スローライフは、この手で掴み取りたい!! ~でも騒動は、押しかけて来るらしい~

志位斗 茂家波

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第3章:青年期~いよいよここから始まる話

73話 いよいよ本腰を入れようとする中で

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―――月日というのは流れるものが早いもので、気が付けばさらに2年の歳月が経っていた。
 年齢としてはエルが17歳となり…ここで成績に何か問題があったら困ったが、ハクロ達と一緒に勉強して成績は良好な方を保ち、素行態度も悪くはなかった。
 多少の交わりは隠したりもしたが…それでもどうにか認められて、この度、ついにスクライド学校の卒業式の日を迎えることになった。

 
 卒業式会場はさわやかな日差しの中で校庭に決まっており、卒業予定の生徒たちが集い、卒業式が執り行われて、生徒たちは一人、また一人と呼ばれては特設された壇上へあがり、卒業証書を受け取っていく。
 生徒たちの数を見れば、入学当初よりは減っているが…問題を起こして退学した生徒や、色々あって卒業できなかった人は毎年出るらしく、今年はどちらかといえばだいぶ多く卒業でいているようである。
 
 そんなことも感じ取りつつ、名前を呼ばれたエルも壇上へ上がり、卒業証書を受け取ることができた。
 これで、無事に卒業できたことになり、ひとまずは学生生活に終止符を打つことができただろう。



 まぁ、何もかもが無事というわけではなかったようで…卒業式に出てくる教員代表は当然校長がなるものだったらしいが、見た感じ入学式の時の人とは変わっていた。
 在学時代にいつの間にか変わっていたようで、教師陣から「ようやくか」「胃痛の元がいなくなる」「校長の葬儀に良い話ができる」などと聞こえてきたが、気にしないでおこう。

 何にせよ、晴れて学生という身分は卒業したことになるので、これより本日からは、しっかりと社会の荒波にもまれることになるのだが、まずは身辺整理のほうが先であった。


「途中でハクロ達とは別々になって住んでいたけど、こうやって長年すごした寮と別れるのはこれはこれで感慨深いなぁ」

 荷造りも終え、空間収納魔法を獲得していたので全部投入して空っぽになった部屋を見て、俺はそうつぶやく。
 ここにはまた、数日後には入学式でやってきた新入生たちが入寮することになり、あたらしい寝床などが運び込まれるのだろう。
 過ごした日々が消えて、新しい日々がこの部屋に来るのはどことなく感慨深いものがある。

「寮の引き払い手続きはこれで良くて、荷物も持ったし…ハクロ、一応天井裏とかそのあたりに蜘蛛の巣が残っていたりしないよね?」
「流石にないですよ。ぜんぶしっかり、取り外しました」

 荷造りのためにハクロたちにも来てもらい、しっかり空っぽになった部屋を戸締りして、寮の管理人に部屋の鍵を渡す。
 これで引き渡しになり、後はもう去るだけだ。

「他に何かあったかな?」
「お土産は必要ですよね。持ちましたか?」
「ああ、持ったよ」
「忘れ物、無い事確認、こちらの家も、引き渡し終えた」
「わっちらのほうも、借家を返すのは寂しいが…いつまでも居続けるわけにもいかぬからのぅ。あとは、村へ帰る馬車の確保はしたかのぅ?」
「それはもうやったよ~♪大型馬車でしっかりエルのハウドリア村行きのやつだよ~♪」
「飛んでいけば早いのさ!」
「いや、飛行可能な奴じゃないと無理だろ」

 スローライフを目標としているが、卒業後にまず最初にやることとしては、村への帰郷である。どこに向かうのかもっと確認するためにも、慣れた場所にいたほうが良いだろう。
 すぐにでもゆったりと過ごせるような地を探す旅に出てもいいのだが、そのための準備も必要になるだろうし、卒業した報告を育ててくれた今世の両親に話しておきたいのだ。

 あとは、収納した家財道具の類を実家に置きたいのもある…しまって置きっぱなしもできるが、いざという時に某青猫ロボの様に慌てて取り出すのに邪魔になるのは避けたいところ。
 収納してしまえば楽に持ち運びできるが、魔力が多い分コントロールが下手だからなぁ…流石にだいぶ慣れてきたのもあってちょっとやそっとじゃ失敗しなくなるようにはなったが、慌てたときとかが怖いところだ。

 さて、ここで気持ちをいったん切り替えるとして、帰路に使用する予定なのは、各村や都市へ向かう大型馬車。メンツがメンツだけに、普通の馬車だと人数オーバーになるし、ちょっとばかりこうやってそろってみれば結構目立つところもある。
 聞いた話では各自個別のファンクラブなる物が創設されていたようだし、悪い方向での目立ちにはなってないとは思うが…道中でのトラブルも避けたいところだろう。特に、ファンクラブ産の彼女たちを題材にしたような官能小説が販売されていたことに関しては…あれは黙っておくか。個人的には彼女たちを穢す様なものはやめてほしいが、悲しい男の性も理解はできるので黙認しておく。



 とにもかくにも、準備を終え、いよいよ村へ向けて帰る時が来た。
 さぁ、これで帰郷ができる…と、思っていた矢先、トラブルがやってきてしまった。



「え?運休?」
「はい、どうもこの馬車を運航予定でした御者が突然高熱を発症したそうです」

 村へ行くための馬車に乗ろうとした当日、その肝心の馬車が発車時刻になったにもかかわらず、なぜか予定していた場所へ来なかった。
 事前に予約できるし、料金も何かあれば返却されるのだが、基本的には予定通りに着くはずの公共機関が動かなかったので、馬車に関して取り扱っている店へ出向くと、そう告げられた。
 どうやら予約していたハクロたち全員が乗れる大型馬車便だが、馬車の運転手でもある御者が病気で倒れてしまったようだ。
 しかも、卒業式があった後というのもあって、他の馬車便も各生徒を帰京させるためにフル活動しており…最悪なことに、この日僕らが利用しようとした便だけ、運休になってしまったらしい。

「ありゃ…それでは、明日とか明後日には可能でしょうか?」
「残念ながら、ハウドリア村へ向かう予定の馬車を確認しても…次の予定は10日後ですね。辺境のほうにある村ほど、便が少なくなってまして…申し訳ございません。」

 むぅ、この辺りは田舎の村だから厳しいところか。
 だがまぁ、無理を言うわけにもいかないし、ここは大型馬車を扱うのはあきらめたほうがよさそうか?

「うーん、特に急いでいるという訳でもないけれども、予定通りいかないのももどかしいな」
「いっその事、徒歩で向かいますかね?」

 徒歩だと時間はかかるけれども、行けないことはない。
 とはいえ、気分的にはみんなで馬車に乗りたかったんだよね。

「んー…あ、そうだ」

 と、ここでカトレアがぽんっと手を打って何かを思いついた。

「ん?どうしたカトレア?」
「エル、ないなら、作ったら?」
「…あ、それもそうか」

 ないのなら、つくってみよう、皆の馬車…字余り過ぎるな。









「それそれそれぇ!!重いですけれども、引っ張れないことはないです!!」

 なんというか、絵面的にいろいろ問題がありそうなのだが…木の家を作る魔法を応用して、簡易的な馬車を作成し、ハクロに牽引してもらってみた。
 皆、人並外れた力を持つので誰でも牽引できそうだが…やれそうなメンツが、ハクロぐらいしかいなかったのである。
 カトレアはひっぱるにもちょっと力不足、タマモは獣人だけど絵面が完全アウト、ミモザは宙を泳げるけど踏ん張り不足、ジェリアの場合足で引けそうだが不安定…消去法でハクロしかできなかったのだ。彼女だけでもまぁ絵面がアウトかもしれないが…それでも、やる気があるのならば任せてみた。


 だが、それでも他のメンツが乗っている馬車を一人で引っ張るには、少々スタミナが足りなかったらしい。そもそも、アラクネの類は確かに糸で獲物を吊り上げたりなどの力技も可能だが、いかんせん完全なごり押しとかができるほどのものではないのだ。

 最初こそは好調だったが…しばらくして、息切れし始め、そしてついには動きが止まってしまった。


「ぜぇ…ぜぇ…あ、足、疲れました…」
「途中から疲れてきていたし…無理せず、休憩しようか」

 ひとまず、いったん馬車道で邪魔にならないように横に停車し、休憩所をつくる。
 地面にふかふかの草のじゅうたんをカトレアの手で敷いてもらい、そこにハクロを寝かせた。

「ふーむ、こうなると歩いたほうが良いかもしれぬな」
「休みながらでも、負担が半端ないしね~♪」
「交代しようにも、皆牽引に向いていないのさ!」
「俺だって引けたらいいけど、このメンツの中で普通の人間だしなぁ。何もできないのがちょっと悔しいかな」
「「「「「…普通?」」」」」
「全員、疑いのまなざしで疑問の声を上げない」

 そりゃまぁ、確かに魔力量がおかしいのは自覚しているし、この馬車を作れるような魔法を楽々とやるのは常人だとおかしいかもしれないが…肉体強度面でいえば、普通の範疇にいるはずである。

 その話は横のほうにぶん投げておくとして、今は馬車の問題。
 ずっとハクロに牽引してもらうわけにもいかなさそうだし、徒歩で向かったほうが良さそうな気がしたが…ここでふと、エルはある案を思いついた。

「あ、そうだ。あの手が使えるかも」

 前々からちょっと考えていたが、使う機会が結局なくてやることがなかった方法。
 皆と一緒に過ごしたりしていたし、そこまで長距離移動も多くないし、公共交通機関を利用すればよかったことが多いので、困ることもなかったが…この状況で、使えそうな方法があるのだ。
 
 
「イメージ的にはしっかり走れるような線路・・が欲しいけど…なくても多分、いけるかな?」

 こういう時に、魔法が使えるのは良いことだろう。
 やりたいことをすぐに試しやすく、結果を出しやすい

 この時ばかりは、この馬鹿げた魔力をくれたであろう転生前に出会った声の存在に感謝をしたくなるのであった…



…なお、のちにこの方法を試した後にハクロは最初からこれをやってほしかったと、嘆くのであった。
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