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ジャスミン
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エリカは何でもできる。すごくきれいだし優しいし頭がいいし、いつも堂々としてるしおまけにフレンドリーだ。
モールで買い込んだいろんなものを持って部屋に帰りながら、あたしはどうしても顔が笑ってしまう。まずモールに行けるのが嬉しいし、エリカが一緒なのが嬉しいし、おまけに今はハルもエリカの家にいるんだ。
あたしはエリカと同じくらいハルが好きだ。ハルはなんていうか、守ってあげたくなる。変な話だ。ハルにはあたしなんて必要ないし、もしも必要とされたってあたしにできることなんて何もないのに。
「なんでそんなにモールが好きなの」
タクシーのドライバーにチップを渡して、大量の荷物を部屋の前まで運んでもらった。一緒にそれを部屋に入れながらエリカはあきれたみたいに言った。
「わざわざ店舗まで行って買う必要なんてないのに。高額商品はIDでトラブるし」
それはよく分かってる。エリカをつき合わせて悪いなとも思ってる。だけどやっぱりあたしはモールが好きなんだ。
「だって楽しいから。見たことないものばっかりなんだもん」
「生まれたところにモールはなかったの?」
「あったけど、バーガーショップとDIYストアしかなかった。あとはドラッグストアとかクリニック」
エリカはどこから来たんだろう。急にそんなことを考えた。エリカにだって子供時代があったはずなのに、何だかうまく想像できない。
「エリカはずっとこの辺に住んでたの?」
何気なく訊いてから、すぐにしまった、と思った。エリカは一瞬だけすごく困った顔をした。怒った顔でも焦った顔でもない。困った顔だ。エリカにそんな顔をさせちゃいけない。この世の誰だって。
「違う場所。子供のころは」
何でもないことみたいにエリカは答えた。困った顔は見間違えだったのかもしれない。そう思うくらいに自然だった。
「家族が刑務所にぶち込まれてからはこの辺り。都会はいいよね、誤魔化しがきいて」
聞き返そうとしたときにはもうエリカは部屋の中に入ってた。
まずはキッチンで食料をしまう。エリカは料理もすごく上手で、あたしもハルもエリカに餌付けされた動物みたいになってる。
ハル。
そうだ、今はハルもいるんだった。リビングのカウチを見る。帰ってきたあたしたちに気づかないままハルはそこで眠ってた。あまりに気配がないから近くに行ってみた。
エリカに借りたブルーのブランケットに包まって、ハルは目を閉じてる。真っ青な顔で、息をする音も聞こえないから心配になる。手を伸ばして、できるだけそっと顔に触ってみた。冷たくはない。生きてるはずだ。
モールで買い込んだいろんなものを持って部屋に帰りながら、あたしはどうしても顔が笑ってしまう。まずモールに行けるのが嬉しいし、エリカが一緒なのが嬉しいし、おまけに今はハルもエリカの家にいるんだ。
あたしはエリカと同じくらいハルが好きだ。ハルはなんていうか、守ってあげたくなる。変な話だ。ハルにはあたしなんて必要ないし、もしも必要とされたってあたしにできることなんて何もないのに。
「なんでそんなにモールが好きなの」
タクシーのドライバーにチップを渡して、大量の荷物を部屋の前まで運んでもらった。一緒にそれを部屋に入れながらエリカはあきれたみたいに言った。
「わざわざ店舗まで行って買う必要なんてないのに。高額商品はIDでトラブるし」
それはよく分かってる。エリカをつき合わせて悪いなとも思ってる。だけどやっぱりあたしはモールが好きなんだ。
「だって楽しいから。見たことないものばっかりなんだもん」
「生まれたところにモールはなかったの?」
「あったけど、バーガーショップとDIYストアしかなかった。あとはドラッグストアとかクリニック」
エリカはどこから来たんだろう。急にそんなことを考えた。エリカにだって子供時代があったはずなのに、何だかうまく想像できない。
「エリカはずっとこの辺に住んでたの?」
何気なく訊いてから、すぐにしまった、と思った。エリカは一瞬だけすごく困った顔をした。怒った顔でも焦った顔でもない。困った顔だ。エリカにそんな顔をさせちゃいけない。この世の誰だって。
「違う場所。子供のころは」
何でもないことみたいにエリカは答えた。困った顔は見間違えだったのかもしれない。そう思うくらいに自然だった。
「家族が刑務所にぶち込まれてからはこの辺り。都会はいいよね、誤魔化しがきいて」
聞き返そうとしたときにはもうエリカは部屋の中に入ってた。
まずはキッチンで食料をしまう。エリカは料理もすごく上手で、あたしもハルもエリカに餌付けされた動物みたいになってる。
ハル。
そうだ、今はハルもいるんだった。リビングのカウチを見る。帰ってきたあたしたちに気づかないままハルはそこで眠ってた。あまりに気配がないから近くに行ってみた。
エリカに借りたブルーのブランケットに包まって、ハルは目を閉じてる。真っ青な顔で、息をする音も聞こえないから心配になる。手を伸ばして、できるだけそっと顔に触ってみた。冷たくはない。生きてるはずだ。
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