上 下
78 / 94
【本編 第一章】 デルギベルク戦役編

【第七十七話】 ※レハール視点

しおりを挟む
 林道に躍り出たヘルケルトと指揮下の三百は、潰走する敵兵を迎え撃つように展開した。
 
 
 林道に沿って潰走していった敵兵は、およそ四百くらいである。
 
 
 ヘルケルトの部隊よりも百名ほど多かったが、それでも一兵たりとも逃がすわけには行かなかった。
 
 
 レハールはただちに兵を指揮して、乱戦によって散り散りになった味方を集める事に集中した。
 
 
 五百名。
 
 
 集まったのは、それくらいだった。
 
 
 ヘルケルトが、激しく暴れている。
 
 
 潰走していた敵兵は統率を失い、それぞれがただ闇雲に突破しようとしていた。
 
 
 いくら四百とはいえ、それではただヘルケルトの部隊の餌食えじきになるだけだった。
 
 
 ヘルケルトは狭い場所でも戦いやすいように、剣を遣っている。
 
 
 騎馬隊で戦っている時は重棒を振り回していて、本人も棒術が得意だと言っていた。
 
 
 しかし、こうして見ていると剣もそこそこに遣っている。
 
 
 ヘルケルトが自ら敵中に突っ込み、敵兵を混乱させる。
 
 
 そうしてバラバラになった敵兵を、指揮下の三百が撃破していく。
 
 
 瞬く間に、敵兵は数を減らしていった。
 
 
 残りが百名ほどになった時点で、敵兵は武器を置き、投降し始めた。
 
 
「これらの兵は、どうしたらいい」
 
 
 投降した敵兵を縛り上げたヘルケルトが、そう聞いてきた。
 
 
 補給部隊の後方に居た三百は、レハールが指揮した五百名で、一兵残らず殺していた。
 
 
「ここで全員、首を刎ねる」
 
 
 レハールは、冷静に言い放った。
 
 
「おい、投降した兵だぞ」
 
 
 ヘルケルトが、納得のいかないような顔で言った。
 
 
「ハイゼは、一人も逃がすなと言ったのだ」
 
 
「しかしそれは、抵抗してきた敵に対してのことだろう」
 
 
「このまま見逃しても、敵の本隊に逃げ込まれたら意味がない」
 
 
 ヘルケルトは何か言いたそうだったが、それ以上聞く気は無かった。
 
 
「捕まえた百名は、全員殺せ」
 
 
 部下にそう指示を出し、レハールはハイゼの所へ向かった。
 
 
 ハイゼは依然として気を失ったままで、数人の兵で手当てをさせている。
 
 
「容態はどうだ」
 
 
「息はしっかりとしてきました。熱もありません。身体中に傷がありましたので、その手当だけはしておきました」
 
 
「これ以上、できる事は無いか」
 
 
 レハールは、横になっているハイゼを見下ろした。
 
 
 苦しそうな表情は無く、ただ眠っているような様子だった。
 
 
 このままハイゼの目が覚めなければ、自分が作戦を続けなければならない。
 
 
 補給物資を奪う事には成功したが、ハイゼはあえて補給部隊を殲滅して、奇襲した事を隠そうとした。
 
 
 彼がまだ何かしようとしていたのは間違いない。
 
 
「レハール小隊長、捕まえた兵の始末をする準備が出来ました」
 
 
 兵の一人が、報告に来た。
 
 
「分かった」
 
 
 
 
 レハールはそう言い、絶望と怨みに染まった顔を自分に向けている敵兵の前に立った。
しおりを挟む

処理中です...