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第3章:青年期~いよいよここから始まる話

74話 素人の見様見真似だけど

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SIDEエル

―――普段は、馬の蹄や馬車の車輪が転がる音ぐらいしかならない馬車道。
 そんな道の中で今、馬でもモンスターでもないものが、馬車をけん引して疾走している光景があった。

ボォォォォォォ!!ボォォォォォォォ!!

 何度もけたたましい汽笛を上げ、内部から噴き出す蒸気が周囲へ広がり、空転対策として車輪につけられた小さな棘が大地に穴をあけ砕いていく。
 流石に道が粉砕されるのは不味いので、後方のほうで砕けた地面を踏み鳴らして整えるようにする仕掛けを追加しているが、そんなこともおかまいなく疾走していく。

 ある程度の圧力調整を何とか行っているが…流石に素人の手作りでは十分ではなかったようで、時折調整しつつもお湯が少々内部から零れ落ちてしまう。
 そう、この馬車をけん引している物体とは…前世の世界で知っている蒸気機関車をモデルに、魔法で作り上げた蒸気機関車モドキである。

 モドキなのは、燃焼による熱での水蒸気発生を使っておらず、直接魔法で超高温にした水蒸気を作り上げて、それを無理やり注入してピストンを稼働させる仕掛けになっているからだ。
 しかも、素人づくりでちょっと模型を作って確認してからやったとはいえ、まだいろいろと荒い部分も多く、無駄に汽笛で蒸気を噴出させなければ圧力が高くなりすぎて爆発しかねない水蒸気爆弾にも転用できそうな代物になっているのが理由であった。

 魔法を調節すればいい?いや、どのぐらいのが蒸気機関に適切なのかわからないし、構造も普通の蒸気機関車と違うため、どのぐらいがいいのか手探りで探っている状態。
 そのうえ、機関車であれば本来道を行くための線路に乗って進む必要があるが、この世界に線路があるとすれば鉱山とかのトロッコ用ぐらいしかないので、こんな馬車道に存在していないからハンドルもどきでどうにかこうにか操縦している状況である。


「というか、トロッコがあるならこういう蒸気機関車もどきみたいなのを作る人がいてもおかしくはなかったけど…馬とか別の手段のほうが一般的過ぎて、広まっていないんだろうなぁ」

 自分以外に転生した人はいるだろうし、その中にはもっと蒸気機関に関しての知識を蓄えた人もいるだろうと思うので、既に作られていてもおかしくはない。
 だが、知識があってもそれを組み立てられる技術や材料がなければ生み出されることはないだろうし、もしかするとまだ生みだされていないのかもしれない。

 そう考えると、こうやって作り上げるだけの魔法の力があるのは結構なズルだと思えるのだが…それがあっても後は、他の技術面や操縦面での問題がまだまだ山積みになっていた。

「っとっと、エル、これ操縦が難しいですよ」
「相当、力を入れないと、制御しにくい」
「暴れ馬のように、荒れ狂っておるからのぅ。蒸気だけでこれだけの力が出せるのは驚きじゃがな」

 ブラック企業勤めの中で、作業効率をよりどうにかできないかと思って、手を出せるように学んでおいた中に、蒸気機関に関しての知識を持っていてよかったとは思う。
 結局、蒸気機関は半自動上司接近防ぐルームランナー(寿命3日)程度にしかならなかったとはいえ、それでも多少はマシなほどの知識を得ることはできたが…それでも、こういう蒸気機関車を直接作ったり触れたりする機会はほぼないので、素人での何とかした手作り感しかあふれていない。
 見よう見まねで組み立ててみたが、あちこち暴れ馬のように荒れ狂うものになってしまっており、ハンドルを左右へ曲げるのにも苦労する状態になっているので、今後の要改良案件であろう。


 それでも、蒸気機関による牽引はどうにかこうにかできているようで、爆発させしなければ移動手段としては中々優れたものになっただろう。
 速度もそれなりには出せているし蒸気を作製するのに魔力を使っているけれども、エル自身に取っては元々無駄に有り余る魔力を消費できるので、燃料切れになる心配はそこまでない。というか、こういう時にこそ、普段あまり使わない魔力をどかすか大量に使う良い機会になる。

ボォォォォォォォォォォォォ!!
「でも、汽笛がうるさいのさ!!」
「いかんせん、蒸気が溢れすぎるからなぁ…適度に抜くために必要だった」

 魔法をもうちょっとうまく調節できたらいいが、まだまだ手探り状態なので、今は大量に蒸気を出しつつ、適度に抜く必要がある。
 蒸気をゆるめると一気に出力が落ちてしまったりするし、どのぐらいがいいのか、色々と研究する必要があるかなぁ…あと、材料がほぼ木製なので、耐久性も不安なところがある。金属製にできればいいのだが、今度はさびとか重量が重くなりすぎて地面にめり込みかねないなどの問題が出るのが目に見えているので、完全に実用化するには課題が山積みなままだ。


 とにもかくにも、問題が色々と多く残っているとはいえ、現時点ではこのメンツ全員を輸送する手段としては利用できるだろう。
 しかも、魔法による水蒸気で動かしており、出るとしても水だけなので環境にやさしい蒸気機関車としては良いのかもしれない。石炭とか燃やした後の残りかすとか、問題が他にも出かねないからね。

「でも、通っていく道がびしょびしょに濡れているね~♪」
「濡れて柔らかくなった分、後方の地面を均す装置がよりやりやすくなっているけど…ここも改良が必要かな」

 もっとうまく蒸気を再利用できるような構造にできればいいのだが、いかんせん知識や研究不足で冷えた後の水は垂れ流すしかない状態。
 魔法で生み出した水蒸気の水を流すのは環境的には…うん、多分、問題はないと思いたい


 とはいえ、エルはここで気が付くべきであった。
 カトレアという前例…発生した要因には、その魔力が注がれたことにあったことを。
 魔法で水を精製した際、実は無色透明不純物0と言い切ることはできず、それには魔力が混ざっているのだ。ただ、量はたくさんあっても溶け込んでいる分は非常に少なく、普通であれば、害にもならず、川や海に流したとしても特に影響を与えることはない。

 だがしかし、この蒸気機関車から発生した水は、手探りで蒸気を出しているのもあってか通常よりも水の中に含まれる魔力が多くあり、それが少量ならば別に良いのだが、ドバドバと地面を濡らしまくるほどの量となれば厄介ごとのきっかけになる。
 流れ出していく魔力を含んだ水は周辺環境に影響を与え、後にエルたちが通ったこの道に短期間で森が出来てしまうのだが…それを彼らが知るのは、まだ先の事であった・・・


―――――
SIDE???

ぐううううぅぅぅぅぅ…

「…お、お腹減ったナ」

 大きなお腹の音を鳴らしつつ、彼女はふらふらと歩いていた。
 手に持った大槌を杖代わりにしつつ、空腹からくる体の力が抜ける感覚にどうにか抗って進むが、その頑張りも限界はある。 

「うう、ダメだナ…おなかがすきすぎて世界が回って、もう、限界ナ」

 限界が来てしてまい、その場に倒れこんでしまう。
 どれだけの力があったとしても、空腹という欲求には負けてしまうのだろう。
 そのまま彼女は、空腹で目を回しつつ、動けなくなってしまうのであった…
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