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3章 学園中等部~

3-5 それはちょっとした間違えによって

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‥‥‥爆発現場となった学園の正門。

 普段は大きな門が存在感を示し、目立つがゆえに待ち合わせの場にも使われる場所ではあったが、現在はやらかされた爆発によって壊れてしまい、修理中であった。

 だがしかし、再び爆発が起きたようであり、その現場を僕らは近くの木の上で見ることにした。

(‥‥‥まぁ、まだ変身薬で鳥の状態だけど、むしろ人の姿よりもよく見えるなぁ)
【キュルゥ、教師の人達、集まってきている】

 小さくなる薬で小さくなった状態のハクロも木の枝に素早く糸を張って場所を確保し、その様子を目にする。

 なにやらぶすぶすと門のあった場所で煙が上がっているようだが‥‥‥‥


「除去作業中に、隙間に入りこんでいたやつがやったようだ!!」
「作業ミスだ!!一部、構造が違っていたぞ!!」

‥‥‥何やら原因は、昨晩起きた正門爆発の残存していた爆発物。

 何をしでかしたのかが気になるのだが、その時に残っていたものが目立たない場所にあったらしく、修繕作業中に発見され、撤去を行っていたらしい。

 だがしかし、そこでミスが起きてしまったようで、それで爆発が起きたようだが、かなりの騒ぎになっているらしい。

(‥‥‥そもそも、本当に何をやらかして爆発したのかとか、その詳細まではないんだよなぁ。新入生が禁止されていることをやって、爆発させたとか、そのぐらいだったか)

 人というのは秘密にされていると暴きたくなるものもいるのだが、その内容によっては周知されると不味いのか、隠すこともある。

 今回の爆発もその例に当たるようで、他の生徒が真似しないようにという配慮もあったのだろうけれど‥‥‥状況を見る限り、何が原因で爆発したのかが大体絞れては来るだろう。

 前世とは違い科学がそこまで発達していなくとも、その代わりに魔法がある。

 なので、爆発を起こす手段も何かと多いのだが‥‥‥何かの道具が原因であれば、かなり範囲が狭まる。

 使用されたのは、魔法陣か、魔道具か、はたまたは遅延された魔法か…‥‥一口に破壊するような爆発を起こす手段で道具を使用するのであれば、この3つがあるだろう。

 前世の知識から、この状況を分かりやすく例えるのであれば、爆弾処理に失敗した感じなのかもしれない。
 
 一応、色々と考えられていたらしく、爆風で吹き飛ばされた人ぐらいの怪我人は出たようだが、それでも何とか死者は出なかったようである。

(でも、そんな危険物をここに仕掛けた馬鹿は何がしたかったんだ?)

 そもそも普通はそんな危険物を、一介の生徒が入手するなどはないはずだが‥‥‥元凶の生徒は処分済みのようで、こんなことをしでかせるのかは不明だし、何かと謎が多い。

 首を傾げて考えても答えは出ないし、とりあえず死者などが出ていないことに関しては安堵の息を吐きつつ、寮の自室へ戻ることにするのであった。

 これ以上のことに関しては僕らが踏み込む意味も無いし、やるのであれば大人の方の話だしね‥‥‥


 







「‥‥‥そうか、一応死者は出なかったのだな?」
「はっ。爆風による怪我人は出ましたが、万が一に備えて守護の魔道具などを備えていましたために、命が奪われることはありませんでした」

‥‥‥エルスタン帝国、王城内の謁見室。

 皇帝の前で臣下たちが集い、学園にて起きた爆発についての報告や、昨晩から起きていたことなどに関しての調査の報告が舞い込んできていた。

「それと、昨晩の爆発騒ぎを起こした新入生たちなどですが…‥‥調べによると、生徒ではない・・・・・・者たちでした」
「学園までの道中で、入れ替わったか」
「そうだと思われます。念のために経路を確認したところ、衰弱している様子でしたが生きていた生徒たちを確認できました」

 そう、昨晩起きた爆発事故は、表向きには・・・・・新入生がやらかしたことになっている。

 だがしかし、その裏の事情は違っていた。

「‥‥‥生徒に扮した、他国の、いや、何処かのお抱え組織の輩か」
「そのようです。生徒に扮する変装用の魔道具を使用しており、魔道具の質から見てダンジョン産でしたが、取引された記録はありません。おそらくは、裏ルートで出回るような‥‥‥それこそ、闇市場などでしか出回らないような類でありました」

 そう、裏の事情としては、生徒たちに変装していたどこかから派遣された馬鹿たちが、爆発する魔道具を設置していたのだ。

 帝国の警備はそれなりに厳しいはずだが、それでもその目は全てに行き届く訳でもなく、何処かで見落としてしまう可能性があったが…‥‥どうやら今回は、その穴を突かれたようだ。

 しかも、普通に学園に爆発物を持ち込むのであれば、それはそれですぐに判明したはずなのだが‥‥‥どうやら魔道具その物を一度分解し、無害そうなものに混ぜ込んで、現地で組み込むまで発覚しにくい工作をしていたことが判明したのであった。

「にしても、爆発物を仕掛けてまで学園に来たか‥‥‥‥ただの考えなしの行動ではないな」
「はっ。既に生徒に偽装して処分を公表させましたが、裏で尋問拷問したところ、計画を持ってました」
「その狙いは?」
「‥‥‥モンスター、ハクロだそうです。ただ、何を狙ってというところまでは末端の者ゆえに聞いていないようですが‥‥‥少なくとも、その他にも数件狙って動き出しているところがあるという報告もありました」
「なるほどな…‥」

 臣下の報告を聞き、皇帝は納得する。

 なお、爆発物をどう利用して狙うのかという点に関してだが、どうやら本来、あちこちで爆発騒ぎを起こして混乱を生じさせた隙にという計画があったそうなのだが‥‥‥‥

「‥‥‥仕掛ける前に、一度組み立て直し、きちんと稼働するのかという実験を行っていたようです」

 真夜中であればだれもが眠っており、動いたところですぐに目を付けられる可能性は低い。

 とはいえ、下手に物音を立てれば目を覚ます人もいるだろうし、いざとなればあちこちに逃げやすい場所として正門で集い、万が一に備えて帝都内へ紛れて逃げ込む気だったそうだ。

 だがしかし、それに誤算が生じてしまった。

「組み立て直す途中で、ミスで起爆させてしまい、結果として見つかったようですね」
「馬鹿すぎないか?」

 流石にここまでやって来て、その確認作業でドジを踏むとはこれいかに。

 幸い、死者が出なかったのは良かったのだが、それでも生徒に扮装して紛れ込むなど用意周到にやっていた割には、最後にそんなミスをしでかすものなのかという疑問すら浮かび上がっていた。

「その件に関してですが、こちらから報告を」
「ふむ、なんだ?」
「彼らの狙いはハクロであり、生徒のふりをしている間に集い、密かに確認のための話し合いなどをしていたようですが‥‥‥どうやらそれを聞いた間諜の者たちが動き、逃れようのない状況を作り出したそうです」

 爆発物を組み立てる前に捕縛したところで、なんやかんやといって逃れる手段を持っている可能性が高い。

 ならばいっその事、できるだけ被害を少なくして現行犯で捕縛するしかないと、一部の間諜たちが動き出し‥‥‥彼らの能力をフルに生かした結果、正門での爆発に至ったそうだ。

 つまり、爆発自体がすでに間諜たちの手で踊らされたものであり、情報を知られた時点で相手はとっくの前に詰んでいたようだ。



‥‥‥入念に計画を練って、確認作業をするまでやっていたのに、残り少しのところで罠にかかってしまった馬鹿共に、ちょっと皇帝は同情したくもなる。

 こちらが動くまで悟らせなかった手腕は見事だが…‥‥それでも、見つかって自爆させるまでに至らされたのは、もはや道化というか哀れなものと言うべきか‥‥‥相手の運がそれだけ悪かったのであろう。

 はたまた、ハクロに対して集うファンクラブなるもの。動いた結果と言うべきか、そんなものに目を付けられた時点で終わらされたのであろう。


 とはいえ、それでも彼らがハクロを狙い、行動を起こしかけていたのは間違いないだろう。

 しかも、わざわざ生徒に変装するような魔道具までを用意周到にしていたところを見ると、背後の方にはまだまだ色々といる可能性が大きい。

「‥‥‥数年前に、宣戦布告を仕掛けた国の末路を聞いたところもあるだろうに、わざわざ狙うとはな。モンスターとはいえ、彼女の主、いや、彼女自身も帝国の民であり…‥‥民を狙った大馬鹿共には、痛い目を見てもらう必要があるな」

 皇帝のその言葉に、臣下の者たちは同意して頷く。

 帝国の上層部にいるからこそ、帝国の民たちが大事であり、その民へ悪しき手を伸ばそうとした輩は許すべきではない。

 そして皇帝も知らぬことだが、臣下の中にはファンクラブに密かに入会した者もおり、彼女を狙った者に対してファンクラブ全員一致で制裁を下すことを決定していた。

「それに、何も彼女だけを狙わずに、その主であるアルスにも手をかける可能性がある以上、これより警戒をより一層上に引き上げる必要があるだろう。万が一に備え、巡回の衛兵たちを増やし、王城から学園の警備に騎士を派遣。また、この侵入手段から他の者にも同じようなのが混ざっていないか急いで確認せよ。動きを察知されれば即座に対策される者と思い、迅速に動け!!」
「「「はっ!!」」」
 
 帝国の民へ伸ばそうとする悪しき手は、ここでしっかりと切っておかねばならないだろう。

 年月を経て計画を練ったところで、今回の事をきっかけに、その悪しき者どもの目論見を次々に発現させていかねばいかないだろう。

 色々と考えつつも皇帝の指示に対して臣下の者たちは返答し、相手側に悟られる前に素早く動き出していく。

 帝国へ牙をむく者は早急に潰し、安寧を得ねばならない。

 争いの種を放置し続け、対処が遅れ滅んだ国は歴史で物語っている。

 だからこそ、後れを取る前に動かなければいけないと、全員心を一つにして動くのであった‥‥‥‥


「‥‥‥しかし、争いの種が彼女や主であれば、そちらも早めにどうにかしたほうがいいのではないでしょうか?」
「それもそうだな。未だに生徒の身分である主に、その傍らにいるモンスターだが…‥‥身分を考えると、手を出されやすいというのもあるかもしれん‥‥‥消すのはないからな?帝国の未来を考えると、失うのは相当の痛手になるだろうからな」
「ええ、それは流石に無いですね。やらかせば、間諜たちが敵に回りかねません」
「それに、妻も何かと気にかけているからな…‥‥下手に失うようなことになれば、それこそ血の雨が降りかねん‥‥‥‥」


 そしてついでに、皇帝は皇帝で、やらかせばどうなるのかはしっかりと身に沁みついており、とある出来事で非常にヤヴァイ状況になった時のことを思い出し、思わず寒気を感じて震えるのであった…‥‥

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