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第六章 生徒編
第六話 妹よ、俺は今家庭訪問をしています。
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「ようこそお越しくださいました、トキオ先生。さあ、どうぞ中へ」
「はい、失礼します」
前もってオスカーに過度な歓迎は必要ないと伝えておいたのが功を奏したのか、出迎えに現れたのは夫人一人。そう、俺は今、教師生活初めての家庭訪問をしている。
通されたのはいつも会談を行う部屋とは違い、落ち着いた雰囲気のテーブルとソファーが設置された部屋。中に入ると、ブロイ公爵だけでなく、エリアス、オスカー、クルト、フラン、家族総出で俺を待ち構えていた。いつもと違い、緊張した面持ちだ。
「あの・・・お茶くらいはお出ししても構いませんよね?」
「ええ・・・」
返事をするとホッとした表情で夫人が合図を送り、待ち構えていた使用人が瞬く間にお茶とお菓子を用意してくれた。いや・・・さっきからこちらを窺っている使用人が目に入っていては流石に断れないでしょう・・・
気を取り直してお茶が準備された席に着くと、セラ学園の教師でもあるオスカーが俺の隣に腰を下ろす。対面にはブロイ公爵、夫人、フラン、エリアス、クルト。フランはまだしも、エリアスとクルトはいらなくない?
「ようこそお越しくだった、トキオ殿」
「はい。まずは、教師として未熟故、心配するご両親に学校での様子をお伝えするのが遅くなってしまったことを謝罪させてください。申し訳ありませんでした」
深く頭を下げると、慌てて夫人が口を開く。
「お、おやめください。我々はトキオ先生に感謝しております。頭を下げていただくようなことは何もありません」
「個人的な感謝と担任教師としての義務は別です。ご報告が遅くなってしまったことは完全に俺の落ち度であり、ご迷惑をお掛けしたのであれば謝罪するのは当然です」
おろおろする夫人を横目に、ブロイ公爵が一つ咳払いをして言葉を発する。
「わかりました。トキオ殿の気が済まないのであれば、その謝罪は受け取ります。ですので、どうか頭を上げてください。大恩あるトキオ殿に頭を下げられては妻も恐縮してしまいます」
「ありがとうございます。では、これより保護者面談を始めさせていただきます」
こうして、教師生活最初の家庭訪問は始まった。
「まずは。こちらをご覧ください」
この世界の勉強は主に読み書きと計算。物理や化学は専門分野で一般的にはあまり学ばない。ということで、ブロイ公爵や夫人にもわかりやすいように計算の教科書と問題集を見せる。
「今、教えているのがこの辺りになります。フランはセラ学園に通う期間が今年度までと決まっていますので、最終的にはその教科書に載っている範囲まで教える予定です」
一次方程式から始まり、図形の計算や比例と反比例、連立方程式。前世でいう中学一年生までの範囲、算数から数学に変るところ。数字に苦手意識があるとこの辺りで挫折する。
「フランは数字にも苦手意識がなく、順調に習得しています。進みが早いようなら、二次方程式なども教えていけるかも・・」
「ちょ、ちょっと待ってください」
説明を遮ったのは長男のエリアス。
「どうかしましたか?」
「これは、フランだけが特別な授業をしていただいているということですか?」
「いいえ、みんなと同じですよ」
「セラ学園の生徒は、み、皆この問題を解けるのですか?」
「フラン位の歳の子なら、皆できます」
「し、信じられない・・・」
失礼な、うちの生徒をなめてもらっちゃ困る。
「フランが特別に優秀という訳ではないのですね?」
「学校には遅れて通い始めましたが、今は同い年の生徒に追いつきました。特別という訳ではありませんが優秀な生徒の一人です。なにより、学ぼうとする意欲があります」
時間が限られているせいか、フランは勉強に対する意識が高い。遅れて通い始めたフランが勉強を頑張ってくれるおかげで、他の生徒も抜かれまいと頑張る。担任としては実にありがたい存在だ。
「フラン、この問題解いてみろ」
疑っているのか、エリアスが問題集の1ページ目に載っている問題を指さすと、フランは不服そうな顔でスラスラと鉛筆を走らせる。
「はい、これでよいですか」
「正解だ・・・しかも、計算が速い」
「エリアス兄様、私のことを馬鹿にしているのですか。この問題はもう随分前に習い終わったところです。出来るに決まっているではありませんか」
「出来るに決まっているって・・・この問題は王都の学校でも最終学年で習う範囲だぞ!」
「そうなのですか。でも、セラ学園では年中組で習う範囲ですよ」
薄々は感じていたがこの世界の勉強はレベルが低い。殆どの平民が学校に通わない為、読み書きやレベルの低い計算が出来るだけでも優越感に浸れてしまう。うーん・・・それにしても王都の学校でそのレベルかぁ・・・
貴族の義務である以上、王都の学校に通うのは避けられない。勿論、学校は勉強だけを教える場ではなく、王都の学校でも学ぶべきことはあるのだろうが、事勉強に関しては期待できそうにないなぁ・・・
「フラン。君が望むのなら、卒業する前に年長組の教科書を準備しておくがどうする?王都の学校の授業では物足りないだろ」
「その点は私も不安に感じていました。是非、お願いします」
「そうか。じゃあ毎年、年齢に応じた教科書を準備しておくよ。分からないことがあれば手紙でもいいから聞いてね」
「はい、ありがとうございます。やったー!」
今日一番の笑顔を見せるフラン。そうだよな、折角みんなに追いついたのに一人だけ置いていかれたくはないよね。
「ねえ、あなた。本当にフランを王都の学校に行かせても良いのかしら?」
「ワシも不安になってきた・・・」
おい、おい。
「お二人とも安心してください。卒業後も責任を持って、フランがセラ学園卒業生と同等の学力が身に付いているかは俺が確認しますので」
「ありがとうございます。トキオ先生、今後ともフランのことをよろしくお願いします」
親は親、子供の将来を心配するのは貴族も平民も同じだ。
「次に学園生活の方ですが、友人や年下の子供達にも慕われて上手くやっています。当初我々が懸念していた身分の差における軋轢もまったくの杞憂でした。年中組には獣人族の生徒もおりますが「フーちゃん」と呼ばれて仲良くやっていますよ。俺もフランが学校に馴染んでくれたおかげで、差別意識など無知から起こるものだと改めて確信出来ました」
心配していたのは大人達だけ。フランには初めから差別意識など無く、貴族だからと自分を特別な存在だと思っているようなところもなかった。クラスメートと仲良くなりたいフラン、新たにやって来た生徒と仲良くなりたい子供達、双方仲良くなりたいのだから問題などある訳がない。
「みんなお友達です。中でもマリー、マリシアという女の子とは特に仲良くさせてもらっています。獣人族のミーコは、いつも「フーちゃん、フーちゃん」と話しかけてくれて、とても可愛いのですよ」
「あら、可愛いニックネームねぇ。それに、お友達も出来たなんて素晴らしいわ!機会があれば、是非紹介してちょうだい」
「はい。マリーは優秀でやさしくて素敵な女の子です。お母様もきっと気に入ると思いますよ」
嬉しそうに友人の話をするフラン、その話を嬉しそうに聞く婦人。位の高い貴族でありながら、それをひけらかすことのないブロイ公爵家の家風は本当に素晴らしい。
「フラン、もう一つのニックネームは母上に教えなくていいのか?」
「なっ、オスカー兄様、それはもうミルしか使っていません!」
「なに、なに、他にもニックネームがあるなら教えてちょうだい」
ここでその話を持ち出すとは・・・流石は空気を読まないことで公爵家一のオスカーだ。
「あ、あのー・・・えっと・・・」
言いよどむフランをよそに、ニヤニヤした表情でオスカーが例のニックネームを教える。
「もう一つにニックネームは「フラン将軍」です」
「「「フラン将軍!」」」
他の家ならそれ程驚くこともないだろうが、ここでは別。なにせ、ブロイ公爵家は本当にこの国の将軍職に就く可能性のある家柄だ。
「ど、どうしてフランが将軍と呼ばれているのだ。まさか、子供達に揶揄われているのではないだろうな!」
「落ち着いて下さい、父上。これには深い事情があるのですよ。聞きたいですか?」
「当り前だ。もったいぶらずにとっとと話せ!」
「はい、はい、本当に父上はせっかちなのだから・・・」
「うるさい!」
オスカーがドッヂボールの話を始めると、調子に乗り過ぎた自覚のあるフランはバツが悪そうに下を向いた。初めはイラついていたブロイ公爵も途中からは頷きながら話に聞き入る。クルトも感心しているようで、ブロイ公爵と同じタイミングで頷いているのは少し面白い。
「それで、付いたニックネームが「フラン将軍」か・・・やるじゃないか、フラン!」
「やめてください、クルト兄様。自分でも調子に乗り過ぎたのはわかっています。それに、もうドッヂボールブームは終わったのでミル以外には呼ばれていません」
なぜかミルだけは「フラン将軍」をえらく気に入って未だにそう呼んでいる。謎だ・・・
「参謀長役の少女か・・・んっ!オスカー、もしかしてその少女とはスタンピードのとき一緒に城壁まで登ってきたあの娘か?」
「流石は父上、気づかれましたか。そうです、あの子がミル、セラ学園一、いや、この国一番の天才少女です」
「この国一番の天才・・・」
「ええ。勿論、先生は除いてですが。あまりに賢すぎてミルだけは特別な授業を受けています。ちなみにミルが解いている問題集は教師の私でも問題の意味すら分かりません。先生と出会ったことで、ミルの才能は開花しました。間違いなく、ミルは将来国中にその名を轟かせる人物になるでしょう」
「・・・・・・・・・」
何かを考えこむように黙ってしまったブロイ公爵。どしたの?
「どうされましたか、父上」
「んっ、ああ、少し今後のことについてな。考えてもみろ、それ程の天才少女でもトキオ殿との出会いが無ければ野に埋もれていたのだぞ。これまでに人類はどれ程の才能を見出せぬまま終わらせてしまったのかと考えるだけで恐ろしい。やはり教育は重要だ、急がねば」
急ぐ?何を?
何かを吹っ切るように一つ首を振ると、優しい父親の顔に戻ったブロイ公爵がフランに問いかける。
「フラン、学校は楽しいか?」
「はい、お父様。勉強も運動も、遊びも休み時間のお喋りも、すべてが楽しいです!」
「それはなによりだ」
領主である前に父親、娘の笑顔に勝る喜びは無い。
「と、いうことで、勉強も遊びも全力で打ち込んでいるフランの学園生活は、今のところ何一つ問題ありません」
「ありがとうございます。今度ともよろしくお願いします」
最後に総括をして保護者面談終了。フッー、なんとか無事終わった。
んっ!
説明に使った教科書と問題集を片付けていると、フランがニコニコしながら立ち上がってクルトの隣に移動した。何をしているんだろう?
「それでは、俺はこの辺で・・・」
「どうされた、トキオ殿?」
えっ!
「少し休憩を入れますか?」
なんで?
休憩って・・・俺はもう帰りますよ。
「いえ・・・」
「ではこのまま始めましょう」
だから、何を?
すると、フランが移動して空いたソファーにオスカーが座る。
「オスカー、何をしているんだ?」
「またまたー、フランの番が終われば次は私の番じゃないですかー」
はい?
「それでは始めようか、トキオ殿。息子の保護者面談を」
はぁ?
「はい、失礼します」
前もってオスカーに過度な歓迎は必要ないと伝えておいたのが功を奏したのか、出迎えに現れたのは夫人一人。そう、俺は今、教師生活初めての家庭訪問をしている。
通されたのはいつも会談を行う部屋とは違い、落ち着いた雰囲気のテーブルとソファーが設置された部屋。中に入ると、ブロイ公爵だけでなく、エリアス、オスカー、クルト、フラン、家族総出で俺を待ち構えていた。いつもと違い、緊張した面持ちだ。
「あの・・・お茶くらいはお出ししても構いませんよね?」
「ええ・・・」
返事をするとホッとした表情で夫人が合図を送り、待ち構えていた使用人が瞬く間にお茶とお菓子を用意してくれた。いや・・・さっきからこちらを窺っている使用人が目に入っていては流石に断れないでしょう・・・
気を取り直してお茶が準備された席に着くと、セラ学園の教師でもあるオスカーが俺の隣に腰を下ろす。対面にはブロイ公爵、夫人、フラン、エリアス、クルト。フランはまだしも、エリアスとクルトはいらなくない?
「ようこそお越しくだった、トキオ殿」
「はい。まずは、教師として未熟故、心配するご両親に学校での様子をお伝えするのが遅くなってしまったことを謝罪させてください。申し訳ありませんでした」
深く頭を下げると、慌てて夫人が口を開く。
「お、おやめください。我々はトキオ先生に感謝しております。頭を下げていただくようなことは何もありません」
「個人的な感謝と担任教師としての義務は別です。ご報告が遅くなってしまったことは完全に俺の落ち度であり、ご迷惑をお掛けしたのであれば謝罪するのは当然です」
おろおろする夫人を横目に、ブロイ公爵が一つ咳払いをして言葉を発する。
「わかりました。トキオ殿の気が済まないのであれば、その謝罪は受け取ります。ですので、どうか頭を上げてください。大恩あるトキオ殿に頭を下げられては妻も恐縮してしまいます」
「ありがとうございます。では、これより保護者面談を始めさせていただきます」
こうして、教師生活最初の家庭訪問は始まった。
「まずは。こちらをご覧ください」
この世界の勉強は主に読み書きと計算。物理や化学は専門分野で一般的にはあまり学ばない。ということで、ブロイ公爵や夫人にもわかりやすいように計算の教科書と問題集を見せる。
「今、教えているのがこの辺りになります。フランはセラ学園に通う期間が今年度までと決まっていますので、最終的にはその教科書に載っている範囲まで教える予定です」
一次方程式から始まり、図形の計算や比例と反比例、連立方程式。前世でいう中学一年生までの範囲、算数から数学に変るところ。数字に苦手意識があるとこの辺りで挫折する。
「フランは数字にも苦手意識がなく、順調に習得しています。進みが早いようなら、二次方程式なども教えていけるかも・・」
「ちょ、ちょっと待ってください」
説明を遮ったのは長男のエリアス。
「どうかしましたか?」
「これは、フランだけが特別な授業をしていただいているということですか?」
「いいえ、みんなと同じですよ」
「セラ学園の生徒は、み、皆この問題を解けるのですか?」
「フラン位の歳の子なら、皆できます」
「し、信じられない・・・」
失礼な、うちの生徒をなめてもらっちゃ困る。
「フランが特別に優秀という訳ではないのですね?」
「学校には遅れて通い始めましたが、今は同い年の生徒に追いつきました。特別という訳ではありませんが優秀な生徒の一人です。なにより、学ぼうとする意欲があります」
時間が限られているせいか、フランは勉強に対する意識が高い。遅れて通い始めたフランが勉強を頑張ってくれるおかげで、他の生徒も抜かれまいと頑張る。担任としては実にありがたい存在だ。
「フラン、この問題解いてみろ」
疑っているのか、エリアスが問題集の1ページ目に載っている問題を指さすと、フランは不服そうな顔でスラスラと鉛筆を走らせる。
「はい、これでよいですか」
「正解だ・・・しかも、計算が速い」
「エリアス兄様、私のことを馬鹿にしているのですか。この問題はもう随分前に習い終わったところです。出来るに決まっているではありませんか」
「出来るに決まっているって・・・この問題は王都の学校でも最終学年で習う範囲だぞ!」
「そうなのですか。でも、セラ学園では年中組で習う範囲ですよ」
薄々は感じていたがこの世界の勉強はレベルが低い。殆どの平民が学校に通わない為、読み書きやレベルの低い計算が出来るだけでも優越感に浸れてしまう。うーん・・・それにしても王都の学校でそのレベルかぁ・・・
貴族の義務である以上、王都の学校に通うのは避けられない。勿論、学校は勉強だけを教える場ではなく、王都の学校でも学ぶべきことはあるのだろうが、事勉強に関しては期待できそうにないなぁ・・・
「フラン。君が望むのなら、卒業する前に年長組の教科書を準備しておくがどうする?王都の学校の授業では物足りないだろ」
「その点は私も不安に感じていました。是非、お願いします」
「そうか。じゃあ毎年、年齢に応じた教科書を準備しておくよ。分からないことがあれば手紙でもいいから聞いてね」
「はい、ありがとうございます。やったー!」
今日一番の笑顔を見せるフラン。そうだよな、折角みんなに追いついたのに一人だけ置いていかれたくはないよね。
「ねえ、あなた。本当にフランを王都の学校に行かせても良いのかしら?」
「ワシも不安になってきた・・・」
おい、おい。
「お二人とも安心してください。卒業後も責任を持って、フランがセラ学園卒業生と同等の学力が身に付いているかは俺が確認しますので」
「ありがとうございます。トキオ先生、今後ともフランのことをよろしくお願いします」
親は親、子供の将来を心配するのは貴族も平民も同じだ。
「次に学園生活の方ですが、友人や年下の子供達にも慕われて上手くやっています。当初我々が懸念していた身分の差における軋轢もまったくの杞憂でした。年中組には獣人族の生徒もおりますが「フーちゃん」と呼ばれて仲良くやっていますよ。俺もフランが学校に馴染んでくれたおかげで、差別意識など無知から起こるものだと改めて確信出来ました」
心配していたのは大人達だけ。フランには初めから差別意識など無く、貴族だからと自分を特別な存在だと思っているようなところもなかった。クラスメートと仲良くなりたいフラン、新たにやって来た生徒と仲良くなりたい子供達、双方仲良くなりたいのだから問題などある訳がない。
「みんなお友達です。中でもマリー、マリシアという女の子とは特に仲良くさせてもらっています。獣人族のミーコは、いつも「フーちゃん、フーちゃん」と話しかけてくれて、とても可愛いのですよ」
「あら、可愛いニックネームねぇ。それに、お友達も出来たなんて素晴らしいわ!機会があれば、是非紹介してちょうだい」
「はい。マリーは優秀でやさしくて素敵な女の子です。お母様もきっと気に入ると思いますよ」
嬉しそうに友人の話をするフラン、その話を嬉しそうに聞く婦人。位の高い貴族でありながら、それをひけらかすことのないブロイ公爵家の家風は本当に素晴らしい。
「フラン、もう一つのニックネームは母上に教えなくていいのか?」
「なっ、オスカー兄様、それはもうミルしか使っていません!」
「なに、なに、他にもニックネームがあるなら教えてちょうだい」
ここでその話を持ち出すとは・・・流石は空気を読まないことで公爵家一のオスカーだ。
「あ、あのー・・・えっと・・・」
言いよどむフランをよそに、ニヤニヤした表情でオスカーが例のニックネームを教える。
「もう一つにニックネームは「フラン将軍」です」
「「「フラン将軍!」」」
他の家ならそれ程驚くこともないだろうが、ここでは別。なにせ、ブロイ公爵家は本当にこの国の将軍職に就く可能性のある家柄だ。
「ど、どうしてフランが将軍と呼ばれているのだ。まさか、子供達に揶揄われているのではないだろうな!」
「落ち着いて下さい、父上。これには深い事情があるのですよ。聞きたいですか?」
「当り前だ。もったいぶらずにとっとと話せ!」
「はい、はい、本当に父上はせっかちなのだから・・・」
「うるさい!」
オスカーがドッヂボールの話を始めると、調子に乗り過ぎた自覚のあるフランはバツが悪そうに下を向いた。初めはイラついていたブロイ公爵も途中からは頷きながら話に聞き入る。クルトも感心しているようで、ブロイ公爵と同じタイミングで頷いているのは少し面白い。
「それで、付いたニックネームが「フラン将軍」か・・・やるじゃないか、フラン!」
「やめてください、クルト兄様。自分でも調子に乗り過ぎたのはわかっています。それに、もうドッヂボールブームは終わったのでミル以外には呼ばれていません」
なぜかミルだけは「フラン将軍」をえらく気に入って未だにそう呼んでいる。謎だ・・・
「参謀長役の少女か・・・んっ!オスカー、もしかしてその少女とはスタンピードのとき一緒に城壁まで登ってきたあの娘か?」
「流石は父上、気づかれましたか。そうです、あの子がミル、セラ学園一、いや、この国一番の天才少女です」
「この国一番の天才・・・」
「ええ。勿論、先生は除いてですが。あまりに賢すぎてミルだけは特別な授業を受けています。ちなみにミルが解いている問題集は教師の私でも問題の意味すら分かりません。先生と出会ったことで、ミルの才能は開花しました。間違いなく、ミルは将来国中にその名を轟かせる人物になるでしょう」
「・・・・・・・・・」
何かを考えこむように黙ってしまったブロイ公爵。どしたの?
「どうされましたか、父上」
「んっ、ああ、少し今後のことについてな。考えてもみろ、それ程の天才少女でもトキオ殿との出会いが無ければ野に埋もれていたのだぞ。これまでに人類はどれ程の才能を見出せぬまま終わらせてしまったのかと考えるだけで恐ろしい。やはり教育は重要だ、急がねば」
急ぐ?何を?
何かを吹っ切るように一つ首を振ると、優しい父親の顔に戻ったブロイ公爵がフランに問いかける。
「フラン、学校は楽しいか?」
「はい、お父様。勉強も運動も、遊びも休み時間のお喋りも、すべてが楽しいです!」
「それはなによりだ」
領主である前に父親、娘の笑顔に勝る喜びは無い。
「と、いうことで、勉強も遊びも全力で打ち込んでいるフランの学園生活は、今のところ何一つ問題ありません」
「ありがとうございます。今度ともよろしくお願いします」
最後に総括をして保護者面談終了。フッー、なんとか無事終わった。
んっ!
説明に使った教科書と問題集を片付けていると、フランがニコニコしながら立ち上がってクルトの隣に移動した。何をしているんだろう?
「それでは、俺はこの辺で・・・」
「どうされた、トキオ殿?」
えっ!
「少し休憩を入れますか?」
なんで?
休憩って・・・俺はもう帰りますよ。
「いえ・・・」
「ではこのまま始めましょう」
だから、何を?
すると、フランが移動して空いたソファーにオスカーが座る。
「オスカー、何をしているんだ?」
「またまたー、フランの番が終われば次は私の番じゃないですかー」
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