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第五章 残酷な世界

266 因縁

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 双子なのに二人は全然違う。

 唯一この双子の姉妹が同じなのは両親譲りの人目を引く、その美しい容姿だけ。

 ……なのだが。

 その美しい容姿さえもあまり似ているとは言い難い、それもそのはずでこの双子の姉妹は一卵性ではなく二卵性。

 あまり似てないのも当たり前のこと。

 それでも……この二人は根本的になにか違う。
 
 生まれた時から活発で、身体は妹より一回りほど小さかったが、その泣き声は屋敷中に轟くほど大きかった元気な姉と。

 少し虚弱体質であまり泣かず、細身だが標準的な体格に大人しくおっとりとした性格の、手のかからないと乳母が喜んだ育てやすい妹は。

 運命に翻弄されて、いく道を分かたれた。

 双子、それは魂の片割れ。

 この世界で唯一無二の特別な存在なのに。

「なんか……腹が立ってきたっ……!」

 何か思い立ったように、話の途中でカレンはエディの横をスルリとすり抜けて扉を勢いよく開け放ち駆けていく。

 思い立ったが吉日と即行動に移すのはカレンの専売特許で、もうそれに慣れたエディは突然の事態に怯む事もなくその後ろを追う。

 だがカレンは身体強化の魔法を無詠唱で纏い怒涛の勢いで駆けていくから、いくら体格で勝るエディでも簡単には追い付けない。

「カレンっ?! どこに行くんだ……!」

 ガルシア公爵家の中を駆けていくカレンの後を追いかけながら、エディは叫ぶ。

 そのエディの声が絶対に聞こえているはずなのにカレンは完全無視を決め込んで、階段をひょいっとスカートの裾をふわりと舞い上げながら飛び降り見事な着地を軽やかに決めて。

「よしっ……!」

 ……何事もなかったかのように駆け出した。

 その堂々とした勇ましすぎる姿に呆気にとられたエディは、やっぱりこの野生児に護衛の騎士とかいらないんじゃなかろうかと時折思う。

 よくこれだけ自由奔放で粗野な性格で、イクスでは問題を何も起こさなかったな……と、ふと思う。

 でも少し前まではカレンは魔法を使えなかったし、イクスでは魔法の使用が禁止されているから、その破天荒な行動に制限がかかっている。

 だからか……と。

 やはり野生児であるカレンに魔法を教えるべきではなかったかなと、エディは時折後悔するが。

 駆けていくカレンをエディは見失いそうになって。

「……あ、ちょっと待てカレン!」

 と、破天荒な後ろ姿をまた追いかけた。

 
 弾む息と追いかけてくるエディを振り切って、因縁の片割れのところまでカレンは一気に駆け抜けた。

「クリスティーナっ……! 見つけた!」

「お姉様……?」

 やっと見つけた片割れは腹が立つほどスラリとした長身の体躯に、本日も清楚でお淑やかそうなドレスをその見に纏って優雅に微笑んでいて。

 ……気に障る。

 野生児だとか粗野だとか言われて貶されている私とは大きく違って、エディに淑女の鏡なんて言われて褒められている所も……大変気に食わない。

 そして一番腹が立ったのは、大好きだと可愛らしく泣きながら私にあの日甘えてきた癖に。

 その私がこの世界で生きる意味である、唯一と呼べるエディを汚い手を使って取ろうとした事。

「クリスティーナ、ちょっと……ツラ貸せよ……?」

 馬車に乗ろうとするクリスティーナをガルシア公爵家の玄関でやっとこさ見つけたカレンは。

 その行く手を身体で塞ぎ、相変わらずの粗野な言動で引き留める。

「私……今から王宮でお茶会に出席する予定で。……お話は後日でも宜しいでしょうか? お姉様」

 突然の双子の姉カレン襲来に、双子の妹クリスティーナは困ったように頬に手を当てて優雅に微笑む。

 そんな風に余裕の対応をしてくるクリスティーナに対してカレンは、ピクリとその眉を動かした。

「ふーん……そんな余裕、私相手にかましていて本当にいいと思ってんの? クリスティーナ……公爵令嬢?」

「っえ……お姉様……?」
 
 その姉妹の言動はあまりにも正反対で対照的、その場に居合わせた人々は違い過ぎる双子に目を見張る。

「あら、カレンちゃん……いったいどうしたの……?」

「どうしたんだい? そんなに怒って……」

 そんな二人の母であるガルシア公爵夫人も、王宮でのお茶会に出席するためにその場に居合わせていて。

 見送りの為に父であるガルシア公爵も、とても不運な事にその場にはいて。

「……私の恋人に夜這いをして寝取ろうとした件について……どうしても二人で話がしたくって! 淑女の鏡であるクリスティーナ公爵令嬢にお声かけしただけで……ございますのよ?」

 カレンは両親や使用人そして自身の護衛騎士がいる中で、したり顔で爆弾をその場に投下した。
 
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