を思いやる優しさが無い。
いいもんベッドの上が一番落ち着くから…
『好っ…!しゅきでボロロロロロロロロロロ!!!』
「うわぁぁぁぁ!!ダメだトラウマが細胞レベルでぶり返す!!な、何か…何かしなきゃ!!」
ベッドから転げ落ちるまま、私は家を飛び出した。
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エヴァ、どうしてるかな。
全然気にしてないから会いに行きたいんだけど。
「リコリスさん、メニューの価格設定についてですが」
「リコリス、告知のチラシを作るわよ」
やることが多いんじゃ…
これでも有識者たちに面倒を見てもらってるわけだから、実際の開業って資金も労力も桁違いなんだろうな。
本当なら何ヶ月、何年ってかかるはずのことを数日で形にしてしまうんだから、この商人たちの力が並じゃないことが窺える。
ワーグナーさんたちも、私のレシピを昇華せんとする余念がなく、プロ意識の高さを見せつけてられて…軽くOKを出した自分の浅慮が露呈しているところ。
みんな忙しそう、これはオーナーとして労わねば!
という思慮に基づいて、
「みなさんおつかれさま。パイを焼いたから少し休憩してください」
甘いカスタードクリームを使ったアップルパイをお茶請けに出してみた。
だけなのに。
「先生、これもメニューに出すべきです!」
「さすが姐さん!」
この有り様。
能力が高すぎてゴメン。
「準備は着々と進んでおりますので、まずはプレオープンで様子を見るのがいいかと思います」
「プレオープンか。って言っても、伝手があるわけじゃないので招待出来る人なんていませんよ?」
アンドレアさんの意見に首を傾げていたのが十分前。
「まあ、楽しそうですね。お母様、ぜひ私たちもお呼ばれしましょう」
「うむ。よかろう」
迷宮攻略の報酬の件で城に呼ばれた折に、最初のゲストが決定した。
…いやロイヤルすぎるな。
「市井の様子を把握するのは上に立つ者の責務だ。存分にもてなすがいい。先の件もあることだ」
「先の件?」
「我を逢い引きに誘うのだろう?」
うっお色っぺぇ~…
圧エグいけど、やっぱレベル違う美人だわこの人。
気品以上に生物としての格の違いを直に訴えかけてくる。
「興じてやろうではないか。ただし…我の口に合わぬものを出したときは、わかっているな」
「ハハハ…」
目が本気すぎりゅ…
首チョンパされそうになったら国外に逃げよう…
「さて、報酬の件を話そうか。大臣」
「はっ。それではこれより、迷宮攻略における功績を称え、それにおける以下の報酬をアイナモアナ公国名誉子爵、リコリス=ラプラスハート氏に授与致します」
大臣は紐解いた書状を読み上げた。
「一つ、白金貨10枚」
「初っ端からイカちぃの来た!!」
白金貨って発行されてる一番高い貨幣でしょ?
確か日本円換算で…1000万!てことは…1億?!
なんで?!
「それだけ迷宮攻略には価値があるということだ。加えて未発見の新種の魔物…アンノウンの情報も加えた額になっている。今後そなたの名前は第一発見者として学術書に記載されることになる」
サラッと言うじゃんそういうの…
本人の許可とか要るんじゃないんですかねえ…
「次に、百合の楽園所属の冒険者のランクの昇格。並びにリコリス=ラプラスハート氏に、ドラグーン王国伯爵位を授ける」
「伯、爵、位?!!いやだ!!」
冒険者ランクが上がるのはいいけど伯爵位?!困る!!
アイナモアナの名誉爵位と違ってガチなやつじゃんヤダぁ!!
「辞退!!」
「落ち着いてくださいリコリスさん。これは政治的措置というよりは、迷宮攻略における国が定めた正当な報酬なんです」
「だとしても!爵位は!いらんのよ!」
貴族同士のいざこざとかぁ、妬み嫉みとかぁ、知ってるんだって異世界転生あるあるだから。
「叙爵を拒まれたのはユージーンとソフィア以来か。さすが奴らの娘なだけのことはある。リコリスよ、何も領地を営み国の政治に関われとは言わぬ。形だけの叙爵だ。迷宮攻略による叙爵がすでに法令で定まっている以上、当人の意思を尊重するというわけにもいかぬのだ」
話を聞く限り、迷宮を攻略したのが無名では他国への牽制にならない…みたいなことらしい。
行かせたのそっちなのに…めちゃくちゃ政治の矢面に立たされるじゃん…
はっ、そうだ!
「倒したのはエヴァ!奈落の大賢者!私じゃない!それで全て丸く収まる!」
「エヴァ=ベリーディースからの報告書ではそなたが活躍したとあるが」
「意外って言うのは悪いけど恐ろしく仕事が早いなあ奴!!」
そんでね、わかってんのよ…ここで私一人騒いでも覆らんてこと…
諦めるしかねえ…
早めに旅に出てうやむやにしてやろ…
「叙爵のパーティーを開かないだけありがたく思え」
「感謝感激雨あられでごぜーやす」
「よろしい」
「えーそれでは最後に、リコリス=ラプラスハート氏の伯爵位叙爵に伴い屋敷を贈呈致します」
「屋敷かぁ…」
これは素直に嬉しいんだけど、こっちは旅の途中なわけだし、邸宅ってより別荘みたいな扱いになりそう。
その間の維持とかが大変なんじゃないだろうか。
「こちらが土地の権利書と屋敷の鍵でございます」
「あ、どうも」
所帯も増えたし、宿代がかからなくなったと思えばいいか。
ありがとうございます。
あとでみんなで見に行こう。
「これにて簡易的ではありますが、リコリス=ラプラスハート氏への授与式を終了とさせていただきます」
「おつかれさまでした、リコリスさん」
「おつ。王都到着二日目にして伯爵になるとは思わなかった」
「伯爵では不満か?」
「滅相もないでございますとも女王陛下。まあただ欲を言わせてもらえれば、爵位よりも陛下と殿下共々ベッドの上で熱い一夜を過ごさせていただける方が嬉しかったかなぁ、と」
私の口は何故こうも軽く不敬を紡ぐのか…
すぐにハッと口を押さえた。
けど女王陛下は、上機嫌に笑った。
「ククク、ハハハ!聴いたか皆の者。よもやラプラスハート伯爵からこんなにも情熱的な誘いを受けたぞ」
ヤッベ…一般人でもマズいことなのに伯爵だとヤバいの度合いが桁違いなんじゃね?
翻意有り的な…
本格的に首チョンパあるぞこれ…
「逢い引きも待たず同衾を欲するか。大した豪胆ぶりだ。最初に出逢ったときからそうだ。やはり我はお前を気に入っているようだぞリコリス」
「そ、それはどうも…光栄至極…。そいじゃ私はこの辺で…」
「待て」
「ひゃい!!」
ビクーってなった…
「迷宮攻略の個人的な報酬がまだだったな」
「は、はい…?」
「そなたの願いを叶えようではないか」
「へ?」
「今夜だ。リエラと共に寝室で待つ。必ず来い」
「へ…?へ??」
「お、お母様?!」
「陛下?!」
……夜にベッドに誘われてりゅ!!
ちょいちょいちょいご乱心じゃて女王陛下!!
「我とて女だ。前王の崩御から数年、最後に到したのがそれよりも前ともなれば、女を持て余すのも仕方あるまい?」
「お母様!だ、だとしても堂々としすぎです!」
「リエラよ、私がお前の年齢のときには、すでにお前は私の胎の中にいた。私に言わせれば、お前は女を自覚するのが遅すぎる。いい機会だ、教えてやろうじゃないか。ベッドの上での帝王学というものを」
ベッドの上での帝王学とか言ってみたすぎる。
前王の死因って女王陛下の圧倒的な威圧感とかじゃないの…?
え?ていうかマジでスる流れになってる?
こちとら処女ぞ?
自他ともに認めるヘタレぞ?
うーん…………よし、逃げよう☆
「逃げるなよ。今夜部屋の鍵を開けておいてやる。せいぜい楽しませろ、リコリス」
薄く紅を差した唇を舌舐めずりする女王陛下の目は、肉食獣そのもので…ドキドキというか、ゾクゾクさせられた。
リエラも大臣たちも手がつけられないといった顔をしている。
いや、ほんと…謝るのでなにとぞ…なにとぞご容赦を願いたくぅぅぅ!!!
「城に行ったら伯爵位と屋敷を与えられて…」
「その上、女王陛下と王女殿下両名と同衾に誘われたと」
「どういう業を犯せばそこまで波瀾に満ちた人生を歩めるんじゃそなた」
「そんなの私が聞きてえし諌められて然るべきだと思ってるからこの状況を打開するアイデアをみんなで考えてくれぇ!!!」
店のテーブルに、私は頭を抱えて突っ伏した。
「冒険者ランク上がったー!」
「わーい!」
ああ、うん…君たちはいい。
そのままお菓子食べながらはしゃいでなさい。
「このままじゃマジで王家ックス一直線だ!!何か無い?!ねえ?!Hey Siriヤフーで王家ックス回避の仕方ググってぇぇぇ!!」
「王家ックスって何よ」
「まだだいぶ余裕あるようじゃの。のうアルティ……おお、昨今の平和な世に似つかわしからぬ殺意に満ちた目じゃな」
みんなが恐れて顔を背けるくらいにはアルティがブチキレてるンゴ…
手元の紅茶がフラッペになってんじゃねーか…
「あ、あのアルティさん…」
アルティはひとしきり私を睨みつけると、ハァ…と息をついた。
「どうせいつもの下半身で物事を考えた悪癖が出たのでしょう。もう慣れたものですから、そんなことを今更咎めるつもりはありませんよ」
「アルチぃぃぃ…」
「ただ…」
「ひうっ!!」
「問題なのは女王陛下から同衾を命じられていることよりも、悩みながらも断れないならやむ無しで二人同時に可愛がってやるしかないなぁ、と考えているであろうことです」
「おい師匠こいつに心読むスキル渡しただろ!一言一句当ててきたぞ!」
「何をどう考えてもそなたの普段の奇行による賜物じゃろ」
「さーせん!!このままワンチャン余裕で考えてました!!」
私は上半身が取れる勢いでお辞儀した。
「それで、打開案でしたね」
「お、なになに?何かあるのアルティ!ちょうだいちょうだい!」
「リコの局部を氷漬けにするとか、ですかね」
「それなら普通に貞操帯着けさせてくんね?!リコリスさんポンポン冷えちゃうよ?!」
ていうか大賢者の魔法でそんなことされたら壊死しちゃうだろ。
「再生スキルがあるでしょう?」
「真性のサイコパスか貴様は」
「では、陛下の飲み水に睡眠薬を混入するというのは如何でしょう。ドロシーさんの薬なら効き目は間違いないでしょうし、混入するために忍び込むのは私にお任せいただければ」
「若干乱暴だけどオーケー出したい自分がいる…」
「睡眠薬と偽ってゴリゴリの精力剤飲ませてヒィヒィ泣かされてるリコリスを見たいアタシがいるのはどうしたらいいと思う?」
「却下却下もっと平和的な考えがあるはずだ絶対!!」
あんな肉食獣にそんなもん飲ませてみろ次の日の私は干物になってるぞ!!
「なら王都もろとも城を壊すというのはどうじゃ」
「純潔を守りたいだけで犯罪者になりたいわけじゃねえ!あーこうしてる間にも刻々と時間が迫ってくるぅ!どうしようとりあえずお風呂?!下着とか変えた方がいいよね?!あと何?!香水とかかけるのが礼儀なの?!どっから始めるのが正解?!ハグ?!キス?!前戯って何分が基本?!!ねえって!!」
「思考がもうヤる方向で定まっとる者のそれなんじゃが」
「ていうか、ヤっちゃえばいいんじゃない?」
ドロシーの一言で場の空気がピッとなった。
「何?え?なんて?」
「だから、リコリスがヤりたいならそれでいいんじゃないって言ったんだけど」
「おまッ、この、えっち!!淫乱魔女!!スケベ!貧乳!!」
「腸抉って薬にするわよクソ処女。結局、あんたは体面上ダメだって思ってるだけで性欲に忠実に在りたいわけでしょ?けどアタシたちが…というかアルティが止めようとしてるのって、ようはリコリスの初めてが欲しいからってことじゃない」
「なッ――――――――?!」
アルティ顔真っ赤。
なら、とドロシーは見た目に寄らない老獪ぶりを見せつけた。
「女王陛下よりも先に、アタシたちがリコリスと寝ちゃえばいいのよ」
もちろんアルティが最初でね、と幼くも色気を含んだ風にウインクして。
…………マジで?
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