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第五章 アトルの街編
第二十二話 妹よ、俺は今自分が嫌な奴だと知りました。
しおりを挟むガイアソーサの話に出てきた人族は上田誠(仮)で間違いない。
勇者パーティーの一員として人族と魔族の戦争を終わらせた後、魔族国の復興に手を貸していたとは・・・しかも復興だけでなく、今後争いが起きないよう多方面に尽力している。本当に凄い奴だ。
「その人物には心当たりがある。それで、まさか百六十年も前に生きていた人族を探しに来たという訳でもあるまい」
「はい。その人族のおかげで、魔族国の平和は長く保たれてきました。しかし近年、平和だったが故の問題が発生しており、近い将来また以前のような争いに発展するのではないかと危惧しております。僕はそうならない為のヒントが人族の国にならあるのではないかと、旅をしながら探していました」
「その問題とは?」
「魔族国の民の寿命が延びたことによる高齢化と人口の増加、それに伴う食糧不足です」
なるほど。平和になればなったで、新たな問題が発生するのはどの世界も同じか・・・
「それで、魔族国を食糧難から救うヒントは見つかったのか?」
「いいえ。人族の国々よりも大きな国土を誇る魔族国ですが、実情は使えない痩せこけた土地が大半です。もとより農作物の育ちが良い人族の国々のようにはいきません」
土地はあるが農作物が育つような環境ではない。食料が足りなければ、いずれは他者から奪い取ってでも自国民を守らなければならない。そうなれば、また以前のような争いになる。ガイアソーサはそれを恐れて、争いが起きる前に食料を確保する方法が無いかと諸国を見て旅をしているという訳か。
悪意を感じない筈だ。やはり、良い奴じゃないか。
「ガイアソーサよ、お前は運がいい」
「運がいい?」
「ああ。基本四属性の中でも俺が最も得意とするのが、土属性だ」
上田誠(仮)が築いた平和は、同じ転生者の俺が引き継ぐ。
「コタロー、サンセラ、もういいぞ」
「えぇぇぇ、わざわざアトルまで来たのに、もう終わりですか?」
来る前からノリノリだったサンセラがブー垂れるが、さすがにいつまでもガイアソーサにプレッシャーを与え続けるのはかわいそうだ。
「サンセラ殿、気持ちはわからんでもないが、そろそろ開放してやろうではないか」
「コタロー様はいつも師匠と一緒だから、そんなことが言えるのです。私は師匠達がアトルに行っている間、ずっと一人ぼっちだったのですよ」
「何を今更。お主は元より、魔獣の大森林に一人で住んでおったではないか」
突然雰囲気の変わったコタローとサンセラに理解が追いついていないのか、ガイアソーサは半開きの口で目をパチクリさせていた。そんなことはお構いなしで二人は言い合いを続ける。
「コタロー様だって私と同じだったくせに。と言うか、私よりこの状況を楽しんでいたではありませんか。気付いていないかもしれませんが、口調が以前のようになっていますよ。なんですか「お主」って、ちょっと痛いですよ。ねえ、師匠」
「ああ、痛いな・・・」
「どこが痛いのですか!私は威厳を見せる為に敢えてこのような話し方をしているだけです」
「それが痛いんですよ。わかんないかなぁ・・・」
「なっ、いくらサンセラ殿でも、それは言い過ぎではないか!」
「だって、これくらい言わないと、その痛い口調は直らないじゃないですか」
「痛いと言うな、かっこいいだろ!」
「全然。聞いていてこっちが恥ずかしくなるほど痛いですよ。ねえ、師匠」
「ああ・・・痛いな」
「あ、あのー・・」
「お主は黙っておれ!今、トキオ様の両翼として大事な話をしておるのだ!」
「も、申し訳ございません」
「大人げないなぁ。自分から解放してやろうと言ったくせに、威圧しちゃダメでしょう。また「お主」とか言っているし。痛い、痛い」
「それをやめろ!威圧もしておらん!」
「していますよ。あっ、これって命令違反じゃないですか。また謹慎が必要ですね。ここからはコタロー様にかわって私が師匠のお供をさせていただきましょう。うん、それがいい」
「ち、違います、トキオ様。私は命令違反などしておりません。サンセラ殿、ズルいぞ!」
「お前ら、いい加減にしろ。これ以上続けるなら、二人とも謹慎にするぞ」
「「も、申し訳ございません」」
ガイアソーサも若干引いているじゃないか・・・まあ、場の雰囲気が和んだので今回は不問とするが、あんまり人前で恥ずかしい姿を見せるんじゃないよ。仮にもお前ら、聖獣とドラゴンだろうが・・・
「と、言うことで、魔族国の余っている土地は俺が農地に変えてやる。今後の為に穀倉地帯を作っておくのも有りだな」
「そ、そんなことが可能なのですか?」
「おい、魔族!お前、師匠のお力を疑うのか。師匠が出来ると言ったら出来るに決まっているだろうが!」
やめとけ!別に悪気があって言っている訳じゃないことくらいわかるだろ・・・
「サンセラ。お前もういいから、帰れ」
「えぇぇぇぇ、そんな殺生な・・・」
殺生なって、そんな言葉どこで覚えたんだよ。あぁ、俺が渡した忍者小説か・・・
「あっ、そうだ。ガイアソーサ、お前の「魔王」スキルで俺達の正体はわかるのか?」
「いいえ。皆様がどのようなお方かまではわかりません。ただ、「魔王」スキルにある「直感」で、お三方が私など足元にも及ばない方々なのはわかります」
なるほど。だから闘技場で「上位鑑定」を使った時も一瞬こちらを見ただけだったのか。「鑑定」のような能力かと思ったが、どちらかと言えば危険を知らせてくれる第六感的なもののようだな。オスカーとの決勝戦で後方に飛び退いたのも「直感」が反応したのか。そういえば「勇者」スキルにも「鑑定」に似た能力は含まれていなかった。「魔王」や「勇者」でもサンセラの正体を簡単に見破れないのなら、もう少し行動範囲を増やしてやってもいいかも。
「サンセラ、行くぞ」
「本当に、もう帰らなければならないのですか?」
「お前の気持ちもわかるが、学校が心配だ」
「そうですね。わがままを言って申し訳ありませんでした」
「すまん。頼んだぞ。転移」
サンセラとトロンに転移して直ぐに戻ってくると、ガイアソーサは大口を開けて固まっていた。
「い、い、今のは・・・転移魔法ですが?」
「そうだが」
「も、もしや、トキオ様は・・・神」
「違う。俺は魔法が得意なだけで、だだの人間だ」
「得意と言う次元では・・・」
現状では無詠唱魔法も使えないガイアソーサから見れば、転移魔法は神の如き魔法に思えても仕方ないか。
「転移魔法は光属性か闇属性に空間属性、時間属性、この三つを持っていれば使える。ただし、大量の魔力を消費するのでレベルが低い段階で使うのは危険だ」
「僕でも可能でしょう?」
「ああ。だが、無詠唱魔法も使えない現状では無理だ。今のガイアソーサでは魔力も全然足りていないだろうし。ステータスを見せてもらってもかまわんか?」
「はい。どうぞ」
「上位鑑定」
名前 ガイアソーサ(59)
レベル 32
種族 魔族
性別 男
基本ステータス
体力 22720/22720
魔力 23680/23680
筋力 23040
耐久 22080
俊敏 21760
器用 23360
知能 23360
幸運 28160
魔法
火 E
水 D
風 E
土 D
闇 D
空間 E
時間 E
スキル
魔王
嘘だろ・・・勿体ない。
『なあ、魔族はトレーニングをしても基本ステータスが上がらないのか?』
『それは無いかと。ただ、人族にくらべ長命で身体も強靭な者が多いので、トレーニングという概念自体が無いのかもしれません。私やサンセラ殿もトレーニングなどしたことがありませんから。ですが、技術の習得となれば話は別。その副産物で基本ステータスが多少は上がるものですが、この者は特別な技術習得を何もしてこなかったようですね』
才能だけでこれまでやってきたのか?たしかにこのステータスなら大概の者には負けないだろうが、戦い自体に興味がないのかなぁ・・・いや、ここへ来たのは武闘大会でオスカーが奥の手を出さなかったことにたいして文句を言いに来たんだし、そもそも、戦いに興味が無ければ大会にも出場しないか・・・それは後で聞くとして、とりあえず「魔王」スキルだな。
「魔王」
光を除く魔法属性付与
レベルアップ時の基本ステータス上昇10倍
部下の能力向上
直感
うん。「勇者」と同じで曖昧・・・部下の能力向上って、何人までだよ。あと、直感はもう少し説明があってもよくないですか?
そして、最大の問題・・・なんだよ、五十九歳って、滅茶年上じゃん!還暦前じゃん!見た目若そうだったから、上から目線で話しちゃったじゃん!
こういう時って人間性が出るよね。俺って結構嫌な奴だったんだ・・・前世の学校とか会社で年下に疎まれていたのかなぁ・・・はぁ、サンセラに面倒くさい先輩とか言っちゃったけど、俺じゃん!全ての年下の皆さん、今まで偉そうにしてすみません・・・
「あのー・・・ガイアソーサさんは、どうして武闘大会に出場されたのですか?」
「さん?えっ・・・あ、はい、旅の路銀が底をつきまして・・・」
「戦うことがお好きなのですか?」
「い、いえ・・・僕は剣や相撲より、どちらかと言うと将棋の方が好きです」
「そうだったのですか。でも、オスカーとはもっと戦いたかったと・・・」
「ちょっ、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「どうして、急にその様な話し方に?」
ですよねー・・・今更取り繕ったところで、今迄の非礼は誤魔化せませんよね・・・
「すみませんでした!見た目がお若いので年下だと勘違いしておりました!」
こういう時は即謝罪。間違った時に頭を下げられないようでは、本当に人間として終わっている。今迄嫌な思いをさせておきながら気付けなかった全ての年下にもごめんなさい!
「年齢など関係ありません。どうかこれまでのように、偉そう・・いえ、威厳を持った話し方でお願いします」
やっぱり偉そうな態度だったと思われているー!
サイテー、トキオサイテー、モラハラ男サイテー。モテない理由がようやくわかりました・・・
「いえいえ、ガイアソーサさんこそ、俺のことはトキオ、いや、お前で結構ですので」
「何を仰います。トキオ様程のお方にその様な態度は取れません」
「そうですよ、トキオ様。この者がトキオ様に無礼を働くのは私が許しません」
「いいから、コタローは黙っていろよ」
「そうはいきません。だいいち、魔族は人族に比べ三倍程の寿命があります。この者は人族に換算するとまだ二十歳前、年下の認識で間違っておりません」
「そ、そうです。僕は実質、トキオ様より年下です」
「そ、そうなの?」
「「そうです!」」
「年下のくせに偉そうで嫌な奴だって思っていない?」
「「思っておりません!」」
「じゃ、じゃあ、いいけど・・・」
なんか、ガイアソーサがもの凄く疲れた表情をしている。あと、コタローは関係なくない?
「話を戻すけれど、どうしてオスカーとはもっと戦いたかったんだ?」
「恥ずかしながら、今迄は何の努力もしていないのに誰と戦っても負けた事が無く、戦いを楽しいと思ったことは一度もありませんでした。オスカー殿と戦って、初めて戦いの楽しさを知りました。こんなことなら、もっと色々学んでおけばと後悔しております」
強すぎるのも考え物だな。何の努力も無く出来てしまい、競い合うライバルも居なければ、楽しく思えないのは少しわかる。
「そして今日、トキオ様にお会いした瞬間、自分がいかに愚かだったかを気付かされました」
ガイアソーサから見れば俺達は人族陣営。魔族国が食糧難に陥って宣戦布告するということは、俺達を敵に回すことになる。
「何でもします。何卒、そのお力で魔族国の未来を、お助け下さい」
俺も魔族国と人族の戦争などさせたくない。上田誠(仮)が築いた平和を壊したくはない。その為には・・
「一つだけ、条件がある」
「はい、何なりと」
ここでガイアソーサと出会ったのが運命なのか、それとも神が導いたのか、俺にはわからない。だが、問題が本格化するまでにはまだ時間がある今出会えたのは幸運だ。
「ガイアソーサ。お前、魔王になれ」
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