アイムヒア

鳥井ネオン

文字の大きさ
上 下
43 / 56
ジャスミン

7

しおりを挟む
 エリカは何でもできる。すごくきれいだし優しいし頭がいいし、いつも堂々としてるしおまけにフレンドリーだ。

 モールで買い込んだいろんなものを持って部屋に帰りながら、あたしはどうしても顔が笑ってしまう。まずモールに行けるのが嬉しいし、エリカが一緒なのが嬉しいし、おまけに今はハルもエリカの家にいるんだ。

 あたしはエリカと同じくらいハルが好きだ。ハルはなんていうか、守ってあげたくなる。変な話だ。ハルにはあたしなんて必要ないし、もしも必要とされたってあたしにできることなんて何もないのに。

「なんでそんなにモールが好きなの」

 タクシーのドライバーにチップを渡して、大量の荷物を部屋の前まで運んでもらった。一緒にそれを部屋に入れながらエリカはあきれたみたいに言った。

「わざわざ店舗まで行って買う必要なんてないのに。高額商品はIDでトラブるし」

 それはよく分かってる。エリカをつき合わせて悪いなとも思ってる。だけどやっぱりあたしはモールが好きなんだ。

「だって楽しいから。見たことないものばっかりなんだもん」
「生まれたところにモールはなかったの?」
「あったけど、バーガーショップとDIYストアしかなかった。あとはドラッグストアとかクリニック」

 エリカはどこから来たんだろう。急にそんなことを考えた。エリカにだって子供時代があったはずなのに、何だかうまく想像できない。

「エリカはずっとこの辺に住んでたの?」

 何気なく訊いてから、すぐにしまった、と思った。エリカは一瞬だけすごく困った顔をした。怒った顔でも焦った顔でもない。困った顔だ。エリカにそんな顔をさせちゃいけない。この世の誰だって。

「違う場所。子供のころは」

 何でもないことみたいにエリカは答えた。困った顔は見間違えだったのかもしれない。そう思うくらいに自然だった。

「家族が刑務所にぶち込まれてからはこの辺り。都会はいいよね、誤魔化しがきいて」

 聞き返そうとしたときにはもうエリカは部屋の中に入ってた。

 まずはキッチンで食料をしまう。エリカは料理もすごく上手で、あたしもハルもエリカに餌付けされた動物みたいになってる。

 ハル。

 そうだ、今はハルもいるんだった。リビングのカウチを見る。帰ってきたあたしたちに気づかないままハルはそこで眠ってた。あまりに気配がないから近くに行ってみた。

 エリカに借りたブルーのブランケットに包まって、ハルは目を閉じてる。真っ青な顔で、息をする音も聞こえないから心配になる。手を伸ばして、できるだけそっと顔に触ってみた。冷たくはない。生きてるはずだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

流星の徒花

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

小説練習帖 十月

現代文学 / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:2

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

現代文学 / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:18

この心が死ぬ前にあの海で君と

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:1,620pt お気に入り:61

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,334pt お気に入り:3,059

名状しがたい

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

永遠にさようなら

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:5

シロクマのシロさんと北海道旅行記

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:14

処理中です...