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第六章 生徒編

第五話 妹よ、俺は今「勇者の仲間」について相談しています。

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「あの子にそんなスキルが・・・」

「ええ、ただ、「鑑定」以外のスキルは伝えなくてもいいと思います。問題は・・・」

「「勇者の仲間」ですか・・・」

「はい。この称号で魔力と知能の基本ステータスが飛躍的に上がっています。頭のいい子ですから、元々常人離れしてした知能の数値が五倍にもなれば本人も薄々気付いているのではないでしょうか。魔法属性も元々持っていた水属性と風属性の他に火属性と土属性が追加されました。好奇心の強い子です、今はまだ「鑑定」スキルはレベル1ですが、すぐに上がってしまうでしょう。「鑑定」レベルが6に上がれば「上位鑑定」が使えるようになります。そうなれば隠すことは出来ません」

「そうですね・・・」

 俺とマザーループを悩ませているのは、知らぬ間にミルが「勇者の仲間」の称号を得ていた問題。本来、年中組のミルには能力を公開しないのだが「鑑定」スキルを得たとき同様、基本ステータスが突然向上すれば不安に思う可能性もある。

 コン、コン

「どうぞ」

「失礼します」

「突然呼び出して悪かったな、ノーラン。ここに座ってくれ」

「はい」

 ノーランは一人だけマザーループの執務室に呼ばれてもおどおどすることなく、顔色一つ変えていない。普段はまだ行動や言動に幼さが残るノーランが時折見せる勇者の資質。これが生まれ持ってのものか「勇者」スキルの影響かは俺も判断がつかない。

「少し聞きたいことがある。ノーランが持つ「勇者」スキルにある仲間の能力向上だが、発動条件はあるのか?」

「わかりません」

 だよねー・・・

「知ってのとおり、アルバとキャロには「勇者の仲間」の称号がある。ノーランから許可を出したとか、強く仲間になりたいと願ったとか、なにかきっかけはあるのか?」

「うーん・・・二人とは一緒にパーティーを組んで冒険者になろうと小さいころから話していましたが、特別に何か盟約を交わしたとかはないです。勿論、俺の方から許可を出したとかもありません」

 だろうな。そんなことができるなら、ノーランは自分が「勇者」スキルを持っていると幼いころから気付いていた筈だ。質問の角度を変えてみるか。

「もし、もう一人仲間に加えられるなら誰を入れる?孤児院の子供でも、知っている大人でも、誰でもいいぞ」

 単純に戦力向上を考えるなら俺やサンセラ、もしくはS級冒険者のマーカス。孤児院の子供達から選ぶなら、回復魔法が使えるネルか身体能力の高いガインといったところか。

「ミルですね」

 即答か・・・

「理由は?」

「だって、あいつ、滅茶苦茶賢いじゃないですか。多分、俺の百倍くらい色々なことを考えていますよ。魔法は知識です。きっとミルなら、俺達が想像もつかない魔法を生み出すと思うんですよね。まあ、それが戦闘に役立つかどうかは疑問ですけど」

「戦闘に役立たないなら意味がないじゃないか」

「えぇー、だって、面白そうじゃないですか。トキオ先生だって興味あるでしょ」

 うん、正直ある。

「でも、仲間にするのはいいけど、冒険者パーティーには入れたくないなぁ・・・」

「どうして?」

「だって、あいつ、平気で無茶するし、危なっかしいじゃないですか。スタンピードのときも、ブロイ公爵に自分の意見を言って最後には頭を下げさせちゃったし、アトル行きの馬車に忍び込むときも、絶対にバレて叱られるからってみんなで止めたんですけど聞きやしない・・」

「ノーラン、あなた達、知っていて黙っていたのですか!」

「ヒッ、ごめんなさい!」

 怒られる姿は「勇者」スキルを持っていてもただの子供、なんだか安心する。

「ノーランの中で仲間と冒険者パーティーは同じじゃないのか?」

「それはそうですよ、みんながみんな戦える訳じゃないですから。ミルは将来必ず凄い学者になります。知識は力ですから、大人になったら何かとミルには教えてもらうことになると思います。逆に、ミルが欲する素材や危険な場所に行かなくちゃならなくなったら俺達が護衛を買って出ますよ。妹みたいなものですから、トキオ先生やマーカスさんならともかく他の冒険者には任せられません」

 なんかいいなぁ、こういうの。

「ミルだけじゃないですよ。孤児院で生活を共にした仲間はみんな家族同然だし、全員セラ学園の卒業生だから将来有望だ。困っているときは助けるし、困ったときは助けてもらいます。そう言った意味では全員仲間ですね」

 あらあら、マザーループ・・・さっきまで怒っていたのに、ノーランの言葉に感動したのか顔を伏せてプルプル震えだしちゃった。

「マザー、どうして顔を伏せて笑っているのですか?俺、なにか面白いこと言いました?」

「な、何でもありません。ちゃんとトキオさんの話を聞きなさい!」

「はーい」

 親の心子知らず、とはちょっと違うか。まだまだ子供のノーランにマザーループの感情の機微まではわかるまい。

「ノーランの考えはわかったよ。ここまでの話で大方の予想はついていると思うが、ノーランを呼んだのはミルに「勇者の仲間」の称号が付いていたからなんだ」

「えぇぇぇぇぇぇ!」

 いや、気づいてなかったんかーい!

「ど、どど、どうすればいいですか!消さなきゃ拙いですか!あっ、俺、消し方知りません!」

「落ち着け、別に消す必要は無い。能力が上がって喜ばない者は居ないだろうし」

「そ、そうですよね、良かったー・・・」

 結局、「勇者の仲間」の称号がどうやって付くのかはわからずじまいか。ノーランの話から察するに、ミルとは大人になってからも協力していきたいが一緒に冒険者として活動したい訳ではなさそうだ。しかも、協力していきたいのは孤児院で共に育った全員、ミルだけが特別ではない。ミルに称号が現れた後、念のため子供達全員を「上位鑑定」したが、新たに「勇者の仲間」の称号が現れた子供は居なかった。まったく、謎が多すぎるぞ「勇者」スキルさんは・・・

「称号が付いたこと自体は問題じゃない。マザーループと俺が悩んでいるのは、そのことをミルに伝えるか伝えないかだ。ちなみに、ノーランは伝えた方がいいと思うか?」

「うーん・・・年長組に上がるまでは別に伝えなくてもいいんじゃないですか」

 あれ、これは意外だ。ノーランなら伝えた方がいいと言うと思った。

「でも、ミルは賢いから気付くだろ」

「多分、気付きませんよ。ミルは目の前の興味に何でも飛びつくから忙しいですし、案外抜けたところがありますから」

「そうか?」

「そうですよ。トキオ先生の前ではあまりそういう姿は見せませんが、結構だらしないところもありますよ。朝は寝起きが悪いし、ご飯は零すし、カルナに直してもらわないと髪は寝ぐせのままだし、注意しないと何日でも同じ服を着たままだし、あと・・何もないところでよく転びます」

 本当かよ・・・寝起きが少し悪いのは旅行したとき知ったけど、その他はとても信じられないなぁ。アトルの街でもシスターパトリのだらしなさを注意していたぞ。

「そこまで酷くないだろ」

「いいえ、酷いですよ。あいつはトキオ先生の前だと覚醒するんです。俺が思うに、トキオ先生の傍では面白いことが起きやすいからじゃないですかね。学校を全力で楽しもうとしていますから、孤児院に戻ったら抜け殻になるんですよ」

 嬉しいような、嬉しくないような・・・いや、良くないなぁ・・・

「マザーループ、本当ですか?」

「たしかに・・・その節はあります。トキオさんから注意していただければ、多少は改善すると思いますが・・」

「わかりました。今度、少し強めに言っておきます」

 やはり相談するのは大切だ。俺にはミルは賢いだけでなく、注意深くて物の本質を見抜く慧眼を持った天才少女としか見えていなかったが、家族同然のマザーループやノーランは俺の知らない部分まで知っていた。そういえば以前カルナも、ミルは何でも知っているのに抜けたところがあると言っていたな。

「トキオ先生、俺が言ったって言わないでくださいよ、ミルを怒らせると仕返しが怖いですから。あいつ、人の弱点を見つけては的確に抉ってくるんですよ」

 仮にも「勇者」スキルの保持者が、九歳の女の子を怖いって・・・あっ、そういえばスタンピードの帰りにもこっぴどくやられていたなぁ・・・

「私もノーランの意見に賛成です。仮に、十二歳になる前に本人が気付いたのなら、その時にトキオさんから教えてあげても問題ないと思いますよ。あの子なら、教えなかった理由も理解できる筈です」

「そうですね。もし気付いたら、その時は俺から話をします。それまでは黙っておきましょう。必要以上に能力の情報を与えて、ミルの将来にレールを敷いてしまうのは俺も良いことだとは思いません」

 成長を見守るのも教師の仕事、慌てて成長を促す必要なんてない。

「あいつは将来、絶対大物になりますよ。ブロイ公爵に堂々と意見した時、俺は確信しました」

「そうですね。誰よりも早くトキオさんを先生と呼び始めたのもあの子でした。普段は我儘を言わないあの子が、あんなにも人に執着を見せたのは後にも先にもあの時だけ、人を見る眼も備わっていますものね。将来が楽しみです」

 セラ教会のトップと将来の勇者のお墨付きも貰った。俺もミルには大きく育ってもらいたい。

 こうして、「勇者の仲間」の称号は伝えないと決まったのが数日前・・・


 ♢ ♢ ♢


 サンセラの奴、勝手なことしやがって・・・

 将棋部に割り当てられた教室。入り口横には大きく「将棋部」と書かれた木の看板が設置されている。勿論、こんな看板を俺は作っていない。まあ、百歩譲ってこれは許す。問題はその横に小さく掲げられたもう一つの看板。

「なんだよ、手裏剣同好会って・・・」

 一人丸太小屋の中、趣味で手裏剣を投げているなら何も言わないがここは学校の施設、勝手は許さん。ガツンと言ってやらねば。



 シュッ

「ミル姉ちゃん、かっこいい!」

「わたしの実力はこんなものじゃない。よく見ておくがいい、ター坊」

「うん!」

 シュッ、シュッ、シュッ

「すごーい!ぼくもやりたい!」

 ノリノリでやっていらっしゃる・・・


「おい、サンセラ。なに勝手に手裏剣同好会なんか作っているんだよ」

「いえ、これは私ではなくミルのアイデアでして・・・自分も手裏剣を投げたいから、部が認められないなら同好会にすればいいと・・・」

 恐ろしい子・・・同好会なんて言葉どこで覚えたんだ?

「あっ、トキオ先生。ぼくにもミル姉ちゃんみたいなシリケン作って!」

「う、うん・・・シリケンじゃなくて手裏剣ね」

 ミルにだけ手裏剣を作ってあげるのは不公平だし、こうなると止められない。あっ、今、ミルがニヤリと笑いやがった。こうなることを見越して、わざとタティスの前で派手に手裏剣を投げていたんだな。まったく、狡賢い・・・

「将棋の道具を色々作ってきたから、とりあえず手裏剣は後で・・」

「トキオ先生はわたしのシリケンも、あっという間に作ってくれたんだよ。良かったね、ター坊」

「すごーい、作って、作って」

 逃がす気はありませんか・・・

「う、うん。すぐに作るから少し待っていて。あと、シリケンじゃなくて手裏剣ね」

 結局、タティス用に小さめの十字手裏剣とクナイを作らされました・・・

 今は二人で楽しそうに手裏剣を投げています・・・将棋はいいの?

「もっと、脇をしめて!」

「うん!」

「それではダメ。風を切るように投げるの」

「わかった!」

 中心にはおろか、なかなか的にすら届かない。それでもタティスは楽しそうだ。

「誰でも最初から上手くは行かない。努力あるのみだよ、ター坊」

「うん!」

 その通りなのだが、出来ることならその努力は別のことでしてもらいたのですけれど・・・

「ター坊、どっちが将来、国一番のシリケン使いになるか勝負だよ!」

「うん、ぼく、負けないよ!」

 ミルさんや、あなたは将来、国一番の学者さんになるんじゃなかったのかい?

 あと、シリケンじゃなくて手裏剣ね・・・


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