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第五章 残酷な世界

242 渦巻く憎悪

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 どろりと濁るエメラルドの瞳は私から片時も目を離すこと無く、よがり狂う姿を愉しそうに嗤って見下ろしてきた。

 そして一晩中甘い愛の言葉を紡ぎ、過ぎた快楽を私の身体に与えて悦び、淫楽にふけったこの鬼畜の愛は尽きる事を知らず。

 それは窓から朝日が差し込み、まばゆい光に包まれても、鬼畜の逞しい腕は私を離さずに、甘い愛を囁き続ける。

「カレン愛してる、ほんと好き、大好き、全部好き」

「あーはいはい、もうエディの気持ちはわかったから、いい加減離して貰える?」

「……カレンは俺への愛が足りない」

 一晩中、朝まで閨を共にしておいて。

 それでもまだ愛が足りないとか言われても、これ以上どう愛せというのだろうか。

 ぐいぐいと手を突っ張って愛を乞う恋人から逃れようとするが、私に覆い被さるその大きな身体は退く気が無いのかびくともしない。

「エディ、退、い、て? ……殴るよ?」

「……昨夜の震えるカレンはしおらしくて大変可愛いらしかったのに、通常営業のお前ってどうしてそんな俺に辛辣なの? 俺の事……本当に好き?!」

「あーうん好き好き、大好き、……これでいい?」

 溜め息を吐きながら渋々と私の上から退くエディは不満そうな表情を浮かべているが、いちいちそれに構っていたらきりがない。

 それにこの男は何が不満だと申すのか。

 一晩中あんなに愛し合ったんだから、もうそれで満足して頂きたいし、コイツどれだけ体力あるの?

 もし賢者の石がなかったら、私は冗談じゃなくエディに抱きつぶされて壊されていただろう。

「……なあ、カレン? 国王の事……お前はどうするつもり? まさか許すつもりじゃないだろうな?」

 自分の国の国王を断罪し処刑したがる騎士団長とかなんかそれ嫌だな、私も一応上の人間だし……?

 ……ん、あれ……まてよ?

 最高位である私を即断即決で国外追放を採択しやがったのは、私が邪魔だった疑惑がまだ払拭されてないの……いまの今まで忘れてた。

 もしや私も国の人間に……嫌われてる?!

「……許す気はないけど」

「じゃあどうするつもりだよ?」

「まあ……いろいろと考えてはいるよ? でもエディや執行官が望むような物騒な事は……嫌かな」
 
「カレンは優しすぎる」

 処刑無しの処罰が優しすぎると言うエディの瞳は、アルフレッドへの憎悪で渦巻いていて険しい。

 ……いつかきっと私もその憎悪と怒りをエディから向けられるかと思うと、足が震えた。



 そして夕暮れ頃。

 なにか不満そうで、一言私に言いたそうな顔をしながら執行官アンゲルスはやってきて。

「最低限の準備が整いましたので一度ガルシア家に戻りましょうか。カレン様のお父様やお母様が大変心配なさっておいででしたし、一度元気なお姿見せてあげたらどうです?」

 と、要らぬ報告付きで帰宅を促され。 

 どこからか執行官が用意してきた服に着替える。

 私が着ていたドレスはとても残念な事に、見るも無惨な事になってしまっていたから。

 そして鏡に映る私の姿はいつも通りで、予想通り賢者の石の効果は一日と持たず消え去った。

 あれ作るのすごく大変なのに……。

 賢者の石はマナに耐えられないのだろう。

 だがふと思う。

 賢者の石ですら耐えられない多量のマナをどうして私の身体は耐えられるのか。

 やっぱり人間辞めてる気がしてならないこの身体に私は一抹の不安を感じるが考えたところで今はどうしようもない。

 それについては後日じっくりと研究する事にして、眼前に迫る面倒な現実に対峙すべく、執行官が頼んでもいないのに勝手に用意した馬車に乗りガルシア公爵家に向けて出発した。
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